【完結】攻略対象×攻略対象はありですか?

オレンジペコ

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【ダレス視点】

6.エピローグ

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乙女ゲームの中でのノルの立ち位置は腹黒な宰相の息子といったもの。
攻略対象の中でもダントツに頭がよく、根回し上手であの手この手で味方を作り悪役令嬢の悪事を暴いていくキャラだった。
あたりは柔らかいが実は敵に回すと怖いタイプでもある。
でもそれは悪役令嬢にとっての話。
第一王子である俺と彼の関係はゲーム内でも悪くはなかった。
ヒロインを通じ仲良くなって将来に向けて円満な関係を築いていく、そんな相手だ。
だから俺は全く警戒する必要がなかったし、相性が悪くないのだって知っていた。
ただ友情を育むべきところだったのが、何故か愛情を育むことになってしまっただけの話で……。

(そもそも攻略対象と攻略対象でくっつくのってあり…なのか?)

「問題ない…よな?」

だから冷静になった途端そんな言葉が口から滑り出たんだけど、それを聞いたノルが不思議そうに何がと聞いてきた。

「俺とノルがくっつくこと」

そんな俺にノルが『大丈夫だって言っただろう?』と笑って言ってきてくれたけど、でもやっぱり不安は不安だ。
ヒロインと第一王子がくっついた時のエンディングは結婚式で幸せそうに微笑み合う俺とヒロインのスチルが流れていて、その周囲で他の攻略対象達が笑顔で祝福してくれていたと思う。
その後二人で国を背負って云々エピローグが流れてたけど、そもそも俺とノルの二人でちゃんと皆から祝福されるんだろうか?
ついそんな考えに囚われてしまう。
だからこそ余計に次の王は俺じゃなくて弟の方がいいんじゃないかなとどうしても思えてしまって…。

「ノル…俺やっぱり…」
「何が不安?ちゃんと話して一緒に解決しよう?」
「ノル…」

ノルは優しい。
ちゃんと俺の不安を聞いてくれる。
だから俺は正直にノルに言ってみたんだ。
後継が産まれないなら王に相応しくないって言う貴族だって沢山いるだろうということ、それなら最初から放棄しておいた方が余計なトラブルにならないはずだということ、そもそも跡継ぎ問題があるから両親や弟だって祝福してくれるはずがないということ等々。
そんなことをノルは全部黙って一通り聞いた上で、それならブラウン殿下の意見も聞いてみればいいと言われ、弟のところに連れていかれた。




弟のブラウンは実は隠しキャラで、ヒロインが弟を攻略すると最後に下剋上のようなイベントが発生し、その場合自動的に俺は廃嫡平民落ちルートを辿ることになる。

悪い奴じゃないんだけど、ここがゲーム世界に酷似していることから急に何らかの強制力が発揮されてイベントが発生してもおかしくはないかなと思った。
良くも悪くも俺は結局ゲームに囚われているのかもしれない。
卒業式は終わったと言うのに、小心者過ぎる。
だからまあ、ノルが同席してくれるのは心強く、ありがたくはあった。
取り敢えずブラウンにこれまでの経緯を話し、なんとか二人の仲を応援してもらえる方向にもっていけたら嬉しいんだけど…。
そんな気持ちでやってきたのに────。

「で、見た限り無事に仲直りはできた…と」
「そうなるな」

どうやらブラウンは俺達の仲を既に知っていたらしく、びっくりしてしまった。
必死に隠してた俺って一体…。

「今更ですけど、兄上。本当にこの男でいいんですか?」
「え?」
「だって外面は良くても内面真っ黒の腹黒ですよ?」

しかもブラウンはそんな風に俺の心配までしてくれる。
意外と優しい。
ま、その心配は杞憂なんだけど。

「大丈夫、大丈夫。ノルは確かに策略家なところはあるけど、頭の回転が速くて会話上手でカッコいいじゃないか。しかもいつだってスマートに俺をフォローしてくれて優しいし、文句なんてあるわけない。寧ろ相手は本当に俺でいいのかって聞いてやりたいくらいなんだぞ?」

それくらい知ってるし、分かった上で好きなんだとノルの良いところをアピールしてみる。
これくらい言っておけば安心してくれるかな?

