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再臨譚
51、儀式が行われている場所は別にあったらしい
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悪魔討伐。
はたして経験のない自分たちにそんなことができるだろうか。
そんな不安が護たちにのしかかっていたが。
「できる、できないの問題ではない。やるしかない」
「いざとなれば、力ずくだ」
「いいのか、それで?」
「ま、まぁ、『柔よく剛を制し、剛よく柔を断つ』なんていうし……」
「そういうことだ。時として、力技も有効というわけだ」
護たちが呪術を行使するときに助力を願う神仏には、宗教の違いから同一化されたものも多数存在している。
その中に、西洋の存在にも有効な呪術が含まれているかもしれない。
その可能性にかけて、ごり押しをしていくつもりのようだ。
「だが、旧約聖書に名を連ねるほど古い時代から存在している『明けの明星』にその理屈が通じるかどうか」
「さすがに神代の存在に人間の理屈は通じないだろうしな」
「てことは、タイムリミットは『明けの明星』が召喚されるまで」
「わずか一部。腕一本ぐらいならまだどうにかなるかもしれんがな」
体の一部だけであれば、現世に顕現したとしても影響は小さくて済むかもしれない。
だが、相手は神に等しい力を持ちながらも反逆し、地の底へと追いやられたという大天使。
おまけに、メソポタミアやギリシャでは『美の女神』の化身である金星の呼び名と同じ名を与えられた存在だ。
たとえ、体の一部だけであったとしても、現世に顕現した場合、どれだけの影響を与えるかわかったものではない。
それはこの場にいる全員がわかっていることだ。
「だが、かの存在が与える影響は未知数である以上、力押しでもなんでもやらなければならん」
「無理を通して道理にする、か」
「なら、なおのこと急がないとね」
少なくとも、『明けの明星』を相手にするよりも悪魔を相手にした方が、より確実にこの異変を無事に解決することができる。
護たちの考えは一致しており、それ以上は議論を交わすことなく、オフィスに入り、魔法陣を発生させていると思われるもの、あるいは魔法陣そのものを探し始めた。
だが。
「起動しているパソコンが一つもねぇ……」
「タブレットとかもないよ」
「紙や床に魔法陣が部屋に描かれている、というわけでもないようだ」
魔法陣を発生させていると思われる媒体が何も見つからない。
かといって、このオフィスそのものに何か異常があるというわけでもなく、どこに魔法陣が描かれているわけでもない。
「いったい、どこに……」
光が苛立たし気に髪をかき混ぜながら、どこか気になった場所がなかったか、何か違和感を覚えた箇所がなかったか、記憶を掘り起こしていた。
光だけでなく、護も満もまた、自分たちが探した場所に奇妙な点がなかったか、思い出そうとする。
そんな中、月美はふと自分のすぐ近くの机に視線を向けた。
「……あれ?」
「どうした、月美?」
「うん。この机だけ、パソコンがないんだ」
ほら、と月美は自分のすぐ隣の机を指さす。
確かに、ほかの机にはデスクトップ型のパソコン一式が一台ずつ備えつけられているというのに、その机だけ、モニターもハードウェアもなくなっている。
「……まじだ」
「どこにやったんだ?」
ノートパソコンならば、そもそも携帯することを前提とした設計であるため、持ち出されていてもおかしくはない。
だが、デスクトップパソコンはその大きさもさることながら、本体だけでなく、モニターやマウス、キーボードなどの周辺機器がそれぞれ外付けになっている。
持ち運べないということはないが、一刻も早く避難しなければならないという状況で、それらすべてをわざわざ持ち出すだろうか。
「……なぁ、屋上にも電源になるようなものはあるよな?」
「あぁ。おそらくな」
「けど、それが……いや、まさか」
護の言葉に、満と光の脳裏に、ある可能性が浮かんできた。
「魔法陣。正確にはそのデータを作り上げた場所がここであることは確実だ」
「だが、何もこの場所で展開して儀式を行う必要はない」
「あぁ。それに、儀式を行うならそれなりの場所が必要になる」
「このオフィスにそんなことができるほどのスペースを確保できる場所があるとは思えん」
「ほかの階も同じことだ。なにより、ここに来るまでの間に、何も感じなかった」
「ということは、魔法陣が展開されている場所はここではない」
「もっと上の階ってこと?」
護たちの会話に、月美は天井を見上げる。
当初、自分たちが現在いる階が魔法陣の中心だと思っていたのだが、ここに至るまで何も違和感を感じることがなかった。
周囲から妖や悪魔を引き寄せるほどの霊力が漏れ出ているにも関わらず、だ。
それだけでなく。
「空に映っていた魔法陣。あれの形が完璧すぎる」
「仮に光が強く外に漏れ出ていたとしても、建物の中で展開されているなら、建物で覆われている部分は影になっているはずだ」
「そういえば、空に浮かんでた魔法陣は」
「あぁ。真円だったし、内部にも欠けた部分もなかった」
ということは、何も障害物がない場所で魔法陣が展開されているということになる。
このすぐ近くでそんなことができる場所はただ一つ。
「だから屋上というわけか」
「そこしかないだろう」
「むしろ、そこ以外に考えられんな」
「なら早く移動しないと」
魔法陣の展開を確認してからすでにかなりの時間が経過している。
冥界の奥底に堕とされたとはいえ、いつ現世に体の一部が出てきてもおかしくない状況だ。
