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屋敷の裏手から僕はこっそりと入った。
僕が帰るだろうと、錠を外しておいてくれたみたいで、木戸は簡単に開いた。
音を立てないように、僕は自分の部屋へと向かう。
「アレク、やっと帰ったか」
待ち構えたようにキースさんが、柱の陰から出てきて、びっくりする。
「あっ、キースさんっ」
「遅いから心配したぞ。ところで馬はどうした?」
問われて、僕はペコペコと頭を下げた。
「すみません。」眼を離した隙に、盗まれてしまったんです」
「盗まれた……本当にそうなのか?」
問われて、僕は真っ直ぐにキースさんの眼を見た。
「本当です。酒場で黒い貴婦人のことを聞いている間に盗まれたんです」
「酒場まで行ったのか」
驚いたようにキースさんが眼を見開いた。
「どのお店も閉まっていて、開いてるお店が酒場だったんです。ひょっとしたら、黒い貴婦人というお酒があるのかもしれないと思って……それで、酒場で知っているという人に会って、案内された場所について行ったら」
「ついて行ったのか」
今度は呆れたような顔をされた。
「……軽率だったと反省しています。でも、騎士のランディさんと……サイラス様に助けてもらったんです」
サイラス様の名前を出すと、キースさんが眉を寄せた。
「サイラス様と会ったのか」
「はい。ここまで送ってくださったんです」
そう答えると、キースさんが僕の肩を掴んだ。
「ああぁ…っ」
敏感になっている身体はそろそろ落ち着いても良さそうなのに、触られると反応してしまう。
早くお風呂に入って、処理したい。
「ああ、すまない」
僕が変な声を出したからか、キースさんは慌てて手をどけてくれた。
「いえ、その……変な薬を使われたみたいで」
「アレク、その……大丈夫なのか?」
僕は小さく頷く。
「お水を飲んでから、少し落ち着いたみたいです。でも、触れられたりすると……その……」
感じてしまうとは言いにくくて、言葉を濁す。
キースさんもわかってくれたようで、僕に優しい言葉をかけてくれた。
「大変だったようだな。今日はもう休むといい」
「はい。では、失礼します」
僕はお辞儀をして、部屋へと戻ろうとした。
「アレク」
呼び止められて、僕は立ち止まった。
「サイラス様のことだが……ギルバート様には黙っていた方がいい」
キースさんの言葉に、僕は素直に頷いた。
ギルバート様にどう話していいかもわからないし。
「わかっているならいい。おやすみ」
キースさんはそれだけ言って、僕とは反対側へと歩いていった。
わかっている。
二人の間に埋められない溝があることは……
でも、できれば仲直りしてほしい。
お風呂に入って、ちょっとだけ弄ってみた。
自涜は後ろめたい気持ちにさせる。
けど、身体に燻る熱を出さないと、疼きが治まりそうになかったから、声を殺して処理した。
でも、射精しても疼きは消えなかった。
なんだか際限がなさそうで、お水をかけてなんとか静める。
『時間が経てば抜ける』
その言葉通り、待てばいいんだろう。
そう思うのだけど、ベッドに入ってもなかなか熱は引かなくて気がついたら、手が股間にいっちゃってたりして……
最初より、後々になってからの方が効いてきたみたいにも思える。
僕は堪らず、飛び起きた。
外の空気でも吸って気持ちを落ち着けようと、寝衣のままで庭に出た。
何もない芝生の上を歩くよりも、薔薇を見たいと思い立ち、香りを頼りに方向を決めた。
本当は入っちゃいけない庭だ。
薔薇が咲く一角は、ギルバート様の大切な思い出の場所。
だからこそ、見たいと思った。
ブローチの話を聞いた後だったから……
薔薇を愛するギルバート様のお母様はどんな方だったんだろう。
お母様の大事にしていた薔薇を、ギルバート様も大事になさってる。
きっと慈愛に満ちた素晴らしい方だったんだろう。
その死が、ギルバート様の心を閉ざしてしまうほどに――
「……綺麗だな」
月明かりの下で、白い薔薇はひっそりと息づいていた。
銀色に輝く薔薇を見ると、「銀の薔薇」のことを思い出す。
ランディさんは「銀の薔薇」のことを聞きにくるだろうか。
正直、嘘を吐くのは苦手だ。
どうやって、誤魔化せばいいだろう。
何も盗まれていないなら、話しても構わない?
でも、本当に何も盗まれていない?
