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7.※ジェレミーと俺② Side.ガイナー
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ジェレミーの実家である公爵家と話をつけ、これからの未来に満足していた俺。
ジェレミーにもしっかり言い聞かせたし、これでクララ嬢を虐めなくなるだろうと思っていた。
直接的にも間接的にも何もできなくなったジェレミーは悔しそうに彼女を睨むばかり。
まあこれくらいなら実害もないし、構わないだろう。
そう思ったのに────。
「ガイナー王子。私、やっぱりジェレミー様に嫌われているのでしょうか?」
潤む目でそうやって俺に聞いてくるクララ嬢。
いや。寧ろ何故ここで俺に聞く?
あんなにあからさまに理由を言っていただろうに、全部無視していたら嫌われるに決まっている。
「彼は妹の婚約者にベタベタされるのを酷く嫌がっていたし、仕方がない」
「そんな!私は慣れないここでの生活をただフォローして頂いていただけなのに…」
あんまりですと言って彼女は泣くけど、彼女の態度そのものが度を超えていたせいだとは全く気づいていなさそうだ。
「わ、私。一度きちんとジェレミー様とお話ししてみます。きっときちんと話せば誤解だって分かっていただけると思うんです!」
「いや、誤解じゃ…」
ないと言おうとしたのに、彼女はこちらの話も聞かず笑顔で『頑張りますね!』と力強く言って話を切り上げてしまった。
その後でのあの一件だ。
自分からジェレミーへと突撃していき、しつこくジェレミーに追い縋った挙句に振り払われて、その結果階段から落ちそうになっていた。
これはある意味彼女の自業自得だ。
ジェレミーが咄嗟に腕を掴んで場所を入れ替えた時には心臓が止まるかと思った。
下手をしたら大怪我だ。
(ジェレミー!!)
間一髪間に合って怪我一つなく助けられた時にはホッとした。
もうこんな思いは二度としたくはない。
正直言って被害者面をする彼女の厚顔さにはかなりの嫌悪感に見舞われてしまったほどだ。
助けてもらったくせに俺のジェレミーを悪く言うなと言ってやりたかった。
当然手を貸す気にさえなれなくて、傍に居た女生徒に丸投げしてジェレミーの無事を確認するため急いで医務室へと連れて行く。
しっかりと診てもらい、どこにも怪我がなかったことを確認してやっと心底安心することができた。
ただ身体は大丈夫でも、心までそうとは限らない。
あんなことがあってショックはショックだっただろうし、放課後まで様子を見つつ寮まで送ろうと思った。
ここに来ていつの間にかジェレミーのことを凄く大事に思っている自分に気がついて、ただの独占欲以上に愛情を感じていることに愕然となった。
おかしい。
俺は王族だから恋に落ちることなんてないと思っていたのに…。
ジェレミーをエスコートしながら平静を装うけど、胸はいつも以上に弾んでいたように思う。
それからジェレミーの部屋まで辿り着いてこの時間ももう終わりかと残念に思っていたら、部屋に招き入れられ紅茶を振舞ってもらうことができた。
ジェレミーが手ずから淹れてくれた茶は思いの外美味しくてつい笑みが零れ落ちる。
それと同時にふわりと鼻を擽ぐる香りをしっかり覚えておいて、今度ジェレミーに茶を振る舞う際の参考にしようと思った。
そうしてリラックスしたところで、ふとジェレミーの憂いを払うのを忘れていたと思い出した。
そもそもジェレミーがクララ嬢にあれこれしていたのは俺と妹のリリベル嬢との結婚が危うくなるのではという心配からくるものだ。
ここで公爵からの言葉も思い出し、きちんと伝えておけばジェレミーも安心できるんじゃないかと思い口火を切った。
けれどリリベル嬢との結婚話にあからさまにホッとした顔をしたジェレミーを見て、俺の中に言いようのない感情が芽生えてしまう。
ジェレミーは俺のことをどう思っているのだろう?
好き?嫌い?
それともただの将来の義弟?
考えれば考えるほど不安が胸の中に広がっていく。
だからそれを振り払う為にご褒美という名目でジェレミーを抱いた。
少しでも気持ちが伝わるように、恋人にするように丁寧に優しく愛撫を施し、沢山気持ちよくなれとばかりに色々教え込んだ。
俺に抱かれて悦びを感じ、もっと抱かれたいと思わせたかった。
ジェレミーから俺を求めてほしい。
そんな気持ちでジェレミーが身も心も蕩けるほど愛していく。
そうしたら『これ以上されたら結婚できなくなる』と言い出した。
その言葉に思わず笑いそうになる。
(俺を喜ばせてどうする)
抱き潰したら誰とも結婚しないのか?
それならこのまま抱き潰してやるぞ?
結婚なんてしなくていい。
公爵家は俺とリリベルの子が継ぐから、心配せずこのまま俺の元に落ちてきてほしい。
だからそう言ったら、恥ずかしそうに抱きつきながらお礼を言われた。
「可愛すぎる」
(ああ…なんて愛しいんだろう?)
こんな感情を俺は生まれて初めて知った気がする。
ジェレミーが可愛すぎて、愛おしくて兎に角たまらなかった。
だからその気持ちのままに貪ってしまったのだ。
「あっ、あぁんっ!お、じぃ…!気持ちいッ!もっと擦ってっ!」
「ジェレミーッ!頼むからもう口を閉じていろ!」
すっかり快楽に溺れ切り俺に身を任せよがりまくるその姿に煽られて、結果的に時間を忘れて盛ってしまった。
気づけばまた夕食を食べ損ねていたから、食堂で二人分の料理をもらってきてジェレミーの枕元に一つ置いておいた。
後は水と手紙も。
随分無理をさせてしまったし、ゆっくり休んでほしい。
(今度からは先に食べておいた方が良さそうだな)
そう思いながらそっと唇を重ねて自室に帰った。
ジェレミーとの仲はこれからも変わらず続いて行くのだと思い込んでいた俺だったが、どうやらそれは大きな勘違いだったと気づいたのはそれから一週間も経った頃だった。
ここ最近ジェレミーの様子がおかしいことには気がついていた。
いや。クラスが同じだからこそ気づけたと言った方がいいのかもしれない。
時折窓の外に目をやり、物憂げに溜め息を吐くものだからそれが妙に色っぽく見えて周囲の者が悩殺されていく。
俺も当然その内の一人だ。
悩みの原因はクララ嬢ではないだろう。
彼女はあれ以来ジェレミーには近づいていないし、ジェレミーから近づくこともない。
他の悩みなのは明らかだ。
あるとしたら俺との関係だろうか?
でもそれに関して言えば、こちらには公爵との約束があるから何も問題はないとも思っていた。
きちんと話せば即解決だ。
(俺に相談してくれればいいのに)
そんなことよりこちらの方が問題だ。
なんだあの色気は?
本当にけしからん奴だ。
これが続いたら確実にライバルが増える。
(ジェレミーは俺のものだ!寄るな触るな近づくな!)
そんな気持ちで周囲をさり気なく威嚇し続けた一週間。
そんな中、俺の威嚇が利かない唯一の相手、隣国からの留学生であるハーブ王子がジェレミーに声を掛けた。
どうやら場所を移して話をするようだ。
当然放ってなんておけないからさり気なく後を追う。
そして俺はそこで衝撃的な話を耳にする羽目になった。
「え?!ジェレミー、卒業後に行く場所がないなんて嘘だろ?!」
その声は思いの外大きくて、聞いた途端愕然となってしまう。
(え…?)
ジェレミーに行く場所がないなんてあり得ない。
だって兄はジェレミーを側近にする気満々だったのだから。
だから俺は卒業後もジェレミーとは王宮でいつでも会えると思ったし、結婚までの三年で愛を育もうと思っていた。
三年経ってリリベルが学園を卒業したら結婚して公爵家に入り、そこでずっと一緒に暮らせると思っていたのに……。
「本当にないんです」
ジェレミーは困り果てたようにそう口にした。
まさかそんな風に思っていたなんて考えてもいなかったし、衝撃的過ぎて咄嗟に動けなかったほどだ。
だからその隙に、ハーブ王子が自国に来たらいいと勧誘するなんていう暴挙を許してしまったのだが…。
(頷こうとしてないか?!)
あり得ない。
(絶対にさせるか!!)
そう思った時には俺はジェレミーを抱き竦めていた。
「ジェレミー…?まさか頷く気じゃないだろうな?」
「え?ガ、ガイナー王子?!」
「気になって様子を見に来たら…まさか引き抜きとはな」
ハーブ王子を睨みつけると心外だと言うような態度で慌てたように取り繕われる。
「嫌だな、ガイナー王子。俺はジェレミーから卒業後の身の振り方について、相談を受けていただけだ」
「そうか。だがジェレミーの卒業後は兄上の側近と決まっている。心配は無用だと言っておこう」
その言葉にハーブ王子はやっぱりなというような顔をしたけれど、当の本人が驚きの声をあげたからたまったものではない。
「え?!」
どうやらこの言葉はジェレミーには思いがけない言葉だったらしい。
(何故だ?!)
「何を驚く?兄上もそのつもりだし、ジェレミーの実力から言っても俺は当然そうなると……まさか逃げる気だったのか?」
俺が嫌で…だから俺から離れようとしたのかと、その真意を探るようにジェレミーを見つめてみる。
「…え?」
でもジェレミーからはそんな意図は全くと言っていいほど感じられなかった。
そのことにホッとし、何かしらの行き違いがあったのだと察してしまう。
そこではたと気がついた。
(そう言えば…自分の気持ちを言葉にして伝えていなかった……かも)
クララ嬢とは何の関係もないし、リリベル嬢との結婚は確実だと話しはしたが、それ以上の話…つまり公爵とのやり取りについては何一つ話してはいない。
それ以前に、心の中にはジェレミーに対する気持ちが溢れていたにもかかわらず、肝心の言葉で一度もジェレミーに伝えていなかったということに今更ながら気がついてしまった。
(や、やってしまった…!)
痛恨のミスに冷や汗が出てしまう。
これでは逃げられても仕方がない。
気づいたからにはすぐさま手を打たないと。
そう思ったからハーブ王子に釘だけ刺して、ジェレミーの手を引き急いでその場から連れ出した。
ジェレミーにもしっかり言い聞かせたし、これでクララ嬢を虐めなくなるだろうと思っていた。
直接的にも間接的にも何もできなくなったジェレミーは悔しそうに彼女を睨むばかり。
まあこれくらいなら実害もないし、構わないだろう。
そう思ったのに────。
「ガイナー王子。私、やっぱりジェレミー様に嫌われているのでしょうか?」
潤む目でそうやって俺に聞いてくるクララ嬢。
いや。寧ろ何故ここで俺に聞く?
あんなにあからさまに理由を言っていただろうに、全部無視していたら嫌われるに決まっている。
「彼は妹の婚約者にベタベタされるのを酷く嫌がっていたし、仕方がない」
「そんな!私は慣れないここでの生活をただフォローして頂いていただけなのに…」
あんまりですと言って彼女は泣くけど、彼女の態度そのものが度を超えていたせいだとは全く気づいていなさそうだ。
「わ、私。一度きちんとジェレミー様とお話ししてみます。きっときちんと話せば誤解だって分かっていただけると思うんです!」
「いや、誤解じゃ…」
ないと言おうとしたのに、彼女はこちらの話も聞かず笑顔で『頑張りますね!』と力強く言って話を切り上げてしまった。
その後でのあの一件だ。
自分からジェレミーへと突撃していき、しつこくジェレミーに追い縋った挙句に振り払われて、その結果階段から落ちそうになっていた。
これはある意味彼女の自業自得だ。
ジェレミーが咄嗟に腕を掴んで場所を入れ替えた時には心臓が止まるかと思った。
下手をしたら大怪我だ。
(ジェレミー!!)
