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再臨譚
25、黒幕は一人ほくそ笑む
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護が二体の使鬼から報告を受けていた頃。
二体が潜入していた会社の一室にあるパソコンが突如起動し、画面に一人の男の姿が映った。
男は画面越しに会社の中をのぞくように顔を左右に動かし。
――どうやら、ネズミ……いや、あの狐たちは立ち去ったようだな
どうやら、この男は白桜と黄蓮の存在に気づいていたようだ。
だが、この会社には彼らを認識できた人間はいないし、そもそもこの男がこの会社に来たことはない。
来ていれば、護の使鬼たちがその存在に気づき、真っ先に報告しているはずだ。
――念には念を入れて、直接介入することを割けていたのは正解だったかもしれん
どうやら、男はあえて会社に通わず、通話のみのやり取りをしていたようだ。
直接、会社を訪問することを疎ましく思っているのか。それとも、会社の人間との接触を避けているのか。
理由は不明だが、いずれにしてもこの男の目的は、アプリゲームの売り上げで儲けることではないということだけは確かだ。
――まぁいい。どのような狙いがあったとしても、もう間もなく、十分な気が集まる。その時こそ、我が大望が果たされる
喉の奥で、くつくつと笑いながら、男は自分が操作し、通信を行っているパソコンの奥を見た。
その視線の先に何があるのか、この場ではわからない。
『幻想召喚物語』の使用者から集めた、気を蓄積させる何かがあることは、容易に想像できるが、その気を使い、何をしようとしているのか。そこまではさすがに読み切れない。
――あのお方の復活も近い。気はこのままでも放っておけば充填できる。ならば、次の段階へ計画を進めなければならんな。仮にあのネズミがこの国の霊的守護を担う組織……そう、忌々しき悪魔祓いのような連中が差し向けたものであればなおのことだ
悪魔祓い。
それは、キリスト教カトリック派の敬虔な信者に与えられる下級位階であり、現在の教会法では存在しないことになっているもの。
その役割は、キリスト教への改宗に際して、それまで信仰していた土着信仰の教えをすべて脱ぎ捨てる手助けをすること。
そこから転じて、イエス=キリストの父たる神以外の神格、すなわち悪魔から与えられた力をそぎ落とすことへと変わった。
『キリスト教』にとって『魔なるもの』である存在にとってみれば、これ以上ない天敵でしかない。
――まぁ、この国は宗教に関して無頓着だ。司祭もむろんいるのだろうが、少なくとも、そこまで力の強い人間がわけはあるまいて
口角を吊り上げ、男は笑みを浮かべた。
その姿が一瞬。ほんの一瞬だけ、まるでノイズが走ったかのように変化した。
一瞬だけ変化したその姿は、漆黒の毛におおわれた、まるで黒山羊のような顔と瞳。こめかみよりもやや上部分からねじれた角をはやし、手には香炉のようなものを持っているものだった。
タロットカードやいわゆる黒魔術と呼ばれる、人に害をなす呪詛の側面を司る魔術を解説する民俗学者の著書などで見られる意匠によく見られる悪魔、バフォメットと呼ばれるものの顔に非常に酷似している。
もっとも、その姿はすぐに掻き消え、人間とまったく同じ姿へと変わってしまった。
変化したその男は、浮かべた笑みをすぐに消し、何かを思案し始めた。
さきほど、余裕綽々といった様子の笑みを浮かべている姿からは想像できない。
――だが、さきほどのネズミ……いったい、どこからやってきた?
どうやら、白桜と黄蓮がどこからやってきたのか。
それが気になっているようだ。
――この国に、かの悪魔祓いのような専門家がいるとは思えんが……いや?まさか、かの忌々しき地から来たというのか?
かの忌々しき地。
悪魔たちにとって、それはキリスト教のトップである教皇が住むバチカン市国のことだろう。
ライト兄弟が初の有人機による飛行を成功させていこう、人の移動手段に空という選択肢が増え、異国へ旅立つことが比較的容易となった。
昨今の技術力も加わり、より安全かつ迅速な移動ができるようになってから、多くの人間が異国への移動が可能となり、バチカン市国からの使者も例にもれず、異国へ派遣されることが増えたという。
そのうちの一人が、自分の存在を嗅ぎ付け、この島国にやってきたのではないかと疑っているようだ。
――いずれにしても、本格的に行動される前に実行する必要があるかもしれんな
そう考えながら、男は再び、画面の向こうを視線を向けた。
必要なものはもう間もなくそろう。
あるいはこれ以上、気を集めずとも、自分の魂の半分を削るつもりで術を行使すれば、計画を完了させることができる。
だが、それでもまだ足りない。
――疑いの目を向けられる可能性があるから、あまりやりたくはないのだが、あるいは生贄を用意する必要があるかもしれんな……我らが主を再びこの地へ呼び出すためにも
仮に、この男の正体が一瞬だけ見せたバフォメットそのものであったとして、その主という存在が何者なのか。
敬虔で熱心なキリスト信者や神学者たちならば、容易に想像がつく。
かつては黎明の子、明けの明星とたたえられ、ラテン語で「光をもたらす者」という意味の名を与えられたが、天界より追放され、地獄を支配するものの一柱とされた、堕天使。
その名はルシフェル。
サタンとも呼ばれる、キリスト教において最強の悪魔である。
この男は、そのルシフェルをこの地上に呼び出そうとして、今回の計画を立てたようだ。
――いずれにしても、計画に少し修正を加える必要があるやもしれんな
支障があるかどうかはさておくとしても、仮に計画を邪魔されそうになった時の対処はしておくべきか。
そう考え、男は通信を切ると、パソコンの画面の明かりが消え、その場に残されたものは、静寂と窓の外から入ってくる営業中の店の看板の光のみとなった。
二体が潜入していた会社の一室にあるパソコンが突如起動し、画面に一人の男の姿が映った。
男は画面越しに会社の中をのぞくように顔を左右に動かし。
――どうやら、ネズミ……いや、あの狐たちは立ち去ったようだな
どうやら、この男は白桜と黄蓮の存在に気づいていたようだ。
だが、この会社には彼らを認識できた人間はいないし、そもそもこの男がこの会社に来たことはない。
来ていれば、護の使鬼たちがその存在に気づき、真っ先に報告しているはずだ。
――念には念を入れて、直接介入することを割けていたのは正解だったかもしれん
どうやら、男はあえて会社に通わず、通話のみのやり取りをしていたようだ。
直接、会社を訪問することを疎ましく思っているのか。それとも、会社の人間との接触を避けているのか。
理由は不明だが、いずれにしてもこの男の目的は、アプリゲームの売り上げで儲けることではないということだけは確かだ。
――まぁいい。どのような狙いがあったとしても、もう間もなく、十分な気が集まる。その時こそ、我が大望が果たされる
喉の奥で、くつくつと笑いながら、男は自分が操作し、通信を行っているパソコンの奥を見た。
その視線の先に何があるのか、この場ではわからない。
『幻想召喚物語』の使用者から集めた、気を蓄積させる何かがあることは、容易に想像できるが、その気を使い、何をしようとしているのか。そこまではさすがに読み切れない。
――あのお方の復活も近い。気はこのままでも放っておけば充填できる。ならば、次の段階へ計画を進めなければならんな。仮にあのネズミがこの国の霊的守護を担う組織……そう、忌々しき悪魔祓いのような連中が差し向けたものであればなおのことだ
悪魔祓い。
それは、キリスト教カトリック派の敬虔な信者に与えられる下級位階であり、現在の教会法では存在しないことになっているもの。
その役割は、キリスト教への改宗に際して、それまで信仰していた土着信仰の教えをすべて脱ぎ捨てる手助けをすること。
そこから転じて、イエス=キリストの父たる神以外の神格、すなわち悪魔から与えられた力をそぎ落とすことへと変わった。
『キリスト教』にとって『魔なるもの』である存在にとってみれば、これ以上ない天敵でしかない。
――まぁ、この国は宗教に関して無頓着だ。司祭もむろんいるのだろうが、少なくとも、そこまで力の強い人間がわけはあるまいて
口角を吊り上げ、男は笑みを浮かべた。
その姿が一瞬。ほんの一瞬だけ、まるでノイズが走ったかのように変化した。
一瞬だけ変化したその姿は、漆黒の毛におおわれた、まるで黒山羊のような顔と瞳。こめかみよりもやや上部分からねじれた角をはやし、手には香炉のようなものを持っているものだった。
タロットカードやいわゆる黒魔術と呼ばれる、人に害をなす呪詛の側面を司る魔術を解説する民俗学者の著書などで見られる意匠によく見られる悪魔、バフォメットと呼ばれるものの顔に非常に酷似している。
もっとも、その姿はすぐに掻き消え、人間とまったく同じ姿へと変わってしまった。
変化したその男は、浮かべた笑みをすぐに消し、何かを思案し始めた。
さきほど、余裕綽々といった様子の笑みを浮かべている姿からは想像できない。
――だが、さきほどのネズミ……いったい、どこからやってきた?
どうやら、白桜と黄蓮がどこからやってきたのか。
それが気になっているようだ。
――この国に、かの悪魔祓いのような専門家がいるとは思えんが……いや?まさか、かの忌々しき地から来たというのか?
かの忌々しき地。
悪魔たちにとって、それはキリスト教のトップである教皇が住むバチカン市国のことだろう。
ライト兄弟が初の有人機による飛行を成功させていこう、人の移動手段に空という選択肢が増え、異国へ旅立つことが比較的容易となった。
昨今の技術力も加わり、より安全かつ迅速な移動ができるようになってから、多くの人間が異国への移動が可能となり、バチカン市国からの使者も例にもれず、異国へ派遣されることが増えたという。
そのうちの一人が、自分の存在を嗅ぎ付け、この島国にやってきたのではないかと疑っているようだ。
――いずれにしても、本格的に行動される前に実行する必要があるかもしれんな
そう考えながら、男は再び、画面の向こうを視線を向けた。
必要なものはもう間もなくそろう。
あるいはこれ以上、気を集めずとも、自分の魂の半分を削るつもりで術を行使すれば、計画を完了させることができる。
だが、それでもまだ足りない。
――疑いの目を向けられる可能性があるから、あまりやりたくはないのだが、あるいは生贄を用意する必要があるかもしれんな……我らが主を再びこの地へ呼び出すためにも
仮に、この男の正体が一瞬だけ見せたバフォメットそのものであったとして、その主という存在が何者なのか。
敬虔で熱心なキリスト信者や神学者たちならば、容易に想像がつく。
かつては黎明の子、明けの明星とたたえられ、ラテン語で「光をもたらす者」という意味の名を与えられたが、天界より追放され、地獄を支配するものの一柱とされた、堕天使。
その名はルシフェル。
サタンとも呼ばれる、キリスト教において最強の悪魔である。
この男は、そのルシフェルをこの地上に呼び出そうとして、今回の計画を立てたようだ。
――いずれにしても、計画に少し修正を加える必要があるやもしれんな
支障があるかどうかはさておくとしても、仮に計画を邪魔されそうになった時の対処はしておくべきか。
そう考え、男は通信を切ると、パソコンの画面の明かりが消え、その場に残されたものは、静寂と窓の外から入ってくる営業中の店の看板の光のみとなった。
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