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22.言い掛かり
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伊集院と初めて寝た日、流石に泊まるのは悪いと思って夜中に目が覚めたタイミングで体が動くかどうかを確認してみた。
うん。どうやら大丈夫そうだ。
やったのは一回だけだったし、初めてだからとかなり気遣って抱いてくれたのが大きいんだと思う。
ただこのまま帰るのは流石になと思ったから、シャワーだけ借りてから帰ろうと思った。
「誉。帰る前にちょっとシャワーだけ借りるな」
一応そう断ったら小さく呻きを上げて伊集院の目がゆっくりと開く。
「ん…知臣?」
「起こして悪い。シャワーだけ借りたら帰るから」
「いや。危ないし、送る」
「いいって」
「ダメだ」
そうして結局二人でシャワーを浴びて、部屋まで送り届けられた。
「無理するなよ?」
しかもそんな心配の言葉までくれる伊集院。
いい奴だよな。
「おやすみ」
「ああ。おやすみ」
そう言って自室に戻る背中を見送って俺は自分の部屋へと入った。
「はぁ…」
ベッドに入り、そっと今夜の事を思い返す。
「本当に…寝たんだよな?」
本当も何も、いつもと違う腰の怠さが現実だと伝えてくるし、夢でもない。
最中に溢された睦言もやけに艶めいていたなと今更ながらに反芻してしまう。
だってされている間はいっぱいいっぱいで、全く余裕なんてなかったのだから。
正直言って全然嫌じゃなかった。
それどころか凄く良かった。
「あれが後2回……」
そう考えて勝手に頬が染まってしまう。
「ああ、やめやめ!寝よう!」
余計なことは考えない。
俺達はライバル同士で、それ以上でも以下でもなく、これは勝負の結果に過ぎないんだから。
俺は急いで気持ちを切り替えると、さっさと布団を頭から被って寝た。
そして翌日。
ちょっと怠さは残るもののいつもと変わらず過ごす俺。
そんな俺の元へ嫌な奴がやって来た。
内原だ。
「何か用か?」
「ええ。昨日会長に聞いたんですけど、付き合ってるって本当ですか?」
思いの外響いたその声に、教室内がシンと静まり返る。
「…?付き合ってないぞ?」
「ええ?本当ですか?確かに聞いたんですけど。それに夜中に部屋まで送ってもらってましたよね?あれってそういうことでしょう?」
ニヤニヤしながらゲスな事を言ってくる内原にうんざりしてしまう。
「はぁ…暇人だな?」
「だって副会長達がくっついたのって、俺や御堂がいなかったお陰でしょう?お礼を言ってもらいたくて」
「何を言ってる。俺とあいつはライバル関係だってことくらい一年でも知ってる事だぞ?サボられて文句を言うなら兎も角、礼なんて言うはずがないだろう?」
「会長とは付き合ってないと?」
「ああ。伊集院に聞いても同じ答えが返ってくるはずだ。あいつはそういう冗談は言わないしな」
キッパリ言い切ってやったら内原が少し怯んだ。
「で、でも朝帰りは本当でっ…」
「朝と言うよりあれは1時頃だぞ。ちょっとテストの勝負で負けたからあいつに付き合ってただけだ。それ以上でも以下でもない」
文句あるかと堂々と言い放ってやったら内原は完全に黙った。
それと共に横から友人達が助けに入ってくれる。
「ただでさえ生徒会サボって迷惑かけてる先輩に言い掛かりをつけてくるなんて、恥ずかしくないのか?」
「そうそう。大体有馬が伊集院をライバル視してて恋愛に全く発展してないのは俺らが一番知ってるし」
「本当、全く色気もへったくれもない関係だもんな~」
「これでくっついたら逆に凄いって!伊集院、どんだけ頑張ったんだよって俺応援するわ」
「俺も俺も!伊集院が仲良くしようとする度にコイツ超塩対応だし、本当ちょっとは振り向いてやれよ?有馬。ハハハッ!」
なんかついでにディスられた。
後で覚えてろよ?
そんな風に明るく笑い飛ばすクラスメイト達を見て、内原は悔しそうに教室から去っていった。
もう変な言い掛かりをつけてこないといいけど…。
***
【Side.伊集院 誉】
有馬の初めてを貰えた幸せな夜、有馬を部屋まで送り届けて自室に戻る途中嫌な奴に遭遇してしまった。
内原だ。
「見ましたよ?会長。副会長とこんな夜中に密会ですか?」
「お前に話す義理はない」
「いやぁ、意外だな。まさか二人がデキてるなんて」
どこか楽し気に俺を煽ってくる内原。
本当に性格が悪い奴だ。
「ふふっ。別に黙っててもいいんですよ?二人が付き合ってること」
「別に付き合ってないが?」
「またまた。嘘ばっかり」
別に嘘を吐いているつもりはない。
だって有馬にははっきり断られているんだから。
(まあ脈はあるから全く諦める気はないけどな)
「嘘か本当かは有馬に確認すれば済む話だろう?」
「…え?まさか本当に?」
「ああ」
「なんだ。……じゃあ、別に襲ってもいいですよね?」
「…………は?」
言われた言葉を理解した途端、俺の中で最も低い声が飛び出した。
「だって付き合ってないんでしょう?別にいいじゃないですか。俺、あの人にも実は怒ってるんですよ。いっつも偉そうに説教してきて腹が立つったら」
そんなふざけたことを楽し気に口にした内原に殺意が湧く。
俺の知臣に何かしたら絶対に許さない。
「内原?社会的に死にたいなら実行に移せ?」
「え?」
「あいつに手を出した時点でお前の人生は終わる。それをよく考えて行動するんだな」
「な、そんなこと言っていいんですか?俺の親が誰か知ってますよね?」
「汚職疑惑がある政治家だろう?そんな親が醜聞にまみれたお前を助けてくれるとでも?切り捨てられるのがオチだぞ?」
「……っ!」
「わかったらさっさと行け!」
そう言ってやったら内原は悔しそうにその場から去っていった。
この分だと暫く油断しない方が良さそうだ。
そして部屋に戻ってから有馬が残していったベッドの温もりを幸せな気持ちで堪能しながら眠って、朝を迎えたのだが────。
昼休みになって、下級生の間で俺と有馬の噂が流れていることを知らされた。
それを知ったのは剣道部の後輩が慌てて知らせに来たからだ。
「伊集院先輩!大変です!今凄い勢いで俺達の学年に先輩と有馬先輩がデキてるって噂が回ってて…っ!」
(…内原め!)
久し振りに本気で怒った気がする。
折角順調に仲が進んでいるのに、これで有馬が過剰反応して俺と距離を取ったり、皆の前で俺とは絶対付き合わない宣言でもした日には目も当てられない。
兎に角噂が広がりきる前に手を打たなければ。
そして心配する後輩に大丈夫だからと返し、すぐさま動くことに。
(あいつは生徒会長という立場を甘く見過ぎだ)
生徒会長の人脈は幅広く、学校内の噂の鎮圧なんて容易にできる。
噂の種類によって連絡を取る相手を変えれば案外簡単なのだ。
場合によっては制裁目的で別な噂を流してやる事だって可能だ。
だから俺は速やかに数カ所連絡を取り、加えてとある場所へも連絡を入れた。
そちらは実家が懇意にしている信頼できる興信所だ。
(場合によってはあいつの実家の弱みも握って退学に追いやってやる)
そう思いながら俺は踵を返した。
うん。どうやら大丈夫そうだ。
やったのは一回だけだったし、初めてだからとかなり気遣って抱いてくれたのが大きいんだと思う。
ただこのまま帰るのは流石になと思ったから、シャワーだけ借りてから帰ろうと思った。
「誉。帰る前にちょっとシャワーだけ借りるな」
一応そう断ったら小さく呻きを上げて伊集院の目がゆっくりと開く。
「ん…知臣?」
「起こして悪い。シャワーだけ借りたら帰るから」
「いや。危ないし、送る」
「いいって」
「ダメだ」
そうして結局二人でシャワーを浴びて、部屋まで送り届けられた。
「無理するなよ?」
しかもそんな心配の言葉までくれる伊集院。
いい奴だよな。
「おやすみ」
「ああ。おやすみ」
そう言って自室に戻る背中を見送って俺は自分の部屋へと入った。
「はぁ…」
ベッドに入り、そっと今夜の事を思い返す。
「本当に…寝たんだよな?」
本当も何も、いつもと違う腰の怠さが現実だと伝えてくるし、夢でもない。
最中に溢された睦言もやけに艶めいていたなと今更ながらに反芻してしまう。
だってされている間はいっぱいいっぱいで、全く余裕なんてなかったのだから。
正直言って全然嫌じゃなかった。
それどころか凄く良かった。
「あれが後2回……」
そう考えて勝手に頬が染まってしまう。
「ああ、やめやめ!寝よう!」
余計なことは考えない。
俺達はライバル同士で、それ以上でも以下でもなく、これは勝負の結果に過ぎないんだから。
俺は急いで気持ちを切り替えると、さっさと布団を頭から被って寝た。
そして翌日。
ちょっと怠さは残るもののいつもと変わらず過ごす俺。
そんな俺の元へ嫌な奴がやって来た。
内原だ。
「何か用か?」
「ええ。昨日会長に聞いたんですけど、付き合ってるって本当ですか?」
思いの外響いたその声に、教室内がシンと静まり返る。
「…?付き合ってないぞ?」
「ええ?本当ですか?確かに聞いたんですけど。それに夜中に部屋まで送ってもらってましたよね?あれってそういうことでしょう?」
ニヤニヤしながらゲスな事を言ってくる内原にうんざりしてしまう。
「はぁ…暇人だな?」
「だって副会長達がくっついたのって、俺や御堂がいなかったお陰でしょう?お礼を言ってもらいたくて」
「何を言ってる。俺とあいつはライバル関係だってことくらい一年でも知ってる事だぞ?サボられて文句を言うなら兎も角、礼なんて言うはずがないだろう?」
「会長とは付き合ってないと?」
「ああ。伊集院に聞いても同じ答えが返ってくるはずだ。あいつはそういう冗談は言わないしな」
キッパリ言い切ってやったら内原が少し怯んだ。
「で、でも朝帰りは本当でっ…」
「朝と言うよりあれは1時頃だぞ。ちょっとテストの勝負で負けたからあいつに付き合ってただけだ。それ以上でも以下でもない」
文句あるかと堂々と言い放ってやったら内原は完全に黙った。
それと共に横から友人達が助けに入ってくれる。
「ただでさえ生徒会サボって迷惑かけてる先輩に言い掛かりをつけてくるなんて、恥ずかしくないのか?」
「そうそう。大体有馬が伊集院をライバル視してて恋愛に全く発展してないのは俺らが一番知ってるし」
「本当、全く色気もへったくれもない関係だもんな~」
「これでくっついたら逆に凄いって!伊集院、どんだけ頑張ったんだよって俺応援するわ」
「俺も俺も!伊集院が仲良くしようとする度にコイツ超塩対応だし、本当ちょっとは振り向いてやれよ?有馬。ハハハッ!」
なんかついでにディスられた。
後で覚えてろよ?
そんな風に明るく笑い飛ばすクラスメイト達を見て、内原は悔しそうに教室から去っていった。
もう変な言い掛かりをつけてこないといいけど…。
***
【Side.伊集院 誉】
有馬の初めてを貰えた幸せな夜、有馬を部屋まで送り届けて自室に戻る途中嫌な奴に遭遇してしまった。
内原だ。
「見ましたよ?会長。副会長とこんな夜中に密会ですか?」
「お前に話す義理はない」
「いやぁ、意外だな。まさか二人がデキてるなんて」
どこか楽し気に俺を煽ってくる内原。
本当に性格が悪い奴だ。
「ふふっ。別に黙っててもいいんですよ?二人が付き合ってること」
「別に付き合ってないが?」
「またまた。嘘ばっかり」
別に嘘を吐いているつもりはない。
だって有馬にははっきり断られているんだから。
(まあ脈はあるから全く諦める気はないけどな)
「嘘か本当かは有馬に確認すれば済む話だろう?」
「…え?まさか本当に?」
「ああ」
「なんだ。……じゃあ、別に襲ってもいいですよね?」
「…………は?」
言われた言葉を理解した途端、俺の中で最も低い声が飛び出した。
「だって付き合ってないんでしょう?別にいいじゃないですか。俺、あの人にも実は怒ってるんですよ。いっつも偉そうに説教してきて腹が立つったら」
そんなふざけたことを楽し気に口にした内原に殺意が湧く。
俺の知臣に何かしたら絶対に許さない。
「内原?社会的に死にたいなら実行に移せ?」
「え?」
「あいつに手を出した時点でお前の人生は終わる。それをよく考えて行動するんだな」
「な、そんなこと言っていいんですか?俺の親が誰か知ってますよね?」
「汚職疑惑がある政治家だろう?そんな親が醜聞にまみれたお前を助けてくれるとでも?切り捨てられるのがオチだぞ?」
「……っ!」
「わかったらさっさと行け!」
そう言ってやったら内原は悔しそうにその場から去っていった。
この分だと暫く油断しない方が良さそうだ。
そして部屋に戻ってから有馬が残していったベッドの温もりを幸せな気持ちで堪能しながら眠って、朝を迎えたのだが────。
昼休みになって、下級生の間で俺と有馬の噂が流れていることを知らされた。
それを知ったのは剣道部の後輩が慌てて知らせに来たからだ。
「伊集院先輩!大変です!今凄い勢いで俺達の学年に先輩と有馬先輩がデキてるって噂が回ってて…っ!」
(…内原め!)
久し振りに本気で怒った気がする。
折角順調に仲が進んでいるのに、これで有馬が過剰反応して俺と距離を取ったり、皆の前で俺とは絶対付き合わない宣言でもした日には目も当てられない。
兎に角噂が広がりきる前に手を打たなければ。
そして心配する後輩に大丈夫だからと返し、すぐさま動くことに。
(あいつは生徒会長という立場を甘く見過ぎだ)
生徒会長の人脈は幅広く、学校内の噂の鎮圧なんて容易にできる。
噂の種類によって連絡を取る相手を変えれば案外簡単なのだ。
場合によっては制裁目的で別な噂を流してやる事だって可能だ。
だから俺は速やかに数カ所連絡を取り、加えてとある場所へも連絡を入れた。
そちらは実家が懇意にしている信頼できる興信所だ。
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