虹の騎士団物語

舞子坂のぼる

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第8章 地の果て

第215話 夢の残響

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第215話 夢の残響
**********
ジャンヌ:騎士団長
フィスト:近衛兵長
サリー:魔法使い
マリン:海の冒険者
ブラド:吸血鬼の姫
ローズ:貴族令嬢
キャッツ:トレジャーハンター
マリア:シスター
リーフ:エルフ
**********


フィストの落下は地上からはるか上で止まりました。
空飛ぶ夢の国の住人が、フィストを空中で受け止めたのです。

地上で見ていた8人は驚きました。
フィストを受け止めた大きな影はサンタクロースのソリではなかったのです。
フィストは巨大な竜の背の上にいました。

空飛ぶ竜はフィストを背で受け止めた後、大きく旋回して飛びながら下降して、8人の前に降りました。

フィストが竜の背から飛び降りました。
8人が一斉に駆け寄ります。

ジャンヌ「ぶ、無事!?怪我してない!?」

フィスト「う、うん、大丈夫……」

妖精のモモはフィストの髪の毛にしがみついたまま目を回しています。

ブラド「よかったぁ……でも助けてくれたのって、火吹き竜?」

マリン「森に住んでる悪い竜だよね?」

リーフ「なんでフィストを助けてくれたんだろ?」

フィスト「へへへ、それはね……」

フィストが言いながら竜に目を向けると、竜は地に伏せました。
その背中から、お姫さまが降りてきたのです。

サリー「お、お姫さま!?王子さまが助けてくれたの?」

フィスト「違うよお。この竜はね、悪い竜じゃないの」

姫「その通りです。私はメルコット王国の姫。アールベル王国の王子との政略結婚が仕組まれていました。しかし私は、国一番の騎士、リッターと秘かに愛し合っていたのです。それを知ったあの国の王子は、国の魔女を使い、リッターを竜に変えてしまったのです」

キャッツ「え、なに、その話……」

マリア「つまり、姫は自分から竜の元に行っていて、王子は姫を無理矢理自分の元に置こうとしていたってこと?」

竜「そういうことだ……あらゆるものを焼き尽くす火吹き竜などと噂を流して、ご丁寧なことだが……私は何としても元の姿に戻ってみせる」

ブラド「え、ステキ」

ジャンヌ「まぁあの王子はちょっと胡散臭かったもんね」

ローズ「ジャンヌ、結構浮かれてたよね?」

姫「あの王子のことは、別にどうでもよいのですよ……魔術を解く旅に2人で行こうとしたときに、彼女が落ちていたのが見えたので、彼がとっさに受け止めたんです」

ブラド「なんか、えらく出来すぎた話に聞こえるけど、これってやっぱり……」

フィスト「そ!私の夢!多分オーブの力で叶ったの!」

フィストは両手にオーブを抱えて、満面の笑みで答えました。

フィスト「竜とお姫さまの物語、こっちの方がいいじゃん!」

ジャンヌ「同感ね……で、無事オーブは手に入れたのね」

フィスト「う、うん、多分。私は夢中だったからわからないけど、太陽のときとは違った光りかたしてるよね?」

モモ「…………ん、お、おお、無事だったのね」

ローズ「あ、目を覚ました」

リーフ「モモさん、フィストと一緒にいてくれてありがとう!」

モモ「あー、いいのいいの。とにかく、無事でよかったわ……でも」

サリー「?でも?」

モモ「もうお別れよ」

マリン「!?どういう」

マリンの言葉の途中で、フィストの手の中のオーブは、形を変え始めました。
妖精の口から出た「お別れ」という言葉の意味も気になりましたが、9人はオーブの変化に目を奪われたのです。

オーブは大きな球体のままですが、その表面には無数の突起が出てきました。
オーブは両手で抱えられるほど大きな、黄色いこんぺいとうになったのです。
そしてそのこんぺいとうは徐々に小さくなっていき、指でつまめるほどの大きさになると、フィストのキューブの中に吸い込まれていきました。

そして次の瞬間に、異変が訪れました。
何の前触れもなく、9人は完全な闇に包まれたのです。

フィスト「えっ」

ジャンヌ「な、なにこれ?」

9人はそれぞれ困惑の声を出しました。
その声は、最初はお互いに聞こえていましたが、だんだんとハッキリ聞こえなくなってきました。

聴覚だけでなく、徐々に9人の意識が不明瞭になっていきます。
先ほどのモモの言葉がフラッシュバックしました。



「もうお別れよ」



そのとき、暗闇に包まれた9人の頭の中に、モモの声が響きはじめました。

モモ『忘れないで……あなたたちが夢見た時間を……お菓子の家も、サンタクロースも、竜とお姫さまも……世界中の人たちが夢見る世界の住人のことを』

サリー「わ、忘れません!!」

モモ『誰だって大人になったら、「そんなのありっこない」って思ってしまうわ……でも、それでいいの…………』

フィスト「モモさん!」

フィストの声は虚しく闇に薄まります。

モモ『世界中の子どもが大人になって、いつか自分や誰かの子どもに、夢のような話をするときには、どうか心の片隅にあることを感じてほしいの…………「見たことはない、ありっこないってわかってるけど、この世界のどこかには、もしかしたらあるのかもしれない」という、微かな夢の残響が、大人たちの心の中にもあることを……』

フィスト「モモさん!!待って!!」

9人の意識は完全に途絶えました。
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