見習い陰陽師の高校生活

風間義介

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再臨譚

22、仕事を始める狐たち

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 月美と護がそんな会話をしている一方。
 偵察を命じられた白桜と黄蓮は、『幻想召喚物語』を提供する会社が入っているビルに向かっていた。
 隠形した状態で護たちの会話を聞いていたのだが、このビル自体に霊的な力はまったく感じることはできない。

「どう思う?」
「会社ではなく、アプリそのものに何かがあると見た方がいいのだろう」
「だがどうする?我らはパソコンの中になど入っていけぬぞ」

 白桜の言葉に、黄蓮はうなりながら返す。
 黄蓮の言う通り、いくら霊的存在ではあっても五色狐たちにパソコンの中へ潜入する。つまりは自身の身を電子化する能力は備わっていない。
 そもそも、霊的な存在ではあるが元をたどれば霊力を得た狐であり、一応、肉体を持っている彼らがデーターになるということ自体、できるわけのないことだ。

「……早速、手詰まりか?」

 黄蓮が白桜に視線を向けてそう問いかけると、少し考え込むそぶりを見せてから、ふるふると首を横に振った。

「……いや、念のため、会社の中も見て回ろう」
「あるいは見鬼の才を持つものがいるかもしれない、か」
「あぁ。そいつがいるのなら、何かしらの鍵を握っているかもしれん」

 見鬼の才とは、この世ならざる者を見る眼を持つことを言う。
 祓い屋や除霊を生業とする人間には最低限、持っていることが求められる才能であり、霊力の高い術者であれば誰もが持っている才能でもある。
 その才能を持っているということは、少なくとも高い霊力を保持しているということ。
 もし、この会社にその才能を持つ人間がいれば、今回の一件について何かしら知っている可能性がある。
 ともすれば、その人物こそが仕掛け人である、ということだってあり得るのだ。
 ならば、様子を見ておくに越したことはない。
 そこまで考え、納得した黄蓮が返した言葉は。

「ならば行こう」

 であった。
 黄蓮の言葉を皮切りに、二体は会社の中へ潜入していく。
 ビルの中と外を行き来している人間の一人に狙いを絞り、背後から追跡し、ビルの中へ侵入。
 そのまま、エレベーターに乗り、目的の会社が入っている場所へと向かっていく。
 エレベーターが目的の階に停まると、二体はするりと人と人の間をすり抜けていった。
 エレベーターの出入り口付近に設置されている見取り図を見て、目的の場所へ向かう。

「さて、到着するのはいいが」
「どうやって探そうか?」

 その道中、二体は到着したのちの行動について会話を始めた。
 さすがに、会社の中を練り歩く、というやり方は効率が悪いのだが、かといって、何か目星があるわけでもないし、何か対策があるわけでもない。

「会社の中に何があるかもわからん。念のため、見て回ることもしておきたいが」
「ふむ……確かにそうか。ならば、私は出入り口で待機して人の出入りを見張る」
「私は社内を歩き回って、探してみよう」

 互いに役割分担を話し合い、黄蓮は入り口で待機し、人の出入りを見張る。白桜は社内を歩き、見鬼の才を持っていると思われる人間を探す。
 そういうことになった。
 そんな何も面白みがない会話をしながら歩き回ること数分。
 二体は目的の場所の入口に到着した。

 なお、ここに至るまで、すれ違った人間の誰一人として、この二体の姿を見ていない。
 いや、正確には『見えていない』。
 もし見えているのであれば、会社内を闊歩する二体の狐に何かしらの反応を示したはず。
 それがなかったということは、少なくともすれ違った人間の中に見鬼の才を持った人間はいなかったということだ。
 ならば社内で仕事をしている可能性が高いのだが、今は外出しているという可能性も捨てきれない。
 そのため、二体はそれぞれに役割を分けて行動することに決めたのだ。

「では、あとで」
「うむ、頼むぞ」

 互いに言葉を交わし、それぞれで決めた役割を果たすため、持ち場へついた。
 社員と思われる人間の背後に回り、一緒に会社の中へ入っていった白桜の姿を見送ると、黄蓮はその場にうずくまった。
 さぼるつもりではない。
 念のため、自分の姿をくらますための結界を構築したのだ。
 万が一、これからやってくる人間の中に見鬼の才を持った人間がいるとして、その人間が護に敵対しないとも限らない。

 全く関係のない、赤の他人に対しては冷酷なまでに無関心でいられる護ではあるが、ひとたび、身内として認識した人間には、生来の面倒見の良さを発揮する。
 もし護が、敵対する人間に身内を人質を取られればどうするか。
 そんなことはわかりきっている。

――このようなところで人質に取られたとあっては、葛葉姫様に顔向けできん。なんとしても、潜入している白桜はともかく、ここに私が陣取っていることを悟られんようにせねばな

 と、主の足かせにならないよう努める、健気な使鬼の狐。
 なのだが、それよりなにより。

――狐がいたからといって、騒ぎ立てられることは得策ではない。何より、護と姫以外の人間に撫でまわされるなど言語道断

 自分が認めた術者以外に、自慢の毛並みを触られることをひどく嫌っているだけであった。
 もっとも、仕事はしっかりしようとしているあたり、動機の割合としては半々なのだろうが。
 ある意味で不純な理由で構築した結界に引きこもりながら、黄蓮は自分の役割を全うするため、行き交う人間を見張り続けていた。
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