【完結】俺はライバルの腕の中で啼く。

オレンジペコ

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8.俺の頭を占めるのは。

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昨日はなかなか満足のいく練習ができたと思いながら俺は意気揚々と寮を出て、学園の門をくぐった。

すると下駄箱のところに内原が立っているのが見えた。
ダミアン待ちなんだろうか?
よくやるなと思いながらスルーすると、何故かガシッと腕を掴まれてしまう。

「待ってください、副会長!」

そう言われれば無視することなんてできそうにない。

「その…昨日御堂が生徒会に出たって聞きました」
「ああ。そうだな」

確かに御堂はちゃんと生徒会室で仕事をこなしていた。
内原とは違う。
だからつい冷めた目で内原を見てしまったのだけど、次いで紡がれた言葉に更に温度が下がった気がした。

「昨日ダミアンのところでそんな話を聞いて、俺、これで一歩リードできるって思ったんです」
「…………」
「その、御堂を生徒会に引っ張っていってくれてありがとうございました」

そう言ってこいつは笑ったのだ。
それはもう嬉しそうに。
俺からしたら『はぁ?!』って気持ちでいっぱいだ。
なんて自分勝手な奴なんだろう?
本当に反吐が出そうだ。
ふざけているんだろうか?
俺はこういう奴は大嫌いだ。

「内原。お前、本当に最低な奴だな。昨日以上に見損なった」

そう言って俺は内原の手を振り払い、下駄箱でさっさと履き替えて教室へと向かったのだけど、正直全くイライラは収まらなかった。
折角の朝の気分が台無しだ。
そう思いながら廊下を歩いていると、曲がり角で誰かにグイッと腕を取られて引っ張られた。
何だと思っていたら相手は伊集院で、何故かそのまま腰を抱かれて空き教室へと連れていかれてしまう。
授業が始まるまでまだ時間はあるけど、一体どういうつもりなんだろう?
そう思って、扉の鍵を閉めた伊集院に何の用だと鋭く言い放った。
でもどうやら伊集院はさっきの俺と内原のやり取りを目撃して、俺をここに連れてきたらしい。

「さっきのアレは酷かったから、お前が腹を立ててると思って」
「なんだ見てたのか。本当にあいつは腹立たしい奴だ。他者を陥れて愉悦に浸るより、もっと自分から努力して自分の魅力を高めればいいのに…!」
「……まあお前ならそう言うだろうな」

どこか眩しそうに俺を見てくる伊集院。

「そんなお前が俺は好きだ」
「そうか。でも俺はそう簡単に靡いてなんてやらないぞ?男は恋愛対象外なんだから」
「……そうか」

そう言いながらも伊集院はそっと俺へと近づいてきて、そのまま囲い込むように腰を引き寄せると、ゆっくりと唇を合わせてきた。

「んっ?!」

くちゅくちゅと味わうように朝からキスされて、俺はそのまま翻弄されてしまう。

「ん…んっんっ…」

このまま伊集院の好き勝手にされてたまるかと俺はなんとか自分のペースに持ち込もうと思うのに、全然主導権を奪えない。
悔しい!

「ん…は……」

そしてやっと唇が離れたところで、俺は急いで呼吸を整え、伊集院の胸をドンッと押しながら睨みつけた。

「はぁ…っ、お前!これで俺に勝ったと思うなよ?!」
「別に勝ったなんて思ってない」

心外だという顔で言われるけど、絶対に思ってるはずだ。

「いいか?俺は昨日しっかり特訓をしたんだからな?」
「……っ。そうか」
「そうだ!だから放課後、絶対に逃げるなよ?」

指を胸へと突きつけながら念押しするように俺はそう宣言する。

「もちろん。絶対に逃げない」

満面の笑みで余裕綽々で言い放つ伊集院。
きっと負けるはずがないって思ってるんだろう。
その余裕の顔を放課後、絶対に崩してやる!

俺はその怒りのままに鍵を開け、そのまま空き教室から出たのだけど、その頃にはすっかり内原のことなんて頭からなくなっていた。


***


【Side.伊集院 誉】

今日は朝からいい天気。
気分は上々。放課後を楽しみにしながら登校していると、下駄箱付近に想い人の姿があることに気が付いた。
でも様子がおかしいことに気づいて思わず眉をしかめてしまう。
どうも有馬は内原に捕まった様子。
手首をしっかり掴まれているのが見て取れて、さり気なく俺は足を速めた。
まだ距離があるから話の内容まではわからないものの、満面の笑みの内原に対し明らかに有馬は物凄く怒っている。
そしてやっと会話が聞こえる距離まで辿り着いたところで、その言葉が俺の耳に飛び込んできた。

「内原。お前、本当に最低な奴だな。昨日以上に見損なった」

(し、辛辣…!)

一体内原が何を言ったのかは知らないが、抉るようなそんな言葉に思わずそんな感想を漏らしてしまう。
自分が言われたらきっとすぐには立ち直れないだろう。

「あ、会長!おはようございます!」

なのに肝心要の言われた当本人は全く気にすることなくそんな風に俺に挨拶してきたものだから、思わず呆れてしまった。

「内原。お前、有馬に何を言った?」
「え?」
「何を言った?」
「あ…その御堂を昨日生徒会室に連れて行ってくれてありがとうございましたって言っただけですけど…」

なるほど。それは怒るだろう。
どうせ『それで恋敵に一歩リードできました』とかなんとかこのお花畑は付け加えて言ったんだと思う。
こんな奴には構うだけ無駄だ。
さっさとこんな馬鹿のことなんて頭から追い出して、有馬には俺のことだけ考えてほしい。
そう思いながら俺は急いで有馬の後を追いかけた。


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