たった五分のお仕事です?

オレンジペコ

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Ⅰ.ファースト・コンタクト

2.いきなり異世界に呼び出されました。

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その日は土曜で、特に予定のない平凡ないつも通りの休日だった。
いつものように宿題を終わらせて、いつものように家の手伝いをする。
この日も干していた洗濯物を取り込んで畳んで片付けたところで電話が鳴った。
ちょうど夕飯の支度をしていた母さんがはいはいと言いながら出たようだったが、どうやら電話の相手は母さんの友人だったらしい。
そこで俺は鍋を見ていてくれと頼まれたのだ。

優次ゆうじ。五分でいいからお鍋見てて~!」
「はいはい」

今手伝いが終わったばっかりなのにツイてないなとは思ったけど、まあ五分だったらいいかとおとなしくキッチンへと向かう。
俺だって鬼じゃないんだから電話の間、鍋を見てるくらい全然平気だ。
鍋はまだ火をつけたばかり。

(今日はカレーか────)

そう思いながらキッチンへと足を踏み込んだところでいきなり真っ白な光に包まれて、気づけば俺は全く知らない世界へと足を踏み入れていた。

そこにいたのは飄々とした風体の杖を持った青年で、見る限りゲームにでも出てきそうな魔術師、魔導士といった衣装を身に纏っている怪しい人物だった。

「ようこそ異世界のお方!」
「へ?」

しかもそんなことをいきなり言い出したものだからたまらない。
これは所謂異世界召喚とかいう類のものなのではないだろうか?
言ってみれば誘拐、拉致のようなもので、一方通行で帰れないと言うのが小説などでは定石だ。

(そんな…。俺、帰れないってこと?最後にカレー食べたかった…)

そうして悲嘆に暮れるような顔をしていたからだろうか?
その青年はフォローを入れるように言葉を足した。

「お時間は取らせません!あちらでの時間はたったの五分!こちらでの時間は約五日!それが過ぎたらちゃんと帰れますので!」

(ホントかよ?!)

それは朗報だ。
ちゃんと帰れる上にあちらでの経過時間はたった五分!
これは凄い。
この青年は実は見た目以上に優秀な魔術師なのかもしれない。
何の用で呼び出されたのかは知らないが、こちらで五日間過ごすだけで帰れるのなら嬉しいと思った。

「たった五分の簡単なお仕事です!ボランティアと思って気軽にお付き合いください」

そう言って笑顔で胸を叩いた青年が頼もしくて戸惑いもどこかに飛んでいきそうだと思ったところで青年の後ろから一人の官僚っぽい格好をした青年が進み出て俺に笑顔で手を差し出してくる。

「ようこそアレファンドラへ!五日間、宜しくお願い致します」

どうやら彼の元で仕事をすることになりそうだということがこれでよくわかった。
俺はおずおずと手を差し出しその手を握って、宜しくと握手を交わしたのだった。


***


俺を連れてまずは王子にご挨拶をと言ってくれた人は王子の側近の人で、名前をエレンドスと言うらしい。

「あ、俺は優次です。江本えのもと 優次ゆうじ
「宜しくユウジ」

エレンドスは終始にこやかで話しやすい人だ。
年も俺と近くて18才らしい。
こんなに若いのに王子の側近って凄いな。
あ、でも王子も若かったりするのかな?
そう思って尋ねてみると、思った通り17才とのことだった。

「それで、あの…俺は一体何をお手伝いすれば…?」

魔術師の人はボランティアと思って付き合えと言っていたけど、具体的な話はまだ聞いていない。
これが物語とかだと魔王を倒したりドラゴンと戦ったりするんだろうけど…ボランティアというからには多分違うことを求められているんだと思う。
ただそれが何かというと全く予想ができない自分がいた。
もしできない類の物だったら申し訳なさすぎるし、できれば王子に会う前に知っておきたいのだが……。

「え?あ~…お手伝い?お手伝い……しまったな…え~っと…」

何故言い淀むんだろう?
もしかして考えてなかったとか言わないよな?!
え?何?もしかして俺、ただの思い付きで呼び出されたとかいうオチだったりするのか?!
それは流石に嫌すぎる。
でも魔術師の人もエレンドスも歓迎してますって空気だったのに…?
なんだか急に不安になってきた。
俺…このまま付いていって大丈夫なんだろうか?
そんなことを考え始めたら段々足取りが重くなるのは当然で、気づけばエレンドスとの間に距離が開いていた。
暫く歩いてそれに気づいたのか、エレンドスが慌てたように振り返ってくる。

「ユ、ユウジ?!ちょっ…まだ逃げないで!」

何?逃げそうなことを頼む気か?
それならそれで今すぐ逃げるけど?
今の言葉で何となく嫌な予感がし始めたし、ここは逃げるが勝ちなのか?
話しやすい人だと思ったのは罠だったのかもしれない。

ジリッ…と二人の間に緊張感が走る。

「ユウジ!大丈夫!怖くないよ!ちょっとおバカな王子と会うだけの簡単なお仕事だから…ね?」

おバカな王子って言った?!
え?何?もしかしてこのままどこかの部屋に連れていかれて手籠めにされちゃう系だったりするのか?!
異世界の変わり種をちょこっと味見したい的な??
考えすぎ?でもじりじり近づいてくるエレンドスが怖い!
手をワキワキしながらちょっと焦ったような顔で黙ってついてこい的な顔をされたら、嫌でも最悪の状況を連想させる。
そんなの嫌だ────!

気づけば俺はパッと踵を返して思い切りダッシュして逃げていた。
エレンドスが慌てたように何か言ってるが、そんなの関係ない!
兎に角逃げる!
変態(仮)王子から逃げきってみせる!
いや、あの分だと襲うのはエレンドスの方かもしれない!
もう信用度ゼロ!

どうしてこうなったんだと泣きそうな気持ちで兎に角人を避けながら俺は外へと飛び出したのだった。



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