たった五分のお仕事です?

オレンジペコ

文字の大きさ
上 下
6 / 43
Ⅰ.ファースト・コンタクト

5.お仕事初日は問題なし!

しおりを挟む
明日から仕事ということで、俺はパーティーの給仕の仕事を教えてもらっていた。
会場手伝いは当日手伝ってもらうけれど、やはり大事なのは本番!とのことだった。
貴族達がわんさか集まるパーティーなので間違っても招待客達の衣服を汚すようなことがあってはならない、飲み物を必要としていそうな人や話が長時間弾んでいそうな集団にはさり気なく近づいて様子を見る等ポイントを色々と教えられたので忘れないようにしっかりと覚え込む。
これでも記憶力は良い方だからきっと大丈夫だろう。

そして夕飯を使用人の人達と一緒に食べさせてもらって、案内された使用人部屋へと戻る。
ここは一等使用人部屋というところらしく、王族の傍近くに仕える使用人が主に使う部屋とのこと。
王族を不快にさせないよう常に清潔を心掛ける必要がある立場な為、ここにはシャワーが完備されている。
これは非常にありがたい。
のんびり汗を流してゆっくり休めるのは助かるし、これなら五日間を何とか乗り切れそうだ。
改めてラフィにはお礼を言いたいところだ。
ラフィに会えていなかったらきっと今頃庭の片隅で寒さと空腹に震えていただろうから……。

(料理…美味しかったな)

日本での和食洋食ではないが、香草が沢山使われた独特のコクのあるスープ、鶏肉のようなジューシーな肉の香草焼き、コッペパンのような形をしたもっちりした腹持ちの良さそうなナッツ豊富なパン。
他の副菜のようなおかずも全部全部美味しかった。
流石王宮。料理が美味い!
折角ここに来たのだから、できればシェフと仲良くなって料理の一つ二つ覚えて帰れたらいいな~なんてついつい思ってしまう程だ。
まあ食材が手に入らない可能性もあるから、似た料理ってことにはなってしまうとは思うけど…。




そして迎えたパーティー当日。
俺は用意されたお仕着せを着て、盆を片手に様々な飲み物をサーブしていた。

それは見たこともないような煌びやかな世界────。
物凄く広い広間にひしめく人々は皆高価な衣装に身を包み、あちらこちらで歓談を楽しんでいる。
その中を俺は慌てることなく飲み物をさり気なく勧めている状況だ。
ラフィに言われたように足元には十分気をつけながらスルスルと人々の間を抜け、飲み物を必要としている人達に笑顔で応対する。
今のところ特に問題はない。
ちなみに王族の人達が入場するのはもう少し場が温まってからとのことで、俺は気持ちも軽くその場の空気に慣れることに専念していた。
パーティーのイロハを教えてくれたマーシュさんからは、貫禄がある人は大抵上級貴族で服装などからも一目でわかるから絶対に失礼のないようにと言われていて、なんなら初日は近づかなくてもいいとさえ言われている。
一応俺が王子の友人ということで、貴族とのトラブルで王子にまで迷惑が掛かっては大変だからとのことらしい。
それは確かにその通りなので、期間限定バイトである俺はおとなしくしておこうと思った。
なので今のうちに飲み物を供しながら近づかない方がいいであろう人物をリサーチしておく。
これまで数人それらしい人物をチェックしておいたが、これだけ人が多いと流石に全ては把握できそうにない。
やはりその場その場で対処していくのが妥当ということなのだろう。

そうこうしているうちにいよいよ王族の方々が入場することとなった。
これまで流れていた音楽が止み、高らかなファンファーレが鳴り響く。
そんな中、この国の王様、お妃様、第一王子、第二王子、第一王女と順番に入場がなされ、皆が頭を下げたのに習って俺もその場で礼をとった。
このあたりは昨日もちゃんと教えてもらっているので問題はない。
問題は……王女の後ろから入ってきた王族の側近達だ。
その中には例のエレンドスの姿もあった。
どうやら王子の側近というのは嘘ではなかったらしい。
この場で自分に気づかれたらと正直気が気でなかった。
けれど頭を下げていたのと人が多かったのも幸いして、向こうが俺に気づくことはなかった。
そのことにホッとして俺は胸を撫で下ろし仕事へと戻る。
王の挨拶中は給仕達は壁際や出入り口付近に移動しておくのがセオリーらしいので移動移動。
ここでもたもたしては目立って仕方がないのだ。

王の挨拶が終わると王と王妃のファーストダンスがあり、その後は貴族達が次々と彼らに挨拶に赴き、それと共にダンスが始まる。
美しく奏でられる旋律にドレスを翻しながら女性達が軽やかにステップを踏んで男性と楽し気に踊りだす。

俺は踊っていない人々の間を給仕して回るが、他の給仕達は踊り終わった後の人達に積極的に飲み物を渡しているようだ。
確かに動いた後って喉が渇くだろうし、勉強になるなと思いながら見ていた。
まあ踊っていない人達もお喋りに花が咲いていたりするから、飲み物が必要だったりもするんだけど…。

そうしている間にやっと挨拶が終わったのか王族の人達もホールで踊り始めたのが見てとれた。
その中でも王子と王女は当然のことながら年頃の男女に囲まれていてわかりやすい。
ラフィも例外ではなく沢山の令嬢に囲まれていたが、気のせいかどこか鬱陶しそうな顔をしている。
第一王子の方は笑顔であしらっているけれど、ラフィはきっとそういうのが苦手なんだろう。
俺と話す時のラフな感じが一番楽でいいと思っていそうで、なんだかおかしくなった。
王子なのに変わってるなと思えて仕方がない。

そう言えば最初に会った時も上から飛び降りてきたんだっけ。
あれって仕事から逃げるのにわざわざ飛び降りたってことだよな?
なんだか脱走も手慣れている感がある。
きっとあれは常習犯に違いない。
きっとラフィにも側近がいるんだろうけど、側近の人は探すのが大変だろうななんて人ごとのように思った。



しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

陛下の失われしイチモツをみつけた者を妃とする!………え、ヤバいどうしよう!?

ミクリ21
BL
主人公がヤバいことしてしまいました。

僕の穴があるから入りましょう!!

ミクリ21
BL
穴があったら入りたいって言葉から始まる。

婚約破棄をしようとしたら、パパになりました

ミクリ21
BL
婚約破棄をしようとしたら、パパになった話です。

堕とされた悪役令息

SEKISUI
BL
 転生したら恋い焦がれたあの人がいるゲームの世界だった  王子ルートのシナリオを成立させてあの人を確実手に入れる  それまであの人との関係を楽しむ主人公  

今夜のご飯も一緒に食べよう~ある日突然やってきたヒゲの熊男はまさかのスパダリでした~

松本尚生
BL
瞬は失恋して職と住み処を失い、小さなワンルームから弁当屋のバイトに通っている。 ある日瞬が帰ると、「誠~~~!」と背後からヒゲの熊男が襲いかかる。「誠って誰!?」上がりこんだ熊は大量の食材を持っていた。瞬は困り果てながら調理する。瞬が「『誠さん』って恋人?」と尋ねると、彼はふふっと笑って瞬を抱きしめ――。 恋なんてコリゴリの瞬と、正体不明のスパダリ熊男=伸幸のお部屋グルメの顛末。 伸幸の持ちこむ謎の食材と、それらをテキパキとさばいていく瞬のかけ合いもお楽しみください。

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

処理中です...