251 / 276
再臨譚
36、明星の正体
しおりを挟む
電話を切った護は、先ほどのジョンとの電話で出てきた名前について考えていた。
――『明けの明星』、だったか。確かジョンさんはミカエルと戦ったとも言っていたな……
ミカエルという存在が天使であることは、西洋の伝説や伝承に疎い護も知っていた。
それだけ有名な存在なのだから、そのあたりからあたりをつけて調べれば、『明けの明星』と呼ばれる存在についてもすぐに知ることができる。
――とにもかくにも、まずは調べないことには始まらないな
改めてそう思い、護はその場を後にして、月美たちのいる場所へと向かっていった。
------------
一方、通話を切られた光は。
「ジョンさん。いくつか、先ほどの話について聞いても?」
「構いませんよ。どのようなことでしょう?」
隣にいたジョンに、先ほどの話に出てきたことについて、質問をしていた。
その内容は。
「『明けの明星』というのは、いったいどんな存在なのですか?」
今まさに、護が調べようとしていたものとまったく同じものだった。
しつこいようだが、護にしても光にしても、術者としての知識はそれなりに身に着けている。
だが、その知識は東洋の妖、特に日本で猛威を振るったことのある存在が主であり、西洋の妖については、ある程度の知名度がある存在を除き、名前とその姿かたち以外、知らないことが多い。
『明けの明星』という存在についてもそうだ。
護との会話でも出てきていた『ミカエル』という存在が天使であることはわかるのだが、その天使と戦った『明けの明星』がどのような存在なのかまでは知らない。
「かの存在についてはご存じありませんか?」
「西洋の妖や伝承については、ある程度、知名度が高いものは知っているのですが」
自身の浅学に苦笑を浮かべながら、光はジョンに返す。
自分の無知を素直に認めていることを好意的にとらえたらしく。
「いえいえ。世界の東と西では様々なものが大きく変わります。知らないことがあることは決して恥ずかしいものではありません」
微笑みながらそう返し、ジョンは『明けの明星』について話を始めた。
「まず、あくまでも聖書に基づいた話をさせていただくことをご了承ください」
「えぇ、構いません」
ジョンの言葉に光がうなずいて返すと、ジョンは話を始めた。
「キリスト教において、この世界は『父なる神』に創造されたとされています」
「たしか『エホバ』でしたか?」
「えぇ。『ヤーウェ』『ヤハウェ』とも言われていますが、正確なところは我々もわかりません」
日本は神に名をつけることでその存在を信仰の対象として認識するのだが、キリスト教は神の名を呼ぶこと自体が禁忌に触れると考えている部分があり、明確な名を記していない。
そのため、エホバやヤハウェ、ヤコブなど様々な呼び名が存在している。
「そして、神は世界のみならず、自身の意思を代弁する存在もお創りになりました。それが『天使』と呼ばれる存在です」
ジョンはそこまで説明すると、ここまでのことで質問がないか光に問いかける。
光はひとまず話について来れているようで、大丈夫であることを伝えると、話を続けた。
「天使にはそれぞれが得意とするものや象徴が与えられ、それに応じた役目を背負うことになりました」
また、天使には階級が存在するとされており、その最上位に『大天使』と呼ばれる階級がある。
先ほどの会話の中に出てきた『ミカエル』は、その大天使に属する天使だ。
「様々な違いはありますが、基本的にこちらの国で祀られている神々の使い、神使と呼ばれるものと変わらず、神に忠実な上位存在とされます」
そこまで説明された光は、ふと一つの疑問を覚える。
「神に忠実、と言いますがならば『堕天使』というのは……」
「堕天使とは文字通り、堕落し、悪魔となった天使です」
天使にとっての堕落とは、キリスト教における七つの大罪、『傲慢』『怠惰』『強欲』『色欲』『暴食』『嫉妬』の欲望に支配されることを指すという。
キリスト教をはじめとする宗教は、禁欲を美徳とする節があり、これら七つの欲望は、人間を堕落させるとして、キリスト教では最も忌むべきものとされている。
神の使いたる天使が、何らかの理由でそれらの欲望におぼれ、堕落した存在。
それが堕天使なのだという。
「その中でも、特に力が強く、神と悪魔の戦いにおいて旗頭を務めた堕天使がいるのです」
「もしや、その堕天使というのが」
「えぇ。『明けの明星』と呼ばれ、神に次ぐ力を持つと言われた大天使、ルシファーです」
ジョンが重々しく、その名を口にする。
ミカエルの双子の兄弟とされ、神に次ぐと言われる力を有した最強の天使。
だが、自らの意思で神に背き、謀反を起こしたとされ、地獄で最も深く極寒の地とされる場所、コキュートスに落とされたというもの。
それが、堕天使ルシファーだ。
「真偽のほどは定かではありませんが、私が追いかけているバフォメットはかの存在に仕える悪魔とされています。もし、彼らが神との戦に備えているのだとすれば」
「かつて旗頭を務めた『明けの明星』を復活させようと目論んでいると考えるべき、ということでしょうか?」
光の言葉に、ジョンは沈黙で返す。
その沈黙が肯定であることを、光は察した。
――『明けの明星』、だったか。確かジョンさんはミカエルと戦ったとも言っていたな……
ミカエルという存在が天使であることは、西洋の伝説や伝承に疎い護も知っていた。
それだけ有名な存在なのだから、そのあたりからあたりをつけて調べれば、『明けの明星』と呼ばれる存在についてもすぐに知ることができる。
――とにもかくにも、まずは調べないことには始まらないな
改めてそう思い、護はその場を後にして、月美たちのいる場所へと向かっていった。
------------
一方、通話を切られた光は。
「ジョンさん。いくつか、先ほどの話について聞いても?」
「構いませんよ。どのようなことでしょう?」
隣にいたジョンに、先ほどの話に出てきたことについて、質問をしていた。
その内容は。
「『明けの明星』というのは、いったいどんな存在なのですか?」
今まさに、護が調べようとしていたものとまったく同じものだった。
しつこいようだが、護にしても光にしても、術者としての知識はそれなりに身に着けている。
