未来のひとつ前の物語

もちもち

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親父さん

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譲の葬式の後、オレは何もできなくて。
高校も行かず、部屋にこもってボンヤリしてた。


そんなある日。
うちのインターホンが鳴った。
それもかなりしつこく。

出る気はなかったんだけど。
あまりのしつこさに仕方なく玄関を開けると、そこには譲の親父さんが立っていた。


親父さんはオレの顔を見るなり涙ぐんで。

「よかった・・・君にまで何かあったのかと・・・」
と言った。



2~3日の感覚でいたけど、譲の葬式から半月ほど経っていたらしい。
その間、電話はつながらず、高校も行ってないと知り、心配して来てくれたそうだ。




親父さんが買って来てくれたコンビニ弁当を2人で食べて。

親父さんが沸かしてくれた風呂に入った。

ゴミと埃でいっぱいだった部屋が掃除されて、オレがずっと着てた服が洗濯して干されてた。





「時々来させてね」

そう言って、親父さんは帰っていった。








親父さんが帰った後、オレはいつのまにか眠ったらしい。
その夜、夢を見た。


譲の夢。

またヘラヘラ笑ってる。
休み時間の度にオレの席までやって来ては、昨日見たドラマには好きなアイドルが出てたんだとか、駅前にできたクレープ屋のなんちゃらクレープが食べたいから一緒に行こうとか・・・そんないつも通りの話しをしてる。

オレは譲と話しながら、心の中では「譲、生きてる!なんだちゃんと生きてるよ!」って思ってて。


すごく安心したんだ。
でもそこで目が覚めた。
夢の意味なんてわからない。


けど、オレは目が覚めてからずっと叫ぶみたいに泣き続けた。








譲の親父さんから渡された譲のカメラは、触ることもできないまま、箱に入れてしまい込んだ。











譲が死んだ後、正直、どうやって生きてきたのか、殆ど覚えていない。
だけど、譲の親父さんに何度も心配されたことだけは覚えてる。

オレは家族とかいないから、余計に心配かけただろうな・・・。


親父さんのおかげで、なんとか高校も卒業できて、小さな会社だけど就職もできた。

少しでも親父さんに何かできたら・・・と思って、一生懸命働いた。





でもそんな親父さんも、去年、癌で亡くなった。
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