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Ⅱ.セカンド・コンタクト

13.お姫様抱っこで逃亡?!

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【Side.エレンドス】

「ラフィが街に行った?」
「ええ。そのようです」

目の前で不満を溢す第一王子に淡々と答えを返す。

「狡い!」
「狡いと言われましても…本日は主の仕事は片付いていますので」
「終わってないじゃないか!」
「…終わっていますよ?」

文句を言われようと、残っているのは第一王子が主に押し付けていたものだけだ。
つまり差し戻された分だけが今自分の手元にあり、それをそっと第一王子の執務机に戻しにきただけの話だったりする。
けれど第一王子はそれを納得しようとはしない。

「終わったものを差し戻せと言ってこい!」
「…………」

それは流石に断りたいのだが……。
けれど主に負けず劣らず我儘な第一王子は言い放つ。

「お前がラフィに仕事を伝えに行くまで私はこのまま休憩に入る。帰ってくるまで仕事はしない」
「?!」
「いいな?必ず本人に伝えて、きっちり仕事を終わらせるように」
「……かしこまりました」

何が悲しくてこの二人の王子の間で振り回されなければならないのだろう?
幼馴染だからまだ耐えられるが、そうでなければとっくに逃げ出している。
自業自得とは言え、減俸中の身ゆえに余計にやさぐれたくなってしまう。
けれどこれでは行かざるを得ないだろう。

現在第一王子付きの側近は胃を壊して静養中だ。
これで何人目だろう?
居てくれないと負担が全部自分にくるから早く新しい側近を置いてほしい。
とは言えそんなことを口にして自分にお鉢が回ってきたら大変だ。
第一王子付きになるくらいなら今のままの方がずっとマシだろう。

そのためにも余計なことは言わず、なんとしてでもあの困った主を捕まえて、なんとか宥め賺して仕事をさせなければならない。
仕事嫌いがなんだ!出来るんだからやってくれ!
でなければ最終的に王に怒られるのは自分なのだから聞き分けて欲しい。

「では行ってまいります」

もうここまできたらあの異世界人を巻き込んでやろうと心に決める。
今日呼び出すから絶対邪魔はするなと言われているが、背に腹は代えられない。
どうせ主は自分が言っても素直に聞いてはくれないのだ。
『友人』と言ってはいるがえらく気に入ったようだし、きっと彼の言うことなら聞いてくれることだろう。
上手く事を運んでさっさと仕事に戻ってもらうのが一番だ。

そして主のお気に入りのお店を頭の中でリストアップし、足早に街へと向かった。


***


【Side.ユウジ】

街歩きに戻った俺達は今度はどこに行こうかなんて話しながら楽しく散策を続けていく。
店先で売られる果物や野菜なんかは見たことがない色や形ばかりで見ていて楽しい。
干した果物なんかも売られていて、ちょっと味見したら凄く美味しかったのでおやつとして少し買っておいた。
名前がまたカッコいいんだ。
『サンダー』って言うオレンジ色の果物で、味は黄桃みたいな感じ。
ちょっとだけ酸味があるけど甘くて美味しい。
ラフィはそんな俺を見て「気に入ったなら今度生でも食べてみたらいい。ちょっと風味が変わるけどきっと気に入るから」と言って笑った。

他にもお勧めだと言われて食べてみた『クレーシス』がまた絶品だった。
これはクレープの皮に大量の薄切り味付け肉、トマトっぽい野菜、紫キャベツっぽい千切り野菜が包まれたブリトーのような食べ物だ。
クレープの皮はどうやって作ってるのか、すごくパリパリしているのに肉汁がしみてくることがない。
香ばしい皮とちょっと濃いめの照り焼きっぽいソースが絶妙のコラボを醸し出していて、そこに野菜のさっぱり感と少しの酸味が加わってたまらない美味しさだった。
ラフィ曰く、これは屋台の定番らしい。
肉が挟まっているものだけじゃなく、魚を揚げたもの、野菜のみ、デザートっぽい果物が挟まれたものなど種類は色々あるとのこと。
自分好みのものを探す楽しさがあるらしく、店によって味付けも様々だからまた試してみるといいと言われた。




それからお腹も満たされたことだし今度は武器店に入ってみることにした。
やっぱりファンタジーな世界だからか武器店はその辺に結構あって、そんな中でもラフィ一押しと言う店へとやってきた。
外は普通だったけど、中に入ってびっくりする。
所狭しと置かれている武器の数々は整然と並んでいてとても見やすい。
お値段はピンキリだが明瞭表示を心掛けているのか、一目でわかるのがいい。
清潔感もあるし、店内はお客さんのニーズに全力で応えますって感じの誠実さが前面に滲み出ているようで、それだけで好印象を抱いてしまった。
ラフィが気に入るのもよくわかる。
ここなら何も知らない俺にも入りやすいし、武器も見やすいだろう。

そして興味津々で目を輝かせながらあれこれ見ていると、ラフィが短剣のところで何やら見繕い、そのうちの一つを俺へと差し出してきた。

「ユウジ、これ持ってみて」

そう言いながら手に持たされたのは、少し大きめではあるが手にしっくりと馴染む実用的な短剣だった。

「重くないか?」

具合を確かめるようにそう尋ねられるが、特に重すぎず持ちやすい形状の為問題はないと答える。

「そうか」

そして笑顔でそれを回収するとあっさりと店主を呼び、それを購入してしまった。
しかも何やら魔法付与まで頼んでいる。

「雷属性付与で。そうだな…護身用だから相手が気絶するくらいの強さで頼む」

どうやらスタンガン的なものを頼んでくれた様子。

「はい、これ。こっちにいる間のお守りに」

そう言いながら短剣を手渡し、ついでに腰に紐を巻いてそこにセットしてくれる。
使い方まで簡単にレクチャーしてくれてまさに至れり尽くせりだ。
これなら万が一ラフィとはぐれた時に何かあったとしても大丈夫だろう。
ありがとうと素直に礼を言うと、ラフィはさっきのお礼だからと笑ってくれた。
こういうスマートなところは本当に王子様って感じで好感が持てる。
きっと女性にだってモテることだろう。

そして武器店を出て今日はそろそろ戻ろうかと話していると、遠くの方から見知った顔が走ってくるのが見えた。
エレンドスだ。
一体何をしにきたのだろう?
けれどそんな風に思ったのも束の間、ラフィが小さく舌打ちし、『え?』と驚く間もなくいきなり姫抱っこで抱き上げられてそのまま踵を返して走り出された。
まさに掻っ攫うと言ってもいいほどの早業だ。

「ラ、ラフィ?!」

俺は驚いて呼び掛けるけどラフィの足は止まらない。
それにしても重いだろうに男一人を抱えてこんなに早く走れるなんてすごいと思う。
これ、俺が女だったら惚れるんじゃないだろうか?
ノーマルの俺だって心臓バクバク言ってるし。
ラフィって普通にカッコいい王子様だし。
気さくで気が利いて気遣いばっちりで優しくて……。
そんな王子に惚れない方がおかしいだろう。
うん。まさに自慢の友人だ。
だから────顔が熱くなるのは別におかしなことじゃない。
男が男に抱っこされてるのが恥ずかしいだけ……。

そんな風になんだかよくわからない言い訳を自分で自分にしながら、俺はラフィに連れて行かれるままに身を縮こませた。




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