見習い陰陽師の高校生活

風間義介

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再臨譚

60、再臨と最終戦争勃発の危険性

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 ジョンが保通との用事を済ませてから数時間後。
 空港へと向かう道中で、ジョンはある人物と通話をしていた。
 電話の相手は、どうやら海外にいるらしく、ジョンの口からは異国の言葉が放たれている。

「所長、例の件は片付きました」
『そうか。まずはご苦労だった』
「いえ。ですが、新たな問題も浮上してきたようです」
『新たな問題?』

 ジョンの通話相手が聞き返すと、ジョンは淡々とした様子で返す。

「遠い未来、『最終戦争』の勃発が確実となりました」
『どういうことだ?』
「日本の組織に属している術者の話では、再臨を阻止した若者たちが天命を全うしたのち、最終戦争を起こす。そう取れる内容の言葉を残したそうです」

 ジョンは光から聞いた言葉から連想できる単語をつなぎ合わせ、ルシフェルが言わんとしていたことを推測していた。
 あくまで推測に過ぎないため、思い違いである可能性も高い。
 だが、ジョン自身はその内容に間違いはないと思っていた。

「一部の宗教を信仰する人間たちの過激な思想や行動。新たな人権の創造と、それに伴う差別や争い。何より、物質的な豊かさが優先され、精神性が徐々に低下しています」
『『かの存在』の配下がつけ入る隙は十分すぎるほど育っている。そう言いたいのだな?』
「はい」

 ありとあらゆる自然現象を論理的に説明し、再現を可能にする技術である科学は、同時に人間を物質的に豊かにさせたが、同時に何千年という歴史の中で育ってきた精神性を低くしている
 悪事を働き、人間の目から逃れ続けた結果、法の裁きを受けることがなくとも、人間ではない自然を超越した存在により罰せられるという恐怖から、人間は少なからず善性を有した存在足りえた。
 だが、超常的な存在が論理的に否定され、人間以外から罰せられる可能性はほとんどないと知ってから、犯罪者の心に残っていたわずかな善性が消え去り、欲望のままに行動している。
 欲望は悪魔にとってこれ以上ない極上のエネルギー源。
 それを提供できる人間が増えたことで、悪魔もその勢力を増してきているとジョンは考えている。

「百年、いやあるいは千年という時間がかかるかもしれませんが、いずれにしても、『かの存在』は神と事を構える準備をしていることに間違いはないかと」
『あるいは、もうすでに準備を始めているかもしれないな』
「えぇ。完全な姿での降臨こそ叶わなかったものの、わずかでも術者と言葉を交わしたのですから」
『魂の欠片を残すことはできたかもしれない、か』
「えぇ。それが人間に植えられたか、それとも受肉し、人間として生きているかはわかりませんが」
『いずれにしても、このまま事態が終息するということはなさそうだな』

 通話相手のその言葉に、ジョンはなるべく早く帰還するよう、言外に告げられていることを察した。
 とはいえ、ジョン自身に空間を跳躍する、テレポーテーションのような能力はないし、ましてや翼を自在に生やして空を飛ぶこともできない。
 より具体的な対策を講じるため、いち早く本部へ帰還しなければならないが、こればかりは人類が生み出した科学の産物に頼る以外に手段がなかった。

「出国次第、連絡いたします」
『では、連絡があり次第、迎えの車を手配するとしよう』
「ありがとうございます。では後程」
『あぁ。良い旅を』

 その一言を最後に、通話相手は電話を切った。
 携帯をしまいながら、ジョンは再び空港へと向かい、足を早める。

――神敵の再臨と最終戦争勃発。まさか、その問題が同時に発生するとはな……まったく、悪魔一匹を退治するだけだったはずが、とんだ大事になってしまった

 ジョンとて、争いを望んでいるわけではない。
 できることなら、ゆったりと過ごしたいと思っているのだが、そんな都合をまったく考えない悪魔たちに対して、声に出さないまでも心中で文句を言っていた。



 それから数日後。
 『幻想召喚物語』は、アプリゲームをしていたら気分が悪くなったという事実があるためか、利用者数は若干の減少を見せているらしい。
 だが、それまでの根強い人気と、従業員や配信会社に所属する技術者が騒動の前に全員避難していたこともあり、メンテナンス期間こそ設けられたものの、現在もそのサービスは継続していた。
 それ以外に大きな変化はなく、人々はいつもと変わらない日々を謳歌している。
 そんな日々が続く、とある街の中で。

「ふむ……これほどの文明を築き上げるほど、人間は成長したのか。癪ではあるが、主との全面戦争を行うことはしばらく先に延ばしたほうがいいかもしれんな」

 と、意味の分からない言葉を口にする青年が一人。
 大都会の雑踏の中であったためか、その呟きを耳にした人間は一人もいない。
 だが、通りすがる人々は、青年のその美しさに目を引かれるらしく、青年の横を通るたびに視線を送る人間は絶えなかった。

――ここから先、人間がどのように発展していくか見守ってみても面白いかもしれん……いずれにしても、今しばらくはこの世界をめぐることにしよう

 その視線を気に掛ける様子もなく、青年は歩き出し、雑踏の中へと消えていった。
 この青年が口にした言葉の通り、まるで神々と悪魔が全面戦争を起こしたかのように、人類どころか地球上に存在するすべての生命体が存続の危機にさらされることとなる。
 だが、それは遠い未来のこと。
 彼が自ら護たちに語ったように、護たちがとうに寿命を迎え、冥界へと旅立ったのちの話である。
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