34 / 41
34.迎え
しおりを挟む
伊集院にメールを送った後、普通に実家で過ごしていたらすぐに返信が返ってきた。
「…………」
「あら知臣。どうしたの?そんなに真っ赤になって」
「な、なんでもない」
送られてきた内容があまりにも恥ずかしくて、まともに読めなかった。
『黙ってたのは悪かったけど、俺がお前だけを想ってるのは信じてほしい。今も昔もお前だけに恋してる。ずっと一緒だって言ってくれたお前を俺は絶対に手放したくないから、すぐに迎えに行く。ちゃんと二人で話そう』
わざわざ迎えになんて来なくてもちゃんと話す気はあるし、逃げたりしないのに。
「あいつ…俺のこと好き過ぎだろ」
思わずポツリと呟いたら母さんが耳聡くその言葉を拾ってしまった。
「あら。知臣。もしかして恋人でもできたの?」
「恋人…と言うか、ライバル?かな?」
「どれどれ、見せてみなさい」
「あっ!ちょ、母さん!」
「…………熱烈なラブメールね」
「…………」
「しかも名前が伊集院くん、と」
「…………」
「お迎えに来るなら待ってたらいいわね。うふふ。久しぶりに会えるのが楽しみだわ」
「母さん…」
何を考えているのかわからない母さんに溜息を吐いて、俺は取り敢えず伊集院が来るのをそわそわしながら待つ羽目になった。
それからタクシーでやってきた伊集院はどこか緊張した様子で俺の実家に上がった。
ちゃんと手土産付きなところが伊集院らしい。
「久しぶりね誉ちゃん。もう大きくなったから伊集院くんと呼ぼうかしら?」
「ご無沙汰しています。覚えていてもらえて光栄です」
「いやだわ。そんな他人行儀にしなくてもいいのよ?知臣の恋人なんでしょう?」
「いえ…」
「そうだ!伊集院はライバルなだけで、恋人なんかじゃっ…」
「知臣は黙ってなさい。ただのライバルがあんなラブメールを送るはずがないことくらい母さんにだってわかります。母さんは貴方を純粋な恋心を弄ぶような子に育てた覚えはないわよ?」
「うっ…」
それを言われると確かにと思わされて、俺は黙るしかなかった。
でも…。
(弄んでるつもりなんて…なかったのに)
なのにそう言われたことが悲しくて、胸が痛い。
「知臣…」
伊集院の心配そうな声が俺に向けられる。
そんな俺達の空気を一掃するように母さんがパンパンと手を叩いた。
「はいはい。そんな顔しないの。母さんは別に反対してるわけじゃないのよ?男ならはっきりしろと言ってるの。もう幼稚園児じゃないんだから、友情か愛情かの違いくらい自分でわかるでしょう?まあ母さんが同性同士では結婚できないからライバルになったらいいと昔言っちゃったから悪いのかもしれないけど、もう大きいんだから自分の相手くらい自分で判断しなさい」
「…………」
「それで?伊集院くんは知臣が好きなのかしら?」
「好きです」
「ストレートね」
「ずっと学園に入ってから知臣を見てきたので」
「あら。学園に入ってから?もしかして気づいてなかったの?」
「はい。知臣からハマーと言う名を聞くまでは」
「そうなの。なんだか運命的ね」
伊集院が母さんと仲良く話を弾ませる。
でも俺は母さんから言われた言葉をなかなか消化できなかった。
だって自分の気持ちの在り処なんてわからないんだ。
まるで突然迷子になったように途方に暮れる。
そんな俺の前で何やら伊集院が母さんに耳打ちしたら、何故か母さんが楽しそうに笑った。
「ねえ知臣。そう言えば貴方、小中と仲の良い友達は男女共にいたけど、ライバルだけはできなかったわね」
「それは…ハマーぐらい気が合う相手がいなかっただけだし」
「つまり一生一緒に居たいって思えるほどの相手がいなかったってことよね?」
そう聞かれて素直に頷く。
「で、伊集院くんとはライバルになって、ずっと一緒の約束をしたと」
「そう」
「どうして気づかないのかしら、この子は?ゴメンね、伊集院くん。察しは悪くない子のはずなんだけど、ちょっと拗らせちゃったのかも」
「いえ。そこも含めて知臣が好きなので」
「良い男に成長したわね。知臣が惚れ込むのもわかるわ」
なんだか惚れ込むの意味が違う気がするんだが?!
