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【番外編】
5.未来の話 Side.エターナル
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※リクエスト第五弾。未来の子供世代のお話。
ブラウンの娘視点でお送りします。
きっと王家の血は呪われているに違いない。
****************
私の名はエターナル。
この国の国王ダレス様の姪っ子であり、王弟ブラウンの長女ですわ。
現在公爵家の地位にあるお父様が私と弟を呼び出したのは私が学園に入った15歳の頃。
それによると現在の王であるダレス様は王配であるノルディック様との間に当然ながら子はいないので、私たち二人の内のどちらかが将来的に王になるというお話でした。
けれどそんなこと、今更言われなくても当然私は知っておりました。
父から話を聞いたのは今回初めてのことですが、幼い頃から周囲の者達から散々聞かされてきたことですもの。
だからこそ自分を律して生きてきましたし、婚約者選びにも苦慮しました。
幸い隣国の第一王子と縁があり、婚約を結ぶことができたのでとても良かったと思っております。
私の婚約者は私より3つほど年上のお方で、第一王子という立場ではあるものの正妃様のお子ではなく、御寵姫である第二側妃様から生まれたお子でした。
正妃様は公爵家、第一側妃様は侯爵家のご出身。それに比べて第二側妃様は男爵家のご出身。
寵姫とは言え肩身は狭かったようです。
そして正妃様のお子である第二王子よりも際立って優秀だったため、正妃様と第一側妃様からは目の敵にされ、それに気づいてからは極力能力を隠しながら生きてこられた方なのです。
命の危機に晒されるのを回避するため、王位継承権も早々に辞退されたというお話でした。
そんな彼と昨年とある国のパーティーで出会う機会があり、色々話している間にとても話が合うことがわかり、婚約に至った次第です。
彼としても自国に留まるより他国に出た方が安全であるとのことで、婿に来ることは早々に決まり、今は我が国の文化や言葉を熱心に学んでくださっているところです。
穏やかで聡明な彼であればもし王配となっても共に上手く国を支えて行ってくださるでしょうし、仮に弟が王になって私が公爵位を継ぐことになっても公爵家を隣で支えてくれることでしょう。
金銭感覚も政治的考え方も何一つ問題のないお方です。
まあそんな心強い婚約者がいるということは横に置いておいて、どうして今、このタイミングでお父様が私達にお話をしてきたのかということですわ。
どういった狙いがあるのでしょうか?
そう思って口を開こうと思ったところで、横から弟の明るい声が耳に飛び込んでまいりました。
「父上!任せておいて!俺が立派な王様になるから!」
困ったことに弟のチェスナットが満面の笑みで自信満々に言い放ってしまいます。
まだチェスナットが王になるとは限らないのに…。
案の定お父様がチェスナットに注意をします。
「チェシー?まだ君が王になるとは決まってないよ。ナルだっているんだし、迂闊なことを言うものじゃない」
お父様はちゃんと私のことも考慮に入れてくださっている。
それが私にはとても嬉しく思えました。
けれどチェスナットはそんな言葉はどこ吹く風と言った感じで聞き流してしまいます。
「でも王は男がなるものだし、姉上より俺の方が順序は上のはずです」
そんな見当違いのことを言って弟はさっさと自室に戻ってしまいました。
流石にこれには父もお手上げのようです。
「すまないな、ナル」
「いいえ。恐らく教育係から何か吹き込まれてしまったのでしょう」
「はぁ…困ったものだ」
この国では『王となるには王太子の仕事をしっかりとこなし王太子として周囲から認められなければならない』と法できちんと定められております。
そして王太子の仕事がこなせるのであればそれは男でも女でも構わないのです。
現に昔女王の時代もありましたし、王配の制度もその際にしっかりと整えられており、現在のダレス様の王配ノルディック様もそれに基づき仕事をこなされております。
正直王配と宰相の仕事を両方熟されているというのは凄いことだと思います。
どれだけ素晴らしい才覚をお持ちであるかがそれだけでよくわかりますし、尊敬に値するお方だと思っております。
愛妻家としても有名で、王であるダレス様をとても愛していらっしゃると専らの噂です。
民や臣下の間ではお二人の馴れ初め話が恋愛本として広まっておりますのよ。
まあ…年頃になってからこっそり読まれる類のものではあるのですけれど。
私も14才になった頃に友人から勧められこっそりドキドキしながら読んだものです。
なかなか刺激的で楽しかったのですが、途中でお父様に見つかって「ナルが穢れるから!」と取り上げられてしまった時はどうしようかと…。
周囲で流行っていたのに酷いですわ。
当時は仲間外れになったら困るのでその後は友人の家で少しずつ読ませて頂きました。
あら、また脱線してしまいましたわね。
何はともあれ、弟が確実に王になるなどと言う保証はどこにもありませんのに、あんな風に言い切るなんて先が思いやられますわ。
婚約者も決めようとしませんし、それだけではなく『俺は父上と母上のように運命の恋がしたいから、好きな人と結婚する!』と言って聞きません。
そう言われてしまえば両親が何も言えなくなるのを知っていて言うのですから、本当に困った子です。
お父様も暫くは注意して見ておくとは言ってくださったけれど、私達二人には無条件で甘くなってしまう人なのでどうなることやら。
お母様を愛しすぎるあまりお母様から産まれた私達まで溺愛しすぎなのですわ。
いざとなったらお母様に叱って頂かなければ…。
そう思いながら日々を過ごし、あっという間に月日は過ぎ去りました。
そして私が卒業を迎える18才の現在。
困った事態が起こってしまいました。
「次期王妃である俺の婚約者シフォンを虐め、あろうことか悪漢に襲わせようとした罪は許しがたい。よって姉上を卒業と共に国外追放とさせてもらう!」
国王陛下夫妻や両親、私の婚約者も参加している城で行われた卒業記念パーティーの場で、弟がやらかしてしまいました。
折角私の卒業を記念してダレス様が気を利かせて開いてくださったパーティーでしたのに、本当に何ということをしでかしてくれたのでしょう?
皆様目を点にして驚いてしまっているではありませんか。
因みに私は何もしておりませんわ。
だって弟の婚約者であるシフォン伯爵令嬢とは学年が違うのでそもそも校舎は別です。
わざわざそちらに行って虐めるなどあり得ないことです。
それに悪漢に襲わせるというのもよくわかりません。
何故私がそんな事をしなければならないのでしょう?
意味不明です。
でも弟は彼女を信じ切っているかのように私を悪役と決めつけている様子。
非常に困りましたわ。
そう思っていると、ここで私の婚約者であるマリオン様が助けに来てくださいました。
「チェスナット殿。公爵家令息である貴方にその権利がないことくらいご承知でしょう?」
「何を言う!俺は次期王だぞ!そして彼女は次期王妃だ!それくらいの権利はある!」
この言葉に周囲は『あいたたた』みたいな顔をしております。
過去に起こった王太子事件を髣髴とさせるこのセリフは流石に頂けません。
弟はきちんと歴史を学んだのでしょうか?
心配になってしまいます。
そしてここで国王であるダレス様が声を上げられました。
「こら、クリクリ坊主!折角のパーティーを台無しにするとは何事だ!そう言うセリフはきちんと歴史を学んでから言え!」
(ブフッ!)
隣でノルディック様が大ウケされておられますわ。
まあ確かに私もその第一声には笑いそうになってしまいましたし、真剣に私を庇ってくださっていたマリオン様も笑いをこらえるように肩を震わせておりますけれど…。
おかしいですわね。後半は真面なことを言ってくださっていたと思うのですが、第一声で和んでしまって全く頭に入ってきませんでしたわ。
流石ダレス様。場を和ませる力はピカ一ですのね。
和んでいないのは言われた張本人くらいのものでしょうか?
「なっ?!伯父上?!いくらなんでもクリクリ坊主は酷いですよ?!」
何やらとても憤慨しております。
「何を言ってるんだ。栗色の髪のお子様だから間違ってはいない!そんな事より歴史をちゃんと学んでいない自分を恥じるべきだ!」
「歴史?」
「そうだ。この国では王太子にならないと王にはなれないし、第一王子でもないのに次期王なんて軽々しく言ってもいけない。それくらい知ってて当然だ」
「で、でも父上から聞きました!次期王は我が家からと!」
「それは間違っていない」
「ならっ!」
「一番の候補者はそこにいるエターナルだ」
「何故です?!姉上は女性ですし、俺の婚約者を虐めるような性悪なんですよ?!それに婚約者は他国の第一王子でしょう?!国外追放したって向こうで結婚したらいいだけの話ですし、別にいいじゃありませんか!」
本当に何を言ってしまっているんでしょうね?この弟は。
脳内お花畑とはこういうものかと重い溜め息がつい口からこぼれてしまいました。
「残念だけど、現時点で既に彼女の方が優位かな。エターナルは思慮深く婚約者を選定し、しっかりと学を修め、卒業後の王太子教育に臨む覚悟も決まっている素晴らしい女性だ。虐めなんて低脳なことをするとはとても思えない。確たる証拠でもあれば別だが……なさそうだな。自分が如何に愚かな行為をしたのかさえ理解していない君が王太子になれるはずがない。顔を洗って出直してくることだ」
(し、辛辣ですわ)
笑いをおさめたノルディック様がチェスナットに向かってきっぱりと言い切ります。
その隣でダレス様が『ノル、カッコいい…』と言っている姿がちょっと微笑ましいです。
「そんな!そんなの嘘です!」
「嘘でも何でもない。事実だ」
信じられないという顔で食い下がる弟には可哀想ですが、本当にそれが事実なのだから仕方ありません。
なのにここで場違いな発言をする者がもう一人。
「えぇ?!チェシーが次期王でしょう?!何言っちゃってんの?!」
言葉を発したのは弟の婚約者であるシフォン伯爵令嬢です。
なんだか言葉が乱れすぎですわね。
一体どうしたのでしょう?
「こんなのゲームと違うじゃないの。折角王妃になれると思って頑張って落としたのに台無しだわ!」
なんだか不穏なことを仰っていますわね。
気でも触れたのでしょうか?
でもそんな彼女にダレス様がこう仰いました。
「シフォン嬢だったか?残念だがこの国は転生者が過去に色々やらかした関係で法整備がしっかりなされている。ゲームの強制力などに無駄な期待はせず、地に足をつけて現実を知ることだ」
その言葉にシフォン伯爵令嬢が驚愕の顔をダレス様へと向けます。
「なっ?!も、もしかして貴方っ!」
その『転生者』や『ゲーム』?というのはよくわかりませんが、どうも彼女とダレス様には通じる『何か』なご様子。
「それならそうと早く言ってくれないと困るじゃない!それならこんな男じゃなく、最初から国王狙いにしたのに!今からでも同胞のよしみで娶ってよ!いいでしょう?!」
悔しそうに地団太を踏むシフォン伯爵令嬢にその場の皆はきっと心の中で同じことを考えたと思います。
『あ…終わったな』と。
彼女はダレス様に色目を使う輩がどうなるか知らなかったのでしょうか?
割と有名な話なのですが…。
案の定彼女はノルディック様の指示で不敬罪としてあっという間に兵に連行されてしまい、牢屋行きになってしまいました。
まあ国王陛下であるダレス様にあんな口を利いてしまったのですし、当然と言えば当然ですね。
不敬極まりありませんし、ノルディック様が怒るのも仕方がありません。
チェスナットも彼女から『こんな男』扱いされて目が覚めたらしく、頭を丸めて一から勉強し直すと言い、心を入れ替えてくれました。
その後本当に坊主頭になってしまったせいでノルディック様のツボに入ってしまい、お咎めなしとなったのはある意味良かったのかもしれません。
でもお父様からはこっぴどく叱られたそうですわ。
『あの悪魔を怒らせてお咎めなしなんて後で何されるかわかったもんじゃないだろ?!絶対嫌がらせされる!』とかなんとか仰ってましたが、一体何のことなのか…。
きっとお父様にしかわからない何かがあるのでしょう。
何はともあれ私は無事に卒業を迎えることができ、王太子の仕事をし始めたところです。
隣には婚約者であるマリオン様。
彼はノルディック様にもすぐに気に入られ、王配の仕事も今から色々教えてもらっているようです。
ノルディック様への尊敬を高めながらダレス様から可愛らしい癒しをもらい、マリオン様から愛を受け取る日々を送る。
そんな穏やかで充実した日々に感謝を────。
吹き抜ける風を頬に感じながら、お二方が築くこの平和な国をもっと良くしていきたいなと私はそっと微笑んだ。
ブラウンの娘視点でお送りします。
きっと王家の血は呪われているに違いない。
****************
私の名はエターナル。
この国の国王ダレス様の姪っ子であり、王弟ブラウンの長女ですわ。
現在公爵家の地位にあるお父様が私と弟を呼び出したのは私が学園に入った15歳の頃。
それによると現在の王であるダレス様は王配であるノルディック様との間に当然ながら子はいないので、私たち二人の内のどちらかが将来的に王になるというお話でした。
けれどそんなこと、今更言われなくても当然私は知っておりました。
父から話を聞いたのは今回初めてのことですが、幼い頃から周囲の者達から散々聞かされてきたことですもの。
だからこそ自分を律して生きてきましたし、婚約者選びにも苦慮しました。
幸い隣国の第一王子と縁があり、婚約を結ぶことができたのでとても良かったと思っております。
私の婚約者は私より3つほど年上のお方で、第一王子という立場ではあるものの正妃様のお子ではなく、御寵姫である第二側妃様から生まれたお子でした。
正妃様は公爵家、第一側妃様は侯爵家のご出身。それに比べて第二側妃様は男爵家のご出身。
寵姫とは言え肩身は狭かったようです。
そして正妃様のお子である第二王子よりも際立って優秀だったため、正妃様と第一側妃様からは目の敵にされ、それに気づいてからは極力能力を隠しながら生きてこられた方なのです。
命の危機に晒されるのを回避するため、王位継承権も早々に辞退されたというお話でした。
そんな彼と昨年とある国のパーティーで出会う機会があり、色々話している間にとても話が合うことがわかり、婚約に至った次第です。
彼としても自国に留まるより他国に出た方が安全であるとのことで、婿に来ることは早々に決まり、今は我が国の文化や言葉を熱心に学んでくださっているところです。
穏やかで聡明な彼であればもし王配となっても共に上手く国を支えて行ってくださるでしょうし、仮に弟が王になって私が公爵位を継ぐことになっても公爵家を隣で支えてくれることでしょう。
金銭感覚も政治的考え方も何一つ問題のないお方です。
まあそんな心強い婚約者がいるということは横に置いておいて、どうして今、このタイミングでお父様が私達にお話をしてきたのかということですわ。
どういった狙いがあるのでしょうか?
そう思って口を開こうと思ったところで、横から弟の明るい声が耳に飛び込んでまいりました。
「父上!任せておいて!俺が立派な王様になるから!」
困ったことに弟のチェスナットが満面の笑みで自信満々に言い放ってしまいます。
まだチェスナットが王になるとは限らないのに…。
案の定お父様がチェスナットに注意をします。
「チェシー?まだ君が王になるとは決まってないよ。ナルだっているんだし、迂闊なことを言うものじゃない」
お父様はちゃんと私のことも考慮に入れてくださっている。
それが私にはとても嬉しく思えました。
けれどチェスナットはそんな言葉はどこ吹く風と言った感じで聞き流してしまいます。
「でも王は男がなるものだし、姉上より俺の方が順序は上のはずです」
そんな見当違いのことを言って弟はさっさと自室に戻ってしまいました。
流石にこれには父もお手上げのようです。
「すまないな、ナル」
「いいえ。恐らく教育係から何か吹き込まれてしまったのでしょう」
「はぁ…困ったものだ」
この国では『王となるには王太子の仕事をしっかりとこなし王太子として周囲から認められなければならない』と法できちんと定められております。
そして王太子の仕事がこなせるのであればそれは男でも女でも構わないのです。
現に昔女王の時代もありましたし、王配の制度もその際にしっかりと整えられており、現在のダレス様の王配ノルディック様もそれに基づき仕事をこなされております。
正直王配と宰相の仕事を両方熟されているというのは凄いことだと思います。
どれだけ素晴らしい才覚をお持ちであるかがそれだけでよくわかりますし、尊敬に値するお方だと思っております。
愛妻家としても有名で、王であるダレス様をとても愛していらっしゃると専らの噂です。
民や臣下の間ではお二人の馴れ初め話が恋愛本として広まっておりますのよ。
まあ…年頃になってからこっそり読まれる類のものではあるのですけれど。
私も14才になった頃に友人から勧められこっそりドキドキしながら読んだものです。
なかなか刺激的で楽しかったのですが、途中でお父様に見つかって「ナルが穢れるから!」と取り上げられてしまった時はどうしようかと…。
周囲で流行っていたのに酷いですわ。
当時は仲間外れになったら困るのでその後は友人の家で少しずつ読ませて頂きました。
あら、また脱線してしまいましたわね。
何はともあれ、弟が確実に王になるなどと言う保証はどこにもありませんのに、あんな風に言い切るなんて先が思いやられますわ。
婚約者も決めようとしませんし、それだけではなく『俺は父上と母上のように運命の恋がしたいから、好きな人と結婚する!』と言って聞きません。
そう言われてしまえば両親が何も言えなくなるのを知っていて言うのですから、本当に困った子です。
お父様も暫くは注意して見ておくとは言ってくださったけれど、私達二人には無条件で甘くなってしまう人なのでどうなることやら。
お母様を愛しすぎるあまりお母様から産まれた私達まで溺愛しすぎなのですわ。
いざとなったらお母様に叱って頂かなければ…。
そう思いながら日々を過ごし、あっという間に月日は過ぎ去りました。
そして私が卒業を迎える18才の現在。
困った事態が起こってしまいました。
「次期王妃である俺の婚約者シフォンを虐め、あろうことか悪漢に襲わせようとした罪は許しがたい。よって姉上を卒業と共に国外追放とさせてもらう!」
国王陛下夫妻や両親、私の婚約者も参加している城で行われた卒業記念パーティーの場で、弟がやらかしてしまいました。
折角私の卒業を記念してダレス様が気を利かせて開いてくださったパーティーでしたのに、本当に何ということをしでかしてくれたのでしょう?
皆様目を点にして驚いてしまっているではありませんか。
因みに私は何もしておりませんわ。
だって弟の婚約者であるシフォン伯爵令嬢とは学年が違うのでそもそも校舎は別です。
わざわざそちらに行って虐めるなどあり得ないことです。
それに悪漢に襲わせるというのもよくわかりません。
何故私がそんな事をしなければならないのでしょう?
意味不明です。
でも弟は彼女を信じ切っているかのように私を悪役と決めつけている様子。
非常に困りましたわ。
そう思っていると、ここで私の婚約者であるマリオン様が助けに来てくださいました。
「チェスナット殿。公爵家令息である貴方にその権利がないことくらいご承知でしょう?」
「何を言う!俺は次期王だぞ!そして彼女は次期王妃だ!それくらいの権利はある!」
この言葉に周囲は『あいたたた』みたいな顔をしております。
過去に起こった王太子事件を髣髴とさせるこのセリフは流石に頂けません。
弟はきちんと歴史を学んだのでしょうか?
心配になってしまいます。
そしてここで国王であるダレス様が声を上げられました。
「こら、クリクリ坊主!折角のパーティーを台無しにするとは何事だ!そう言うセリフはきちんと歴史を学んでから言え!」
(ブフッ!)
隣でノルディック様が大ウケされておられますわ。
まあ確かに私もその第一声には笑いそうになってしまいましたし、真剣に私を庇ってくださっていたマリオン様も笑いをこらえるように肩を震わせておりますけれど…。
おかしいですわね。後半は真面なことを言ってくださっていたと思うのですが、第一声で和んでしまって全く頭に入ってきませんでしたわ。
流石ダレス様。場を和ませる力はピカ一ですのね。
和んでいないのは言われた張本人くらいのものでしょうか?
