232 / 276
再臨譚
17、小さなことだが、嫌な予感は感じるもの
しおりを挟む
最近になってクラスメイトの間で流行するようになったアプリゲームの説明について、清から説明を受けていたが、『伝説上の生物』を使役する、という設定に、どこか難色を示していた。
だが、それは二人がその生物と縁が深く、接する機会も多いためだ。
普通の人間には関係ない。
当然、普通の人間である清も例外ではないため、なぜ難色を示しているのかわからないようだった。
とはいえ、理由はわからなくとも、あまり乗り気ではない人間を無理矢理誘うほど、清も馬鹿ではない。
馬鹿ではないのだが、気に入っているものを広めたいと思うことは、人間としてごく当然のことで。
「まぁ、やるかやらないかは個人の自由だし、語るだけでもさせてくれよ」
と、宣伝を続けることに許可を求めてきた。
「……話を聞くだけなら、聞いてやる」
「お。さっすが護!話が分かってるなぁ!!」
「やかましい。さっさと話せ」
清が話を続けることを許した瞬間、清は調子に乗って護の肩をバシバシと叩き始めた。
その行為に、護はジトっとした視線を清に向け、さっさと話を続けるよう促した。
「まぁ、落ち着けって」
それをどうにかなだめながら、清は護と月美に説明を再開した。
曰く、召喚した生物を戦わせるだけでなく、フレンド登録したプレイヤー同士で交換をしたり、交配と呼ばれる生物同士を合体させることで新たな生物を生み出したりすることができるようだ。
さらに、確定情報ではないが、一つだけ面白い機能があるという。
「面白い機能?」
「なに、それ?」
「ふっふっふ……聞いて驚くなかれ!なんと」
と、いいかけたところで、そのセリフの続きは別の人物に奪われてしまった。
「最新のアップデートで、お気に入りの召喚獣と簡単な会話ができるようになった。でしょ?」
「さ、桜沢?!お前、人のセリフを……」
清のセリフを奪った人物は、これまた護の友人関係にある数少ないクラスメイトの明美だった。
むろん、自分のセリフを奪ったことに対し、明美に文句を言い出す清だったが、そんな態度にひるむことはなく、むしろ反撃とばかりに煽るような態度で言葉を返す。
「あら?だってあんた、もったいぶってなかなか教えないでしょ?だったら、あたしが教えた方が早いじゃない」
「んなことしねぇよ!教えようとしてたって!!」
「だったらなんで、『ふっふっふ……』なんてもったいぶる真似したのよ?馬鹿じゃないの?」
「馬鹿っていうな!!」
当然、煽られた清はけんか腰になってさらなる反論を繰り出し、その反論に対し、明美は待ってましたとばかりに反撃を。
そんな不毛なやり取りを続けそうになったのだが、それを止めたのは護でも月美でもなかった。
「ふ、二人とも。落ち着いて!!」
澄んではいるが、どこかおどおどとした印象を受ける声がした方へ、今まさに喧嘩の真っ最中である二人が視線を向けると、そこには、いつものメンバー最後の一人である佳代がいた。
普段、温厚でおとなしい彼女にしては珍しく、頬を膨らませ、きっ、と清と明美をにらみつけている。
その様子に、二人は思わず気圧されてしまい、それ以上、何も言わなくなった。
「まったくもう……」
「お。吉田、あけましておめでとう」
「今年もよろしくね、佳代」
「あ、土御門くん、月美。今年もよろしく」
新年の挨拶は、年賀状で済ませてはいる。
しかし、直接、面と向かって挨拶を交わすことはまだしていなかったため、三人は清と明美をそっちのけで互いに挨拶を交わしていた。
そんな三人の様子に、清が文句を言わないはずはなく。
「って、俺らを放置すんな!!」
「そうよ。勘解由小路はともかく、わたしを放置しないでよ!」
「俺はともかくってなんだよぉっ!」
「あぁんっ?!文句あるっての?」
「ありありのありに決まってんだろ!!」
当然のように文句を言ってきたのだが、明美もそれに乗っかり文句を言い出したものだから、再び喧嘩に発展してしまった。
これで翌日には喧嘩したことも忘れたかのように、ケロッとしているのだから、よくわからない。
