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告白

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「あのさ……実はさ。オレ。……宇宙人なんだ。」




ヒナノの脳裏で、一瞬、幼いリョウタと今のリョウタが重なった。




「オレは、地球人の観測範囲外の惑星から来たんだ。いずれ地球人と共存するために、この地球への関わりを続けてきた。」

「……共存?えっと関わる…って…」




「あっ別に侵略とかそんなんじゃないからな。えーっと……」


「オレ達のいた惑星はさ、星としての寿命を迎えつつあって。うーん、そうだな、地球人の時間にすると、後250年程しかもたない。だから移住するために別の星が必要になったんだ。」




ヒナノはリョウタを見つめたまま、静かに頷く。


「で、散々探して。やっと見つかったのが地球。それからいろんな調査を経て、地球がオレ達の移住先に決まって…。今はだいぶ多くの仲間が移住に向けて地球人と関わりながら、普通に暮らしてる。………オレみたいにな。」




幼稚園から、ヒナノとリョウタはずっと一緒に過ごしてきた。小学校も中学校もずっと一緒。ふっとそんな頃を思い出して、なんとなく2人は笑いあった。







「だけど3日前。地球に関する困った予測が2つでた。」
「予測?」
「そう。1つ目は、今日から1年と2か月後、世界規模の戦争が起きること。2つ目は、その戦争から3か月以内に、地球内の全ての生物が死滅すること。」





ヒナノは息をのんで聞き入った。



「オレ達は、この予測が現実となることを回避するため、戦争の原因となり得る一部の対象者の抹消と、その対象者に関わりを持つ全ての地球人の記憶を操作することを決めた。」

「……ぇ?」





リョウタは、自分の腕時計をチラっと見た。


「今から12分後、該当対象者の存在が抹消される。それから3秒後、その該当者と関わりのあった地球人、約数億人の記憶が一旦消去され、別の記憶が上書きされる。」
「…………………」


「あとな、ヒナ。……お前は、記憶操作の対象に入ってるんだ。」

「………………………へ?」
「ちなみにオレは、存在抹消。」



ヒナノは、驚きと混乱で言葉もなく、ただただリョウタを見つめた。







「ごめんな、いきなりこんな話。だけど。もう消えるんだってわかったら………あのな………全部伝えたくなってさ。」
「……?」


「オレさ。………オレ……もうずっと前からヒナが好きだった。明るくって前向きで。なんでも頑張ろうとすることころとか。頑固なとこも。アホで空回ってるとこも……全部。全部大好きだ。」
「………へ?え?あ、やだも~…へあ?な…ななな‥‥」


「ヒナ…‥大好き。」
「………ぁ、わ…た‥」



ピー ピー ピー ピー ピー ピー ピー ピー ピー
「!」
「!?」



何かが鳴り始めた。
ヒナノは不安を感じてリョウタを見た。



「ごめん。これで最後。時間がもうないや、ハハ」

そう言うと、リョウタはヒナノを引き寄せ抱きしめた。



「ヒナ。今までありがと。オレ、ヒナがいたからスッゲー楽しかった。……大丈夫だよ。ヒナはオレの記憶が消されるだけだから。ヒナの日常は変わらず続くから安心して。」


「…ぁ……ゃ、やだリョウタ」



ヒナノは絞りだすような声でリョウタを呼ぶと、すがりつくようにリョウタのシャツを掴んだ。



ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ

音が大きく、そして早くなる。




「ありがとな。ヒナ。大好きだよ。ヒナ…」

強く抱きしめながら、ヒナノの耳元でリョウタがそうささやいた直後、ヒナノの両手は空をきった。





「…ぁ……リョウ…?……………リョウタ!!」




そこにリョウタの姿はない。

ヒナノ以外誰もいない屋上で。

ヒナノの嗚咽だけが響き渡った。




「リョッ…リョウタ…グスッ‥………ひっく………やだよぅ……グズッ………………ケホッ?」




「………………え?…‥……ぁ…あれ?………私なんでこんな泣いてんの?やだもーなにぃ?恥ずかしいなぁもー」




何事もなかったようにそう言いながら、ヒナノはゴシゴシと涙を拭って立ち上がった。





「……………ぁ…そうだ。………………私、お母さんに買い物頼まれてたんだ。早く帰らなきゃ。」


そう呟いて、ヒナノは、いつものように帰路についた。

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