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再臨譚
9、準備はいよいよラストスパート
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それからも続いていた清からのしつこいお誘いを断りながら、護と月美は残り少ない二学期の学校生活を終え、ようやく冬休みに突入し、神社のことに集中できるようになった。
幸いなことに大掃除は終了したのだが、参拝客が買い求めるお守りや破魔矢の手配など、新年の準備に追われていた。
護と月美や普段から神社の手伝いをしてくれている見習い術者だけでは手が足りないため、土御門神社の氏子やアルバイトに応募した大学生も加わり、準備に勤しんでいた。
「あの、これはどこに置けば?」
「お願いされていた分の破魔矢、できあがりました。どうすればいいでしょう?」
それでも、できあがったお守りの保管場所がわからなかったり、完成してもどうすればいいのかわからなかったりすることが多い。
そういった、氏子やアルバイトではできないことについては、護や月美、翼の弟子に回ってくる。
人数が増えたからと言って、護たちの仕事量が劇的に減るわけではなかった。
だが、人手があることとないことには、やはり大きな差がある。
その証拠に。
「ふぅ……今年は去年よりはましですかね?」
「ですね。少なくとも、お守りや破魔矢のお清め以外のことをしてないのは初めてかもしれません」
と、作業をしていた二人の弟子がそんな会話をしていた。
例年ならばそんな余裕がないほど動き回っているのだが、この年はいつもよりも多くの氏子やアルバイトがきてくれたおかげで、弟子たちが抱える仕事量が劇的に減少しているということの何よりの証拠だ。
もっとも、多少、このような会話をする余裕があるというだけであり、やることがまったくなくなったというわけでもない。
「さて、さっさと終わらせて年越しそばをすすりたいもんだ」
「なら、早いとこ終わらせないといけませんね」
片方の弟子の言葉に、もう片方の弟子はくすくすと笑いながらそう返し、自分が担当していた破魔矢を詰めた箱を持ち、護の元へと向かっていった。
数分とせずに、護と翼が破魔矢を浄化し、念を込めている部屋に到着する。
そこに広がっている光景に、弟子は白目をむきそうになり。
――いつも思うけど、なんでこの二人はこの量を平然とこなしているんだ?
そんな感想を抱いていた。
護と翼、そして霊力が強く、間もなく翼の元から卒業していく術者たちは、基本的に完成された破魔矢に残ったわずかな穢れを浄化し、破邪の念を込めることが仕事だ。
しかし、弟子たちが完成させた端から持ってくるため、なかなか減らない。
その減らない仕事を黙々と行うことができる、バケモノじみた集中力に、この弟子はおののいているのだ。
「あ、あのぉ……先生?」
「……なんだ?」
恐る恐る、声をかけてみたが、不機嫌そうな視線と声色を向けてきた。
声こそ出していないが、護もこの場にいた兄姉弟子たちも同じ気持ちだったのだろう。
不機嫌そうな視線が一斉にいくつも突き刺さってくる。
その視線に恐れおののきながらも、弟子は。
「あ、あの。これ追加分です!置いておきますので、よろしくお願いします!」
と伝えて、どうにかその場を立ち去ることができた。
その様子はまるで、鬼に遭遇した平安貴族が這う這うの体で逃げ出すかのよう。
――いや、まじで、なんで……あの空気に耐えられるんだよ……俺、あの中に入ってく自信ない、無理!絶対無理!!
元いた部屋に戻る途中で、弟子はそんなことを思いながら、目に涙を浮かべていた。
この弟子の肝っ玉がよほど小さいのか、それともそれだけ護たちのいた部屋の雰囲気が険悪だったのか。
それは、体感した本人にしかわからない。
「一つ追加、か」
「もうそろそろ終わるので、俺の方にお願いします」
「すまんな、護」
「こんな時ですから、文句のいいっこなしでしょ、父さん」
「それもそうだ」
ただ一つ言えることは、少なくとも弟子が感じたほど剣呑な空気が護と翼の間にはない、ということだろうか。
そして、それを知っていた兄姉弟子たちは。
「あいつ、もしかしなくても先生たちのこと、苦手なんじゃね?」
「先生、ご子息にもそうだけど、俺たちにも厳しいからねぇ」
「そういや知ってるか?ご子息、俺らよりきつい修行してるらしいぞ」
「え……」
「ご子息、高校生だよな?大丈夫なのか?色々」
このように、少しの雑談ができる程度には心に余裕があるようだ。
もっとも、その雑談を翼に聞かれていることを忘れていたらしく。
「そこ。うるさいぞ、作業に集中しろ」
「「「「す、すみません……」」」」
「……はぁ……これで何度目ですか……」
と、翼からおしかりを受け、護から呆れたようなため息をつかれてから、再び作業に集中するまでが、ここ数日で定番の流れとなっていた。
その流れも、もうそろそろ終わりを迎えようとしている。
「……これで最後」
「お疲れ様」
「終わった分、運んでおきます。皆さんは休んでいてください」
護が最後の一つの作業を終え、翼がねぎらいの言葉をかけた。
その言葉にうなずきを返してから、一応、顔見知りで年長者の弟子たちを気遣うように、護が率先して残る作業を行うことを告げると、彼らの返答を待たず、さっさと作業を終わらせた箱を持って、部屋を出て行ってしまった。
「さて、ちょうどいい時間でもあるし、夕飯にしよう」
そして、翼は護が出ていくと同時に、部屋に残っていた弟子たちにそう告げた。
その言葉に従うように、弟子たちは翼の後に続き、夕食を食べにむかった。
なお、数分遅れて夕食を食べに来た護は、先に休んでいてほしいと言っていた手前、文句を言うこともなく、弟子たちと一緒に夕食を食べることとなった。
幸いなことに大掃除は終了したのだが、参拝客が買い求めるお守りや破魔矢の手配など、新年の準備に追われていた。
護と月美や普段から神社の手伝いをしてくれている見習い術者だけでは手が足りないため、土御門神社の氏子やアルバイトに応募した大学生も加わり、準備に勤しんでいた。
「あの、これはどこに置けば?」
「お願いされていた分の破魔矢、できあがりました。どうすればいいでしょう?」
それでも、できあがったお守りの保管場所がわからなかったり、完成してもどうすればいいのかわからなかったりすることが多い。
そういった、氏子やアルバイトではできないことについては、護や月美、翼の弟子に回ってくる。
人数が増えたからと言って、護たちの仕事量が劇的に減るわけではなかった。
だが、人手があることとないことには、やはり大きな差がある。
その証拠に。
「ふぅ……今年は去年よりはましですかね?」
「ですね。少なくとも、お守りや破魔矢のお清め以外のことをしてないのは初めてかもしれません」
と、作業をしていた二人の弟子がそんな会話をしていた。
例年ならばそんな余裕がないほど動き回っているのだが、この年はいつもよりも多くの氏子やアルバイトがきてくれたおかげで、弟子たちが抱える仕事量が劇的に減少しているということの何よりの証拠だ。
もっとも、多少、このような会話をする余裕があるというだけであり、やることがまったくなくなったというわけでもない。
「さて、さっさと終わらせて年越しそばをすすりたいもんだ」
「なら、早いとこ終わらせないといけませんね」
片方の弟子の言葉に、もう片方の弟子はくすくすと笑いながらそう返し、自分が担当していた破魔矢を詰めた箱を持ち、護の元へと向かっていった。
数分とせずに、護と翼が破魔矢を浄化し、念を込めている部屋に到着する。
そこに広がっている光景に、弟子は白目をむきそうになり。
――いつも思うけど、なんでこの二人はこの量を平然とこなしているんだ?
そんな感想を抱いていた。
護と翼、そして霊力が強く、間もなく翼の元から卒業していく術者たちは、基本的に完成された破魔矢に残ったわずかな穢れを浄化し、破邪の念を込めることが仕事だ。
しかし、弟子たちが完成させた端から持ってくるため、なかなか減らない。
その減らない仕事を黙々と行うことができる、バケモノじみた集中力に、この弟子はおののいているのだ。
「あ、あのぉ……先生?」
「……なんだ?」
恐る恐る、声をかけてみたが、不機嫌そうな視線と声色を向けてきた。
声こそ出していないが、護もこの場にいた兄姉弟子たちも同じ気持ちだったのだろう。
不機嫌そうな視線が一斉にいくつも突き刺さってくる。
その視線に恐れおののきながらも、弟子は。
「あ、あの。これ追加分です!置いておきますので、よろしくお願いします!」
と伝えて、どうにかその場を立ち去ることができた。
その様子はまるで、鬼に遭遇した平安貴族が這う這うの体で逃げ出すかのよう。
――いや、まじで、なんで……あの空気に耐えられるんだよ……俺、あの中に入ってく自信ない、無理!絶対無理!!
元いた部屋に戻る途中で、弟子はそんなことを思いながら、目に涙を浮かべていた。
この弟子の肝っ玉がよほど小さいのか、それともそれだけ護たちのいた部屋の雰囲気が険悪だったのか。
それは、体感した本人にしかわからない。
「一つ追加、か」
「もうそろそろ終わるので、俺の方にお願いします」
「すまんな、護」
「こんな時ですから、文句のいいっこなしでしょ、父さん」
「それもそうだ」
ただ一つ言えることは、少なくとも弟子が感じたほど剣呑な空気が護と翼の間にはない、ということだろうか。
そして、それを知っていた兄姉弟子たちは。
「あいつ、もしかしなくても先生たちのこと、苦手なんじゃね?」
「先生、ご子息にもそうだけど、俺たちにも厳しいからねぇ」
「そういや知ってるか?ご子息、俺らよりきつい修行してるらしいぞ」
「え……」
「ご子息、高校生だよな?大丈夫なのか?色々」
このように、少しの雑談ができる程度には心に余裕があるようだ。
もっとも、その雑談を翼に聞かれていることを忘れていたらしく。
「そこ。うるさいぞ、作業に集中しろ」
「「「「す、すみません……」」」」
「……はぁ……これで何度目ですか……」
と、翼からおしかりを受け、護から呆れたようなため息をつかれてから、再び作業に集中するまでが、ここ数日で定番の流れとなっていた。
その流れも、もうそろそろ終わりを迎えようとしている。
「……これで最後」
「お疲れ様」
「終わった分、運んでおきます。皆さんは休んでいてください」
護が最後の一つの作業を終え、翼がねぎらいの言葉をかけた。
その言葉にうなずきを返してから、一応、顔見知りで年長者の弟子たちを気遣うように、護が率先して残る作業を行うことを告げると、彼らの返答を待たず、さっさと作業を終わらせた箱を持って、部屋を出て行ってしまった。
「さて、ちょうどいい時間でもあるし、夕飯にしよう」
そして、翼は護が出ていくと同時に、部屋に残っていた弟子たちにそう告げた。
その言葉に従うように、弟子たちは翼の後に続き、夕食を食べにむかった。
なお、数分遅れて夕食を食べに来た護は、先に休んでいてほしいと言っていた手前、文句を言うこともなく、弟子たちと一緒に夕食を食べることとなった。
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