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再臨譚
33、これからの方針を立てるため
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光が退出し、書斎には翼と護、月美の三人だけが残っていた。
扉が閉められた後、三人の間には沈黙が流れていたが、その沈黙を翼が破る。
「護、さっきの憶測はどういうことだ?」
「言った通りだよ。俺は今回の一件、ジョンさんが追いかけているって悪魔が絡んでるとみてる」
「使鬼に探らせたのか?」
「あぁ。昨日、どうにか無事に帰ってきたよ」
「そうか。それはよかったが」
護の答えにそう返し、翼は鋭い視線と低い声を向け、再び問いかける。
「なぜ、勝手に動いた?」
あくまで静かに問い詰めるその声に、月美は少し威圧感を覚え、顔を青くする。
護はそんな彼女の前にそれとなく移動し、ケロリとした様子で答えた。
「友人が気になると言っていたので、念のため調べさせました。何も見つからなければそれでよし。見つかれば、報告するつもりでした」
だが、実際はその『何か』がはっきりしなかったため、報告しようかどうしようか迷っていた。
何より。
「自分たちのできる範囲で全力を尽くせ。そう言ったから、自分たちのできることをしたんだ」
「むっ……ならば、仕方ないか」
確かに、護たちが動くことを許可した。
同時に、自分たちのできることに全力を尽くせとも話した覚えがある。
ここで勝手に動いたことを咎めることは、筋が違うというものだ。
「ひとまず、報告すべきかどうか判断を迷っていたようだが、そういうときはまず報告するように。たとえ憶測でも、報告と連絡はするべきだぞ」
「わかった。これからはそうする」
「わかったならいい。姫を連れて、さっさと戻れ。私はまだ仕事がある」
護が報告を怠ったことに対し、まるで社会人になりたての社員を教育するかのような口調で教え、咎めた。
もっとも、叱られたと思っていないのか、それともそもそも翼に叱る気力がなくなっていたことを悟ったからか、護は翼の指示通り、月美を連れて書斎の外へ出る。
書斎の扉を閉め、部屋に向かって歩いていく途中。
護と月美はそろって壁に背中を預けて、何度も深呼吸した。
二人の顔には汗が滝のように流れている。
「こ、怖かったね。おじさん……」
「だな」
書斎ではどうにか耐えていたが、今になって翼の威圧が効いてきたらしい。
早鐘のように激しく動いていた心臓が徐々に落ち着きを取り戻してくると、護はため息をついた。
「ったく、勝手に動いたのは俺たちだけど、動くこと許可したのは」
許可を出した癖に、動いたことに文句を言われたと思っているらしい。
報告をしなかったことは、たしかに小言を言われても仕方がないと思っている。
だが、そうしなかったのは報告をするにしても、憶測の域を出ないため、もう少し情報を集めてから報告をしたいと考えていたためだ。
むろん、仕事をしている以上、報告はしっかりと行わなければならないことはわかっている。
わかっているのだが、報告はまとめて行った方が報告される側も方針を立てやすくなるというもの。
方針を立てるための負担を少しでも減らしたいという、護なりに翼を思いやっての行動だったのだが、今回はそれが裏目に出たようだ。
「ま、まぁまぁ。そう怒らないで」
「怒ってない。どっちかって言うと呆れてる」
月美がどうにか護の怒りを鎮めようと宥めるが、本人は怒っていないと話している。
だが、月美から見れば。
――怒ってるわけでも、呆れてるわけでもなく、どっちかって言うとへそを曲げてるって感じなんじゃないかなぁ?
怒っているわけでも、呆れているわけでもない。
幼い子どもが親に叱られて拗ねているような印象がある。
そんな様子を見せている護に、月美はただただ苦笑を浮かべるしかなかった。
だが、月美と話して少し気持ちが落ち着いたらしい。
「まぁ、それは今はどうでもいいか」
あっさりと機嫌を直し、頭を切り替えていた。
「切り替え早いね……」
「報告を怠ったのは事実だしな。いつまでもうだうだいってても仕方ねぇし」
「まぁ、そうだけど」
「それよりも、いつ呼び出されても大丈夫なように準備を進める方が建設的ってもんだ」
そもそも自分が小言を言われるようなことをしたのだ。
それはそれとしてあっさり受け入れ、次に必要となる行動に移ろうとしている。
その切り替えの早さに、月美は再びため息をつく。
もっとも、それは月美も同じこと。
「それで、どうするの?旧約聖書を片っ端から調べる?」
「そうするべきかもしれないけど、そんな時間と労力は俺たちにないだろ?」
「まぁ、そうだけど」
護も月美も、学年末試験が目の前に迫ってきている。
まだ試験準備週間に入ってはいないが、そちらの準備は早めに進めなければ、自分たちの将来が大きく左右されてしまう。
いくら仕事とはいえ、護と月美はまだ学生で、その本分は勉学にある。
優先順位はおのずと決まってくるものだ。
「けど、だったらどうするの?うちに辞典とか解説書なんてあったっけ?」
「一応、あるにはあるけど、あれはあんま信用したくない」
「信用したくないって……」
「もちろん、ヒントにはなるだろうけどその解釈が正しいという保証はないしね」
護は月美の方へ視線を向けながら、そう返した。
宗教や妖怪、神、果ては呪術についても、現存する文献や語り継がれる伝承を元にして考察、解説をしている書物は多い。
特にノストラダムスが行った世界が滅亡を迎えると予言された年が近づくにつれ、そうしたオカルトについての研究所は多く出されるようになった。
土御門神社にもその書物は保管されているのだが、翼たちはあまり信頼できる資料とは思っていない。
一つの存在に対して研究を行う人間が複数人存在すれば、その解釈は研究に関わった人間の数だけ存在することになり、どの解釈が正しいものなのかわからなくなるためだ。
扉が閉められた後、三人の間には沈黙が流れていたが、その沈黙を翼が破る。
「護、さっきの憶測はどういうことだ?」
「言った通りだよ。俺は今回の一件、ジョンさんが追いかけているって悪魔が絡んでるとみてる」
「使鬼に探らせたのか?」
「あぁ。昨日、どうにか無事に帰ってきたよ」
「そうか。それはよかったが」
護の答えにそう返し、翼は鋭い視線と低い声を向け、再び問いかける。
「なぜ、勝手に動いた?」
あくまで静かに問い詰めるその声に、月美は少し威圧感を覚え、顔を青くする。
護はそんな彼女の前にそれとなく移動し、ケロリとした様子で答えた。
「友人が気になると言っていたので、念のため調べさせました。何も見つからなければそれでよし。見つかれば、報告するつもりでした」
だが、実際はその『何か』がはっきりしなかったため、報告しようかどうしようか迷っていた。
何より。
「自分たちのできる範囲で全力を尽くせ。そう言ったから、自分たちのできることをしたんだ」
「むっ……ならば、仕方ないか」
確かに、護たちが動くことを許可した。
同時に、自分たちのできることに全力を尽くせとも話した覚えがある。
ここで勝手に動いたことを咎めることは、筋が違うというものだ。
「ひとまず、報告すべきかどうか判断を迷っていたようだが、そういうときはまず報告するように。たとえ憶測でも、報告と連絡はするべきだぞ」
「わかった。これからはそうする」
「わかったならいい。姫を連れて、さっさと戻れ。私はまだ仕事がある」
護が報告を怠ったことに対し、まるで社会人になりたての社員を教育するかのような口調で教え、咎めた。
もっとも、叱られたと思っていないのか、それともそもそも翼に叱る気力がなくなっていたことを悟ったからか、護は翼の指示通り、月美を連れて書斎の外へ出る。
書斎の扉を閉め、部屋に向かって歩いていく途中。
護と月美はそろって壁に背中を預けて、何度も深呼吸した。
二人の顔には汗が滝のように流れている。
「こ、怖かったね。おじさん……」
「だな」
書斎ではどうにか耐えていたが、今になって翼の威圧が効いてきたらしい。
早鐘のように激しく動いていた心臓が徐々に落ち着きを取り戻してくると、護はため息をついた。
「ったく、勝手に動いたのは俺たちだけど、動くこと許可したのは」
許可を出した癖に、動いたことに文句を言われたと思っているらしい。
報告をしなかったことは、たしかに小言を言われても仕方がないと思っている。
だが、そうしなかったのは報告をするにしても、憶測の域を出ないため、もう少し情報を集めてから報告をしたいと考えていたためだ。
むろん、仕事をしている以上、報告はしっかりと行わなければならないことはわかっている。
わかっているのだが、報告はまとめて行った方が報告される側も方針を立てやすくなるというもの。
方針を立てるための負担を少しでも減らしたいという、護なりに翼を思いやっての行動だったのだが、今回はそれが裏目に出たようだ。
「ま、まぁまぁ。そう怒らないで」
「怒ってない。どっちかって言うと呆れてる」
月美がどうにか護の怒りを鎮めようと宥めるが、本人は怒っていないと話している。
だが、月美から見れば。
――怒ってるわけでも、呆れてるわけでもなく、どっちかって言うとへそを曲げてるって感じなんじゃないかなぁ?
怒っているわけでも、呆れているわけでもない。
幼い子どもが親に叱られて拗ねているような印象がある。
そんな様子を見せている護に、月美はただただ苦笑を浮かべるしかなかった。
だが、月美と話して少し気持ちが落ち着いたらしい。
「まぁ、それは今はどうでもいいか」
あっさりと機嫌を直し、頭を切り替えていた。
「切り替え早いね……」
「報告を怠ったのは事実だしな。いつまでもうだうだいってても仕方ねぇし」
「まぁ、そうだけど」
「それよりも、いつ呼び出されても大丈夫なように準備を進める方が建設的ってもんだ」
そもそも自分が小言を言われるようなことをしたのだ。
それはそれとしてあっさり受け入れ、次に必要となる行動に移ろうとしている。
その切り替えの早さに、月美は再びため息をつく。
もっとも、それは月美も同じこと。
「それで、どうするの?旧約聖書を片っ端から調べる?」
「そうするべきかもしれないけど、そんな時間と労力は俺たちにないだろ?」
「まぁ、そうだけど」
護も月美も、学年末試験が目の前に迫ってきている。
まだ試験準備週間に入ってはいないが、そちらの準備は早めに進めなければ、自分たちの将来が大きく左右されてしまう。
いくら仕事とはいえ、護と月美はまだ学生で、その本分は勉学にある。
優先順位はおのずと決まってくるものだ。
「けど、だったらどうするの?うちに辞典とか解説書なんてあったっけ?」
「一応、あるにはあるけど、あれはあんま信用したくない」
「信用したくないって……」
「もちろん、ヒントにはなるだろうけどその解釈が正しいという保証はないしね」
護は月美の方へ視線を向けながら、そう返した。
宗教や妖怪、神、果ては呪術についても、現存する文献や語り継がれる伝承を元にして考察、解説をしている書物は多い。
特にノストラダムスが行った世界が滅亡を迎えると予言された年が近づくにつれ、そうしたオカルトについての研究所は多く出されるようになった。
土御門神社にもその書物は保管されているのだが、翼たちはあまり信頼できる資料とは思っていない。
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