諦めようとした話。

みつば

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諦めた話。

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もう限界だって思った。

君が僕を大切にしてくれていることは分かっているんだ。
朝起きたときの、おはようも。寝る前のおやすみも。いってらっしゃい、いってきます、ただいま、おかえり。
毎日当たり前のことが、僕にはとてもあたたかい。
いつも僕に優しく微笑んでくれる。その笑顔が見られるだけで、僕は本当に幸せなんだ。

それでも

一歩家の外に出れば生まれる微妙な距離感に。
親子連れを見つめるその視線に。
気づかないくらい、鈍感でいたかった。
恋人の距離感も、君との間の子供も、僕じゃどうしても実現できない。

告白は君からだったね。僕は本当に嬉しかった。きっと僕の方が先に君を好きになっていたから。
でも、君がもともと可愛らしい女の子と付き合っていたことを知っている。男性しか好きになったことのない僕とは違って、君は女性も愛することができる。結婚も、子どもも、世間一般に言われる幸せってやつも手に入れることができる。

僕は怖い。君がそんな当たり前の幸せを手放してしまったことに気づいたとき、どんな目で僕を見るんだろう。
今君の目にあるあたたかさが消えてしまうところを見たら、僕はきっと立ち直れない。1人になって、もう二度と起き上がれない。

だから、僕はもういなくなる。君の前から。苦しいけれど。1人は辛いけれど。幸せは沢山もらったから。それを大切にして生きていく。

そして、どうか。虫のいいことを言っているのは分かってる。それでも、どうか、どうか幸せになって。

さようなら



************

出張から帰ってくると、恋人がいなくなっていた。今日は付き合い始めてから7年の記念日で、彼への贈り物が入った紙袋が足元に落ちた。並んだ歯ブラシに、2組ずつの食器。彼がいた形跡は確かに残っているのに、彼だけがいない。

ありがとう、ごめんなさい、愛しています

テーブルに残された紙にはこれだけ。

これほど愛してるのにいなくなるなんて。こんなこと、あっていいはずがない。
なにが悪かったのだろうか。

「絶対、君を見つけるよ。」

君は探されることを望んでいないかもしれない。もう僕とは会いたくはないのかも。でも、
君がいないんじゃ僕は笑えない。
君がいないと思うだけで、こんなにも息が苦しい。
きっと、君を見つけてみせるよ。
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