キスはされちゃったけど……
僕のファーストキスが奪われましたなんてのは、事件にもならないだろう。
そう言えば、ギルバート様の部屋はすぐ側にあった。
ひょっとして、銀の薔薇はギルバート様の持ち物を盗みに入ったんじゃないだろうか。
僕に見つかったから、何も盗らずに去っていったのかもしれない。
銀の薔薇と会った辺りまで足を進めてから、僕はギルバート様の部屋の位置を確認した。
「あっ、窓が開いている」
ギルバート様の部屋の窓が開いているのに気づいて、嫌な予感がした。
また怒られるとかそういうのではない。
また「銀の薔薇」が現れたのではないかと、そういう悪い予感だ。
あの時に盗めなかったものを、盗みに来たんじゃないか。
そう思ったら、身体が勝手に動き出していた。
急いで、ギルバート様の部屋まで行く。
使用人がテラスから入ってはいけないだなんて、この際、無視だ。
「ギルバート様」
勢いよく部屋に入ると、そこにいたのは蝶のような仮面をつけた男だった。
白いマントがヒラリと風に舞う。
男は僕に気づくと、瞬間、鋭い視線を向けてきた。
部屋には灯りが点いていたから、前よりもその顔がはっきりと見える。
面立ちも、瞳の色もギルバート様に似ていた。
でも、その口許が決してギルバート様ではないことを物語る。
薄っすらと笑みを浮かべながら、彼は僕に近づいてくる。
「やあ、またお会いしましたね。可愛い妖精さん」
声までギルバート様に似ている。前に会ったときは、まだギルバート様のことを知らなかったから気づかなかった。
ただ、似てはいるけど、ギルバート様の抑揚のない声と違って、銀の薔薇の声は音楽のような軽やかな響きがあった。
なんだか楽しそうだな。
良いことでもあったんだろうか。
まさか、もう何か盗まれた?
きょろと見回すと、車椅子を見つけた。
けど、ベッドにもギルバート様の姿はない。
まさか……まさか……ギルバート様が盗まれた?
「ギルバート様をどこへやった?」
そう訊ねると、銀の薔薇は笑みを深めた。
「さあ、どこでしょうね」
ふふっと笑いながら、銀の薔薇は僕に近づいてくる。
「ギルバート様を盗んだのか」
それを聞いた銀の薔薇は声を出して笑った。
「笑うな。ギルバート様を返せっ」
銀の薔薇を殴ってやろうと拳を繰り出すも、簡単に腕を掴まれてしまった。
「返してほしいですか」
「うっ、ギルバート様いなにかあったら、お前のことを殺してやる」
銀の薔薇は小さく笑って、僕の顔に唇が触れるほど近づいてきた。
「勇ましいですが、こんな細腕では何もできないでしょう」
吐息が頬にかかる。
それだけで、息が上がってしまう。
「はぁ…んっ、離せっ」
変に声が上擦った。
「おや、随分と艶のある声を出すんですね」
揶揄いまじりに言って、銀の薔薇が僕の頬を舐めた。
「やっ、やだぁ…」
逃げたいのに、力が入らない。
「君は随分と敏感なんですね」
「ちがっ……これは薬のせい……」
そう答えると、銀の薔薇の瞳が妖しく揺らめいた。
「薬……ですか。純情そうに見えて、君は随分と淫らな遊びが好きなんですね」
違うと首を振る。
「じゃあ、誰かに飲まされたんですか?」
コクコクと首を縦に振った。
「それで、まだ足りなくて疼いていると……そういうことですか」
そろりと股間を撫でられて、びくんと反応してしまう。
「あっ、やだっ」
「ここは嬉しそうに震えていますよ」
そろそろと上下に手を動かされて、陰茎が反応を示す。
下着がいやらしい液で濡れていくのがわかる。
「やっ…だめっ……ギルバート様っ、ギルバート様っ」
ギルバート様をお助けしなきゃいけない立場なのに、助けを呼んでどうするんだろう。
そう思いつつも、僕はギルバート様の名を呼んでいた。
「ギルバート様ね。彼を助けたいですか?」
問われて、僕は銀の薔薇の眼を見る。