なお、一部ではこの二人は「喧嘩するほど仲がいい」ということわざを体現したカップル。ケンカップルというものではないか、という噂が同級生たちの間に流れているのだが、本人らはそれを否定している。
それはともかく。
はっきり言って、二人のそのやりとりが日常的であるため、放っておいても問題ないことを知っている護たちは、またやってる、と言いたそうに、呆れ顔を浮かべていた。
だが、明美が言っていたことが少し気になった護は、清と言い争っている明美に視線を向けて。
「なぁ、その会話機能ってどんなもんなんだ?」
と問いかけていた。
「あぁ、うん。まだ実際にやってないからわからないんだけど、公式サイトの情報だと、召喚獣がしてくる質問に選択形式で答えることで会話できるんだって」
「それ、会話って言えるのか?」
「さぁ?けど、相手はあくまでゲームのAIなわけだから、人間と同じ会話なんてできないでしょ」
どうやら、会話といっても、単に質問に答えるだけの形式で、こちらから話しかけることはできないようだ。
もっとも、対応するゲーム機ではなく、携帯というゲーム機よりも数段、容量が小さくなる機械を使っているのだから、それも仕方のないこと。
あまり気にする必要はないのだが、なぜか護は嫌な予感を覚えた。
質問に答える、ということは、自分の趣味趣向、思考の方向性、性格がその答えに反映されるで、それらは人間の精神面ともとらえることができる。
精神面とは魂の一部だ。
つまり、質問に答えるということは魂の一部分を相手に見せるということでもある。
普通の人間や術者ならば大したことはないが、蘆屋道満のような死してなおも怨霊として猛威を振るう術者や、春ごろに対峙した女占い師、蓮田鳴海のように神と契約を交わした術者であれば、そのわずかな情報だけでも魂を掌握することはたやすいことだ。
――何か、悪いことにつながっていないといいんだけどな
先日の瘴気に関する占いのこともあり、護はどうしても嫌な予感をぬぐいきれずにいた。
そして、その予感が的中することになるのは、数週間あとのこととなる。
だが、それは二人がその生物と縁が深く、接する機会も多いためだ。
普通の人間には関係ない。
当然、普通の人間である清も例外ではないため、なぜ難色を示しているのかわからないようだった。
とはいえ、理由はわからなくとも、あまり乗り気ではない人間を無理矢理誘うほど、清も馬鹿ではない。
馬鹿ではないのだが、気に入っているものを広めたいと思うことは、人間としてごく当然のことで。
「まぁ、やるかやらないかは個人の自由だし、語るだけでもさせてくれよ」
と、宣伝を続けることに許可を求めてきた。
「……話を聞くだけなら、聞いてやる」
「お。さっすが護!話が分かってるなぁ!!」
「やかましい。さっさと話せ」
清が話を続けることを許した瞬間、清は調子に乗って護の肩をバシバシと叩き始めた。
その行為に、護はジトっとした視線を清に向け、さっさと話を続けるよう促した。
「まぁ、落ち着けって」
それをどうにかなだめながら、清は護と月美に説明を再開した。
曰く、召喚した生物を戦わせるだけでなく、フレンド登録したプレイヤー同士で交換をしたり、交配と呼ばれる生物同士を合体させることで新たな生物を生み出したりすることができるようだ。
さらに、確定情報ではないが、一つだけ面白い機能があるという。
「面白い機能?」
「なに、それ?」
「ふっふっふ……聞いて驚くなかれ!なんと」
と、いいかけたところで、そのセリフの続きは別の人物に奪われてしまった。
「最新のアップデートで、お気に入りの召喚獣と簡単な会話ができるようになった。でしょ?」
「さ、桜沢?!お前、人のセリフを……」
清のセリフを奪った人物は、これまた護の友人関係にある数少ないクラスメイトの明美だった。
むろん、自分のセリフを奪ったことに対し、明美に文句を言い出す清だったが、そんな態度にひるむことはなく、むしろ反撃とばかりに煽るような態度で言葉を返す。
「あら?だってあんた、もったいぶってなかなか教えないでしょ?だったら、あたしが教えた方が早いじゃない」
「んなことしねぇよ!教えようとしてたって!!」
「だったらなんで、『ふっふっふ……』なんてもったいぶる真似したのよ?馬鹿じゃないの?」
「馬鹿っていうな!!」
当然、煽られた清はけんか腰になってさらなる反論を繰り出し、その反論に対し、明美は待ってましたとばかりに反撃を。
そんな不毛なやり取りを続けそうになったのだが、それを止めたのは護でも月美でもなかった。
「ふ、二人とも。落ち着いて!!」
澄んではいるが、どこかおどおどとした印象を受ける声がした方へ、今まさに喧嘩の真っ最中である二人が視線を向けると、そこには、いつものメンバー最後の一人である佳代がいた。
普段、温厚でおとなしい彼女にしては珍しく、頬を膨らませ、きっ、と清と明美をにらみつけている。
その様子に、二人は思わず気圧されてしまい、それ以上、何も言わなくなった。
「まったくもう……」
「お。吉田、あけましておめでとう」
「今年もよろしくね、佳代」
「あ、土御門くん、月美。今年もよろしく」
新年の挨拶は、年賀状で済ませてはいる。
しかし、直接、面と向かって挨拶を交わすことはまだしていなかったため、三人は清と明美をそっちのけで互いに挨拶を交わしていた。
そんな三人の様子に、清が文句を言わないはずはなく。
「って、俺らを放置すんな!!」
「そうよ。勘解由小路はともかく、わたしを放置しないでよ!」
「俺はともかくってなんだよぉっ!」
「あぁんっ?!文句あるっての?」
「ありありのありに決まってんだろ!!」
当然のように文句を言ってきたのだが、明美もそれに乗っかり文句を言い出したものだから、再び喧嘩に発展してしまった。
これで翌日には喧嘩したことも忘れたかのように、ケロッとしているのだから、よくわからない。
なお、一部ではこの二人は「喧嘩するほど仲がいい」ということわざを体現したカップル。ケンカップルというものではないか、という噂が同級生たちの間に流れているのだが、本人らはそれを否定している。
それはともかく。
はっきり言って、二人のそのやりとりが日常的であるため、放っておいても問題ないことを知っている護たちは、またやってる、と言いたそうに、呆れ顔を浮かべていた。
だが、明美が言っていたことが少し気になった護は、清と言い争っている明美に視線を向けて。
「なぁ、その会話機能ってどんなもんなんだ?」
と問いかけていた。
「あぁ、うん。まだ実際にやってないからわからないんだけど、公式サイトの情報だと、召喚獣がしてくる質問に選択形式で答えることで会話できるんだって」
「それ、会話って言えるのか?」
「さぁ?けど、相手はあくまでゲームのAIなわけだから、人間と同じ会話なんてできないでしょ」
どうやら、会話といっても、単に質問に答えるだけの形式で、こちらから話しかけることはできないようだ。
もっとも、対応するゲーム機ではなく、携帯というゲーム機よりも数段、容量が小さくなる機械を使っているのだから、それも仕方のないこと。
あまり気にする必要はないのだが、なぜか護は嫌な予感を覚えた。
質問に答える、ということは、自分の趣味趣向、思考の方向性、性格がその答えに反映されるで、それらは人間の精神面ともとらえることができる。
精神面とは魂の一部だ。
つまり、質問に答えるということは魂の一部分を相手に見せるということでもある。
普通の人間や術者ならば大したことはないが、蘆屋道満のような死してなおも怨霊として猛威を振るう術者や、春ごろに対峙した女占い師、蓮田鳴海のように神と契約を交わした術者であれば、そのわずかな情報だけでも魂を掌握することはたやすいことだ。
――何か、悪いことにつながっていないといいんだけどな
先日の瘴気に関する占いのこともあり、護はどうしても嫌な予感をぬぐいきれずにいた。
そして、その予感が的中することになるのは、数週間あとのこととなる。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