「なっ?!伯父上?!いくらなんでもクリクリ坊主は酷いですよ?!」
何やらとても憤慨しております。
「何を言ってるんだ。栗色の髪のお子様だから間違ってはいない!そんな事より歴史をちゃんと学んでいない自分を恥じるべきだ!」
「歴史?」
「そうだ。この国では王太子にならないと王にはなれないし、第一王子でもないのに次期王なんて軽々しく言ってもいけない。それくらい知ってて当然だ」
「で、でも父上から聞きました!次期王は我が家からと!」
「それは間違っていない」
「ならっ!」
「一番の候補者はそこにいるエターナルだ」
「何故です?!姉上は女性ですし、俺の婚約者を虐めるような性悪なんですよ?!それに婚約者は他国の第一王子でしょう?!国外追放したって向こうで結婚したらいいだけの話ですし、別にいいじゃありませんか!」
本当に何を言ってしまっているんでしょうね?この弟は。
脳内お花畑とはこういうものかと重い溜め息がつい口からこぼれてしまいました。
「残念だけど、現時点で既に彼女の方が優位かな。エターナルは思慮深く婚約者を選定し、しっかりと学を修め、卒業後の王太子教育に臨む覚悟も決まっている素晴らしい女性だ。虐めなんて低脳なことをするとはとても思えない。確たる証拠でもあれば別だが……なさそうだな。自分が如何に愚かな行為をしたのかさえ理解していない君が王太子になれるはずがない。顔を洗って出直してくることだ」
(し、辛辣ですわ)
笑いをおさめたノルディック様がチェスナットに向かってきっぱりと言い切ります。
その隣でダレス様が『ノル、カッコいい…』と言っている姿がちょっと微笑ましいです。
「そんな!そんなの嘘です!」
「嘘でも何でもない。事実だ」
信じられないという顔で食い下がる弟には可哀想ですが、本当にそれが事実なのだから仕方ありません。
なのにここで場違いな発言をする者がもう一人。
「えぇ?!チェシーが次期王でしょう?!何言っちゃってんの?!」
言葉を発したのは弟の婚約者であるシフォン伯爵令嬢です。
なんだか言葉が乱れすぎですわね。
一体どうしたのでしょう?
「こんなのゲームと違うじゃないの。折角王妃になれると思って頑張って落としたのに台無しだわ!」
なんだか不穏なことを仰っていますわね。
気でも触れたのでしょうか?
でもそんな彼女にダレス様がこう仰いました。
「シフォン嬢だったか?残念だがこの国は転生者が過去に色々やらかした関係で法整備がしっかりなされている。ゲームの強制力などに無駄な期待はせず、地に足をつけて現実を知ることだ」
その言葉にシフォン伯爵令嬢が驚愕の顔をダレス様へと向けます。
「なっ?!も、もしかして貴方っ!」
その『転生者』や『ゲーム』?というのはよくわかりませんが、どうも彼女とダレス様には通じる『何か』なご様子。
「それならそうと早く言ってくれないと困るじゃない!それならこんな男じゃなく、最初から国王狙いにしたのに!今からでも同胞のよしみで娶ってよ!いいでしょう?!」
悔しそうに地団太を踏むシフォン伯爵令嬢にその場の皆はきっと心の中で同じことを考えたと思います。
『あ…終わったな』と。
彼女はダレス様に色目を使う輩がどうなるか知らなかったのでしょうか?
割と有名な話なのですが…。
案の定彼女はノルディック様の指示で不敬罪としてあっという間に兵に連行されてしまい、牢屋行きになってしまいました。
まあ国王陛下であるダレス様にあんな口を利いてしまったのですし、当然と言えば当然ですね。
不敬極まりありませんし、ノルディック様が怒るのも仕方がありません。
チェスナットも彼女から『こんな男』扱いされて目が覚めたらしく、頭を丸めて一から勉強し直すと言い、心を入れ替えてくれました。
その後本当に坊主頭になってしまったせいでノルディック様のツボに入ってしまい、お咎めなしとなったのはある意味良かったのかもしれません。
でもお父様からはこっぴどく叱られたそうですわ。
『あの悪魔を怒らせてお咎めなしなんて後で何されるかわかったもんじゃないだろ?!絶対嫌がらせされる!』とかなんとか仰ってましたが、一体何のことなのか…。
きっとお父様にしかわからない何かがあるのでしょう。
何はともあれ私は無事に卒業を迎えることができ、王太子の仕事をし始めたところです。
隣には婚約者であるマリオン様。
彼はノルディック様にもすぐに気に入られ、王配の仕事も今から色々教えてもらっているようです。
ノルディック様への尊敬を高めながらダレス様から可愛らしい癒しをもらい、マリオン様から愛を受け取る日々を送る。
そんな穏やかで充実した日々に感謝を────。
吹き抜ける風を頬に感じながら、お二方が築くこの平和な国をもっと良くしていきたいなと私はそっと微笑んだ。
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