「それで、卒業後一緒に住む約束をしたんですが、許可をもらえますか?」
「そうね。伊集院くんならしっかりしてるからいいわよ。寧ろ誘ってくれて良かったわ。ちょうど厄介な従兄弟が知臣が卒業したら一緒に住みたいって煩かったのよ」
「え?」
「私の兄の子で知臣より一つ上なんだけど、素行が悪くて最近寮から追い出されちゃって。今は実家から通ってるんだけど、好きに遊べないから知臣と一緒にどこか借りて家賃折半にしたらお金も自由も手に入るって思ったらしいのよ」
「うげっ。それって絶対ハジメ兄だろ?絶対嫌だ!」
「言うと思ったわ。知臣は変に潔癖だもの」
「俺は一途な奴が好きなんだ。あんな遊び人、軽蔑するなって言う方がおかしい!」
「そうよね。その点伊集院くんは一途だものね」
「ああ」
「そこが好きなのね」
「そう」
「ふふっ。ご馳走さま」
「…?」
その後母さんはなんだか嬉しそうにしながら伊集院を家に泊めたから、一応ちゃんと二人でも話して、気にしてないというのをしっかり伝えられた。
『これでもう隠し事はしなくて済むな』
そう言って笑った伊集院はなんだかすっきりした顔をしていた。
「…………」
「あら知臣。どうしたの?そんなに真っ赤になって」
「な、なんでもない」
送られてきた内容があまりにも恥ずかしくて、まともに読めなかった。
『黙ってたのは悪かったけど、俺がお前だけを想ってるのは信じてほしい。今も昔もお前だけに恋してる。ずっと一緒だって言ってくれたお前を俺は絶対に手放したくないから、すぐに迎えに行く。ちゃんと二人で話そう』
わざわざ迎えになんて来なくてもちゃんと話す気はあるし、逃げたりしないのに。
「あいつ…俺のこと好き過ぎだろ」
思わずポツリと呟いたら母さんが耳聡くその言葉を拾ってしまった。
「あら。知臣。もしかして恋人でもできたの?」
「恋人…と言うか、ライバル?かな?」
「どれどれ、見せてみなさい」
「あっ!ちょ、母さん!」
「…………熱烈なラブメールね」
「…………」
「しかも名前が伊集院くん、と」
「…………」
「お迎えに来るなら待ってたらいいわね。うふふ。久しぶりに会えるのが楽しみだわ」
「母さん…」
何を考えているのかわからない母さんに溜息を吐いて、俺は取り敢えず伊集院が来るのをそわそわしながら待つ羽目になった。
それからタクシーでやってきた伊集院はどこか緊張した様子で俺の実家に上がった。
ちゃんと手土産付きなところが伊集院らしい。
「久しぶりね誉ちゃん。もう大きくなったから伊集院くんと呼ぼうかしら?」
「ご無沙汰しています。覚えていてもらえて光栄です」
「いやだわ。そんな他人行儀にしなくてもいいのよ?知臣の恋人なんでしょう?」
「いえ…」
「そうだ!伊集院はライバルなだけで、恋人なんかじゃっ…」
「知臣は黙ってなさい。ただのライバルがあんなラブメールを送るはずがないことくらい母さんにだってわかります。母さんは貴方を純粋な恋心を弄ぶような子に育てた覚えはないわよ?」
「うっ…」
それを言われると確かにと思わされて、俺は黙るしかなかった。
でも…。
(弄んでるつもりなんて…なかったのに)
なのにそう言われたことが悲しくて、胸が痛い。
「知臣…」
伊集院の心配そうな声が俺に向けられる。
そんな俺達の空気を一掃するように母さんがパンパンと手を叩いた。
「はいはい。そんな顔しないの。母さんは別に反対してるわけじゃないのよ?男ならはっきりしろと言ってるの。もう幼稚園児じゃないんだから、友情か愛情かの違いくらい自分でわかるでしょう?まあ母さんが同性同士では結婚できないからライバルになったらいいと昔言っちゃったから悪いのかもしれないけど、もう大きいんだから自分の相手くらい自分で判断しなさい」
「…………」
「それで?伊集院くんは知臣が好きなのかしら?」
「好きです」
「ストレートね」
「ずっと学園に入ってから知臣を見てきたので」
「あら。学園に入ってから?もしかして気づいてなかったの?」
「はい。知臣からハマーと言う名を聞くまでは」
「そうなの。なんだか運命的ね」
伊集院が母さんと仲良く話を弾ませる。
でも俺は母さんから言われた言葉をなかなか消化できなかった。
だって自分の気持ちの在り処なんてわからないんだ。
まるで突然迷子になったように途方に暮れる。
そんな俺の前で何やら伊集院が母さんに耳打ちしたら、何故か母さんが楽しそうに笑った。
「ねえ知臣。そう言えば貴方、小中と仲の良い友達は男女共にいたけど、ライバルだけはできなかったわね」
「それは…ハマーぐらい気が合う相手がいなかっただけだし」
「つまり一生一緒に居たいって思えるほどの相手がいなかったってことよね?」
そう聞かれて素直に頷く。
「で、伊集院くんとはライバルになって、ずっと一緒の約束をしたと」
「そう」
「どうして気づかないのかしら、この子は?ゴメンね、伊集院くん。察しは悪くない子のはずなんだけど、ちょっと拗らせちゃったのかも」
「いえ。そこも含めて知臣が好きなので」
「良い男に成長したわね。知臣が惚れ込むのもわかるわ」
なんだか惚れ込むの意味が違う気がするんだが?!
「それで、卒業後一緒に住む約束をしたんですが、許可をもらえますか?」
「そうね。伊集院くんならしっかりしてるからいいわよ。寧ろ誘ってくれて良かったわ。ちょうど厄介な従兄弟が知臣が卒業したら一緒に住みたいって煩かったのよ」
「え?」
「私の兄の子で知臣より一つ上なんだけど、素行が悪くて最近寮から追い出されちゃって。今は実家から通ってるんだけど、好きに遊べないから知臣と一緒にどこか借りて家賃折半にしたらお金も自由も手に入るって思ったらしいのよ」
「うげっ。それって絶対ハジメ兄だろ?絶対嫌だ!」
「言うと思ったわ。知臣は変に潔癖だもの」
「俺は一途な奴が好きなんだ。あんな遊び人、軽蔑するなって言う方がおかしい!」
「そうよね。その点伊集院くんは一途だものね」
「ああ」
「そこが好きなのね」
「そう」
「ふふっ。ご馳走さま」
「…?」
その後母さんはなんだか嬉しそうにしながら伊集院を家に泊めたから、一応ちゃんと二人でも話して、気にしてないというのをしっかり伝えられた。
『これでもう隠し事はしなくて済むな』
そう言って笑った伊集院はなんだかすっきりした顔をしていた。
16
お気に入りに追加
1,355
あなたにおすすめの小説

王道学園のモブ
四季織
BL
王道学園に転生した俺が出会ったのは、寡黙書記の先輩だった。
私立白鳳学園。山の上のこの学園は、政財界、文化界を担う子息達が通う超名門校で、特に、有名なのは生徒会だった。
そう、俺、小坂威(おさかたける)は王道学園BLゲームの世界に転生してしまったんだ。もちろんゲームに登場しない、名前も見た目も平凡なモブとして。


悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。

風紀委員長様は王道転校生がお嫌い
八(八月八)
BL
※11/12 10話後半を加筆しました。
11/21 登場人物まとめを追加しました。
【第7回BL小説大賞エントリー中】
山奥にある全寮制の名門男子校鶯実学園。
この学園では、各委員会の委員長副委員長と、生徒会執行部が『役付』と呼ばれる特権を持っていた。
東海林幹春は、そんな鶯実学園の風紀委員長。
風紀委員長の名に恥じぬ様、真面目実直に、髪は七三、黒縁メガネも掛けて職務に当たっていた。
しかしある日、突如として彼の生活を脅かす転入生が現われる。
ボサボサ頭に大きなメガネ、ブカブカの制服に身を包んだ転校生は、元はシングルマザーの田舎育ち。母の再婚により理事長の親戚となり、この学園に編入してきたものの、学園の特殊な環境に慣れず、あくまでも庶民感覚で突き進もうとする。
おまけにその転校生に、生徒会執行部の面々はメロメロに!?
そんな転校生がとにかく気に入らない幹春。
何を隠そう、彼こそが、中学まで、転校生を凌ぐ超極貧ド田舎生活をしてきていたから!
※11/12に10話加筆しています。
【完結】『ルカ』
瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。
倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。
クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。
そんなある日、クロを知る青年が現れ……?
貴族の青年×記憶喪失の青年です。
※自サイトでも掲載しています。
2021年6月28日 本編完結
目立たないでと言われても
みつば
BL
「お願いだから、目立たないで。」
******
山奥にある私立琴森学園。この学園に季節外れの転入生がやってきた。担任に頼まれて転入生の世話をすることになってしまった俺、藤崎湊人。引き受けたはいいけど、この転入生はこの学園の人気者に気に入られてしまって……
25話で本編完結+番外編4話
【完結】鳳凰抱鳳雛 ~鳳凰は鳳雛を抱く~
銀タ篇
BL
ちょっと意地悪なスパダリ攻め×やんちゃ受け
◎愛重めの攻めと、強がりやんちゃ受けの二人が幾多の苦難を経て本当の幸せを掴み取る、なんちゃって仙侠ファンタジー。
◎本編完結済。番外編を不定期公開中。
ひょんなことから門派を追放されてしまった若き掌門の煬鳳(ヤンフォン)はご近所門派の青年、凰黎(ホワンリィ)に助けられたことで、あれよという間にライバル同士の関係から相思相愛に発展。
しかし二人きりの甘い日々は長く続かず、少々厄介な問題を解決するために二人は旅に出ることに。
※ルビが多いので文字数表示が増えてますがルビなしだと本編全部で67万字くらいになります。
※短編二つ「門派を追放されたらライバルに溺愛されました。」を加筆修正して、続編を追加したものです。
※短編段階で既に恋人同士になるので、その後は頻繁にイチャこらします。喧嘩はしません。
※にわかのなんちゃって仙侠もどきなので、なにとぞなにとぞ笑って許してください。
※謎と伏線は意図して残すもの以外ほぼ回収します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる