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再臨譚
16、冬休み中に流行していたもの
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調査局が瘴気の件で動き出したのだが、そんなことはまったく知らない護は始業式が終わると、月美とともにいつものメンバーと合流し、談笑していた。
だが、ふと周囲を見回すと、なぜか違和感を覚え首を傾げていると。
「どうしたの?護」
「ん。あぁ、いやなんか違和感が……」
「違和感?」
問いかけてきた月美にそう答えると、月美は周囲を見渡し、なるほど、と相槌を打った。
「そういえば、なんかちょっと変だよね?」
「あぁ。一応、放課後っちゃ放課後だけど、なんでみんな携帯出してるんだ?」
二人が感じ取った違和感。
それは、まだ校内にいるにも関わらず、みんながみんな、携帯を取り出し、操作をしていることだった。
一応、月華学園は生徒の携帯持ち込みを認めている。
だが、校内で使用することは認められておらず、見つけた場合はその日の放課後まで没収され、反省文を書かされるという規則になっているのだ。
避けることができる面倒事は避けたい性質なのか、少なくとも護たちが所属するクラスメイト達の中で、携帯を取り上げられた生徒はいない。
だというのに、今は堂々と携帯を取り出し、誰に電話をかけるでもなく、画面を見つめ、何かの操作をしているのだ。
だが、その疑問に対する答えを持っている人物はすぐ隣にいた。
「あれ?二人とも知らねぇのか?」
「あ?」
「え?」
「年末あたりから新しいアプリができてさ。基本無料で遊べるし、手軽だから、結構人気あるんだよ」
俺もやってるし、と言いながら、清が二人に携帯の画面を見せてきた。
そこには、『幻想召喚物語』というゲームのタイトル画面がある。
どうやら、ここ一週間ほどで爆発的な人気となったゲームのようだ。
だが、基本的に修行と普段の勉強であまり時間的に余裕がない護と月美は。
「なんだこりゃ?」
「なにこれ?」
という反応を示していた。
その反応に、清はショックを受けたのか、新種の生物を見つけたかのような顔で問いかけてきた。
「携帯のゲームだよ、知らねぇの?」
「知らね。俺、基本的にゲームしねぇし」
「同じく」
「まぁ、だと思ったよ」
だが、その答えは予想通りらしい。
肩を落としてため息をつきながら、自分の携帯を操作し始めた。
携帯の操作が終わると、清は楽し気な笑みを浮かべていたが、十秒、二十秒と時間が経つにつれ、その顔には疑念が浮かんでいき。
「な、なぁ?お前ら、携帯……」
「え?電源、切ってるけど」
「学校じゃ電源切るのは当たり前だろ?」
さも当たり前であるかのように返してくる二人に、清はため息しか出なかった。
「お前ら、優等生かよ……」
「用事がなければ携帯の電源は切っておくものじゃないの?」
「学校で着信音がなってみろ。面倒なことになるだろうが」
「……まぢで優等生だよな、お前ら」
面倒事を避けたいが、持っていきたいものを持っていくにはどうすればいいか。
答えは、その存在をひた隠しにすること。
所持を認められていても、使用は認められていない。
着信音を聞いただけで、携帯を使っている、という判断をする教師もいないわけではない。
そうなった場合、面倒に巻き込まれることはわかりきっている。
護にしても月美にしても、日常の面倒事はできるならば避けたいと考えているため、必然的に学校にいる間は電源を切ることにしていた。
もっとも、清はそんなことはしていないようだが。
「で、それはどんなゲームなんだよ?」
「え?あぁ……って、興味あんのかよ?!」
「紹介したそうな顔してんだろうが」
まさか、護の方から質問が質問が飛んでくると思ってもいなかった清は、驚愕で目を丸くした。
土御門護という同級生は読書以外の娯楽に興味がない、というのが、月美を除く、このクラスに属する生徒たちの認識だ。それは清も例外ではない。
そんな護が、自分が遊んでいるゲームがどんなものか気になっているという反応を示したのだ。
遊ぶか遊ばないかはともかくとして、気になる、という段階に入ったのだから、驚きもする。
もっとも、護本人から言わせれば。
「紹介させないとしつこいだろ、お前」
ということのようだ。
ある意味、勘解由小路清という人間を知っているからこその反応だった。
「あ、さよで」
護の言葉に、清はがっくりと肩を落としたが、すぐに気を取り直し、『幻想召喚物語』の説明を始めた。
「まぁ、一口で言えば、伝説上の生物を召喚して、そいつを戦わせて遊ぶってゲームだな」
「闘鶏とか闘犬みたいな感じか?」
「なんか、それはちょっとかわいそうというか……」
清のそのざっくりとした説明に、護は過去に日本の上流階級の文化として流行した遊びを連想し、月美は考え込むような表情を浮かべた。
基本的に、護のことが絡まなければ誰にでも優しい、月美らしい反応だ。
だが、清はあっけらかんとしたしたもので。
「けど、現実で生物を戦わせるわけじゃないからいいじゃん。闘犬や闘鶏は現実だけど、ゲームは所詮、データなんだからさ」
と返してきた。
その通りと言えばその通りなのだが、月美は『伝説上の生物』という部分に引っ掛かりを覚えているようだ。
顔にこそ出さないが、護もそれは同じらしい。
ドラゴンやユニコーン、カーバンクル、フェンリルといったユーラシア大陸西部を舞台にした神話の生物はともかく、龍や麒麟、妖狐といった大陸東部を舞台にした神話の生物は、二人にとってなじみの深い存在だ。
おまけに護は神狐を母に持つ安倍晴明の子孫であり、五体の妖狐を使役しているし、月美は葛の葉を祀る神社の巫女見習い。
自分のルーツに関わる存在や、自身が祀ってきた存在に縁のあるものを見世物にされるようで、あまり面白みを感じていないようだ。
だが、ふと周囲を見回すと、なぜか違和感を覚え首を傾げていると。
「どうしたの?護」
「ん。あぁ、いやなんか違和感が……」
「違和感?」
問いかけてきた月美にそう答えると、月美は周囲を見渡し、なるほど、と相槌を打った。
「そういえば、なんかちょっと変だよね?」
「あぁ。一応、放課後っちゃ放課後だけど、なんでみんな携帯出してるんだ?」
二人が感じ取った違和感。
それは、まだ校内にいるにも関わらず、みんながみんな、携帯を取り出し、操作をしていることだった。
一応、月華学園は生徒の携帯持ち込みを認めている。
だが、校内で使用することは認められておらず、見つけた場合はその日の放課後まで没収され、反省文を書かされるという規則になっているのだ。
避けることができる面倒事は避けたい性質なのか、少なくとも護たちが所属するクラスメイト達の中で、携帯を取り上げられた生徒はいない。
だというのに、今は堂々と携帯を取り出し、誰に電話をかけるでもなく、画面を見つめ、何かの操作をしているのだ。
だが、その疑問に対する答えを持っている人物はすぐ隣にいた。
「あれ?二人とも知らねぇのか?」
「あ?」
「え?」
「年末あたりから新しいアプリができてさ。基本無料で遊べるし、手軽だから、結構人気あるんだよ」
俺もやってるし、と言いながら、清が二人に携帯の画面を見せてきた。
そこには、『幻想召喚物語』というゲームのタイトル画面がある。
どうやら、ここ一週間ほどで爆発的な人気となったゲームのようだ。
だが、基本的に修行と普段の勉強であまり時間的に余裕がない護と月美は。
「なんだこりゃ?」
「なにこれ?」
という反応を示していた。
その反応に、清はショックを受けたのか、新種の生物を見つけたかのような顔で問いかけてきた。
「携帯のゲームだよ、知らねぇの?」
「知らね。俺、基本的にゲームしねぇし」
「同じく」
「まぁ、だと思ったよ」
だが、その答えは予想通りらしい。
肩を落としてため息をつきながら、自分の携帯を操作し始めた。
携帯の操作が終わると、清は楽し気な笑みを浮かべていたが、十秒、二十秒と時間が経つにつれ、その顔には疑念が浮かんでいき。
「な、なぁ?お前ら、携帯……」
「え?電源、切ってるけど」
「学校じゃ電源切るのは当たり前だろ?」
さも当たり前であるかのように返してくる二人に、清はため息しか出なかった。
「お前ら、優等生かよ……」
「用事がなければ携帯の電源は切っておくものじゃないの?」
「学校で着信音がなってみろ。面倒なことになるだろうが」
「……まぢで優等生だよな、お前ら」
面倒事を避けたいが、持っていきたいものを持っていくにはどうすればいいか。
答えは、その存在をひた隠しにすること。
所持を認められていても、使用は認められていない。
着信音を聞いただけで、携帯を使っている、という判断をする教師もいないわけではない。
そうなった場合、面倒に巻き込まれることはわかりきっている。
護にしても月美にしても、日常の面倒事はできるならば避けたいと考えているため、必然的に学校にいる間は電源を切ることにしていた。
もっとも、清はそんなことはしていないようだが。
「で、それはどんなゲームなんだよ?」
「え?あぁ……って、興味あんのかよ?!」
「紹介したそうな顔してんだろうが」
まさか、護の方から質問が質問が飛んでくると思ってもいなかった清は、驚愕で目を丸くした。
土御門護という同級生は読書以外の娯楽に興味がない、というのが、月美を除く、このクラスに属する生徒たちの認識だ。それは清も例外ではない。
そんな護が、自分が遊んでいるゲームがどんなものか気になっているという反応を示したのだ。
遊ぶか遊ばないかはともかくとして、気になる、という段階に入ったのだから、驚きもする。
もっとも、護本人から言わせれば。
「紹介させないとしつこいだろ、お前」
ということのようだ。
ある意味、勘解由小路清という人間を知っているからこその反応だった。
「あ、さよで」
護の言葉に、清はがっくりと肩を落としたが、すぐに気を取り直し、『幻想召喚物語』の説明を始めた。
「まぁ、一口で言えば、伝説上の生物を召喚して、そいつを戦わせて遊ぶってゲームだな」
「闘鶏とか闘犬みたいな感じか?」
「なんか、それはちょっとかわいそうというか……」
清のそのざっくりとした説明に、護は過去に日本の上流階級の文化として流行した遊びを連想し、月美は考え込むような表情を浮かべた。
基本的に、護のことが絡まなければ誰にでも優しい、月美らしい反応だ。
だが、清はあっけらかんとしたしたもので。
「けど、現実で生物を戦わせるわけじゃないからいいじゃん。闘犬や闘鶏は現実だけど、ゲームは所詮、データなんだからさ」
と返してきた。
その通りと言えばその通りなのだが、月美は『伝説上の生物』という部分に引っ掛かりを覚えているようだ。
顔にこそ出さないが、護もそれは同じらしい。
ドラゴンやユニコーン、カーバンクル、フェンリルといったユーラシア大陸西部を舞台にした神話の生物はともかく、龍や麒麟、妖狐といった大陸東部を舞台にした神話の生物は、二人にとってなじみの深い存在だ。
おまけに護は神狐を母に持つ安倍晴明の子孫であり、五体の妖狐を使役しているし、月美は葛の葉を祀る神社の巫女見習い。
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