見習い陰陽師の高校生活

風間義介

文字の大きさ
上 下
264 / 276
再臨譚

49、頼りになるのは自分たちの使鬼

しおりを挟む
 作為的に引き起こされようとしている滅亡を止める。
 その決意を胸にオフィスビルへと入った護たちの顔は、緊張でこわばっていた。
 彼らのいる場所は魔法陣の中心。
 言ってみれば、敵勢力のど真ん中ということになる。

――まぁ、リラックスしる人間がいるとしたら、そいつは地雷原でタップダンスしててもおかしくないな

 だがあいにくと、この場にいる全員の神経はそんな芸当ができるほど太くはない。
 護と月美はもとより、こういった場面に慣れているはずの光と満すら、表情に余裕はなく、緊張でこわばっている。
 当然、会話を交わしている余裕もないため、一行の間には沈黙が流れていた。
 だが、その沈黙は突然、破られる。

「人間だっ!」
「バフォメットが言っていた連中だ!始末しろ!!」
「しまったっ!」
「迎撃態勢!」

 光の号令と同時に、満は襲撃してきた妖や悪魔に銃口を向け、発砲する。
 それを皮切りに。

のぞめるつわものたたかものみなじんやぶれてまえり!」
「祓いたまひ、清めたまふ!」

 護と月美が霊力を込めた呪文を襲撃してきた妖たちにぶつけ、一気に突入する。
 だが、自分たちの最終目標を忘れているわけではない。

「「「オン、マリシエイソワカ!」」」

 妖たちの攻撃を回避しながら、護たちは互いの背中を預けるような位置取りになった。
 すると突然、護と満、光がまるで示し合わせたかのように、一秒のずれもなく、摩利支天の真言を口にする。

「どこいった?!」
「消えただと?!」
「探せ、探せ!!」

 妖たちの目には、護たちの姿が突然、消えたように感じたのだろう。
 急に周囲を見回しはじめ、あたふたとその場から離れ、護たちを追いかけ始めた。
 妖たちの姿が見えなくなると護たちは隠形術を解除し、階段を上がり、上へと向かう。

「危なかったな」
「あぁ。危うく、無駄に戦うところだった」
「さすがに、魔法陣の中心が近づくにつれて特殊生物たちの数が増えてくるか」
「とはいっても、いつまでも隠形術を使っていても霊力を消費し続けるけど?どうするの?」

 術を使って隠れ続ければ、確実に逃げることはできる。
 だが、桶に貯められた水を流し続ければいつか空になるように、術を使い続けていれば霊力も体力も完全になくなってしまう。
 魔法陣までの距離によっては、戦闘を続けるよりも隠形術で隠れ続けている方が、消耗は少ないかもしれない。
 だが、ここはまだ二階。
 目的の場所まではまだ距離があるため、どれだけの消耗することになるかわからない。

「結局、どちらがましか、ということになるんだろうが……」
「正直、ゴールが見えないのに使いたくないぞ」
「それはそうだな」
「結界の中で休みながら進むっていうのは?」
「いや、それも現実的ではないな。どこかで霊力の補給ができればいいんだが」

 さすがに、ゲームのように薬で霊力や魔力を補給するということはできない。
 水晶や翡翠のような、霊的な力をまといやすい希少石ならば話は別なのだろうが、あいにくと、護たちは現在、そういったものの持ち合わせていなかった。

「かといって、このまま遭遇しないように行動するのは無理があるな」
「たしかにそうだ。時間がかかりすぎる」
「でも、さっきの数から考えても、戦いながら進むなんて無理なことじゃないかな?」
「霊力的にも体力的にも、確かに難しいことだな」
「とはいえ、いつまでもここでじっとしているわけにもいかないしな」

 体力的にも精神的にも、人間は妖に劣っている。
 数も不利であるため、持久戦に持ち込まなければ太刀打ちできないのだが、その戦術を選択することはできない。
 どうしたものか、四人が考えていると。

「なぁなぁ、お前さんら。誰かを忘れちゃいませんかい?」
「正確には自分たちの勢力を自分たちで見誤っちゃいませんか?」
「うにゃん!」
「え?」

 突然、四人のいずれのものでもない声が聞こえてきた。
 振り返ると、こちらにジトっとした視線を向けながら座っている狐が五匹。
 ほかにも、美しいながらもぞっとする何かを感じさせる日本人形や、尾の先が二つに分かれた黒猫、修験者のような衣装をまとい、鴉の面をかぶっている人間がいる。
 言わずもがな、護たちに仕える使鬼たちだ。

「あ……」
「あ……じゃねぇよ! なんで俺らのことを忘れんだよ!!」
「にゃ~!! ぐるな~っ!!」
「いや、正直すまん」
「すまない。忘れていたというわけではないんだが」
「いや、俺たちを使うっていう選択肢が出てこない時点で忘れてるだろ!」
「断固として抗議させてもらうぞ!!」

 普段から自分たちに助力を頼んでくるため、今回も自分たちに助力を乞うだろうと準備していたというのに、自分たちの存在を忘れたかのような戦略を立てている始末。
 その姿に、自分たちが用無しであると言外に告げられたような気がして、腹が立って仕方がないらしい。
 むろん、主人である護たちは謝罪したのだが、やはり納得できない様子だ。
 とはいえ。

「見えたな、道筋」
「あぁ。少しばかり、こいつらの負担が大きいけど」
「だが、我々の負担を減らす方法もこれ以上有効な手段もない」

 何より、時間も残されていない。
 自分たちの目の前にいる使鬼たちに活躍してもらう。
 護たちはそれ以外に、ほかの戦略を練る時間はなかった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

慟哭の螺旋(「悪役令嬢の慟哭」加筆修正版)

浜柔
ファンタジー
前世で遊んだ乙女ゲームと瓜二つの世界に転生していたエカテリーナ・ハイデルフトが前世の記憶を取り戻した時にはもう遅かった。 運命のまま彼女は命を落とす。 だが、それが終わりではない。彼女は怨霊と化した。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

処理中です...