【完結】妹の婚約者は、何故か俺にご執心。

オレンジペコ

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8.これからの話

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ガイナー王子に連れていかれた先は学園のバラ園だ。
その奥にある人目につきにくい四阿あずまやへと連れていかれた。
そして腰を落ち着かせてちゃんと話そうと言われてしまう。
何か話すことなんてあっただろうかと首を傾げていたら、『卒業後のことだが…』と話を切り出された。

「ジェレミーが考えていることを全部教えてほしい」
「俺が考えていること、ですか?」
「そうだ」

そう言われてチラッとガイナー王子の顔を窺ってみる。
本当に言っても大丈夫だろうか?
気を遣わせてしまったりするんじゃないだろうか?
俺がおかしなことを言って妹の婚約が破棄にでもなったら大変だ。
折角上手くいっているのに…。

「その…俺はガイナー王子と妹の邪魔にならないように────」

そう口火を切ったら、何故かそっと手を握られた。

「最初に言っておくが、俺はジェレミーが俺の前から消えたらその時点で婚約は破棄する」
「え?!」

しかも真剣な顔でそんなことを言い出すものだから驚くなという方がおかしい。
何がどうなったらそんな結論に至るんだろう?

「それを踏まえた上で話がしたい」
「え…えぇ…?」

はっきり言って俺はどうしていいのかわからなくて途方に暮れてしまう。
でもそんな俺に、ガイナー王子は逃がさないと言わんばかりに俺の手を握りながら、笑顔で催促してきた。

「考えていたことを全部言って欲しい」

そう言われて『はい、そうですか』と言えるはずがない。
ここは考えをまとめる時間が欲しいところだ。

「あの…そう言われると何も言えなくなるんですが…」
「つまり俺の前から消えようとしていたということだな?」

それはその通りだから素直に頷いたら、何故かガイナー王子が殺伐とした空気を醸し始めた。
顔は笑ってるけど、絶対に怒っているだろう雰囲気を痛いほどに感じてしまう。

「何故…そんなことを?」
「え?」
「何故消える必要が?」

圧が凄い。
でもここで誤魔化すのは絶対に良くないだろうと思って、これにもちゃんと素直に答えを返す。

「その…公爵家はガイナー王子とリリベルで盛り立てていくということだったので、俺は邪魔になるなと…」
「邪魔なものか!そもそも公爵は俺とリリベル嬢の子が公爵家を継いでくれれば俺とお前の仲を認めると言ってくれた」
「え?!」

それは驚愕の事実だった。
まさか王子が俺との関係を親に伝えているとは思わなかった。
もしかしてあのクララとかいう令嬢の件に対する俺の行動について苦情を言うために手紙を書いて、そのついでに伝えたんだろうか?
流石にこれはマズい気がする。
もしかしてあの父からの手紙は、こんなことをしでかすお前にはもう何一つ期待などしていない。好きに暮らせということだったのでは?!

それを知って俺は一気に血の気が引いて、腹の底が冷たくなるのを感じた。
そういうことならやっぱり俺は公爵家にはいられない。
先程のハーブ王子の言葉に甘えるのは申し訳ないけど、やっぱりお願いしに行った方がいいんじゃないだろうか?

「あ…あの…」
「待て。何か思い違いをしていないか?」
「いいえ。その…父に見捨てられたのならやはり先程のハーブ王子の話を本格的に考えないとと……」

蒼白な顔でそう言った途端、何故か王子がガタッと席を立ち、何故かそのまま口づけてきた。

「んっ?!んんんっ…」

そのまま貪るようにガイナー王子にキスされて、気づけば腰を引き寄せるようにしながら抱きしめられていた。

「こんなに愛しているのに、誰が離すものか」

しかも聞き間違いかと思うようなことをガイナー王子は言ってくる。

「あ…、愛…?」
「愛してる。ジェレミー。ずっと俺の側にいろ」
「え…えぇ?」

王子の顔は真剣そのもの。
どう見ても冗談でも聞き間違いでもないらしい。
でもそれこそ信じられない気持ちでいっぱいだった。
考えても見てほしい。
俺とガイナー王子はついこの間まで、クラスは同じでも話すらほとんどしたことがないほど疎遠だったのだ。
それがクララ嬢の件で叱られ、脅され、犯され、反省を促されて今がある。
決して元から親しい仲だったわけじゃない。
敢えて言うなら、将来支えるべき王太子の弟王子であり、妹の夫になる義弟。
同い年ではあるけれど、それだけだ。
それ以上でもそれ以下でもない。
だから突然愛してるなんて言われても信じられるはずがなかった。

(でも……)

王子の真剣な表情に何故か胸がドキドキして、困惑してしまう。
これまでの人生の中でこんなに真っ直ぐに告白されたことなんて一度もないし、愛してるなんて言われたのだってこれが初めてだ。
俺はどちらかというと昔から敬遠されるタイプで、ガイナー王子だって例に漏れずこれまでずっと俺とは親しくなんてしてなかったはずなのに…。

切っ掛けは何だったのか。
何が王子を変えたのか。
そもそも愛ってなんだっけ?

兎に角頭の中が混乱して、なにがなんだかわからなくなってしまった。
そんな俺に王子がまた真っ直ぐに言葉を伝えてくる。

「お前が信じてくれるまで俺は何度でも好きだと伝え続ける。だから、逃げるな」

熱い吐息を交えながらそんなことを囁いてくるガイナー王子に、カァッと頬に熱が灯る。

「ジェレミー。お前が傍に居ないなら俺はリリベルとは結婚しない。お前が隣国に逃げるなら婚約を破棄して俺はお前の後を追おう。信じられないかもしれないが、俺はお前だけを愛してる」

リリベルではなく、俺を愛してる。
王子はそう言うけど、話を噛み砕くと俺が逃げずに傍に居ればリリベルとそのまま結婚するという事になる。
その場合、俺は愛人枠ということであってるんだろうか?
それならやっぱり本気に取らなくてもいいような気も……。
そう考えたところですかさず王子の訂正が入る。

「勘違いはするな。俺はお前を初めて抱いた後、公爵に手紙を書いた。お前が欲しいと」

その際に『婚約は解消して構わない』とも王子はしっかりと書いておいたらしい。
それなのに父はリリベルと予定通り結婚するなら俺を渡すと返してきたのだとか。

(父上?!)

それは流石に酷くないだろうか?
そんな話、俺は父から一言も聞いていない。
そんな大事な話を当人抜きで勝手に決めないで欲しい。

いや。落ち着け。
父の考え方は俺にはわかるはず。

父のことだ。王子が俺を抱いたと伝えた時点で合意とみなした可能性は非常に高い。
そしてガイナー王子とクララ嬢の件も耳に届いていて、俺を王子に差し出すことでリリベルの結婚を確実なものにしたかったのだろう。
本当に王子が言葉通り俺を欲しいと言うのなら、その結婚は揺るがなくなると思ったはず。
言ってみれば元々の政略結婚の条件に俺を加えた形となり、王子はそれを受け入れた。
つまりはそう言うことなんだと思う。

それなら父から届いたあの手紙の意味もまた変わってくるのではないだろうか?

王子との仲を反対する気はないぞという意思表示だったと取れなくはないからだ。
でも実際に話したわけではないから本当のところはわかるはずもない。

「俺はお前が手に入るならどんな条件でも飲む。だから…」

切なげに俺を見つめてくれる王子の言葉に嘘はなさそうだから、ここは父の話も聞きに行くべきだろう。

「……取り敢えずこの件は保留で」

(明日にでもその真意を聞きに行こう)

だからそう言ったのに、王子はそう言った途端またキスで俺の唇を塞いできた。
その様子はまるで焦っているようにさえ見える。

「保留になんてさせる気はない」
「え?!」
「ジェレミーはモテるくせにそれを全くわかっていないだろう?保留になんてしたらすぐに誰かに掻っ攫われてしまってもおかしくはない。却下だ」

モテる?誰が?
自慢ではないが俺は生まれてこのかた一度もモテた試しがない。
告白なんてさっき王子にされたのが初めてだし、婚約者候補に選ばれた三人なんて互いに俺を押しつけ合っていたくらいだ。
いくらなんでも自分が女性達にとって近寄り難いタイプだということくらい理解している。
俺は王子とは違って金髪でも何でもないし、冷たい見た目だからモテる要素なんて皆無だろう。
とは言え王子はきっと俺が何を言っても信じてくれないと思う。
だって『恋は盲目』というだけあって、恋愛フィルターがその目に掛かっていそうだから。
それくらい王子の目はどこまでも真剣だった。
ここまでされたらさっきの愛の言葉を全部信じざるを得なくなってしまう。
俺が隣国に行ったら本当に地位も何もかも捨てて俺を追ってきそうな気配がバシバシ感じられた。

(王子が俺を好き…)

複雑ではあるけど、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。
そんな俺に『取り敢えず自分から勝手に離れようとした罰だ』と言って、王子は『放課後に時間を取るように』と有無を言わさぬ眼差しで伝えてきた。

(そんな…。またお仕置きなのか…?)

俺は王子との夜を思い出し、複雑な心境で『考えさせてください!』と言って、真っ赤な顔でその場から逃げ出した。



****************

※お読みになって、ガイナーの言動に余裕がないなと感じていただけていたらいいのですが、上手く伝わらなければすみません。

ここからはガイナーSide.がないのでちょっとだけ下で補足しておきます↓↓↓
場合によりイメージが崩れるかもしれないので、それが嫌な方はここでそっと引き返してください。
宜しくお願いします。








まずはジェレミーの話を聞く姿勢をとったものの、内心全く余裕がないガイナー王子。

(やっぱりだ…!)(き、消える気満々だと?!)(それもこれも俺が気持ちを伝え損ねたせいだ!引き止めないと…)(と、取り敢えず親の許可は出ていると伝えたらなんとかなるか?)冷や汗ダラダラ。

じわりじわり…逃げられそうな予感。

(逃がすかぁあああっ!)(そ、そうだ!取り敢えず告白だ!兎に角思いの丈を伝えないと!)(伝われ!伝わってくれ!)割と必死。

(伝わった……か?)

(ほ、保留だと?!)プチパニック。

結局ジェレミーが劇弱なそっち方面でじっくり懐柔しよう作戦に切り替えました。
案外クールドSにはなれない人です(^^)

次話だけ読んだら余裕ある普通のドS王子なんですけどね。
心に余裕のある方は今回とのギャップで笑ってやってください。

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