【完結】俺はライバルの腕の中で啼く。

オレンジペコ

文字の大きさ
上 下
14 / 41

14.日曜日

しおりを挟む
日曜の今日も部活があったから昨日同様しっかり午前いっぱい剣道に打ち込んだ。
今日も昼に誘ってもらえたけど、今日は一人で食べるからと言って食堂に行っていつも通り食べ、部屋に戻って軽く掃除をした。
流石に伊集院を部屋に呼ぶのに適当なことはできないだろう。
ライバルに私生活で笑われるのは我慢ならない。

「よし!」

普段から別に散らかす方でもないし、掃除はあっさり終わった。
折角だし読書の続きでもしようか。
昨日帰ってから伊集院お勧めの二冊は読んだものの、他の本は手つかずだったからだ。

「この作者の本は初めてだな」

平積みされていた本の中で気になったものを手に取ったんだが、主人公はゲイらしい。
周囲に本当の自分を隠しながら表面上は穏やかに過ごしているが、そこに一石を投じる人物が現れてという、よくありそうな話ではあった。

まあ…何故そんな本を手に取ったかというと、ここ最近の内原や御堂、伊集院の心境がさっぱりわからなかったからだ。
いくら男子校だからと言って、皆自分の性癖を隠さなさすぎるんじゃないだろうか?
『普通はこの主人公みたいに隠すよな?』と思ったから、取り敢えず自分の中の『普通』を再確認する意味で買ってみたんだ。
それと同時に彼らの心境も少しは知れたらと思ったのもある。

だから特に何を思うでもなく普通に読み始めたのだが、意外にも内容はドラマティックで、人と人の触れ合いが多く感情面まで精緻に描かれ、凄く切ない気持ちに襲われてしまった。

「ヤバい。久々に泣いた」

流石にマズいと思い、取り敢えず顔を洗おうと思って立ち上がったところで、タイミング悪くドアをノックする音が聞こえてくる。
どうやら伊集院が来たようだ。

「仕方ない」

一先ず袖でグイッと涙だけ拭い、伊集院を部屋へと招き入れることに。

「悪い。ちょっと顔洗ってくるから、適当にその辺に座って寛いでてくれ」

ちょっとカッコ悪いが、別に大泣きしてたわけじゃないし大丈夫だろう。
そう思ってそう言ったのに、伊集院は素早くドアを閉めると、俺をいきなり抱き寄せて低く尋ねてきた。

「知臣…誰に泣かされた?」
「……へ?」
「内原か?御堂か?それとも…」

(いやいやいや?!)

「別に誰にも泣かされてないぞ?」
「嘘つけ。目が真っ赤だぞ?」

そう言って真剣な顔で俺の頬に手を当て、顔を覗き込んでくる伊集院。
本気で心配しているようなその表情にドキッと胸が弾む。

「言わないなら…白状するまでキスするぞ?」
「……え?」

さあ吐けと言われても本を読んで泣いたなんてこの状況で言えるはずがない。
間抜けもいいところだ。

「だから何でもないって…んぅっ…っ」

そしてそのまま伊集院にキスされたんだけど、これがまたこれまでと全然違うものだった。

(キスってこんなに奥が深いのか?!)

しっとりと唇を重ね、慰めるような感じで何度も何度も…それこそ『言えよ、知臣』と促すようにしてこられるキス。
『ダメか?』『俺には言えない?』『教えてくれ』そんな感情を伝えてくるように重ねられる唇と控えめに侵入しては引っ込んでいく舌。

「知臣…」

加えて切ない眼差しで俺を見つめながら紡がれる俺を心配そうに呼ぶ声。

(なんだよこいつ?!)

言葉で言われたら拒否できるけど、こんな風に態度で訊かれたらどうしようもないじゃないか!
器用にもほどがある。
変にドキドキするからやめてほしい。

「わ、わかった!わかったから!その代わり、笑うなよ?!」
「笑うはずがないだろう?別に玉ねぎがテーブルに乗ってるわけじゃなさそうだし、原因はそれ以外なんだろう?」

そりゃそうだ。

「取り敢えず一旦離せ」
「嫌だ。そのまま逃げられたら困る」
「誰が逃げるか!顔洗いたいって言ってるだろ?!」

そう言ってなんとか洗面台には行かせてもらえたけど、俺の腰を抱く腕だけはそのままだった。
子供の電車ごっこじゃあるまいし、勘弁してほしい。

「それで?」
「………だから、誰にも泣かされてないんだって」
「答えになってないな」
「はぁ…。だから、そこにある本をさっきまで読んでたんだよ」
「……?」
「思ったより泣ける話だったから、ちょっと涙が出ただけで、お前が心配するようなことは何もなかったから!」