間一髪間に合って怪我一つなく助けられた時にはホッとした。
もうこんな思いは二度としたくはない。
正直言って被害者面をする彼女の厚顔さにはかなりの嫌悪感に見舞われてしまったほどだ。
助けてもらったくせに俺のジェレミーを悪く言うなと言ってやりたかった。
当然手を貸す気にさえなれなくて、傍に居た女生徒に丸投げしてジェレミーの無事を確認するため急いで医務室へと連れて行く。
しっかりと診てもらい、どこにも怪我がなかったことを確認してやっと心底安心することができた。
ただ身体は大丈夫でも、心までそうとは限らない。
あんなことがあってショックはショックだっただろうし、放課後まで様子を見つつ寮まで送ろうと思った。
ここに来ていつの間にかジェレミーのことを凄く大事に思っている自分に気がついて、ただの独占欲以上に愛情を感じていることに愕然となった。
おかしい。
俺は王族だから恋に落ちることなんてないと思っていたのに…。
ジェレミーをエスコートしながら平静を装うけど、胸はいつも以上に弾んでいたように思う。
それからジェレミーの部屋まで辿り着いてこの時間ももう終わりかと残念に思っていたら、部屋に招き入れられ紅茶を振舞ってもらうことができた。
ジェレミーが手ずから淹れてくれた茶は思いの外美味しくてつい笑みが零れ落ちる。
それと同時にふわりと鼻を擽ぐる香りをしっかり覚えておいて、今度ジェレミーに茶を振る舞う際の参考にしようと思った。
そうしてリラックスしたところで、ふとジェレミーの憂いを払うのを忘れていたと思い出した。
そもそもジェレミーがクララ嬢にあれこれしていたのは俺と妹のリリベル嬢との結婚が危うくなるのではという心配からくるものだ。
ここで公爵からの言葉も思い出し、きちんと伝えておけばジェレミーも安心できるんじゃないかと思い口火を切った。
けれどリリベル嬢との結婚話にあからさまにホッとした顔をしたジェレミーを見て、俺の中に言いようのない感情が芽生えてしまう。
ジェレミーは俺のことをどう思っているのだろう?
好き?嫌い?
それともただの将来の義弟?
考えれば考えるほど不安が胸の中に広がっていく。
だからそれを振り払う為にご褒美という名目でジェレミーを抱いた。
少しでも気持ちが伝わるように、恋人にするように丁寧に優しく愛撫を施し、沢山気持ちよくなれとばかりに色々教え込んだ。
俺に抱かれて悦びを感じ、もっと抱かれたいと思わせたかった。
ジェレミーから俺を求めてほしい。
そんな気持ちでジェレミーが身も心も蕩けるほど愛していく。
そうしたら『これ以上されたら結婚できなくなる』と言い出した。
その言葉に思わず笑いそうになる。
(俺を喜ばせてどうする)
抱き潰したら誰とも結婚しないのか?
それならこのまま抱き潰してやるぞ?
結婚なんてしなくていい。
公爵家は俺とリリベルの子が継ぐから、心配せずこのまま俺の元に落ちてきてほしい。
だからそう言ったら、恥ずかしそうに抱きつきながらお礼を言われた。
「可愛すぎる」
(ああ…なんて愛しいんだろう?)
こんな感情を俺は生まれて初めて知った気がする。
ジェレミーが可愛すぎて、愛おしくて兎に角たまらなかった。
だからその気持ちのままに貪ってしまったのだ。
「あっ、あぁんっ!お、じぃ…!気持ちいッ!もっと擦ってっ!」
「ジェレミーッ!頼むからもう口を閉じていろ!」
すっかり快楽に溺れ切り俺に身を任せよがりまくるその姿に煽られて、結果的に時間を忘れて盛ってしまった。
気づけばまた夕食を食べ損ねていたから、食堂で二人分の料理をもらってきてジェレミーの枕元に一つ置いておいた。
後は水と手紙も。
随分無理をさせてしまったし、ゆっくり休んでほしい。
(今度からは先に食べておいた方が良さそうだな)
そう思いながらそっと唇を重ねて自室に帰った。
ジェレミーとの仲はこれからも変わらず続いて行くのだと思い込んでいた俺だったが、どうやらそれは大きな勘違いだったと気づいたのはそれから一週間も経った頃だった。
ここ最近ジェレミーの様子がおかしいことには気がついていた。
いや。クラスが同じだからこそ気づけたと言った方がいいのかもしれない。
時折窓の外に目をやり、物憂げに溜め息を吐くものだからそれが妙に色っぽく見えて周囲の者が悩殺されていく。
俺も当然その内の一人だ。
悩みの原因はクララ嬢ではないだろう。
彼女はあれ以来ジェレミーには近づいていないし、ジェレミーから近づくこともない。
他の悩みなのは明らかだ。
あるとしたら俺との関係だろうか?
