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騒動劇
48、仕事終わりに打ち上げを
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保通が事態が解決したことを宣言すると、職員たちは互いにねぎらいの言葉をかけた。
護も月美の方へと歩み寄り、静かに彼女のことをねぎらっていた。
「お疲れ様。なんか、苦労かけたみたいだな」
「全然。これくらいは屁の河童ってもんよ!」
「そいつぁ頼もしい」
胸を張る月美の姿に、護は静かに笑みを浮かべながら返し、光と満の方へと向き直った。
「二人も、お疲れ様でした」
「いやなに。これくらい、どうということはない」
「あなたも、お疲れ様でした」
まさか護の口からねぎらいの言葉が出てくるとは思いもしなかったのか、一瞬だけ目を丸くしたが、すぐに微笑みを浮かべ、ねぎらいの言葉を返した。
「しかし、本当に君は変わったな」
「ん?」
「最初にあった時、君は『寄らば斬る』とでも言いたそうな雰囲気を出していたからな」
唐突な光の言葉に、護は首をかしげたが、光はその理由をすぐに話した。
指摘された当の本人は、やはり気まずいのか視線をそらしている。
そんな態度をしているあたり、そんな雰囲気を出していたという自覚はあったようだ。
「まったく、何がどうして君がそんな風になったのかはしらないが、そんな態度が続くと、苦労するぞ?」
「経験者だからこそのアドバイスですかな?」
「なっ?!なにをいってるんだ、芦屋さん!!」
「いや、事実を言ったまでだが?」
突然割り込んできた満の言葉に、光は顔を真っ赤にして叫びだした。
どうやら、自分の黒歴史を掘り返されそうになり、抵抗を試みているようだ。
「実際問題、そうだろう?確か、君が初めて調査局に就職したときは……」
「い、言うな!言わないでくれ!!」
「あぁ、なんか察したので、いいです。それ以上は」
光の様子から、これ以上踏み入ることは彼女に精神的なダメージを与えることになる。
それだけならばまだしも、自分の身に危険が及ぶ。
そんな予感がしてならないのだ。
せっかく厄介事が一つ片付いたのだから、これ以上、面倒なことに巻き込まれたくはないため、護はひとまず、満が何を言おうとしているのか、察したことを告げた。
だが、満は光をからかい足りないのか、なおも護に絡んでいた。
「まぁ、そう言わずに聞け。実はな」
「だから!言わなくていい!!頼むから言わないでくれえ!!」
ニヤニヤと笑みを浮かべながら光の過去を離そうとする満に、涙目になりながら必死にそれを止める光。
調査局の中でも屈指の実力を持つ二人のそんなやり取りに、護だけでなくその場にいた若い職員たちが目を丸くしていると、突然、護と月美の携帯から着信音が響いた。
「ん?」
「へ?なんだろう」
護と月美は同時に携帯を取り出し、画面を確認した。
画面にはメールの着信を告げる表示と、件名の一部が記されている。
その文字を見た二人は、何かを思い出したのか、同時に白目をむいた。
「……なぁ、月美」
「うん。たぶん、わたしも護と同じメール受け取った」
「どうする?」
「行かないと、面倒だろ?特に勘解由小路がやかましい」
今まで以上に疲れたという雰囲気を醸し出しながら、護はため息をついた。
その言葉に同意するように、月美もため息をつく。
「それじゃ、二人とも出席って送っておくよ?護、自分から言うのは嫌でしょ?」
「あぁ。すまん」
「どういたしまして」
くすくす、と微笑みながら、月美はメールの返信を始めた。
その最中、光が護にひそひそと耳打ちしてきた。
「さっき、勘解由小路と聞こえたが、何があったんだ?」
清の実家である勘解由小路家は、言わば晴明神社の管理を行っている京都の本家と土御門家のような関係だ。
両家とも賀茂忠行を祖先に持つ家系だ。
とはいえ、互いに面識も交流もないらしく、清が護と月美の同級生であることを知らなかったことが何よりの証拠だ。
「別に何も。ただ、あなたの分家の一人が俺と同級生ってだけです」
「そうか。世間は意外と狭いんだな」
「まったくです」
光の言葉に、護はため息交じりに同意した。
「それで二人はそちらの打ち上げに向かうのかな?」
「まぁ、そういうことになりますね。なんせ、断ったら断ったで面倒くさい奴なんで」
「そ、そうか。まさかと思うが、その面倒くさい奴というのは」
護の口から出てきた言葉に、なぜか嫌な予感を覚え、確認の意味も込めて、恐る恐る、問いかけていた。
その様子に何かを悟ったのか、護はにっこりと笑みを浮かべ。
「あなたの縁者です」
と答えた。
自分の予想が的中してしまったことに、光は血の気が引いているのを感じ、慌てて頭を下げた。
「なんだか本当に申し訳ない……」
「いえ、賀茂さんが気にするほどのことでは」
「いや、仮にも私の縁者だ。それが迷惑をかけているとなれば、やはり謝罪はするべきだろう」
気にする必要はない、と実際に迷惑をこうむっている本人はそう言っているのだが、光としてはそれはそれで別の問題なのだろう。
慌てた様子で、何度も頭を下げていた。
だが、護は本当に気にしておらず。
「ほんとに気にしてないので。というか、俺が変わったというのなら、その一番の要因はあいつですから」
月美を除き、周囲の噂に流されずに護を構い続けた人間は、清だけだ。
清がいなければ、おそらく護の人間嫌いはもっとひどくなっていたに違いない。
初対面でなくとも、つっけんどんな態度を取ることが圧倒的に多いが、それでも人間との関わりを完全に断っていない要因は、清のしつこすぎる絡みにあるといえなくもないだろう。
「そ、そうか。」
納得できたような、納得しきれないような、そんな複雑な表情を浮かべながら、光はそれ以上の謝罪をやめた。
そうこうしていると、月美が護を呼びながら近づいてきた。
「護。これから集まれないかって、連絡がきたんだけどどうする?」
「え?あぁ、それじゃ帰ったほうがいいかもな。賀茂さん、芦屋さん。そういうわけなんで、俺たちはこれで」
「あ、あぁ。そうか、それでは」
「光さん、満さん。またいつか」
「失礼します」
そう言って、護と月美は光と満に頭を下げ、調査局から立ち去っていった。
なお、この後、護と月美は清たちから指定された場所に向かい、文化祭打ち上げの話し合いに巻き込まれることとなるのだが、それはまた別の話。
護も月美の方へと歩み寄り、静かに彼女のことをねぎらっていた。
「お疲れ様。なんか、苦労かけたみたいだな」
「全然。これくらいは屁の河童ってもんよ!」
「そいつぁ頼もしい」
胸を張る月美の姿に、護は静かに笑みを浮かべながら返し、光と満の方へと向き直った。
「二人も、お疲れ様でした」
「いやなに。これくらい、どうということはない」
「あなたも、お疲れ様でした」
まさか護の口からねぎらいの言葉が出てくるとは思いもしなかったのか、一瞬だけ目を丸くしたが、すぐに微笑みを浮かべ、ねぎらいの言葉を返した。
「しかし、本当に君は変わったな」
「ん?」
「最初にあった時、君は『寄らば斬る』とでも言いたそうな雰囲気を出していたからな」
唐突な光の言葉に、護は首をかしげたが、光はその理由をすぐに話した。
指摘された当の本人は、やはり気まずいのか視線をそらしている。
そんな態度をしているあたり、そんな雰囲気を出していたという自覚はあったようだ。
「まったく、何がどうして君がそんな風になったのかはしらないが、そんな態度が続くと、苦労するぞ?」
「経験者だからこそのアドバイスですかな?」
「なっ?!なにをいってるんだ、芦屋さん!!」
「いや、事実を言ったまでだが?」
突然割り込んできた満の言葉に、光は顔を真っ赤にして叫びだした。
どうやら、自分の黒歴史を掘り返されそうになり、抵抗を試みているようだ。
「実際問題、そうだろう?確か、君が初めて調査局に就職したときは……」
「い、言うな!言わないでくれ!!」
「あぁ、なんか察したので、いいです。それ以上は」
光の様子から、これ以上踏み入ることは彼女に精神的なダメージを与えることになる。
それだけならばまだしも、自分の身に危険が及ぶ。
そんな予感がしてならないのだ。
せっかく厄介事が一つ片付いたのだから、これ以上、面倒なことに巻き込まれたくはないため、護はひとまず、満が何を言おうとしているのか、察したことを告げた。