笑われるのを覚悟でそう告げたら、伊集院はどこかホッとしたように俺を後ろから抱き込んできて、『良かった』と安堵の表情でポツリと言った。

「心配しすぎだろ?」
「そりゃあ好きな相手が泣いてたら誰だって心配するだろう?」
「…………そういうもんか?」
「ああ。そういうものだ」

その言葉に「そうか」と答えながらも、伊集院の表情と、背中から伝わってくる温もりにちょっとだけ動揺している自分がいた。


***


【Side.伊集院 誉】

今日は有馬の部屋に初めてお邪魔する日だ。
正直ドキドキしないはずがない。
モノトーンの部屋らしいから、きっとシックで落ち着いた感じの部屋なんだろう。
そう思いながらドアをノックしたら、扉はすぐに開かれたけど、俺を出迎えた有馬は如何にもさっきまで泣いてましたと言わんばかりに目が真っ赤になっていた。
姉のような嘘泣きじゃない。
本当に泣いたと言うのがよくわかる顔。

(誰に泣かされた?)

まず思ったのはそれだった。
可能性として高いのは内原だ。
さっきちょうどここへ向かう途中、廊下ですれ違ったところだったから。

『ダミアン、あれから健気に会長を庇ってたんですよ?あんなに優しい天使のようなダミアンを泣かせるなんて、何様ですか?俺は絶対許しませんから』

そんな傲慢発言をして俺を睨んで去っていった内原。
これで俺の大事な知臣を泣かせていたら、絶対に許さない。

そう考えながら有馬にどうして泣いているのかと尋ねたのに答えはもらえなかった。
余計に気になる。
これは絶対に聞き出さないと。
そう思って、俺はその頑なな心をほぐすようにキスを仕掛けた。

「ん…ふ……」

抵抗なく受け入れられるキス。
本当ならそれだけで舞い上がるほど嬉しいものだが、今は口を割る方を優先したい。
甘く諭すように『教えてほしい』と何度も唇を重ねる。
段々有馬の身体から力が抜けていって、俺の腕に身を任せるように重みが増した。
それが俺に気を許してくれたように感じて、愛おしさが増してしまう。

結果的に吐かせることには成功したものの、俺の腕の中で頬を染める有馬を見て抱きたい気持ちでいっぱいになってしまった。

(知臣が可愛い過ぎてたまらない)

どうしたらいいんだろう?
取り敢えず暫くしてもこの気持ちが治まらなかったら、ダメ元で今日は一歩踏み込んでみようか?
もしかしたらまた何かが変わるかもしれない。


しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

王道学園のモブ

四季織
BL
王道学園に転生した俺が出会ったのは、寡黙書記の先輩だった。 私立白鳳学園。山の上のこの学園は、政財界、文化界を担う子息達が通う超名門校で、特に、有名なのは生徒会だった。 そう、俺、小坂威(おさかたける)は王道学園BLゲームの世界に転生してしまったんだ。もちろんゲームに登場しない、名前も見た目も平凡なモブとして。

何故か正妻になった男の僕。

selen
BL
『側妻になった男の僕。』の続きです(⌒▽⌒) blさいこう✩.*˚主従らぶさいこう✩.*˚✩.*˚

陛下の失われしイチモツをみつけた者を妃とする!………え、ヤバいどうしよう!?

ミクリ21
BL
主人公がヤバいことしてしまいました。

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

風紀委員長様は王道転校生がお嫌い

八(八月八)
BL
※11/12 10話後半を加筆しました。  11/21 登場人物まとめを追加しました。 【第7回BL小説大賞エントリー中】 山奥にある全寮制の名門男子校鶯実学園。 この学園では、各委員会の委員長副委員長と、生徒会執行部が『役付』と呼ばれる特権を持っていた。 東海林幹春は、そんな鶯実学園の風紀委員長。 風紀委員長の名に恥じぬ様、真面目実直に、髪は七三、黒縁メガネも掛けて職務に当たっていた。 しかしある日、突如として彼の生活を脅かす転入生が現われる。 ボサボサ頭に大きなメガネ、ブカブカの制服に身を包んだ転校生は、元はシングルマザーの田舎育ち。母の再婚により理事長の親戚となり、この学園に編入してきたものの、学園の特殊な環境に慣れず、あくまでも庶民感覚で突き進もうとする。 おまけにその転校生に、生徒会執行部の面々はメロメロに!? そんな転校生がとにかく気に入らない幹春。 何を隠そう、彼こそが、中学まで、転校生を凌ぐ超極貧ド田舎生活をしてきていたから! ※11/12に10話加筆しています。

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

目立たないでと言われても

みつば
BL
「お願いだから、目立たないで。」 ****** 山奥にある私立琴森学園。この学園に季節外れの転入生がやってきた。担任に頼まれて転入生の世話をすることになってしまった俺、藤崎湊人。引き受けたはいいけど、この転入生はこの学園の人気者に気に入られてしまって…… 25話で本編完結+番外編4話

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

処理中です...