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番外編 七瀬響也
しおりを挟む《七瀬響也》
湊人と初めて会ったのは2歳の頃……、らしい。
僕と湊人の感動的な出会いについて、残念ながらほとんど覚えていない。ただもの心つく前から湊人は一緒にいた。
小さい頃、湊人は体が大きく、思い出したくもないが、その頃の僕は甘ったれの泣き虫でたいそう女々しい子供だった。見上げる位置にいる湊人はとてもかっこよくて、優しい湊人に守ってもらう気満々だったのだ。
その気持ちが変化したのはいつからだっただろうか。
小学校が違う湊人とは、それまでのように会えなくなった。ちなみに小学生のときは五条と一緒にいることが多かった。なぜなら引っ込み思案な性格が災いして友達ができなかったからだ。
久しぶりに五条と2人で湊人に会ったとき、僕たちはちょっと驚いた。いままでずれていた視線の高さのズレが小さくなっていたのだ。
そのあと湊人と会うたびに視線の高さは近づいていき、小学校高学年になるくらいには追い越してしまった。
「七瀬」
「何?」
「湊人は嫌がらせ受けてるんじゃないか?」
「どういうこと?」
聞けば湊人の教科書にペンでガイジンと書かれていたらしいのだ。よれているノートも多いらしい。
そのころの湊人は青い瞳を隠さずに学校に通っていた。
これくらいの年齢の子は、敏感だ。日本人の顔に青い瞳は小学生には受け入れられなかったようである。
「どうしようか…」
湊人だけ小学校が違う。僕らが何かしようと思っても何もできないのだ。自分の無力さに腹が立った。
あとから湊人に聞いた話だが、嫌がらせはすぐにおさまったそうだ。なんでも学校の体験学習で柔道の先生が来たのだが、その人を投げ飛ばしてしまったらしい。柔道の先生も相手が小学生ということで油断はしていたようだ。しかし効果は絶大で、そのあとはむしろ恐れられたという。小さい頃から規格外だ。
結局全て湊人が自分で解決してしまった。しかしこの一件は僕の意識を大きく変えたように思う。湊人にただ守ってもらうのではなく、僕も湊人を守りたいと思うようになった。すでに恐ろしく強い湊人に敵うようにはなると思えない。ただ、とりあえず空手を始めた。
つぎに湊人に対する気持ちが変化したのは中学生の頃だ。いや、変化したというと不適切かもしれない。変化していたことに気がついたと言うべきだろう。これまた久しぶりに五条と湊人の家に遊びに行ったときの話だ。
「七瀬、さっきラブレター見つけた」
「は?」
「湊人の机にあった」
湊人に、ラブレター?湊人に彼女ができる?僕と一緒にいなくなる?
そんなことを考えたとき、すごくむかむかした。湊人の横に僕以外がいるなんて許せない。
「おい、人を殺しそうな顔をするな。湊人が見たらびっくりするぞ」
「君には関係ないだろ」
「君が人を殺したら俺のところに取材が来るだろ。湊人に好かれたいならやめろ」
「湊人に………好かれたい?」
僕の反応を見た五条は、びっくりしたように目を見開いたあと、ため息をついた。
「まさかまだ分かっていなかったのか?七瀬は湊人のことが好きだろ」
僕が湊人のことが好き………?
ストンと胸に収まった。なぜ自分がこんなに湊人に執着しているのか、どうして湊人に会うとこんなにも嬉しいのか、すべてのことに合点がいった。
「そっかぁ、そうだね。五条、僕はどうしたら湊人に好きになってもらえるかな」
「知らね。とりあえず見てくれはいいんだからその女々しい性格からどうにかしたら」
「ふーん、わかった」
いつになく殊勝な態度の僕に、きもちわる、と五条が呟いていたが知ったことではない。僕は早く湊人に好きになってもらいたいのだ。
そのあと今まで以上に勉強を頑張ったり、周りの人と関わりを増やしたりした。他にも色々、湊人に振り向いてもらえるならとなんでもやった。そのあとはなんやかんやで湊人とは恋人になることができたが、不安は尽きない。湊人が魅力的すぎるのだ。カラコンで色を偽ったって、湊人はたくさんの人を魅了する。
「ただいまー」
「おかえり」
湊人が部屋に戻ってきた。例の一件以来湊人は僕の部屋で過ごしている。今日は市村が変なことを言い出したせいでついつい回想してしまった。
帰ってきた湊人の手を引いてソファーまで連れて行き、抱き込むように座る。
「なんだ、今日は甘えただな。なんかあったか?」
「別に、何も」
「なんだそれ」
楽しそうに笑う湊人。グリグリと湊人の肩におでこをなすりつけた。
「なんだなんだー」
からかうような口調でも、ポンポンと頭を叩く手は優しい。
「響也は根っこの部分は小さいときから変わってないなあ。こんなに図体もでかくなって、こんなにカッコよくなったのに」
ワシャワシャと髪をかき回される。
「かわいいまんまだ。かっこいい響也も、かわいいきょうちゃんも、大好きだよ」
ああ、敵わない。
湊人は欲しい時に欲しい言葉をくれる。
「僕の方が好きだから」
「そうか、ありがとう」
「僕頑張るからね」
「嬉しいな。俺も一緒に頑張らせてくれ。」
「うん」
目立たないでと頼んでも、湊人は人を惹きつけてしまう。気づくとだいぶ前に進んでいる。僕はまだ湊人に手を引かれないと前に進めていない。
でもいつか、2人で並んで手をつないでいられるように、僕も頑張るよ。
