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【ノルディック視点】
1.出会い
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その王子のことはずっと前から知っていた。
それはそうだ。将来自分が仕えるだろう人なんだから。
でも話したことは一度もなかった。
彼は学園での人気者で、常に誰かに囲まれていたから用もないのに近づく機会なんてあるはずがなかったのだ。
だから『まあそのうち顔合わせくらいはあるだろう』程度に軽く考えていたんだけど…。
(なんでこんな場所に一人でいるんだ?)
人けのないベンチで何故か打ちひしがれたように肩を落として沈み込んでいるその人に出会ってしまった。
勿論無視したって良かったんだけど、何となく気になって声を掛けてみることにした。
「ダレス王子」
「……ノルディックか」
意外なことに向こうは俺の顔を知っていてくれたらしい。
接点なんてなかったのにと正直驚いてしまった。
「どうかされましたか?酷く打ちひしがれているような…」
「俺は今、人生の岐路に立っているんだ。放っておいてくれ」
「人生の岐路?」
「ああ」
いいから行けと言って追い払うような仕草をされたが、俺はこの『人生の岐路』というのが非常に気になった。
こんなに落ち込んでいるからにはきっととても深刻な内容に違いない。
王子の悩みに好奇心を膨らませ、本音を綺麗に隠して笑顔で話すよう促してみる。
「将来の王と宰相候補なんですから気軽に話してみてください。いい機会ですし、場合によっては力になりますよ?」
その言葉に王子は絆されたのか、意外なほどあっさり口を割ってくれたのだが────。
「つまり、学生のうちに火遊びをしようとして失敗して、それなら婚約者を大事にしようと心を入れ替えたけど、そっちも失敗して落ち込んでいたと…?」
「そうだ」
真剣な顔で『人生の岐路』を話してくれたけど、俺にとったらただの笑い話でしかなかった。
要するに女性に袖にされたというだけの話じゃないかと。
まあ『ここだけの話』と言われたから誰にも言う気はないけど…。
そう思ったところでちょっと揶揄ってみたい気持ちになって、俺はいたずら心でこんな提案をしてみた。
「なるほど。わかりました。それなら俺と一緒に火遊びシュミレーションでもしてみませんか?」
要するに模擬的に火遊びをやってみないかというお誘いだ。
揶揄ったと憤るだろうか?
それとも慰めはいらないと困ったように笑うだろうか?
反応的に多分どちらかが返ってくるだろうと思ったんだ。
それなのに────。
「いいのか?!」
返ってきたのは『やったぁ!』と言わんばかりの満面の笑み。
まるで飛びつかんばかりの喜びように驚き過ぎて、思わずマジマジと凝視してしまったじゃないか。
この人はこんなに無邪気で大丈夫なんだろうか?
「それで?具体的には何をするんだ?」
如何にもワクワクと言った感じで尋ねられて、それなら話を合わせてみるかと取り敢えず提案を続けてみる。
「そうですね…火遊びの恋人を作るにはまず親しくならないといけないので、取り敢えず練習として俺と気さくな口調で話すところからやってみますか?」
「なるほど」
「後は愛称とか、親しい呼び名で呼ぶとか…」
「一理あるな。じゃあ取り敢えず、ノルディって呼んでいいか?」
「ええ。じゃあ俺は…」
「ダレスでいいけど…そうだな、呼び捨てが難しいならダリィでどうだ?」
「ダリィ…」
「ああ」
どうやら口調にも呼び名にも特に異論はないらしい。
王族なのに全く偉ぶったところがない彼に好感を持つと同時にまた少し心配が募る。
こんなに無防備で本当に大丈夫か?俺が隣でしっかり支えてないとマズいんじゃないか?
ついそんな考えが込み上げてきてしまった。
学園内で人気者なのは良いが、いつ騙されるか気が気じゃない。
「じゃあ俺も…ノルでいい」
「ノル?」
「ああ」
だってこんな風にちょっと親しい感じで口調を崩すだけで警戒心がほぼなくなったし、心配するなという方がおかしいだろう。
「よし!じゃあ次はどうする?女性が喜びそうな場所でも探すか?」
まあ火遊びシュミレーションだし、この辺は確かに女性が喜びそうな場所に行ってみる方がいいかと少し考えて場所を提案してみた。
「ああ、そうだな。確か今有名な歌劇団が王都の劇場に来てて、令嬢達に人気らしいんだ」
「へえ…どんな演目が人気なんだろう?」
「それが意外にも決闘シーンが見所の恋愛活劇らしい」
「決闘シーン?!」
どうやら興味を引けたようだ。
「いいな!ちょっと見てみたい」
「それなら今日こっそり学園が終わってから二人で行ってみようか?」
「今日か…。うん!今日は帰ってからの剣術の稽古も入ってないし、勉強も自主学の日だから夜に回せる。大丈夫だ」
「そうか。じゃあまた後で」
「ああ。ありがとうな」
あっさり釣れた王子に苦笑しつつ、男同士ではあるけれど折角だし一緒に観劇を楽しもうと思った。
それはそうだ。将来自分が仕えるだろう人なんだから。
でも話したことは一度もなかった。
彼は学園での人気者で、常に誰かに囲まれていたから用もないのに近づく機会なんてあるはずがなかったのだ。
だから『まあそのうち顔合わせくらいはあるだろう』程度に軽く考えていたんだけど…。
(なんでこんな場所に一人でいるんだ?)
人けのないベンチで何故か打ちひしがれたように肩を落として沈み込んでいるその人に出会ってしまった。
勿論無視したって良かったんだけど、何となく気になって声を掛けてみることにした。
「ダレス王子」
「……ノルディックか」
意外なことに向こうは俺の顔を知っていてくれたらしい。
接点なんてなかったのにと正直驚いてしまった。
「どうかされましたか?酷く打ちひしがれているような…」
「俺は今、人生の岐路に立っているんだ。放っておいてくれ」
「人生の岐路?」
「ああ」
いいから行けと言って追い払うような仕草をされたが、俺はこの『人生の岐路』というのが非常に気になった。
こんなに落ち込んでいるからにはきっととても深刻な内容に違いない。
王子の悩みに好奇心を膨らませ、本音を綺麗に隠して笑顔で話すよう促してみる。
「将来の王と宰相候補なんですから気軽に話してみてください。いい機会ですし、場合によっては力になりますよ?」
その言葉に王子は絆されたのか、意外なほどあっさり口を割ってくれたのだが────。
「つまり、学生のうちに火遊びをしようとして失敗して、それなら婚約者を大事にしようと心を入れ替えたけど、そっちも失敗して落ち込んでいたと…?」
「そうだ」
真剣な顔で『人生の岐路』を話してくれたけど、俺にとったらただの笑い話でしかなかった。
要するに女性に袖にされたというだけの話じゃないかと。
まあ『ここだけの話』と言われたから誰にも言う気はないけど…。
そう思ったところでちょっと揶揄ってみたい気持ちになって、俺はいたずら心でこんな提案をしてみた。
「なるほど。わかりました。それなら俺と一緒に火遊びシュミレーションでもしてみませんか?」
要するに模擬的に火遊びをやってみないかというお誘いだ。
揶揄ったと憤るだろうか?
それとも慰めはいらないと困ったように笑うだろうか?
反応的に多分どちらかが返ってくるだろうと思ったんだ。
それなのに────。
「いいのか?!」
返ってきたのは『やったぁ!』と言わんばかりの満面の笑み。
まるで飛びつかんばかりの喜びように驚き過ぎて、思わずマジマジと凝視してしまったじゃないか。
この人はこんなに無邪気で大丈夫なんだろうか?
「それで?具体的には何をするんだ?」
如何にもワクワクと言った感じで尋ねられて、それなら話を合わせてみるかと取り敢えず提案を続けてみる。
「そうですね…火遊びの恋人を作るにはまず親しくならないといけないので、取り敢えず練習として俺と気さくな口調で話すところからやってみますか?」
「なるほど」
「後は愛称とか、親しい呼び名で呼ぶとか…」
「一理あるな。じゃあ取り敢えず、ノルディって呼んでいいか?」
「ええ。じゃあ俺は…」
「ダレスでいいけど…そうだな、呼び捨てが難しいならダリィでどうだ?」
「ダリィ…」
「ああ」
どうやら口調にも呼び名にも特に異論はないらしい。
王族なのに全く偉ぶったところがない彼に好感を持つと同時にまた少し心配が募る。
こんなに無防備で本当に大丈夫か?俺が隣でしっかり支えてないとマズいんじゃないか?
ついそんな考えが込み上げてきてしまった。
学園内で人気者なのは良いが、いつ騙されるか気が気じゃない。
「じゃあ俺も…ノルでいい」
「ノル?」
「ああ」
だってこんな風にちょっと親しい感じで口調を崩すだけで警戒心がほぼなくなったし、心配するなという方がおかしいだろう。
「よし!じゃあ次はどうする?女性が喜びそうな場所でも探すか?」
まあ火遊びシュミレーションだし、この辺は確かに女性が喜びそうな場所に行ってみる方がいいかと少し考えて場所を提案してみた。
「ああ、そうだな。確か今有名な歌劇団が王都の劇場に来てて、令嬢達に人気らしいんだ」
「へえ…どんな演目が人気なんだろう?」
「それが意外にも決闘シーンが見所の恋愛活劇らしい」
「決闘シーン?!」
どうやら興味を引けたようだ。
「いいな!ちょっと見てみたい」
「それなら今日こっそり学園が終わってから二人で行ってみようか?」
「今日か…。うん!今日は帰ってからの剣術の稽古も入ってないし、勉強も自主学の日だから夜に回せる。大丈夫だ」
「そうか。じゃあまた後で」
「ああ。ありがとうな」
あっさり釣れた王子に苦笑しつつ、男同士ではあるけれど折角だし一緒に観劇を楽しもうと思った。
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