「優しい…ねぇ。まあ兄上のその大らかなところは良いところだと思いますよ。ええ」

そんな俺の思いが通じたのか、あっさりとブラウンは納得してくれた。
なんだか話しやすいいい空気が流れている気がする。
これなら言いやすいかもと、本来の目的だった話を切り出してみることに。

「ありがとう。それで、ノルは俺が王位継承権返上なんてしなくていいって言ってくれるんだけど、ブラウンはどう思う?やっぱり後継も生まれないから辞退した方がいいと俺は思うんだけどな」

返上して正解だよな?
そう思ったのに…。

「あ~そのことですけど、俺が結婚してから何人か子供作るし、後継はそこから選んだらどうでしょう?」
「え?」

意外なことにそんな提案をされてしまう。

「やっぱり次期宰相とは相性が良い方がいいと思うし、断然兄上が王になった方がいいと俺は思います」
「でも…」
「いや、本当に。何なら俺が継承権を放棄してきますし、本当、気にしないでください!」

どうやら弟は王位に興味がないらしい。
本当かな?
ゲームでは割と王様業ができるなら是非やりたいって感じの性格だったはずなんだけど。

「そこまで言ってくれるなら…うん。頑張ろうかな」
「ええ。応援してるので」
「ありがとう」

まあここまで言ってくれるのなら大丈夫か?
なんだか腑に落ちないけど、これでよしとしよう。
そう思いながら俺はふわりと笑った。




その後ノルはブラウンと話があるとかで先に部屋に戻っていてくれと言ってきた。
すぐに済むとは言ってたけど、なんだか心配だ。
二人に限って浮気はないと思うけど…。

(ノルはカッコいいからなぁ…)

でもプロポーズされたのは確かだし、別れなくて済んだのだから信じようとも思った。

その後部屋に戻る途中カトリーヌを連れた公爵夫妻と会って平身低頭謝られてしまったのだが、詳しく聞くと彼女は卒業式から帰って早々満面の笑みでこう言ったらしい。

『お父様!お母様!私、今日はっきりきっぱりダレス殿下に婚約破棄を突きつけてきましたわ!彼の不貞は明らかなので我が家に不利益も生じません!ご安心なさって!』

それを聞いて公爵は激怒。
俺との婚約はとっくに解消されて今の彼女の婚約者は侯爵家の次男で婿養子に来てくれる予定なのに、なんてことをしてくれたんだと慌てて引きずるように謝罪に連れてきたとのこと。

「本当に殿下には大変申し訳なく…」
「いや。俺も驚きはしたけど気にしてないので」
「ですが散々世話になったにもかかわらずこんなことになり、ノルディック殿にも申し訳がなく…」

どうやらノルはカトリーヌの新しい婚約者選びにも手を尽くしてくれたらしい。
確かにそう言った意味では公爵がすっ飛んで謝ってきたのも当然と言えば当然だろう。

「お父様、どうして殿下に謝るのです?!不貞を働いたのは殿下の方なのですよ?!」
「不貞不貞と言うが、殿下はノルディック殿と婚約関係にある。あれだけ熱心に説得してきたノルディック殿が相手なんだぞ?二人の仲が良好でも全くおかしくはない。お前の方こそ何度も婚約解消の話をしようとした私達の話も聞かず、挙句にこのような不始末を起こすなど…最低にも程がある!一から厳しく淑女教育をやり直せ!この恥さらしが!」
「ええっ?!そんな…ヒロインのカナリア嬢とは…?」

どうやら彼女はやはり転生者だったっぽい。

「カナリア伯爵令嬢には俺は嫌われてるみたいで、一度も話したことはないよ?」

だから正直にそう話したんだけど、それを聞くや否や絶望的な顔になって、そんなと言いながらブツブツと何やら言っていた。
今更ブツブツ墓穴を掘ったとか言うくらいなら、逃げ回らずに俺やご両親とちゃんと話していればよかったのに…。
そうすれば自由恋愛の道だってなくはなかったんじゃと思えて仕方がない。

(まあ既にノルが全部手回し済みっぽいし、今更言ってももう遅いんだろうけど)

「ダレス殿下。どうぞノルディック殿とお幸せに」
「ありがとう」

そう言って笑って踵を返した俺の背に、『ヒロインじゃなく攻略対象者同士でくっつくなんて反則よ!』とかなんとか恨めし気に言われたけど、そんなこと言ったって先に会ってくれなくなったのはそっちだし、ノルとはその後でお互い好きになったんだからしょうがないじゃないか。

(うん。あの日、ノルと出会えたのはある意味運命だったな)

ゲームはあくまでもゲームだ。
ここはちゃんと現実で、未来はまだまだ続いて行くのだから、そうやって自分で運命を引き寄せたと考えるのも悪くはない。
そうして俺は前を向いて笑顔でノルのことを想ったのだった。


****************

※ちなみに悪役令嬢は自爆しましたが、ヒロインの方はサポートキャラとほのぼの仲良くなってくっついてる設定。
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