湊人と初めて会ったのは2歳の頃……、らしい。
僕と湊人の感動的な出会いについて、残念ながらほとんど覚えていない。ただもの心つく前から湊人は一緒にいた。
小さい頃、湊人は体が大きく、思い出したくもないが、その頃の僕は甘ったれの泣き虫でたいそう女々しい子供だった。見上げる位置にいる湊人はとてもかっこよくて、優しい湊人に守ってもらう気満々だったのだ。
その気持ちが変化したのはいつからだっただろうか。
小学校が違う湊人とは、それまでのように会えなくなった。ちなみに小学生のときは五条と一緒にいることが多かった。なぜなら引っ込み思案な性格が災いして友達ができなかったからだ。
久しぶりに五条と2人で湊人に会ったとき、僕たちはちょっと驚いた。いままでずれていた視線の高さのズレが小さくなっていたのだ。
そのあと湊人と会うたびに視線の高さは近づいていき、小学校高学年になるくらいには追い越してしまった。
「七瀬」
「何?」
「湊人は嫌がらせ受けてるんじゃないか?」
「どういうこと?」
聞けば湊人の教科書にペンでガイジンと書かれていたらしいのだ。よれているノートも多いらしい。
そのころの湊人は青い瞳を隠さずに学校に通っていた。
これくらいの年齢の子は、敏感だ。日本人の顔に青い瞳は小学生には受け入れられなかったようである。
「どうしようか…」
湊人だけ小学校が違う。僕らが何かしようと思っても何もできないのだ。自分の無力さに腹が立った。
あとから湊人に聞いた話だが、嫌がらせはすぐにおさまったそうだ。なんでも学校の体験学習で柔道の先生が来たのだが、その人を投げ飛ばしてしまったらしい。柔道の先生も相手が小学生ということで油断はしていたようだ。しかし効果は絶大で、そのあとはむしろ恐れられたという。小さい頃から規格外だ。
結局全て湊人が自分で解決してしまった。しかしこの一件は僕の意識を大きく変えたように思う。湊人にただ守ってもらうのではなく、僕も湊人を守りたいと思うようになった。すでに恐ろしく強い湊人に敵うようにはなると思えない。ただ、とりあえず空手を始めた。
つぎに湊人に対する気持ちが変化したのは中学生の頃だ。いや、変化したというと不適切かもしれない。変化していたことに気がついたと言うべきだろう。これまた久しぶりに五条と湊人の家に遊びに行ったときの話だ。
「七瀬、さっきラブレター見つけた」
「は?」
「湊人の机にあった」
湊人に、ラブレター?湊人に彼女ができる?僕と一緒にいなくなる?
そんなことを考えたとき、すごくむかむかした。湊人の横に僕以外がいるなんて許せない。
「おい、人を殺しそうな顔をするな。湊人が見たらびっくりするぞ」
「君には関係ないだろ」
「君が人を殺したら俺のところに取材が来るだろ。湊人に好かれたいならやめろ」
「湊人に………好かれたい?」
僕の反応を見た五条は、びっくりしたように目を見開いたあと、ため息をついた。
「まさかまだ分かっていなかったのか?七瀬は湊人のことが好きだろ」
僕が湊人のことが好き………?
ストンと胸に収まった。なぜ自分がこんなに湊人に執着しているのか、どうして湊人に会うとこんなにも嬉しいのか、すべてのことに合点がいった。
「そっかぁ、そうだね。五条、僕はどうしたら湊人に好きになってもらえるかな」
「知らね。とりあえず見てくれはいいんだからその女々しい性格からどうにかしたら」
「ふーん、わかった」
いつになく殊勝な態度の僕に、きもちわる、と五条が呟いていたが知ったことではない。僕は早く湊人に好きになってもらいたいのだ。
そのあと今まで以上に勉強を頑張ったり、周りの人と関わりを増やしたりした。他にも色々、湊人に振り向いてもらえるならとなんでもやった。そのあとはなんやかんやで湊人とは恋人になることができたが、不安は尽きない。湊人が魅力的すぎるのだ。カラコンで色を偽ったって、湊人はたくさんの人を魅了する。
「ただいまー」
「おかえり」
湊人が部屋に戻ってきた。例の一件以来湊人は僕の部屋で過ごしている。今日は市村が変なことを言い出したせいでついつい回想してしまった。
帰ってきた湊人の手を引いてソファーまで連れて行き、抱き込むように座る。
「なんだ、今日は甘えただな。なんかあったか?」
「別に、何も」
「なんだそれ」
楽しそうに笑う湊人。グリグリと湊人の肩におでこをなすりつけた。
「なんだなんだー」
からかうような口調でも、ポンポンと頭を叩く手は優しい。
「響也は根っこの部分は小さいときから変わってないなあ。こんなに図体もでかくなって、こんなにカッコよくなったのに」
ワシャワシャと髪をかき回される。
「かわいいまんまだ。かっこいい響也も、かわいいきょうちゃんも、大好きだよ」
ああ、敵わない。
湊人は欲しい時に欲しい言葉をくれる。
「僕の方が好きだから」
「そうか、ありがとう」
「僕頑張るからね」
「嬉しいな。俺も一緒に頑張らせてくれ。」
「うん」
目立たないでと頼んでも、湊人は人を惹きつけてしまう。気づくとだいぶ前に進んでいる。僕はまだ湊人に手を引かれないと前に進めていない。
でもいつか、2人で並んで手をつないでいられるように、僕も頑張るよ。
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