だが、満は光をからかい足りないのか、なおも護に絡んでいた。
「まぁ、そう言わずに聞け。実はな」
「だから!言わなくていい!!頼むから言わないでくれえ!!」
ニヤニヤと笑みを浮かべながら光の過去を離そうとする満に、涙目になりながら必死にそれを止める光。
調査局の中でも屈指の実力を持つ二人のそんなやり取りに、護だけでなくその場にいた若い職員たちが目を丸くしていると、突然、護と月美の携帯から着信音が響いた。
「ん?」
「へ?なんだろう」
護と月美は同時に携帯を取り出し、画面を確認した。
画面にはメールの着信を告げる表示と、件名の一部が記されている。
その文字を見た二人は、何かを思い出したのか、同時に白目をむいた。
「……なぁ、月美」
「うん。たぶん、わたしも護と同じメール受け取った」
「どうする?」
「行かないと、面倒だろ?特に勘解由小路がやかましい」
今まで以上に疲れたという雰囲気を醸し出しながら、護はため息をついた。
その言葉に同意するように、月美もため息をつく。
「それじゃ、二人とも出席って送っておくよ?護、自分から言うのは嫌でしょ?」
「あぁ。すまん」
「どういたしまして」
くすくす、と微笑みながら、月美はメールの返信を始めた。
その最中、光が護にひそひそと耳打ちしてきた。
「さっき、勘解由小路と聞こえたが、何があったんだ?」
清の実家である勘解由小路家は、言わば晴明神社の管理を行っている京都の本家と土御門家のような関係だ。
両家とも賀茂忠行を祖先に持つ家系だ。
とはいえ、互いに面識も交流もないらしく、清が護と月美の同級生であることを知らなかったことが何よりの証拠だ。
「別に何も。ただ、あなたの分家の一人が俺と同級生ってだけです」
「そうか。世間は意外と狭いんだな」
「まったくです」
光の言葉に、護はため息交じりに同意した。
「それで二人はそちらの打ち上げに向かうのかな?」
「まぁ、そういうことになりますね。なんせ、断ったら断ったで面倒くさい奴なんで」
「そ、そうか。まさかと思うが、その面倒くさい奴というのは」
護の口から出てきた言葉に、なぜか嫌な予感を覚え、確認の意味も込めて、恐る恐る、問いかけていた。
その様子に何かを悟ったのか、護はにっこりと笑みを浮かべ。
「あなたの縁者です」
と答えた。
自分の予想が的中してしまったことに、光は血の気が引いているのを感じ、慌てて頭を下げた。
「なんだか本当に申し訳ない……」
「いえ、賀茂さんが気にするほどのことでは」
「いや、仮にも私の縁者だ。それが迷惑をかけているとなれば、やはり謝罪はするべきだろう」
気にする必要はない、と実際に迷惑をこうむっている本人はそう言っているのだが、光としてはそれはそれで別の問題なのだろう。
慌てた様子で、何度も頭を下げていた。
だが、護は本当に気にしておらず。
「ほんとに気にしてないので。というか、俺が変わったというのなら、その一番の要因はあいつですから」
月美を除き、周囲の噂に流されずに護を構い続けた人間は、清だけだ。
清がいなければ、おそらく護の人間嫌いはもっとひどくなっていたに違いない。
初対面でなくとも、つっけんどんな態度を取ることが圧倒的に多いが、それでも人間との関わりを完全に断っていない要因は、清のしつこすぎる絡みにあるといえなくもないだろう。
「そ、そうか。」
納得できたような、納得しきれないような、そんな複雑な表情を浮かべながら、光はそれ以上の謝罪をやめた。
そうこうしていると、月美が護を呼びながら近づいてきた。
「護。これから集まれないかって、連絡がきたんだけどどうする?」
「え?あぁ、それじゃ帰ったほうがいいかもな。賀茂さん、芦屋さん。そういうわけなんで、俺たちはこれで」
「あ、あぁ。そうか、それでは」
「光さん、満さん。またいつか」
「失礼します」
そう言って、護と月美は光と満に頭を下げ、調査局から立ち去っていった。
なお、この後、護と月美は清たちから指定された場所に向かい、文化祭打ち上げの話し合いに巻き込まれることとなるのだが、それはまた別の話。
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