紫色の瞳は宝石のように澄んでいて、瞳だけを見ると悪い人には見えない。
だけど、ギルバート様を盗んだんだ。
悪いに決まっている。
「ギルバート様は無事なんだろうな」
「ええ。ほんの少し大人しくしてもらっているだけですよ」
「ひどいことしてないだろうな」
僕の言葉を銀の薔薇は笑った。
「そんなに噛みつかなくてもいいと思いますが……君の主人は我儘で冷血漢だと聞きました。君が必死になる理由もないと思いますよ」
酒場で聞いた話から、ギルバート様に対しての噂は想像がつく。
確かに、優しくなんかされたことない。
だけど、ギルバート様がそうなった要因は僕にもあるんだ。
僕が一生かけてお守りしないと……
「ギルバート様は僕の大切な人だ。悪く言うなんて許さない」
思いっきり睨みつけると、銀の薔薇は僕の腕を離した。
勝った。
そう思ったのも束の間、銀の薔薇は揶揄うように眼を細めた。
「許さない……ですか。では、どうするつもりですか?」
「どうって……」
力で敵わないとなれば、大声で人を呼ぶか。
でも、ギルバート様が危険に曝されてしまうのは困る。
考えあぐねていると、銀の薔薇はひらりと舞うようにベッドまで足を運び、ストンと腰かけた。
優雅な所作は育ちの良さを感じさせる。
でも、貴族が泥棒なんてしないよな。
「君次第で、主人を解放してあげても構いませんよ」
銀の薔薇の申し出に、僕は考えもなしに頷いた。
「おや、何をするのか聞かないうちに、返事なんかしていいんですか」
銀の薔薇は挑戦的に僕を見る。
まるで、この状況を楽しんでいるようにも見える。
実際、銀の薔薇はその唇に笑みを絶やさない。
作り笑いなのかもしれないけど、綺麗な唇が象る笑みは印象を柔らかくしている。
ギルバート様を攫った悪い奴なのに――
「ギルバート様の為なら、僕はなんでもする」
決意を口にすると、銀の薔薇は優雅に手を上げ、こっちを指差した。
「そこの椅子を、こちらまで運んできてください」
命令にしては、柔らかい物言いだった。
僕は何をするのかわからずも、言われた通りに彼の手前まで椅子を運んでいった。
「その椅子に座ってください」
僕が座るための椅子だったんだ。
真意が掴めないまま、僕は銀の薔薇の指示に従って腰かけようとした。
「ああ、そのままじゃ駄目ですよ」
不意に止められて、僕は中腰の格好で止まる。
「えっ?」
「服を全部脱いでから、座ってください」
何を言われたのか、すぐに理解できなかった。
「主人を助けたいのでしょう」
止めを刺されて、僕は訳がわからないままに服を脱いだ。
銀の薔薇は僕に一体、何をさせようというんだろう。
「全部ですよ」
下着を残して躊躇っていると、そう促された。
部屋が明るいから恥ずかしいと思ったけど、灯りを消してくれと盗人に頼んだところで笑われるのがオチだ。
諦めて、僕は全てを脱ぎ捨てた。
さっき掠めるように布越しに触られた性器は、先走りに濡れてぴょんと勃ち上がっていた。
恥ずかしいと手で隠すと、酷な命令をされた。
「隠しては駄目ですよ。君のいやらしい部分を見せてください」
言われて、僕は手をどけた。
勃起したピンク色の性器が、銀の薔薇の眼に晒される。
「みっ、見るなっ」
「君は立場をわかっているのでしょう。拒めば、主人は二度と戻ってこないと思ってくださいね」
にこりと笑って、怖いことを言う。
屈辱に耐えながら、僕は裸で椅子にお尻を下した。
直に肌に触れたことはなかったけど、いつもの柔らかい感触はそのままだった。
ただ刺繍部分が引っかかる気がする。
足を揃えて、極力、股間が隠れるような座り方をしていると、銀の薔薇がとんでもない命令をしてきた。
「足を開いて、ひじ掛けに掛けてください」
足を開く。
それで、肘掛けにかける。
ええええーーーーーっ!!!
「むっ、無理ですっ」
そんなことをしたら、恥ずかしいところが丸見えじゃないか。
「何度も言わせないでくださいね。君は主人のためなら、どんなことでもすると言ったでしょう」
ぐっと言葉に詰まる。
そうだった。
でも、誰にも見せたことのないところまで丸見えだ。
ひょっとして、辱めを受けるんだろうか。
せっかくサイラス様が助けてくださったのに……
こんな風に好きでもない相手に嬲り者にされるだなんて、悲しすぎる。
でも、ギルバート様のためなら……我慢しよう。
足を開いて、片方の肘掛けに膝裏を当てる。
なんとかできて、もう片方と思ったら意外に難しかった。
四苦八苦しながら足を掛けると、見ていた銀の薔薇が笑った。
ううっ、やれと言ったのはお前じゃないか。
「……できました」
「ピンク色ですね」
目線が思いっきり股間に向けられていて、どこの色なのかがわかる。
見ないで……と言いかけて、言葉を飲み込んだ。
ギルバート様を助けるためなんだ。
「見られて恥ずかしいですか?」
問われてコクコクと頷く。
「でも、見られて興奮しているんじゃないですか」
言われて、ひくんと性器が反応する。
「こっ、これは……薬のせいで」
「そういうことにしておきましょうか」
「本当に薬のせいなんです」
必死に訴えたけど、銀の薔薇は笑うばかりで信じてない様子だった。
でも、笑われても仕方がないほど、僕の性器はビクビクと震えて反応を示していた。
こんなの嫌なのに……
ぐすっと鼻を啜りながら、僕は銀の薔薇を真っすぐに見据えた。
仮面で顔の半分は隠れているのだけど、その瞳の色と顎の輪郭なんかはギルバート様に似ている。
帽子からはみ出た銀の髪も、ギルバート様を彷彿とさせる。
だから、ギルバート様に見られてるような気もしてきて……
「おや、先走りが溢れてきましたね。私に早く犯されたいと催促してるんでしょうか」
違うと、僕は首を振る。
「つれない人だ。そう言えば、君には大事な人がいると言っていましたね。その誰かを思い浮かべたんでしょうか」
ドキッと鼓動が跳ねる。
言い当てられて、身体中が火照ってくる。
「図星だったようですね。それが誰なのか……気になるところですが、その前に、君にはもっと私を楽しませてもらいます」
「楽しませる?」
わからずに問うと、銀の薔薇は悪戯っぽい眼をした。
「君が淫らに腰を振る様を見せてください」
「えっ……それって…」
性行為を求められているんだろうか。
でも、僕は未経験でどうしていいかわからない。
「自涜くらいしたことがあるでしょう」
強要されていることがわかって、顔から火が出そうに熱くなる。
「自分で淫らに弄って見せてください」
隠れてこっそりするのだって、背徳の念にかられる。
処理しないと駄目なのはわかっていても、どうしても慣れない。
ましてや、人に見せるなんて……
「まさか、したことがないなんて言わないでしょう。そのピンク色の幼い性器を指で擦り上げればいいんですよ」
幼いと馬鹿にされ、やり方まで口にされて、羞恥心が増す。
でも、やらなきゃギルバート様が助からない。
「んっ……はあぁ…」
そろと手を伸ばして、陰茎を掴んだ。
降れるだけで感じてドロッと粘つく液体が鈴口から出てくる。
すぐに手は自分のいやらしい液でべたべたになった。
グチュグチュと濡れた音が部屋中に響く。
自分の耳にも嫌でも聞こえてくるから、恥ずかしくて堪らない。
「んっ……はあっ…ふうっ……」
甘ったるい声が口をついて出てくる。
止めようと思うけど、口を開かないでいることは苦しかった。
「可愛らしい声ですね。私に見られて、陰部を愛撫するのが、そんなに気持ちいいんですか」
恥ずかしいことを口にされて、悔しいのに快感は引かない。
薬のせいなんだろうけど、異常なほどに欲望が高まる。
腰まで浮かせて、僕は我慢できずに性器を弄る手を速めた。
「んっ…ああぁ…んあっ」
一気に上りつめてしまおうと思った矢先、銀の薔薇が制した。
「手をどけてください」
「えっ……ああぁ…」
残念そうな声が漏れて、自分でも情けなくなる。
でも、なんとか我慢して手をどけた。
「反り返って、苦しそうですね」
こくこくと頷く。
だから、もう射精させてほしいと……
「イキたいですか?」
問われて、それにも頷いた。
「それなら、後ろで感じてイッてください」
「……後ろ?」
快感に思考が散漫になっている。
なにをどうしていいかわからず、ただ熱っぽい眼を銀の薔薇に向けた。
「お尻の孔ですよ。使ったことはあるでしょう」
「お尻……」
想像しただけで、カーッと全身が沸騰したみたいに熱くなる。
ブンブンと首を振って、僕は否定した。
「そうですか。男同士はそこを使って性交をするのですよ。薬を使われて犯されたと言いませんでしたか」
「薬は飲まされたけど、なにもされてませんっ」
銀の薔薇は立ち上がって、僕の前まで来ると、いきなり跪いて僕の股間を覗き込んできた。
「やだっ…んっ…くっ」
見るなと言いたかったけど、必死でこらえた。
「いい子ですね。主人のためにそこまでできるのは使用人の鑑です」
褒められても嬉しくない。
「んんっ…」
フルルと震える陰茎をそろと銀の薔薇が撫でた。
思わず、ぞくっと痺れるような感覚が走る。
あとちょっとで射精できるんだ。
腰を動かして、銀の薔薇の指に自身を押し付けるように動くも、指はすぐに離れてしまった。
でも、その指は袋を掠めてから、後ろに滑る。
「あっ、そこっ…」
「ええ、ここですよ」
僕が帰るだろうと、錠を外しておいてくれたみたいで、木戸は簡単に開いた。
音を立てないように、僕は自分の部屋へと向かう。
「アレク、やっと帰ったか」
待ち構えたようにキースさんが、柱の陰から出てきて、びっくりする。
「あっ、キースさんっ」
「遅いから心配したぞ。ところで馬はどうした?」
問われて、僕はペコペコと頭を下げた。
「すみません。」眼を離した隙に、盗まれてしまったんです」
「盗まれた……本当にそうなのか?」
問われて、僕は真っ直ぐにキースさんの眼を見た。
「本当です。酒場で黒い貴婦人のことを聞いている間に盗まれたんです」
「酒場まで行ったのか」
驚いたようにキースさんが眼を見開いた。
「どのお店も閉まっていて、開いてるお店が酒場だったんです。ひょっとしたら、黒い貴婦人というお酒があるのかもしれないと思って……それで、酒場で知っているという人に会って、案内された場所について行ったら」
「ついて行ったのか」
今度は呆れたような顔をされた。
「……軽率だったと反省しています。でも、騎士のランディさんと……サイラス様に助けてもらったんです」
サイラス様の名前を出すと、キースさんが眉を寄せた。
「サイラス様と会ったのか」
「はい。ここまで送ってくださったんです」
そう答えると、キースさんが僕の肩を掴んだ。
「ああぁ…っ」
敏感になっている身体はそろそろ落ち着いても良さそうなのに、触られると反応してしまう。
早くお風呂に入って、処理したい。
「ああ、すまない」
僕が変な声を出したからか、キースさんは慌てて手をどけてくれた。
「いえ、その……変な薬を使われたみたいで」
「アレク、その……大丈夫なのか?」
僕は小さく頷く。
「お水を飲んでから、少し落ち着いたみたいです。でも、触れられたりすると……その……」
感じてしまうとは言いにくくて、言葉を濁す。
キースさんもわかってくれたようで、僕に優しい言葉をかけてくれた。
「大変だったようだな。今日はもう休むといい」
「はい。では、失礼します」
僕はお辞儀をして、部屋へと戻ろうとした。
「アレク」
呼び止められて、僕は立ち止まった。
「サイラス様のことだが……ギルバート様には黙っていた方がいい」
キースさんの言葉に、僕は素直に頷いた。
ギルバート様にどう話していいかもわからないし。
「わかっているならいい。おやすみ」
キースさんはそれだけ言って、僕とは反対側へと歩いていった。
わかっている。
二人の間に埋められない溝があることは……
でも、できれば仲直りしてほしい。
お風呂に入って、ちょっとだけ弄ってみた。
自涜は後ろめたい気持ちにさせる。
けど、身体に燻る熱を出さないと、疼きが治まりそうになかったから、声を殺して処理した。
でも、射精しても疼きは消えなかった。
なんだか際限がなさそうで、お水をかけてなんとか静める。
『時間が経てば抜ける』
その言葉通り、待てばいいんだろう。
そう思うのだけど、ベッドに入ってもなかなか熱は引かなくて気がついたら、手が股間にいっちゃってたりして……
最初より、後々になってからの方が効いてきたみたいにも思える。
僕は堪らず、飛び起きた。
外の空気でも吸って気持ちを落ち着けようと、寝衣のままで庭に出た。
何もない芝生の上を歩くよりも、薔薇を見たいと思い立ち、香りを頼りに方向を決めた。
本当は入っちゃいけない庭だ。
薔薇が咲く一角は、ギルバート様の大切な思い出の場所。
だからこそ、見たいと思った。
ブローチの話を聞いた後だったから……
薔薇を愛するギルバート様のお母様はどんな方だったんだろう。
お母様の大事にしていた薔薇を、ギルバート様も大事になさってる。
きっと慈愛に満ちた素晴らしい方だったんだろう。
その死が、ギルバート様の心を閉ざしてしまうほどに――
「……綺麗だな」
月明かりの下で、白い薔薇はひっそりと息づいていた。
銀色に輝く薔薇を見ると、「銀の薔薇」のことを思い出す。
ランディさんは「銀の薔薇」のことを聞きにくるだろうか。
正直、嘘を吐くのは苦手だ。
どうやって、誤魔化せばいいだろう。
何も盗まれていないなら、話しても構わない?
でも、本当に何も盗まれていない?
