諦めようとした話。

みつば

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諦めたくない話。

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勝手なことしたっていうのはもちろん分かってるわ。あなたのためなの。許してちょうだい。

全ての言葉が耳を素通りしていく。



「僕の幸せは僕が決めるよ。」

「僕は彼しか愛せない。」

彼と出会って、僕は感情を知った。今まで感じてきたものが全て灰色に思えるくらい、彼といるとき、全てが鮮やかだった。彼がいないときにどうやって息をしていたかがわからない。

母が泣く。待て、と父が叫ぶ。
全てを振り切って家を出た。

酷く虚しい。なぜ僕たちの愛の形は受け入れられないのだろう。長く愛情を注いでくれていた人にさえ。どうして拒絶されてしまうのだろう。
君もこんな気持ちだったのだろうか。心臓に直接刃を突き立てられたような胸の痛みを君も感じたのだろうか。

君は幼い頃に両親を亡くして1人になったと言っていた。だから、僕には家族を大切にしてほしいと。無条件に愛してくれる存在は大切なんだよって。そんな君だからこそ、僕の両親にいろいろ言われるのは辛かったに違いない。
でも、それなら、君のことを無条件に愛し受け入れてくれる人はどこにいるというのか。あのとき僕は気恥ずかしくて言えなかったけれど、僕は君にとってそういう存在になりたかった。君の家族になりたい。







次に僕の幼なじみに会いに行った。僕が心から信頼し、彼のことも恋人として紹介してあった。
相手が男性ってびっくりしたけど、おまえが選ぶならいいんじゃないか。応援するよ。
そういって背中を押されて嬉しかった。

彼のことを僕の両親に言ったりしたかい?
僕のいないところで彼に何か言ったりした?

小さな声で一言。「ごめん。」

僕も、分かった、と一言だけ。
それを聞いて、おまえのためだとかなんだとかまくしたて始めたけれど、それもやがて聞こえなくなった。


きっと僕の周りは愛情で溢れてた。どれも僕の望んだ形ではなかったけれど。
僕に対する押し付けの歪んだ愛情と、彼に対するほんの少しの悪意があった。それはおそらく彼自身にも。
僕のためだといいながら、誰も僕の話を聞いてくれない。なぜ僕が幸せを掴み損ねた者で、彼が僕の幸せを邪魔する者のように考える。彼が隣にいることが僕の幸せだというのに。


ごめんね。君にばっかり辛いことを押し付けてしまって。僕のことで、僕のいないところで傷つけられていただなんて。知らなかったじゃ許されないだろう。僕も自分が許せない。
でも、君に一つだけ。僕の愛をもう少し信じて欲しかった。世間一般でいう幸せより、君といる幸せを僕が望んでいるのだと、信じて欲しかったんだ。何があっても君への想いは薄れることはない。辛いことはふたりで乗り越えたいし、喜びがあればふたりで分かち合いたい。




それから僕は知り合いをたくさん訪ねた。君との思い出の場所を巡った。
彼がいなくなってから今日で1年たつ。
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