たった五分のお仕事です?

オレンジペコ

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Ⅲ.サード・コンタクト

35.助かった!

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「ここ…本当にどこだよ…」

さっきまで一緒にいたはずのラフィやエマーリンさんの姿もどこにもないし、近所の公園でもなければアレファンドラの城の中でもない。
森というほど木々は密集していないけど、それでも見渡す限り木、木、木。

「ラフィ?エマーリンさん?誰かっ!」

凄く心細くて取り敢えずその場から移動してみることに。
知り合いでなくてもいいから誰か人に会えたら安心できる気がして、恐る恐る周囲を見回しながら歩き出す。

(怖い…)

幸い何故か日は高いから明るいし、今のうちに川でも探した方がいいかもしれない。
それか人が通りそうな道でも見つけられたら……。
そう考えながらウロウロと歩き続ける。

そしてどれくらい歩いただろう?背後でガサッという音が聞こえて振り返った。
一瞬の期待と、熊だったらどうしようという不安。
そんな俺の前に現れたのはゲームで見たことがあるようなスライムだった。

「……え?」

スライムってモンスターの一種だったよな?
大体の本の中で最弱のモンスターとして描かれる魔物。
物語によっては子供が踏みつけるだけで倒せるとか書いてあったけど、本当かな?
いや。テイマーがテイムして可愛がったりするんだっけ?
いずれにせよほぼほぼ無害なモンスターのはず。
そう思ってホッと息を吐き、俺はジワジワと近づいてくるスライムへの警戒を怠っていた。
完全に油断していたんだ。
そして気づけばアメーバみたいに体を伸ばして俺の全身に絡みついてきていて、「え?」と思った時には遅かった。

シュウゥゥゥ…。

熱いわけじゃないのにスライムがくっついているところから服が溶かされていく。
もしかしたら消化液みたいなものでも出てるのかもしれない。

「え?!ちょっ!や、やだっ!」

このままだとスライムに溶かされて、いや、食べられて?死んでしまうんじゃ?!

「やだ!いやだ!助けて!ラフィ!」

死ぬと思った時、真っ先に思い浮かんだのは誰よりも頼りになるラフィの顔で、強く会いたいと思ったタイミングで足元に金色の光を伴った魔法陣が広がっていった。
そして気づけば目の前には会いたいと願ったラフィの姿が────。

「あ……。ラフィ!た、助けて!スライムに食べられる~!」

思わずそう口にしたら、どうやったのかは知らないけど、ラフィはあっという間にスライムを倒してくれた。

「ユウジ!大丈夫か?!」
「こ、怖かった…」

震えながら抱き着いたらラフィは俺を安心させるように抱きしめてからエマーリンさんにそのマントを貸せと言い放った。

「え~?別に構いませんけど、ちゃんと返してくださいよ?」
「わかってる!最高級品のマントにして返してやるから黙って貸せ!」
「ありがとうございます。ではこれは差し上げますので」

にこやかにエマーリンさんが着ていた黒いマントをラフィへと差し出すと、ラフィはそれをバサッと広げて俺の肩にかけてくれる。

「上だけだったら俺のジャケットでもよかったんだけど、下もその…溶かされてるから」

そう言って照れくさそうに頬を染めて横を向くラフィ。
その言葉にハッとしながら自分の姿を確認すると、物凄く見ようによっては卑猥な格好になってしまっていた。

(ぎゃぁあああっ?!)

これは恥ずかしい!
確かにこれならマントで隠さないとヤバいと思うはずだ。

「うぅ…もうお婿に行けない」

思わずありきたりな言葉を口にしてみると、ラフィがパッとこっちを向いて、「大丈夫。責任は俺がとるから!」と言ってくれた。
ノリがいいな。
異世界にもこういうノリツッコミ的なやり取りがあったりするんだろうか?
よくわからないけど取り敢えずお礼を言っておこう。

「ありがとう」
「~~~~?!」

え?あれ?なんでちょっと嬉しそうなんだろ?
俺、もしかして何かやらかした?
そう思ったところで冷静なエマーリンさんの言葉が耳に飛び込んでくる。

「ラフィ王子。多分ユウジはわかってないので、誤解のないようちゃんと話し合ってくださいね?」
「え?!」
「多分冗談か何か、そういう類と思ってるはずなので」

そう言われたラフィは俺の方をマジマジと見てきて、ちょっと残念そうにしながら「まだもうちょっと押しが足りなかったか…」と小さく呟いた。
押しって何だろう?
よくわからないけど取り敢えず危険からは免れたようだし、ラフィからもう離れないようにしよう。
あんな怖い目に合うのはもう懲り懲りだ。




それからラフィに連れられ部屋でシャワーと着替えをさせられた。
その際に怪我がないかを改めて全身チェック。
ちょっと赤くなった箇所があったから、ラフィが念のためと言ってポーションをくれた。
有り難い。

そしてソファに腰を落ち着けてから、どうしてこうなったのかの説明がされたんだけど、原因はエレンドスだったらしい。

(本当にエレンドスはろくなことしないな?!)

「ユウジを助けるためにエマーリンは完全召喚の魔法を使うしかなくて、今ユウジはいつもとは違って完全にこっちの住人になってしまってるんだ。本当にすまない!」

ラフィがそう言って真摯に頭を下げてくれるけど、ラフィとエマーリンさんは二人とも俺のところに来てたんだし、なんの責任もないと思う。
悪いのは勝手に部屋に入って魔法陣に干渉してきたエレンドスだけだ。
でもラフィはエレンドスの主人としての責任を感じているようで、できることは何でもすると言ってくれた。

(でもそうか…)

もう家に帰れないのかと思うと悲しいのは悲しい。
きっと俺がいきなりいなくなって家族は心配しているはずだ。
明日からは学校だって始まるのに…。
あっという間に消えてしまった日常に未練がないと言ったら嘘になる。

だからちょっとだけ泣かせてほしい。
そう思いながらポロッと涙をこぼしたら、ラフィが慌てたように俺の隣に来て抱き寄せてくれて、大丈夫だからって背をさすってくれた。

しかもラフィはやっぱり凄く優しいんだよな。
あっという間に俺の心が軽くなる言葉を口にしてくれるんだ。

「ユウジ。忘れているかもしれないけど、俺達が向こうに行った方法でならいつでも家族に会えるぞ?」
「え?」
「こっちで五分、あっちで五日。確か学校は五日通って二日休みって言ってなかったか?それなら学校も通えると思う」
「ええっ?!」
「休みの日はこっちで過ごして、残りを向こうで過ごせばいい。どうせこっちでは五分だし、それなら俺も寂しくないし」
「え?え?」
「三日に一回、エマーリンに召喚術を行使してもらって、向こうに帰ってこい。もちろんこうなった責任はちゃんと俺が取るつもりだ。最初は俺とエマーリンも説明責任を果たしに向こうに一緒に行ってちゃんと謝罪もするから」

俺はラフィが言ってくれた言葉を反芻して、もう会えないと思っていた家族や友人にまた会えると理解した。
それって破格の条件なんじゃないだろうか?
普通に召喚されたら帰れないっていうのが物語の定番なのに。

(俺、滅茶苦茶恵まれてる……)

優秀な魔術師エマーリンと、優しくて有能なラフィと出会えたのは本当に幸運だった。

「そっか…また…会えるんだ」
「ああ。だから安心して今日は休もう?明日から学校って言ってたから心配だろうし、朝一番で召喚術を発動してもらえるよう手配しておくから」
「ありがとう。ラフィ。大好きだ」

そう言いながら、俺は思い切りラフィに抱き着いた。



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