でもそれに関して言えば、こちらには公爵との約束があるから何も問題はないとも思っていた。
きちんと話せば即解決だ。
(俺に相談してくれればいいのに)
そんなことよりこちらの方が問題だ。
なんだあの色気は?
本当にけしからん奴だ。
これが続いたら確実にライバルが増える。
(ジェレミーは俺のものだ!寄るな触るな近づくな!)
そんな気持ちで周囲をさり気なく威嚇し続けた一週間。
そんな中、俺の威嚇が利かない唯一の相手、隣国からの留学生であるハーブ王子がジェレミーに声を掛けた。
どうやら場所を移して話をするようだ。
当然放ってなんておけないからさり気なく後を追う。
そして俺はそこで衝撃的な話を耳にする羽目になった。
「え?!ジェレミー、卒業後に行く場所がないなんて嘘だろ?!」
その声は思いの外大きくて、聞いた途端愕然となってしまう。
(え…?)
ジェレミーに行く場所がないなんてあり得ない。
だって兄はジェレミーを側近にする気満々だったのだから。
だから俺は卒業後もジェレミーとは王宮でいつでも会えると思ったし、結婚までの三年で愛を育もうと思っていた。
三年経ってリリベルが学園を卒業したら結婚して公爵家に入り、そこでずっと一緒に暮らせると思っていたのに……。
「本当にないんです」
ジェレミーは困り果てたようにそう口にした。
まさかそんな風に思っていたなんて考えてもいなかったし、衝撃的過ぎて咄嗟に動けなかったほどだ。
だからその隙に、ハーブ王子が自国に来たらいいと勧誘するなんていう暴挙を許してしまったのだが…。
(頷こうとしてないか?!)
あり得ない。
(絶対にさせるか!!)
そう思った時には俺はジェレミーを抱き竦めていた。
「ジェレミー…?まさか頷く気じゃないだろうな?」
「え?ガ、ガイナー王子?!」
「気になって様子を見に来たら…まさか引き抜きとはな」
ハーブ王子を睨みつけると心外だと言うような態度で慌てたように取り繕われる。
「嫌だな、ガイナー王子。俺はジェレミーから卒業後の身の振り方について、相談を受けていただけだ」
「そうか。だがジェレミーの卒業後は兄上の側近と決まっている。心配は無用だと言っておこう」
その言葉にハーブ王子はやっぱりなというような顔をしたけれど、当の本人が驚きの声をあげたからたまったものではない。
「え?!」
どうやらこの言葉はジェレミーには思いがけない言葉だったらしい。
(何故だ?!)
「何を驚く?兄上もそのつもりだし、ジェレミーの実力から言っても俺は当然そうなると……まさか逃げる気だったのか?」
俺が嫌で…だから俺から離れようとしたのかと、その真意を探るようにジェレミーを見つめてみる。
「…え?」
でもジェレミーからはそんな意図は全くと言っていいほど感じられなかった。
そのことにホッとし、何かしらの行き違いがあったのだと察してしまう。
そこではたと気がついた。
(そう言えば…自分の気持ちを言葉にして伝えていなかった……かも)
クララ嬢とは何の関係もないし、リリベル嬢との結婚は確実だと話しはしたが、それ以上の話…つまり公爵とのやり取りについては何一つ話してはいない。
それ以前に、心の中にはジェレミーに対する気持ちが溢れていたにもかかわらず、肝心の言葉で一度もジェレミーに伝えていなかったということに今更ながら気がついてしまった。
(や、やってしまった…!)
痛恨のミスに冷や汗が出てしまう。
これでは逃げられても仕方がない。
気づいたからにはすぐさま手を打たないと。
そう思ったからハーブ王子に釘だけ刺して、ジェレミーの手を引き急いでその場から連れ出した。
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