rose of silver

春野いちご

文字の大きさ
上 下
8 / 22

7

しおりを挟む
 屋敷の裏手から僕はこっそりと入った。
 僕が帰るだろうと、錠を外しておいてくれたみたいで、木戸は簡単に開いた。
 音を立てないように、僕は自分の部屋へと向かう。

「アレク、やっと帰ったか」

 待ち構えたようにキースさんが、柱の陰から出てきて、びっくりする。
「あっ、キースさんっ」
「遅いから心配したぞ。ところで馬はどうした?」
 問われて、僕はペコペコと頭を下げた。
「すみません。」眼を離した隙に、盗まれてしまったんです」
「盗まれた……本当にそうなのか?」
 問われて、僕は真っ直ぐにキースさんの眼を見た。
「本当です。酒場で黒い貴婦人のことを聞いている間に盗まれたんです」
「酒場まで行ったのか」
 驚いたようにキースさんが眼を見開いた。
「どのお店も閉まっていて、開いてるお店が酒場だったんです。ひょっとしたら、黒い貴婦人というお酒があるのかもしれないと思って……それで、酒場で知っているという人に会って、案内された場所について行ったら」
「ついて行ったのか」
 今度は呆れたような顔をされた。
「……軽率だったと反省しています。でも、騎士のランディさんと……サイラス様に助けてもらったんです」
 サイラス様の名前を出すと、キースさんが眉を寄せた。
「サイラス様と会ったのか」
「はい。ここまで送ってくださったんです」
 そう答えると、キースさんが僕の肩を掴んだ。
「ああぁ…っ」
 敏感になっている身体はそろそろ落ち着いても良さそうなのに、触られると反応してしまう。
 早くお風呂に入って、処理したい。
「ああ、すまない」
 僕が変な声を出したからか、キースさんは慌てて手をどけてくれた。
「いえ、その……変な薬を使われたみたいで」
「アレク、その……大丈夫なのか?」
 僕は小さく頷く。
「お水を飲んでから、少し落ち着いたみたいです。でも、触れられたりすると……その……」
 感じてしまうとは言いにくくて、言葉を濁す。
 キースさんもわかってくれたようで、僕に優しい言葉をかけてくれた。
「大変だったようだな。今日はもう休むといい」
「はい。では、失礼します」
 僕はお辞儀をして、部屋へと戻ろうとした。
「アレク」
 呼び止められて、僕は立ち止まった。
「サイラス様のことだが……ギルバート様には黙っていた方がいい」
 キースさんの言葉に、僕は素直に頷いた。
 ギルバート様にどう話していいかもわからないし。
「わかっているならいい。おやすみ」
 キースさんはそれだけ言って、僕とは反対側へと歩いていった。

 わかっている。
 二人の間に埋められない溝があることは……
 でも、できれば仲直りしてほしい。




 お風呂に入って、ちょっとだけ弄ってみた。
 自涜は後ろめたい気持ちにさせる。
 けど、身体に燻る熱を出さないと、疼きが治まりそうになかったから、声を殺して処理した。
 でも、射精しても疼きは消えなかった。
 なんだか際限がなさそうで、お水をかけてなんとか静める。

『時間が経てば抜ける』

 その言葉通り、待てばいいんだろう。
 そう思うのだけど、ベッドに入ってもなかなか熱は引かなくて気がついたら、手が股間にいっちゃってたりして……
 最初より、後々になってからの方が効いてきたみたいにも思える。
 僕は堪らず、飛び起きた。
 外の空気でも吸って気持ちを落ち着けようと、寝衣のままで庭に出た。
 何もない芝生の上を歩くよりも、薔薇を見たいと思い立ち、香りを頼りに方向を決めた。
 本当は入っちゃいけない庭だ。
 薔薇が咲く一角は、ギルバート様の大切な思い出の場所。
 だからこそ、見たいと思った。
 ブローチの話を聞いた後だったから……
 薔薇を愛するギルバート様のお母様はどんな方だったんだろう。
 お母様の大事にしていた薔薇を、ギルバート様も大事になさってる。
 きっと慈愛に満ちた素晴らしい方だったんだろう。
 その死が、ギルバート様の心を閉ざしてしまうほどに――