護たちはオフィスの外へ出ると、再び階段を上り始めた。
はたして経験のない自分たちにそんなことができるだろうか。
そんな不安が護たちにのしかかっていたが。
「できる、できないの問題ではない。やるしかない」
「いざとなれば、力ずくだ」
「いいのか、それで?」
「ま、まぁ、『柔よく剛を制し、剛よく柔を断つ』なんていうし……」
「そういうことだ。時として、力技も有効というわけだ」
護たちが呪術を行使するときに助力を願う神仏には、宗教の違いから同一化されたものも多数存在している。
その中に、西洋の存在にも有効な呪術が含まれているかもしれない。
その可能性にかけて、ごり押しをしていくつもりのようだ。
「だが、旧約聖書に名を連ねるほど古い時代から存在している『明けの明星』にその理屈が通じるかどうか」
「さすがに神代の存在に人間の理屈は通じないだろうしな」
「てことは、タイムリミットは『明けの明星』が召喚されるまで」
「わずか一部。腕一本ぐらいならまだどうにかなるかもしれんがな」
体の一部だけであれば、現世に顕現したとしても影響は小さくて済むかもしれない。
だが、相手は神に等しい力を持ちながらも反逆し、地の底へと追いやられたという大天使。
おまけに、メソポタミアやギリシャでは『美の女神』の化身である金星の呼び名と同じ名を与えられた存在だ。
たとえ、体の一部だけであったとしても、現世に顕現した場合、どれだけの影響を与えるかわかったものではない。
それはこの場にいる全員がわかっていることだ。
「だが、かの存在が与える影響は未知数である以上、力押しでもなんでもやらなければならん」
「無理を通して道理にする、か」
「なら、なおのこと急がないとね」
少なくとも、『明けの明星』を相手にするよりも悪魔を相手にした方が、より確実にこの異変を無事に解決することができる。
護たちの考えは一致しており、それ以上は議論を交わすことなく、オフィスに入り、魔法陣を発生させていると思われるもの、あるいは魔法陣そのものを探し始めた。
だが。
「起動しているパソコンが一つもねぇ……」
「タブレットとかもないよ」
「紙や床に魔法陣が部屋に描かれている、というわけでもないようだ」
魔法陣を発生させていると思われる媒体が何も見つからない。
かといって、このオフィスそのものに何か異常があるというわけでもなく、どこに魔法陣が描かれているわけでもない。
「いったい、どこに……」
光が苛立たし気に髪をかき混ぜながら、どこか気になった場所がなかったか、何か違和感を覚えた箇所がなかったか、記憶を掘り起こしていた。
光だけでなく、護も満もまた、自分たちが探した場所に奇妙な点がなかったか、思い出そうとする。
そんな中、月美はふと自分のすぐ近くの机に視線を向けた。
「……あれ?」
「どうした、月美?」
「うん。この机だけ、パソコンがないんだ」
ほら、と月美は自分のすぐ隣の机を指さす。
確かに、ほかの机にはデスクトップ型のパソコン一式が一台ずつ備えつけられているというのに、その机だけ、モニターもハードウェアもなくなっている。
「……まじだ」
「どこにやったんだ?」
ノートパソコンならば、そもそも携帯することを前提とした設計であるため、持ち出されていてもおかしくはない。
だが、デスクトップパソコンはその大きさもさることながら、本体だけでなく、モニターやマウス、キーボードなどの周辺機器がそれぞれ外付けになっている。
持ち運べないということはないが、一刻も早く避難しなければならないという状況で、それらすべてをわざわざ持ち出すだろうか。
「……なぁ、屋上にも電源になるようなものはあるよな?」
「あぁ。おそらくな」
「けど、それが……いや、まさか」
護の言葉に、満と光の脳裏に、ある可能性が浮かんできた。
「魔法陣。正確にはそのデータを作り上げた場所がここであることは確実だ」
「だが、何もこの場所で展開して儀式を行う必要はない」
「あぁ。それに、儀式を行うならそれなりの場所が必要になる」
「このオフィスにそんなことができるほどのスペースを確保できる場所があるとは思えん」
「ほかの階も同じことだ。なにより、ここに来るまでの間に、何も感じなかった」
「ということは、魔法陣が展開されている場所はここではない」
「もっと上の階ってこと?」
護たちの会話に、月美は天井を見上げる。
当初、自分たちが現在いる階が魔法陣の中心だと思っていたのだが、ここに至るまで何も違和感を感じることがなかった。
周囲から妖や悪魔を引き寄せるほどの霊力が漏れ出ているにも関わらず、だ。
それだけでなく。
「空に映っていた魔法陣。あれの形が完璧すぎる」
「仮に光が強く外に漏れ出ていたとしても、建物の中で展開されているなら、建物で覆われている部分は影になっているはずだ」
「そういえば、空に浮かんでた魔法陣は」
「あぁ。真円だったし、内部にも欠けた部分もなかった」
ということは、何も障害物がない場所で魔法陣が展開されているということになる。
このすぐ近くでそんなことができる場所はただ一つ。
「だから屋上というわけか」
「そこしかないだろう」
「むしろ、そこ以外に考えられんな」
「なら早く移動しないと」
魔法陣の展開を確認してからすでにかなりの時間が経過している。
冥界の奥底に堕とされたとはいえ、いつ現世に体の一部が出てきてもおかしくない状況だ。
護たちはオフィスの外へ出ると、再び階段を上り始めた。
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