キスはされちゃったけど……
僕のファーストキスが奪われましたなんてのは、事件にもならないだろう。
そう言えば、ギルバート様の部屋はすぐ側にあった。
ひょっとして、銀の薔薇はギルバート様の持ち物を盗みに入ったんじゃないだろうか。
僕に見つかったから、何も盗らずに去っていったのかもしれない。
銀の薔薇と会った辺りまで足を進めてから、僕はギルバート様の部屋の位置を確認した。
「あっ、窓が開いている」
ギルバート様の部屋の窓が開いているのに気づいて、嫌な予感がした。
また怒られるとかそういうのではない。
また「銀の薔薇」が現れたのではないかと、そういう悪い予感だ。
あの時に盗めなかったものを、盗みに来たんじゃないか。
そう思ったら、身体が勝手に動き出していた。
急いで、ギルバート様の部屋まで行く。
使用人がテラスから入ってはいけないだなんて、この際、無視だ。
「ギルバート様」
勢いよく部屋に入ると、そこにいたのは蝶のような仮面をつけた男だった。
白いマントがヒラリと風に舞う。
男は僕に気づくと、瞬間、鋭い視線を向けてきた。
部屋には灯りが点いていたから、前よりもその顔がはっきりと見える。
面立ちも、瞳の色もギルバート様に似ていた。
でも、その口許が決してギルバート様ではないことを物語る。
薄っすらと笑みを浮かべながら、彼は僕に近づいてくる。
「やあ、またお会いしましたね。可愛い妖精さん」
声までギルバート様に似ている。前に会ったときは、まだギルバート様のことを知らなかったから気づかなかった。
ただ、似てはいるけど、ギルバート様の抑揚のない声と違って、銀の薔薇の声は音楽のような軽やかな響きがあった。
なんだか楽しそうだな。
良いことでもあったんだろうか。
まさか、もう何か盗まれた?
きょろと見回すと、車椅子を見つけた。
けど、ベッドにもギルバート様の姿はない。
まさか……まさか……ギルバート様が盗まれた?
「ギルバート様をどこへやった?」
そう訊ねると、銀の薔薇は笑みを深めた。
「さあ、どこでしょうね」
ふふっと笑いながら、銀の薔薇は僕に近づいてくる。
「ギルバート様を盗んだのか」
それを聞いた銀の薔薇は声を出して笑った。
「笑うな。ギルバート様を返せっ」
銀の薔薇を殴ってやろうと拳を繰り出すも、簡単に腕を掴まれてしまった。
「返してほしいですか」
「うっ、ギルバート様いなにかあったら、お前のことを殺してやる」
銀の薔薇は小さく笑って、僕の顔に唇が触れるほど近づいてきた。
「勇ましいですが、こんな細腕では何もできないでしょう」
吐息が頬にかかる。
それだけで、息が上がってしまう。
「はぁ…んっ、離せっ」
変に声が上擦った。
「おや、随分と艶のある声を出すんですね」
揶揄いまじりに言って、銀の薔薇が僕の頬を舐めた。
「やっ、やだぁ…」
逃げたいのに、力が入らない。
「君は随分と敏感なんですね」
「ちがっ……これは薬のせい……」
そう答えると、銀の薔薇の瞳が妖しく揺らめいた。
「薬……ですか。純情そうに見えて、君は随分と淫らな遊びが好きなんですね」
違うと首を振る。
「じゃあ、誰かに飲まされたんですか?」
コクコクと首を縦に振った。
「それで、まだ足りなくて疼いていると……そういうことですか」
そろりと股間を撫でられて、びくんと反応してしまう。
「あっ、やだっ」
「ここは嬉しそうに震えていますよ」
そろそろと上下に手を動かされて、陰茎が反応を示す。
下着がいやらしい液で濡れていくのがわかる。
「やっ…だめっ……ギルバート様っ、ギルバート様っ」
ギルバート様をお助けしなきゃいけない立場なのに、助けを呼んでどうするんだろう。
そう思いつつも、僕はギルバート様の名を呼んでいた。
「ギルバート様ね。彼を助けたいですか?」
問われて、僕は銀の薔薇の眼を見る。
紫色の瞳は宝石のように澄んでいて、瞳だけを見ると悪い人には見えない。
だけど、ギルバート様を盗んだんだ。
悪いに決まっている。
「ギルバート様は無事なんだろうな」
「ええ。ほんの少し大人しくしてもらっているだけですよ」
「ひどいことしてないだろうな」
僕の言葉を銀の薔薇は笑った。
「そんなに噛みつかなくてもいいと思いますが……君の主人は我儘で冷血漢だと聞きました。君が必死になる理由もないと思いますよ」
酒場で聞いた話から、ギルバート様に対しての噂は想像がつく。
確かに、優しくなんかされたことない。
だけど、ギルバート様がそうなった要因は僕にもあるんだ。
僕が一生かけてお守りしないと……
「ギルバート様は僕の大切な人だ。悪く言うなんて許さない」
思いっきり睨みつけると、銀の薔薇は僕の腕を離した。
勝った。
そう思ったのも束の間、銀の薔薇は揶揄うように眼を細めた。
「許さない……ですか。では、どうするつもりですか?」
「どうって……」
力で敵わないとなれば、大声で人を呼ぶか。
でも、ギルバート様が危険に曝されてしまうのは困る。
考えあぐねていると、銀の薔薇はひらりと舞うようにベッドまで足を運び、ストンと腰かけた。
優雅な所作は育ちの良さを感じさせる。
でも、貴族が泥棒なんてしないよな。
「君次第で、主人を解放してあげても構いませんよ」
銀の薔薇の申し出に、僕は考えもなしに頷いた。
「おや、何をするのか聞かないうちに、返事なんかしていいんですか」
銀の薔薇は挑戦的に僕を見る。
まるで、この状況を楽しんでいるようにも見える。
実際、銀の薔薇はその唇に笑みを絶やさない。
作り笑いなのかもしれないけど、綺麗な唇が象る笑みは印象を柔らかくしている。
ギルバート様を攫った悪い奴なのに――
「ギルバート様の為なら、僕はなんでもする」
決意を口にすると、銀の薔薇は優雅に手を上げ、こっちを指差した。
「そこの椅子を、こちらまで運んできてください」
命令にしては、柔らかい物言いだった。
僕は何をするのかわからずも、言われた通りに彼の手前まで椅子を運んでいった。
「その椅子に座ってください」
僕が座るための椅子だったんだ。
真意が掴めないまま、僕は銀の薔薇の指示に従って腰かけようとした。
「ああ、そのままじゃ駄目ですよ」
不意に止められて、僕は中腰の格好で止まる。
「えっ?」
「服を全部脱いでから、座ってください」
何を言われたのか、すぐに理解できなかった。
「主人を助けたいのでしょう」
止めを刺されて、僕は訳がわからないままに服を脱いだ。
銀の薔薇は僕に一体、何をさせようというんだろう。
「全部ですよ」
下着を残して躊躇っていると、そう促された。
部屋が明るいから恥ずかしいと思ったけど、灯りを消してくれと盗人に頼んだところで笑われるのがオチだ。
諦めて、僕は全てを脱ぎ捨てた。
さっき掠めるように布越しに触られた性器は、先走りに濡れてぴょんと勃ち上がっていた。
恥ずかしいと手で隠すと、酷な命令をされた。
「隠しては駄目ですよ。君のいやらしい部分を見せてください」
言われて、僕は手をどけた。
勃起したピンク色の性器が、銀の薔薇の眼に晒される。
「みっ、見るなっ」
「君は立場をわかっているのでしょう。拒めば、主人は二度と戻ってこないと思ってくださいね」
にこりと笑って、怖いことを言う。
屈辱に耐えながら、僕は裸で椅子にお尻を下した。
直に肌に触れたことはなかったけど、いつもの柔らかい感触はそのままだった。
ただ刺繍部分が引っかかる気がする。
足を揃えて、極力、股間が隠れるような座り方をしていると、銀の薔薇がとんでもない命令をしてきた。
「足を開いて、ひじ掛けに掛けてください」
足を開く。
それで、肘掛けにかける。
ええええーーーーーっ!!!
「むっ、無理ですっ」
そんなことをしたら、恥ずかしいところが丸見えじゃないか。
「何度も言わせないでくださいね。君は主人のためなら、どんなことでもすると言ったでしょう」
ぐっと言葉に詰まる。
そうだった。
でも、誰にも見せたことのないところまで丸見えだ。
ひょっとして、辱めを受けるんだろうか。
せっかくサイラス様が助けてくださったのに……
こんな風に好きでもない相手に嬲り者にされるだなんて、悲しすぎる。
でも、ギルバート様のためなら……我慢しよう。
足を開いて、片方の肘掛けに膝裏を当てる。
なんとかできて、もう片方と思ったら意外に難しかった。
四苦八苦しながら足を掛けると、見ていた銀の薔薇が笑った。
ううっ、やれと言ったのはお前じゃないか。
「……できました」
「ピンク色ですね」
目線が思いっきり股間に向けられていて、どこの色なのかがわかる。
見ないで……と言いかけて、言葉を飲み込んだ。
ギルバート様を助けるためなんだ。
「見られて恥ずかしいですか?」
問われてコクコクと頷く。
「でも、見られて興奮しているんじゃないですか」
言われて、ひくんと性器が反応する。
「こっ、これは……薬のせいで」
「そういうことにしておきましょうか」
「本当に薬のせいなんです」
必死に訴えたけど、銀の薔薇は笑うばかりで信じてない様子だった。
でも、笑われても仕方がないほど、僕の性器はビクビクと震えて反応を示していた。
こんなの嫌なのに……
ぐすっと鼻を啜りながら、僕は銀の薔薇を真っすぐに見据えた。
仮面で顔の半分は隠れているのだけど、その瞳の色と顎の輪郭なんかはギルバート様に似ている。
帽子からはみ出た銀の髪も、ギルバート様を彷彿とさせる。
だから、ギルバート様に見られてるような気もしてきて……
「おや、先走りが溢れてきましたね。私に早く犯されたいと催促してるんでしょうか」
違うと、僕は首を振る。
「つれない人だ。そう言えば、君には大事な人がいると言っていましたね。その誰かを思い浮かべたんでしょうか」
ドキッと鼓動が跳ねる。
言い当てられて、身体中が火照ってくる。
「図星だったようですね。それが誰なのか……気になるところですが、その前に、君にはもっと私を楽しませてもらいます」
「楽しませる?」
わからずに問うと、銀の薔薇は悪戯っぽい眼をした。
「君が淫らに腰を振る様を見せてください」
「えっ……それって…」
性行為を求められているんだろうか。
でも、僕は未経験でどうしていいかわからない。
「自涜くらいしたことがあるでしょう」
強要されていることがわかって、顔から火が出そうに熱くなる。
「自分で淫らに弄って見せてください」
隠れてこっそりするのだって、背徳の念にかられる。
処理しないと駄目なのはわかっていても、どうしても慣れない。
ましてや、人に見せるなんて……
「まさか、したことがないなんて言わないでしょう。そのピンク色の幼い性器を指で擦り上げればいいんですよ」
幼いと馬鹿にされ、やり方まで口にされて、羞恥心が増す。
でも、やらなきゃギルバート様が助からない。
「んっ……はあぁ…」
そろと手を伸ばして、陰茎を掴んだ。
降れるだけで感じてドロッと粘つく液体が鈴口から出てくる。
すぐに手は自分のいやらしい液でべたべたになった。
グチュグチュと濡れた音が部屋中に響く。
自分の耳にも嫌でも聞こえてくるから、恥ずかしくて堪らない。
「んっ……はあっ…ふうっ……」
甘ったるい声が口をついて出てくる。
止めようと思うけど、口を開かないでいることは苦しかった。
「可愛らしい声ですね。私に見られて、陰部を愛撫するのが、そんなに気持ちいいんですか」
恥ずかしいことを口にされて、悔しいのに快感は引かない。
薬のせいなんだろうけど、異常なほどに欲望が高まる。
腰まで浮かせて、僕は我慢できずに性器を弄る手を速めた。
「んっ…ああぁ…んあっ」
一気に上りつめてしまおうと思った矢先、銀の薔薇が制した。
「手をどけてください」
「えっ……ああぁ…」
残念そうな声が漏れて、自分でも情けなくなる。
でも、なんとか我慢して手をどけた。
「反り返って、苦しそうですね」
こくこくと頷く。
だから、もう射精させてほしいと……
「イキたいですか?」
問われて、それにも頷いた。
「それなら、後ろで感じてイッてください」
「……後ろ?」
快感に思考が散漫になっている。
なにをどうしていいかわからず、ただ熱っぽい眼を銀の薔薇に向けた。
「お尻の孔ですよ。使ったことはあるでしょう」
「お尻……」
想像しただけで、カーッと全身が沸騰したみたいに熱くなる。
ブンブンと首を振って、僕は否定した。
「そうですか。男同士はそこを使って性交をするのですよ。薬を使われて犯されたと言いませんでしたか」
「薬は飲まされたけど、なにもされてませんっ」
銀の薔薇は立ち上がって、僕の前まで来ると、いきなり跪いて僕の股間を覗き込んできた。
「やだっ…んっ…くっ」
見るなと言いたかったけど、必死でこらえた。
「いい子ですね。主人のためにそこまでできるのは使用人の鑑です」
褒められても嬉しくない。
「んんっ…」
フルルと震える陰茎をそろと銀の薔薇が撫でた。
思わず、ぞくっと痺れるような感覚が走る。
あとちょっとで射精できるんだ。
腰を動かして、銀の薔薇の指に自身を押し付けるように動くも、指はすぐに離れてしまった。
でも、その指は袋を掠めてから、後ろに滑る。
「あっ、そこっ…」
「ええ、ここですよ」
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