「……綺麗だな」

 月明かりの下で、白い薔薇はひっそりと息づいていた。
 銀色に輝く薔薇を見ると、「銀の薔薇」のことを思い出す。
 ランディさんは「銀の薔薇」のことを聞きにくるだろうか。
 正直、嘘を吐くのは苦手だ。
 どうやって、誤魔化せばいいだろう。
 何も盗まれていないなら、話しても構わない?
 でも、本当に何も盗まれていない?
 キスはされちゃったけど……
 僕のファーストキスが奪われましたなんてのは、事件にもならないだろう。
 そう言えば、ギルバート様の部屋はすぐ側にあった。
 ひょっとして、銀の薔薇はギルバート様の持ち物を盗みに入ったんじゃないだろうか。
 僕に見つかったから、何も盗らずに去っていったのかもしれない。
 銀の薔薇と会った辺りまで足を進めてから、僕はギルバート様の部屋の位置を確認した。
「あっ、窓が開いている」
 ギルバート様の部屋の窓が開いているのに気づいて、嫌な予感がした。
 また怒られるとかそういうのではない。
 また「銀の薔薇」が現れたのではないかと、そういう悪い予感だ。
 あの時に盗めなかったものを、盗みに来たんじゃないか。
 そう思ったら、身体が勝手に動き出していた。
 急いで、ギルバート様の部屋まで行く。
 使用人がテラスから入ってはいけないだなんて、この際、無視だ。

「ギルバート様」

 勢いよく部屋に入ると、そこにいたのは蝶のような仮面をつけた男だった。
 白いマントがヒラリと風に舞う。
 男は僕に気づくと、瞬間、鋭い視線を向けてきた。
 部屋には灯りが点いていたから、前よりもその顔がはっきりと見える。
 面立ちも、瞳の色もギルバート様に似ていた。
 でも、その口許が決してギルバート様ではないことを物語る。
 薄っすらと笑みを浮かべながら、彼は僕に近づいてくる。
「やあ、またお会いしましたね。可愛い妖精さん」
 声までギルバート様に似ている。前に会ったときは、まだギルバート様のことを知らなかったから気づかなかった。
 ただ、似てはいるけど、ギルバート様の抑揚のない声と違って、銀の薔薇の声は音楽のような軽やかな響きがあった。
 なんだか楽しそうだな。
 良いことでもあったんだろうか。
 まさか、もう何か盗まれた?
 きょろと見回すと、車椅子を見つけた。
 けど、ベッドにもギルバート様の姿はない。
 まさか……まさか……ギルバート様が盗まれた?

「ギルバート様をどこへやった?」

 そう訊ねると、銀の薔薇は笑みを深めた。
「さあ、どこでしょうね」
 ふふっと笑いながら、銀の薔薇は僕に近づいてくる。
「ギルバート様を盗んだのか」
 それを聞いた銀の薔薇は声を出して笑った。
「笑うな。ギルバート様を返せっ」
 銀の薔薇を殴ってやろうと拳を繰り出すも、簡単に腕を掴まれてしまった。
「返してほしいですか」
「うっ、ギルバート様いなにかあったら、お前のことを殺してやる」
 銀の薔薇は小さく笑って、僕の顔に唇が触れるほど近づいてきた。
「勇ましいですが、こんな細腕では何もできないでしょう」
 吐息が頬にかかる。
 それだけで、息が上がってしまう。
「はぁ…んっ、離せっ」
 変に声が上擦った。
「おや、随分と艶のある声を出すんですね」
 揶揄いまじりに言って、銀の薔薇が僕の頬を舐めた。
「やっ、やだぁ…」
 逃げたいのに、力が入らない。
「君は随分と敏感なんですね」
「ちがっ……これは薬のせい……」
 そう答えると、銀の薔薇の瞳が妖しく揺らめいた。
「薬……ですか。純情そうに見えて、君は随分と淫らな遊びが好きなんですね」
 違うと首を振る。
「じゃあ、誰かに飲まされたんですか?」
 コクコクと首を縦に振った。
「それで、まだ足りなくて疼いていると……そういうことですか」
 そろりと股間を撫でられて、びくんと反応してしまう。
「あっ、やだっ」
「ここは嬉しそうに震えていますよ」
 そろそろと上下に手を動かされて、陰茎が反応を示す。
 下着がいやらしい液で濡れていくのがわかる。
「やっ…だめっ……ギルバート様っ、ギルバート様っ」
 ギルバート様をお助けしなきゃいけない立場なのに、助けを呼んでどうするんだろう。
 そう思いつつも、僕はギルバート様の名を呼んでいた。
「ギルバート様ね。彼を助けたいですか?」
 問われて、僕は銀の薔薇の眼を見る。
 紫色の瞳は宝石のように澄んでいて、瞳だけを見ると悪い人には見えない。
 だけど、ギルバート様を盗んだんだ。
 悪いに決まっている。
「ギルバート様は無事なんだろうな」
「ええ。ほんの少し大人しくしてもらっているだけですよ」
「ひどいことしてないだろうな」
 僕の言葉を銀の薔薇は笑った。
「そんなに噛みつかなくてもいいと思いますが……君の主人は我儘で冷血漢だと聞きました。君が必死になる理由もないと思いますよ」
 酒場で聞いた話から、ギルバート様に対しての噂は想像がつく。
 確かに、優しくなんかされたことない。
 だけど、ギルバート様がそうなった要因は僕にもあるんだ。
 僕が一生かけてお守りしないと……
「ギルバート様は僕の大切な人だ。悪く言うなんて許さない」
 思いっきり睨みつけると、銀の薔薇は僕の腕を離した。
 勝った。
 そう思ったのも束の間、銀の薔薇は揶揄うように眼を細めた。
「許さない……ですか。では、どうするつもりですか?」
「どうって……」
 力で敵わないとなれば、大声で人を呼ぶか。
 でも、ギルバート様が危険に曝されてしまうのは困る。
 考えあぐねていると、銀の薔薇はひらりと舞うようにベッドまで足を運び、ストンと腰かけた。
 優雅な所作は育ちの良さを感じさせる。
 でも、貴族が泥棒なんてしないよな。
「君次第で、主人を解放してあげても構いませんよ」
 銀の薔薇の申し出に、僕は考えもなしに頷いた。
「おや、何をするのか聞かないうちに、返事なんかしていいんですか」
 銀の薔薇は挑戦的に僕を見る。
 まるで、この状況を楽しんでいるようにも見える。
 実際、銀の薔薇はその唇に笑みを絶やさない。
 作り笑いなのかもしれないけど、綺麗な唇が象る笑みは印象を柔らかくしている。
 ギルバート様を攫った悪い奴なのに――

「ギルバート様の為なら、僕はなんでもする」

 決意を口にすると、銀の薔薇は優雅に手を上げ、こっちを指差した。
「そこの椅子を、こちらまで運んできてください」
 命令にしては、柔らかい物言いだった。
 僕は何をするのかわからずも、言われた通りに彼の手前まで椅子を運んでいった。
「その椅子に座ってください」
 僕が座るための椅子だったんだ。
 真意が掴めないまま、僕は銀の薔薇の指示に従って腰かけようとした。
「ああ、そのままじゃ駄目ですよ」
 不意に止められて、僕は中腰の格好で止まる。
「えっ?」
「服を全部脱いでから、座ってください」
 何を言われたのか、すぐに理解できなかった。
「主人を助けたいのでしょう」
 止めを刺されて、僕は訳がわからないままに服を脱いだ。
 銀の薔薇は僕に一体、何をさせようというんだろう。
「全部ですよ」
 下着を残して躊躇っていると、そう促された。
 部屋が明るいから恥ずかしいと思ったけど、灯りを消してくれと盗人に頼んだところで笑われるのがオチだ。
 諦めて、僕は全てを脱ぎ捨てた。
 さっき掠めるように布越しに触られた性器は、先走りに濡れてぴょんと勃ち上がっていた。
 恥ずかしいと手で隠すと、酷な命令をされた。
「隠しては駄目ですよ。君のいやらしい部分を見せてください」
 言われて、僕は手をどけた。
 勃起したピンク色の性器が、銀の薔薇の眼に晒される。
「みっ、見るなっ」
「君は立場をわかっているのでしょう。拒めば、主人は二度と戻ってこないと思ってくださいね」
 にこりと笑って、怖いことを言う。
 屈辱に耐えながら、僕は裸で椅子にお尻を下した。
 直に肌に触れたことはなかったけど、いつもの柔らかい感触はそのままだった。
 ただ刺繍部分が引っかかる気がする。
 足を揃えて、極力、股間が隠れるような座り方をしていると、銀の薔薇がとんでもない命令をしてきた。
「足を開いて、ひじ掛けに掛けてください」
 足を開く。
 それで、肘掛けにかける。
 ええええーーーーーっ!!!
「むっ、無理ですっ」
 そんなことをしたら、恥ずかしいところが丸見えじゃないか。
「何度も言わせないでくださいね。君は主人のためなら、どんなことでもすると言ったでしょう」
 ぐっと言葉に詰まる。
 そうだった。
 でも、誰にも見せたことのないところまで丸見えだ。
 ひょっとして、辱めを受けるんだろうか。
 せっかくサイラス様が助けてくださったのに……
 こんな風に好きでもない相手に嬲り者にされるだなんて、悲しすぎる。
 でも、ギルバート様のためなら……我慢しよう。

 足を開いて、片方の肘掛けに膝裏を当てる。
 なんとかできて、もう片方と思ったら意外に難しかった。
 四苦八苦しながら足を掛けると、見ていた銀の薔薇が笑った。
 ううっ、やれと言ったのはお前じゃないか。
「……できました」
「ピンク色ですね」
 目線が思いっきり股間に向けられていて、どこの色なのかがわかる。
 見ないで……と言いかけて、言葉を飲み込んだ。
 ギルバート様を助けるためなんだ。
「見られて恥ずかしいですか?」
 問われてコクコクと頷く。
「でも、見られて興奮しているんじゃないですか」
 言われて、ひくんと性器が反応する。
「こっ、これは……薬のせいで」
「そういうことにしておきましょうか」
「本当に薬のせいなんです」
 必死に訴えたけど、銀の薔薇は笑うばかりで信じてない様子だった。
 でも、笑われても仕方がないほど、僕の性器はビクビクと震えて反応を示していた。
 こんなの嫌なのに……
 ぐすっと鼻を啜りながら、僕は銀の薔薇を真っすぐに見据えた。
 仮面で顔の半分は隠れているのだけど、その瞳の色と顎の輪郭なんかはギルバート様に似ている。
 帽子からはみ出た銀の髪も、ギルバート様を彷彿とさせる。
 だから、ギルバート様に見られてるような気もしてきて……

「おや、先走りが溢れてきましたね。私に早く犯されたいと催促してるんでしょうか」

 違うと、僕は首を振る。
「つれない人だ。そう言えば、君には大事な人がいると言っていましたね。その誰かを思い浮かべたんでしょうか」
 ドキッと鼓動が跳ねる。
 言い当てられて、身体中が火照ってくる。
「図星だったようですね。それが誰なのか……気になるところですが、その前に、君にはもっと私を楽しませてもらいます」
「楽しませる?」
 わからずに問うと、銀の薔薇は悪戯っぽい眼をした。
「君が淫らに腰を振る様を見せてください」
「えっ……それって…」
 性行為を求められているんだろうか。
 でも、僕は未経験でどうしていいかわからない。
「自涜くらいしたことがあるでしょう」
 強要されていることがわかって、顔から火が出そうに熱くなる。
「自分で淫らに弄って見せてください」
 隠れてこっそりするのだって、背徳の念にかられる。
 処理しないと駄目なのはわかっていても、どうしても慣れない。
 ましてや、人に見せるなんて……

「まさか、したことがないなんて言わないでしょう。そのピンク色の幼い性器を指で擦り上げればいいんですよ」

 幼いと馬鹿にされ、やり方まで口にされて、羞恥心が増す。
 でも、やらなきゃギルバート様が助からない。

「んっ……はあぁ…」
 そろと手を伸ばして、陰茎を掴んだ。
 降れるだけで感じてドロッと粘つく液体が鈴口から出てくる。
 すぐに手は自分のいやらしい液でべたべたになった。
グチュグチュと濡れた音が部屋中に響く。
 自分の耳にも嫌でも聞こえてくるから、恥ずかしくて堪らない。
「んっ……はあっ…ふうっ……」
 甘ったるい声が口をついて出てくる。
 止めようと思うけど、口を開かないでいることは苦しかった。
「可愛らしい声ですね。私に見られて、陰部を愛撫するのが、そんなに気持ちいいんですか」
 恥ずかしいことを口にされて、悔しいのに快感は引かない。
 薬のせいなんだろうけど、異常なほどに欲望が高まる。
 腰まで浮かせて、僕は我慢できずに性器を弄る手を速めた。
「んっ…ああぁ…んあっ」
 一気に上りつめてしまおうと思った矢先、銀の薔薇が制した。
「手をどけてください」
「えっ……ああぁ…」
 残念そうな声が漏れて、自分でも情けなくなる。
 でも、なんとか我慢して手をどけた。
「反り返って、苦しそうですね」
 こくこくと頷く。
 だから、もう射精させてほしいと……

「イキたいですか?」

 問われて、それにも頷いた。
「それなら、後ろで感じてイッてください」
「……後ろ?」
 快感に思考が散漫になっている。
 なにをどうしていいかわからず、ただ熱っぽい眼を銀の薔薇に向けた。
「お尻の孔ですよ。使ったことはあるでしょう」
「お尻……」
 想像しただけで、カーッと全身が沸騰したみたいに熱くなる。
 ブンブンと首を振って、僕は否定した。
「そうですか。男同士はそこを使って性交をするのですよ。薬を使われて犯されたと言いませんでしたか」
「薬は飲まされたけど、なにもされてませんっ」
 銀の薔薇は立ち上がって、僕の前まで来ると、いきなり跪いて僕の股間を覗き込んできた。
「やだっ…んっ…くっ」
 見るなと言いたかったけど、必死でこらえた。
「いい子ですね。主人のためにそこまでできるのは使用人の鑑です」
 褒められても嬉しくない。
「んんっ…」
 フルルと震える陰茎をそろと銀の薔薇が撫でた。
 思わず、ぞくっと痺れるような感覚が走る。
 あとちょっとで射精できるんだ。
 腰を動かして、銀の薔薇の指に自身を押し付けるように動くも、指はすぐに離れてしまった。
 でも、その指は袋を掠めてから、後ろに滑る。
「あっ、そこっ…」
「ええ、ここですよ」

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。

さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。 忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。 「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」 気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、 「信じられない!離縁よ!離縁!」 深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。 結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...