見習い陰陽師の高校生活

風間義介

文字の大きさ
上 下
270 / 276
再臨譚

55、術者たちの抵抗に怒る悪魔

しおりを挟む
 自分の体を悪魔祓いでもない、まして忌々しい『神』を信仰しているわけでもない極東の術者に傷つけられ、バフォメットは本気になっていた。
 彼の体から靄のようにあふれ出ている黒い魔力を感じ取った護たちは、自分たちの道具を持つ手に、力を籠める。

「こっからが本番だな」
「あぁ。一応言っておくが、ぬかるなよ?」
「どっちがだよ」
「が、頑張ります!」

 満の言葉に、護と月美がそれぞれの反応を示す。

「やってみせなさい!!」

 当然、護たちの言葉にバフォメットは怒号をあげる。
 その瞬間、護たちを激しい突風が襲う。
 だが、護たちはひるむことなく立ち向かっていく。

「オン、アビラウンキャン、シャラク、タン!!」
「まかれやまかれ、この矢にまかれ!!」
「甘いっ!!」

 護と月美が真言と神咒を唱え霊力をぶつけるが、バフォメットは怒号とともに魔力をぶつけ、相殺した。
 相殺した瞬間、バフォメットは両手から炎を呼び出し、ボールのように二人に投げつけてくる。
 向かってくる炎に対応しようと、護は火伏の真言を唱えようとするが間に合わない。

「くそっ!!」

 悪態づきながら、護は月美を庇おうと、彼女の前へ走り始める。
 その瞬間。

「禁っ!」

 光の声が高らかに響き、護の前に不可視の障壁が築かれる。
 バフォメットが放った炎は、その壁に阻まれ、護たちに被害を与えることはなかった。

「すまん!」
「気を抜くな、まだ来るぞ!!」

 謝罪する護に対し、光が厳しい言葉を投げる。
 その言葉の通り、バフォメットは黒い光を放つ無数の槍を投げつけてきた。
 西洋魔術の知識に乏しい護だが、その槍を受けることは悪手であると瞬時に判断し。

「臨兵闘者皆陣列在前!」

 右手で刀印を結び、素早く九字を唱えながら空中で十字を切った。
 すると、護の霊力が格子状の壁を作り、投げつけられてきた槍を受け止める。

「くっ?! 霊力の壁だと??!!」
「いまだっ!」

 漢字に変換してたった九文字。
 それほど短い呪文に、自分の魔術が防がれるとは思わなかったらしい。
 その驚愕で生まれた動揺を見逃す光ではなかった。

「ナウマクサンマンダ、インドラヤ、ソワカ!」

 どこにしまっていたのか、呪符を結び付けた棒状の手裏剣のようなものをバフォメットに投げつけながら、帝釈天の真言を唱える。
 その瞬間、バフォメットの眼前に迫ってきた手裏剣に向かって、上空から白い閃光が轟音とともに落ちてきた。
 光の速度には、悪魔といえども対応することはできないらしく、光の柱の中へ飲み込まれる。

「やったかっ?!」

 その光景に、光は思わずそう呟いてしまう。
 だが、それはいわゆる『フラグ』というものだ。

「なめるなと! 言っているだろうが!!」

 頭上に落ちてきた雷の中から、バフォメットの怒号が響く。
 同時に光がはじけ飛び、バフォメットが姿を現した。
 体の所々から煙が上がり、肩で息をしているため、決して無傷であるというわけではない。
 先ほどの雷神召喚は確実にバフォメットに傷を与えているのだが、完全に倒すにはまだ一歩、足りないようだ。

「帝釈天の真言で呼び出した雷でもダメなのか?!」
「効いてない、というわけじゃないようだがな」
「あぁ、さすがに効いたさ……だが、まだこの俺を倒すには届かないぞ!!」

 驚愕する光にツッコミを入れる護に返すように、バフォメットが吠える。
 それと同時に、再び魔力で暴風を巻き起こし、護たちにぶつけてきた。
 雷神召喚により呼び出された雷を受けた痛みが、それまでバフォメットを抑えていた理性を吹き飛ばしたらしい。
 先ほどよりも荒々しく、さらに力強い風が護たちに襲いかかってくる。

「茨よ! 我が配下たるアルラウネよ! 我が前に立ちはだかる敵を縛り上げよ!」

 さらに、護たちの動きを封じ込めようと、足元に茨を呼び出す。
 突然のことに対応できず。

「しまった!」
「きゃっ?!」
「くっ!!」

 護と月美、光は茨に巻き付かれてしまった。
 動きを封じた護たちにむかって、バフォメットは再び黒い光の槍を投げつけてくる。

「これで終わりだぁっ!!」
「禁っ!!」

 だが、唯一難を逃れた満が障壁を築き、向かってきた槍を防ぐ。
 さらに。

「オン、キリキャラ、ハラハラフタラン、バソツ、ソワカ!」

 護たちを縛り上げている茨を不動金縛り術に見立て、解縛法を試みる。
 パチリ、と指を鳴らすと、護たちを拘束していた茨がボロボロと崩れていく。

「ちっ! なかなかしぶといな!」
「あいにく、最終戦争なんてものを引き起こさせるわけにはいかないのでな!」

 忌々し気に声をあげるバフォメットに対し、光が吠えるように返す。
 何よりも、生存欲求は人間だけではなく、すべての生物が持っている本能だ。
 最終戦争により、現世の滅亡を引き起こそうなどとしている存在を前に、何が何でも抗おうとする行為は何ら不思議ではない。
 だが、バフォメットはその抵抗が何よりも腹立たしく。

「なぜ抗う?! それが本能だとしても、圧倒的な力を前にして、なぜ抗う?! 私は、いや、かのお方は貴様らを忌々しき神の呪いから解き放ってくれるというのに!!」

 突然、訳の分からないことを口走った。
 極東の、自分たち悪魔に対する対策が十分と言い切れないこの国で、最後の最後になって思うように事が運ばなくなったことも加わって、ついに思考が崩壊したのだろうか。
 護たちは何を言っているのかわからず、首をかしげていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

アレイスター・テイル

ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ
ファンタジー
一ノ瀬和哉は普通の高校生だった。 ある日、突然現れた少女とであり、魔導師として現世と魔導師の世界を行き来することになる。 現世×ファンタジー×魔法 物語

さようなら、家族の皆さま~不要だと捨てられた妻は、精霊王の愛し子でした~

みなと
ファンタジー
目が覚めた私は、ぼんやりする頭で考えた。 生まれた息子は乳母と義母、父親である夫には懐いている。私のことは、無関心。むしろ馬鹿にする対象でしかない。 夫は、私の実家の資産にしか興味は無い。 なら、私は何に興味を持てばいいのかしら。 きっと、私が生きているのが邪魔な人がいるんでしょうね。 お生憎様、死んでやるつもりなんてないの。 やっと、私は『私』をやり直せる。 死の淵から舞い戻った私は、遅ればせながら『自分』をやり直して楽しく生きていきましょう。

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

子爵令嬢マーゴットは学園で無双する〜喋るミノカサゴ、最強商人の男爵令嬢キャスリーヌ、時々神様とお兄様も一緒

かざみはら まなか
ファンタジー
相棒の喋るミノカサゴ。 友人兼側近の男爵令嬢キャスリーヌと、国を出て、魔法立国と評判のニンデリー王立学園へ入学した12歳の子爵令嬢マーゴットが主人公。 国を出る前に、学園への案内を申し出てきた学校のOBに利用されそうになり、OBの妹の伯爵令嬢を味方に引き入れ、OBを撃退。 ニンデリー王国に着いてみると、寮の部屋を横取りされていた。 初登校日。 学生寮の問題で揉めたために平民クラスになったら、先生がトラブル解決を押し付けようとしてくる。 入学前に聞いた学校の評判と違いすぎるのは、なぜ? マーゴットは、キャスリーヌと共に、勃発するトラブル、策略に毅然と立ち向かう。 ニンデリー王立学園の評判が実際と違うのは、ニンデリー王国に何か原因がある? 剣と魔法と呪術があり、神も霊も、ミノカサゴも含めて人外は豊富。 ジュゴンが、学園で先生をしていたりする。 マーゴットは、コーハ王国のガラン子爵家当主の末っ子長女。上に4人の兄がいる。 学園でのマーゴットは、特注品の鞄にミノカサゴを入れて持ち歩いている。 最初、喋るミノカサゴの出番は少ない。 ※ニンデリー王立学園は、学生1人1人が好きな科目を選択して受講し、各自の専門を深めたり、研究に邁進する授業スタイル。 ※転生者は、同級生を含めて複数いる。 ※主人公マーゴットは、最強。 ※主人公マーゴットと幼馴染みのキャスリーヌは、学園で恋愛をしない。 ※学校の中でも外でも活躍。

精霊が俺の事を気に入ってくれているらしく過剰に尽くしてくれる!が、周囲には精霊が見えず俺の評価はよろしくない

よっしぃ
ファンタジー
俺には僅かながら魔力がある。この世界で魔力を持った人は少ないからそれだけで貴重な存在のはずなんだが、俺の場合そうじゃないらしい。 魔力があっても普通の魔法が使えない俺。 そんな俺が唯一使える魔法・・・・そんなのねーよ! 因みに俺の周囲には何故か精霊が頻繁にやってくる。 任意の精霊を召還するのは実はスキルなんだが、召喚した精霊をその場に留め使役するには魔力が必要だが、俺にスキルはないぞ。 極稀にスキルを所持している冒険者がいるが、引く手あまたでウラヤマ! そうそう俺の総魔力量は少なく、精霊が俺の周囲で顕現化しても何かをさせる程の魔力がないから直ぐに姿が消えてしまう。 そんなある日転機が訪れる。 いつもの如く精霊が俺の魔力をねだって頂いちゃう訳だが、大抵俺はその場で気を失う。 昔ひょんな事から助けた精霊が俺の所に現れたんだが、この時俺はたまたまうつ伏せで倒れた。因みに顔面ダイブで鼻血が出たのは内緒だ。 そして当然ながら意識を失ったが、ふと目を覚ますと俺の周囲にはものすごい数の魔石やら素材があって驚いた。 精霊曰く御礼だってさ。 どうやら俺の魔力は非常に良いらしい。美味しいのか効果が高いのかは知らんが、精霊の好みらしい。 何故この日に限って精霊がずっと顕現化しているんだ? どうやら俺がうつ伏せで地面に倒れたのが良かったらしい。 俺と地脈と繋がって、魔力が無限増殖状態だったようだ。 そしてこれが俺が冒険者として活動する時のスタイルになっていくんだが、理解しがたい体勢での活動に周囲の理解は得られなかった。 そんなある日、1人の女性が俺とパーティーを組みたいとやってきた。 ついでに精霊に彼女が呪われているのが分かったので解呪しておいた。 そんなある日、俺は所属しているパーティーから追放されてしまった。 そりゃあ戦闘中だろうがお構いなしに地面に寝そべってしまうんだから、あいつは一体何をしているんだ!となってしまうのは仕方がないが、これでも貢献していたんだぜ? 何せそうしている間は精霊達が勝手に魔物を仕留め、素材を集めてくれるし、俺の身をしっかり守ってくれているんだが、精霊が視えないメンバーには俺がただ寝ているだけにしか見えないらしい。 因みにダンジョンのボス部屋に1人放り込まれたんだが、俺と先にパーティーを組んでいたエレンは俺を助けにボス部屋へ突入してくれた。 流石にダンジョン中層でも深層のボス部屋、2人ではなあ。 俺はダンジョンの真っただ中に追放された訳だが、くしくも追放直後に俺の何かが変化した。 因みに寝そべっていなくてはいけない理由は顔面と心臓、そして掌を地面にくっつける事で地脈と繋がるらしい。地脈って何だ?

【完結】白蛇神様は甘いご褒美をご所望です

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
キャラ文芸
廃業寸前だった小晴の飴細工店を救ったのは、突然現れた神様だった。 「ずっと傍にいたい。番になってほしい」 そう言い出したのは土地神である白蛇神、紫苑。 人外から狙われやすい小晴は、紫苑との一方的な婚約関係を結ばれてしまう。 紫苑は人間社会に疎いながらも、小晴の抱えていた問題である廃業寸前の店を救い、人間関係などのもめ事なども、小晴を支え、寄り添っていく。 小晴からのご褒美である飴細工や、触れ合いに無邪気に喜ぶ。 異種族による捉え方の違いもありすれ違い、人外関係のトラブルに巻き込まれてしまうのだが……。 白蛇神(土地神で有り、白銀財閥の御曹司の地位を持つ) 紫苑 × 廃業寸前!五代目飴細工店覡の店長(天才飴細工職人) 柳沢小晴 「私にも怖いものが、失いたくないと思うものができた」 「小晴。早く私と同じ所まで落ちてきてくれるといいのだけれど」 溺愛×シンデレラストーリー  #小説なろう、ベリーズカフェにも投稿していますが、そちらはリメイク前のです。

伝説となった狩人達

さいぞう
ファンタジー
竜人族は、寿命が永い。 わしらの知る限りの、狩人達の話をしてやろう。 その生き急いだ、悲しき物語を。

異世界のんびり冒険日記

リリィ903
ファンタジー
牧野伸晃(マキノ ノブアキ)は30歳童貞のサラリーマン。 精神を病んでしまい、会社を休職して病院に通いながら日々を過ごしていた。 とある晴れた日、気分転換にと外に出て自宅近くのコンビニに寄った帰りに雷に撃たれて… ================================ 初投稿です! 最近、異世界転生モノにはまってるので自分で書いてみようと思いました。 皆さん、どうか暖かく見守ってくださいm(._.)m 感想もお待ちしております!

処理中です...