諦めようとした話。

みつば

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諦められなかった話。

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潮の香りがする風が吹く。海に夕日が反射して、とても綺麗だ。
君がいなくなって1年。それなのに、どうしようもなくまだ君が好きだ。何度も何度もこの場所に戻ってきてしまう。



8年前、この海のそばの公園で君に告白した。あのときまだ君は制服だったね。
夕日を見つめる君が綺麗で、愛おしくて、気づくと掠れた声で想いを口にしていた。
「好きだ。」
彼は驚いたように目を見開き、しばらくすると彼の目は涙でいっぱいになった。
「うれしい。僕も、ずっと好きだったから。」
ポロポロ涙を流す君を抱きしめて、大切にすると心に誓ったんだ。





あの頃を思い出して、ただ泣きたくなった。
「帰ろう。」
君と過ごした家に。
そうきびすを返したとき、
「あの人朝からずっとあそこのベンチに座ってない?」
「ねー、へんなのー。」
すれ違った人の会話が聞こえた。

もしかして。

そんな期待で心が埋め尽くされて、走った。海がよく見える沿道に、ベンチがたくさん並んでいるのを知っていた。



柔らかそうな黒髪が風で揺れている。足が止まった。俯いていて顔は見えない。足元がふわふわして頼りない。ふらふらと目の前まで近づいた。
僕の知っている姿より、ひと回り細い。
まわりは酷く静かなのに、自分の心臓の音だけがやけに大きく聞こえる。突然顔に熱が集まる。
「楓…。」
声が震えた。
目の前の人物は、肩をビクッとさせて、少しずつ顔を上げた。
「会いたかった…。」
楓は泣いていた。嗚咽すら漏らさず、ただただ静かに目から涙を流していた。流れた涙は、何かを固く握り締めた手の甲に落ちていった。
「楓、それ…。」
楓が握り締めていたのは僕との写真だった。端がよれてくしゃっとなっている。


「だめだったんだ。
どうしても、伊織のことが好きで。
僕がいちゃだめだって、伊織が幸せになれないって、離れたのに。伊織のことを思いながら、一人で生きていくつもりだった。
それなのに、伊織が側にいないだけで、こんなに苦しい。」
茫然と、その声は途切れ途切れだ。
「僕が相手じゃ、伊織を大切に思っている人が認めてくれない。子供だって産めない。紙切れ一枚ですら繋がれない。
そういうことが限界だった。
伊織、僕はどうすればよかったのかな。自分から離れたくせに、1人は耐えられないんだ。
ごめん、今頭がごちゃごちゃだ。」
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