駆け落ち男女の気ままな異世界スローライフ
壬黎ハルキ
ファンタジー
それは、少年が高校を卒業した直後のことだった。
幼なじみでお嬢様な少女から、夕暮れの公園のど真ん中で叫ばれた。
「知らない御曹司と結婚するなんて絶対イヤ! このまま世界の果てまで逃げたいわ!」
泣きじゃくる彼女に、彼は言った。
「俺、これから異世界に移住するんだけど、良かったら一緒に来る?」
「行くわ! ついでに私の全部をアンタにあげる! 一生大事にしなさいよね!」
そんな感じで駆け落ちした二人が、異世界でのんびりと暮らしていく物語。
※2019年10月、完結しました。
※小説家になろう、カクヨムにも公開しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
慟哭の螺旋(「悪役令嬢の慟哭」加筆修正版)
浜柔
ファンタジー
前世で遊んだ乙女ゲームと瓜二つの世界に転生していたエカテリーナ・ハイデルフトが前世の記憶を取り戻した時にはもう遅かった。
運命のまま彼女は命を落とす。
だが、それが終わりではない。彼女は怨霊と化した。
覚悟ガンギマリ系主人公がハーレムフラグをへし折りつつ、クールな褐色女戦士をデレさせて異世界を救うパワー系ダークファンタジー/ヴァンズブラッド
鋏池穏美
ファンタジー
【絶望の中目覚めた『無詠唱特殊魔術』で崩壊世界を駆け抜ける──敵意や痛みを力に変える、身体強化系最強主人公の無双劇】
魔素が溢れ、暗がりで魔獣蠢く崩壊世界ミズガルズ──
この狂った世界で産み落とされたノヒンは、山賊一家に育てられ、荒んだ幼少期を過ごしていた。
初めて仕事を任されたその日、魔獣の力をその身に宿した少女『ヨーコ』と出会い、恋に落ちる。
束の間の平穏と幸せな日々。だがそれも長くは続かず──
その後ヨーコと離別し、騎士へとなったノヒンは運命の相手『ジェシカ』に出会う。かつて愛したヨーコとジェシカの間で揺れるノヒンの心。さらにジェシカは因縁の相手、ラグナスによって奪われ──
発動する数千年前の英雄の力
「無詠唱特殊魔術」
それは敵意や痛みで身体強化し、自己再生力を限界突破させる力。
明かされる神話──
NACMO(ナクモ)と呼ばれる魔素──
失われし東方の国──
ヨルムンガンドの魔除け──
神話時代の宿因が、否応無くノヒンを死地へと駆り立てる。
【第11回ネット小説大賞一次選考通過】
※小説家になろうとカクヨムでも公開しております。
花ひらく妃たち
蒼真まこ
ファンタジー
たった一夜の出来事が、春蘭の人生を大きく変えてしまった──。
亮国の後宮で宮女として働く春蘭は、故郷に将来を誓った恋人がいた。しかし春蘭はある日、皇帝陛下に見初められてしまう。皇帝の命令には何人も逆らうことはできない。泣く泣く皇帝の妃のひとりになった春蘭であったが、数々の苦難が彼女を待ちうけていた。 「私たち女はね、置かれた場所で咲くしかないの。咲きほこるか、枯れ落ちるは貴女次第よ。朽ちていくのをただ待つだけの人生でいいの?」
皇后の忠告に、春蘭の才能が開花していく。 様々な思惑が絡み合う、きらびやかな後宮で花として生きた女の人生を短編で描く中華後宮物語。
一万字以下の短編です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】竜人が番と出会ったのに、誰も幸せにならなかった
凛蓮月
恋愛
【感想をお寄せ頂きありがとうございました(*^^*)】
竜人のスオウと、酒場の看板娘のリーゼは仲睦まじい恋人同士だった。
竜人には一生かけて出会えるか分からないとされる番がいるが、二人は番では無かった。
だがそんな事関係無いくらいに誰から見ても愛し合う二人だったのだ。
──ある日、スオウに番が現れるまでは。
全8話。
※他サイトで同時公開しています。
※カクヨム版より若干加筆修正し、ラストを変更しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる