見習い陰陽師の高校生活

風間義介

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再臨譚

26、異国より来る術者

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 一方、護より一足先に動いていた調査局は、いまだに有力な情報をつかめていなかった。
 穢れが蔓延しているという事実があることから、穢れの浄化がしきれていないことは確かだ。
 だが、肝心の発生源がつかめていない。
 穢れの気配が特に色濃い場所がわかりさえすれば、そこからあたりをつけることもできるのだが、それすらもわからないというのが現状となる。
 一向に進展しない状況に、今回の一件を担当することとなった光は、ストレスのあまりついに。

「まったくわからん!」
「そういらいらするな。老けるぞ」
「これがいらいらせずにいられるか!」

 書類を投げ出し、叫びだしてしまった。
 それをたしなめている満も、うんざりしたようなため息をついている。
 周囲にいる職員たちも、口にこそ出していないが、同じようにため息をついたり、苛立たし気に頭をかきむしったりしているところを見るに、どうやら、なかなか進展しない捜査に苛立っているのは、何も満と光だけではないようだ。

「そもそも、あっちこっちに穢れが蔓延しすぎなんだ!一体、何をどうすればここまで放っておくことができる!」
「そろそろ影響が出始めてもおかしくないころではあるんだが、その兆候すら見られないからな」
「おかしいだろ!昨年末からこの状態だというのにもかかわらず、だぞ!」

 そもそも、穢れというものは物質ではなく霊的な気配のようなもの。
 長い期間、蔓延するということ自体がおかしいのだが、そもそも、蓄積するものでもない。
 その気配に濃い薄いという多少の違いはあっても、気配が濃いからといって、その場所が発生源とは限らないのだ。
 それはわかっているのだろう。だが、占い以外に情報を収集する方法が地道な調査以外になく、当然、進展も遅くなる。

「天文の方で何か報告は上がっていないのか?」
「まったくない。ついでに言えば、暦占のほうからも何もない」
「占術で何もなくてどうするんだ!あいつら、仕事してるのか!!」

 調査局の部署は、光たちが所属している調査部をはじめとして、三つの部署に分かれている。
 そのうちの一つに、占術部という部署が存在しており、その名の通り、天文や暦、式占、水鏡。その他さまざまな占術を用いて調査部の補佐を行っている。
 だが、今後の国の大まかな動きや降り注ぐであろう災厄。あるいは皇室で執り行われる祭祀に都合の良い日を選ぶなどの役目が存在する。
 仕事をしていないなどということはまったくない。

 むしろ、彼らからすれば、国の将来を予測し、皇室が祭祀をつつがなく執り行うことで国を霊的に守護する一翼を担うことのほうがよほど重要なもの。
 特殊生物の居場所や怪現象の原因特定を占術部に依頼すること自体、調査部の職務怠慢なのではないかとすら思っていることだろう。

「彼らには彼らの本来の職務がある。あまり我々の仕事をさせるわけにもいくまい」
「わかってはいるが!」
「わかっているなら、少し落ち着け。焦っていては見えているはずのものも見えなくなるぞ」

 そう言いながら、満は光にコーヒーが注がれたカップを手渡した。
 それを受け取りながら、光はため息をついて。

「それもそうだな……すまない」

 と謝罪していた。
 物事が上手くいかないせいで、苛立ってしまうことでストレスが蓄積し、余計焦ってしまう。
 その焦りのせいで、さらに物事がうまくいかなくなる、という悪循環が発生する。
 その悪循環に陥り、心の平静を保てなくなることは、冷静な判断力を必要とすることが多いこの仕事に置いて、最も避けなければならない事態だ。
 それを思い出したのか、光は受け取ったコーヒーを口に含み、一息入れた。
 どうにか落ち着いたことを確認すると、気分転換のつもりか、満が仕事とはまったく関係のない話を振り出した。

「そういえば、聞いたか?」
「何を?」
「バチカンからエクソシストが派遣されてくるそうだ。なんでも、研修という名目のようだが」
「エクソシストが?珍しいな」

 通常、異国の術者やエクソシストのような退魔師は、自分の国籍の国を動くことはあまりない。
 ヨーロッパのように国と国とが陸続きになっているような場所はともかく、海を隔てているこの国に霊的守護を担う役職に就いている人間がやってくるということは非常にまれなケースだ。

「なんでも、追いかけている存在がこの国にいるらしい」
「追いかけている存在?」

 異国の存在とは言っても、海を超えてやってくることなどよくあることだ。
 それこそ、この日本にも九尾の狐が、遠く離れたインドから中国を経てやってきたという記録も存在している。
 まして、空を行き来することができるようになった昨今だ。
 霊的な存在を呼び出す手法を記した書物や封印を施した物体、あるいは呼び出すための術を知る人間が海を越えてやってくることなど、容易にできるようになった。
 今回も、何かしらの手段で海を越えてきた霊的存在を追いかけてきた、ということなのだろう。
 とはいえ。

「まぁ、それはそれだろうな。私たちには関係あるまい」
「だといいんだがな」
「おいおい……」

 満の言葉に、光は苦笑を浮かべた。
 だが、満のその予想は外れることとなる。
 突然、コンコン、と扉を叩く音が聞こえてきた。
 次の瞬間、扉が開き、その向こうからブロンド髪の美男子が姿を見せ、西洋人とは思えない、流ちょうな日本語で。

「失礼。特別事例調査局の賀茂光さんはいらっしゃるでしょうか?」

 と問いかけていた。
 なお、声をかけられた当の本人が目を丸くしていたことは言うまでもない。
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