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しおりを挟む誠(せい)は非常に真面目な男であった。だからこそ、官僚として国を支える役割を担うには大事な男だった。しかし、そんな誠にも悩みがあった。その悩みは公に語ることなどできないような、小さくも大きな悩みだったのである。
「今日も、元気がございませんねぇ」
「まったくだ、申し訳ない」
官僚であり、高給取りであり、背も高く見た目も申し分ない誠であったがしかし、不能だったのだ。精のつくものを食べてみても、めっきりしょげてしまっている誠の性器。一向に立ち上がることはない。妻の寛は慎ましく縮こまったものを人差し指でつんつんとつつくしかない。
「あらあら~~」
と答えるばかりであった。妻の寛もまた、できた人柄の女性であった。自分の立場、誠の立場も理解したうえで、起き上がらないそれを見ても動じることはない。誠はあまりのふがいなさに、床の上で頭を下げた。
「本当にすまない」
「そのようなこと、よろしいんですよ。私、誠様のことを性的な目でばかり見ているわけではございません」
うふふ、と寛は柔らかく笑ったが、世継ぎが必要であるこの状況で、彼女にそのようなことを言わせてしまう自分に、誠はまったくもって落ち込むばかりだった。官僚として模範となる家族形成に教育、また人脈づくりに子の存在は大事であった。何より寛の両親、自らの両親、誠と寛を支持する者たちが待ち望んでいるのである。誠は期待に答えたかった。受け入れてくれている寛に対しても、愛情を証明したいという気持ちも多くあった。しかし、誠のそれは縮こまってばかりなのだ。
寛は気にしなくてもいいというが、しかしながら、さすがに医者にも相談しなければならない。これは完全に自分の落ち度であり、彼女には一つとして非はない。なぜ自分が反応しないのか。彼女のことを敬愛し、信頼しているにもかかわらず、彼女の未来に影をおとさせてしまうのではないか。
結婚し二年の月日がたっても、誠は寛に反応することはなかった。彼女は申し分なくよい妻である。いつもしょげているものを見ても、嫌な顔一つせず、「あらあら」というばかりである。自分にはもったいないと誠は思った。あまりのやさしさに、誠は不能である自分ではなく、もっと将来性のある者との明るい未来を彼女にと考えるようになった。
寛は子を必要としている。寛の一族を絶やすことはできない。しかし、このまま一緒にいれば、できにくいという話ですらない。そこまでたどり着けないのだ。
医者はいつも通り首を横に振った。誠は寛との離縁を決めるに至った。
ただし、離縁するにも、ここは、彼女に一切の非がなく、自分が悪いとすべきであると誠は考えた。そうすれば彼女へ多額の離縁金も送れるはずである。寛には良いものを食べ、幸せに暮らしてほしいと誠は願っているのだ。自分と夫婦として体を繋ぐことはできなかったが、彼女に対する敬愛と信頼はたしかなものであった。
「浮気の実証を作らねば」
離縁金と慰謝料を多く払いたいがために誠は浮気をでっちあげることにした。しかしながら、誠は不能である。浮気などしようとしてもできないのが実際のところである。こうなれば、相手に嘘をついてもらわなければならない。そのようなことを頼める相手はないものかと考えているとふと、誠に妙案が浮かんだのであった。
それは夜に咲くきらびやかな華のような建物であった。一夜を買う場所。不能である誠には決して縁のない場所だと思っていたというのに、誠は意を決して一夜を買いに中に入った。何もしない一夜を買いに。
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