だが、その知識は東洋の妖、特に日本で猛威を振るったことのある存在が主であり、西洋の妖については、ある程度の知名度がある存在を除き、名前とその姿かたち以外、知らないことが多い。
『明けの明星』という存在についてもそうだ。
護との会話でも出てきていた『ミカエル』という存在が天使であることはわかるのだが、その天使と戦った『明けの明星』がどのような存在なのかまでは知らない。
「かの存在についてはご存じありませんか?」
「西洋の妖や伝承については、ある程度、知名度が高いものは知っているのですが」
自身の浅学に苦笑を浮かべながら、光はジョンに返す。
自分の無知を素直に認めていることを好意的にとらえたらしく。
「いえいえ。世界の東と西では様々なものが大きく変わります。知らないことがあることは決して恥ずかしいものではありません」
微笑みながらそう返し、ジョンは『明けの明星』について話を始めた。
「まず、あくまでも聖書に基づいた話をさせていただくことをご了承ください」
「えぇ、構いません」
ジョンの言葉に光がうなずいて返すと、ジョンは話を始めた。
「キリスト教において、この世界は『父なる神』に創造されたとされています」
「たしか『エホバ』でしたか?」
「えぇ。『ヤーウェ』『ヤハウェ』とも言われていますが、正確なところは我々もわかりません」
日本は神に名をつけることでその存在を信仰の対象として認識するのだが、キリスト教は神の名を呼ぶこと自体が禁忌に触れると考えている部分があり、明確な名を記していない。
そのため、エホバやヤハウェ、ヤコブなど様々な呼び名が存在している。
「そして、神は世界のみならず、自身の意思を代弁する存在もお創りになりました。それが『天使』と呼ばれる存在です」
ジョンはそこまで説明すると、ここまでのことで質問がないか光に問いかける。
光はひとまず話について来れているようで、大丈夫であることを伝えると、話を続けた。
「天使にはそれぞれが得意とするものや象徴が与えられ、それに応じた役目を背負うことになりました」
また、天使には階級が存在するとされており、その最上位に『大天使』と呼ばれる階級がある。
先ほどの会話の中に出てきた『ミカエル』は、その大天使に属する天使だ。
「様々な違いはありますが、基本的にこちらの国で祀られている神々の使い、神使と呼ばれるものと変わらず、神に忠実な上位存在とされます」
そこまで説明された光は、ふと一つの疑問を覚える。
「神に忠実、と言いますがならば『堕天使』というのは……」
「堕天使とは文字通り、堕落し、悪魔となった天使です」
天使にとっての堕落とは、キリスト教における七つの大罪、『傲慢』『怠惰』『強欲』『色欲』『暴食』『嫉妬』の欲望に支配されることを指すという。
キリスト教をはじめとする宗教は、禁欲を美徳とする節があり、これら七つの欲望は、人間を堕落させるとして、キリスト教では最も忌むべきものとされている。
神の使いたる天使が、何らかの理由でそれらの欲望におぼれ、堕落した存在。
それが堕天使なのだという。
「その中でも、特に力が強く、神と悪魔の戦いにおいて旗頭を務めた堕天使がいるのです」
「もしや、その堕天使というのが」
「えぇ。『明けの明星』と呼ばれ、神に次ぐ力を持つと言われた大天使、ルシファーです」
ジョンが重々しく、その名を口にする。
ミカエルの双子の兄弟とされ、神に次ぐと言われる力を有した最強の天使。
だが、自らの意思で神に背き、謀反を起こしたとされ、地獄で最も深く極寒の地とされる場所、コキュートスに落とされたというもの。
それが、堕天使ルシファーだ。
「真偽のほどは定かではありませんが、私が追いかけているバフォメットはかの存在に仕える悪魔とされています。もし、彼らが神との戦に備えているのだとすれば」
「かつて旗頭を務めた『明けの明星』を復活させようと目論んでいると考えるべき、ということでしょうか?」
光の言葉に、ジョンは沈黙で返す。
その沈黙が肯定であることを、光は察した。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説

慟哭の螺旋(「悪役令嬢の慟哭」加筆修正版)
浜柔
ファンタジー
前世で遊んだ乙女ゲームと瓜二つの世界に転生していたエカテリーナ・ハイデルフトが前世の記憶を取り戻した時にはもう遅かった。
運命のまま彼女は命を落とす。
だが、それが終わりではない。彼女は怨霊と化した。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」
何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?
後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!
負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。
やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*)
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/06/22……完結
2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位
2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位
2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位

【完結】逃がすわけがないよね?
春風由実
恋愛
寝室の窓から逃げようとして捕まったシャーロット。
それは二人の結婚式の夜のことだった。
何故新妻であるシャーロットは窓から逃げようとしたのか。
理由を聞いたルーカスは決断する。
「もうあの家、いらないよね?」
※完結まで作成済み。短いです。
※ちょこっとホラー?いいえ恋愛話です。
※カクヨムにも掲載。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる