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騒動劇
46、追跡開始
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月美が作り上げた式の網に人形がかかったことを察した護は、保通に月美の霊力を追跡するよう提言した。
その結果、数名の女性職員が月美の体に触れ、霊力の追跡を行うことになった。
さすがに、年頃の女子に対する配慮はされていたようだ。
本来なら、護も追跡メンバーとして動員されてもおかしくはないのだが、女性職員のみで追跡にあたるよう指示を出してしまっていたため、護の同行は許されなかった。
そのため、調査局内で待機しているのだが。
――いかん、暇だ
ここ最近が忙しかったせいか、何かしていないと反対に落ち着かない。
かといって、暇をつぶすためのものがないうえに、曲りなりにも今は仕事の最中だ。
勝手に抜け出して暇をつぶすことはできないし、そもそもしたくはない。
かといって、保管されている資料にどのようなものがあり、どの資料なら閲覧しても構わないのか、触れてはいけない資料が何なのかわからない以上、下手に触れることもできず。
どう時間をつぶしたものか、悶々とするはめになった。
瞑想して時間をつぶす、ということも考えはしたのだが。
――まず気持ちが落ち着かないしなぁ
なぜか、瞑想に入る前段階に気持ちが切り替わらなかった。
場所や環境が違うために緊張している、ということもあるのだろうが、何より、月美がうまくやれるかが心配で動揺してしまっていることが大きい。
――いや、保護者かよ俺は!!月美は実戦が不足しているだけで、実力は十分あるんだ。心配する要素がどこにある?!
どちらかといえば、保護者というよりも恋人としての心配である。
いずれにしても、何もしてやれない自分に苛立ちを覚えていることに変わりはなく、月美が戻ってくるまで、護は時間を持て余すことになるのであった。
------------
一方、光と満とともに建物の外へ出た月美は、自分の霊力をまとった人形を追いかけていた。
「こっち」
「わかった」
数メートル移動しては立ち止まり、自分の霊力の位置を確かめ、再び歩き出す。
そんなことを続けていると、三人はオフィス街から離れていった。
「それにしても、どんどんオフィス街から離れていくな」
「こっちのほうって、住宅街なんですか?」
「あぁ……ん?」
月美の問いかけに頷いた光は何かに気づいたらしく、周囲を見回し始めた。
そして、胸ポケットから一枚の写真を取り出し。
「やはりな」
「やはり、とは?」
「このあたりには人形を最後に買い取ったあの家族がいるんだ」
その言葉に、月美は再び人形がまとった霊力を探した。
霊力の気配を強く感じる方向を確かめ。
「光さん、地図を」
「え?」
「スマホの地図、見せてください。早く!!」
「わ、わかった」
月美の鬼気迫る様子に、光は少しばかり気圧されながらスマホを差し出した。
差し出されたスマホをひったくるように受け取り、自分たちの現在位置を確認し、画面をいじりだした。
すると。
「ちょっとまずいことになりそうだわ」
「どういうことだ?」
「これ見て」
月美の言葉に満が首をかしげると、月美は光からひったくったスマホを差し出した。
「私たちの現在位置。霊力を感じた場所がここ」
「この場所はたしか」
「なるほど、たしかにまずいな」
光は月美が何を言いたいのか、理解できたようだ。
月美が指し示した、霊力の向かった方向は、つい最近、自分たちが探している人形を買い取った家族の家がある住所だった。
「あの家族の元に向かったか。それならそれで対処もしやすい」
「だといいんですけど……」
「確か、代わりの人形を渡していたはずだが」
「……嫉妬して、その家族にひどいことしないかしら?」
アメリカ発祥のネズミがモデルとなっている人気キャラクターで有名な企業が、数年前に発表したおもちゃを主人公にした映画のワンシーンを思い出しながら、月美は首を傾げた。
あの映画は持ち主が新しく購入した人形に対して、持ち主のお気に入りのおもちゃが嫉妬心を抱き、人形を家から追い出そうとして自身も巻き込まれて家から出てしまい、持ち主の家に戻る過程で友情が芽生えるというストーリーだった。
だが、今回の対象はおもちゃではなく人間だ。
どのような反応を見せるのかは未知数で、最悪のケースも考えられる。
「それは、はっきり言ってわからない」
「けど、常に最悪を想定しておくべきよね」
今までも、あの人形は持ち主を危険な目に合わせ、実際に死亡事故の現場にも居合わせていた。
満の予測では、それは人形が持ち主に対して『試し行動』を仕掛けているから、ということだが、試し行動は相手を試すものであり、自分のために行うものだ。
意図して傷つけるものではない。
だが、今回は違う。
人形を回収する際、あの家族にはそっくりな人形を代替品として渡している。
本来自分が収まるはずだった場所に、自分ではない者が収まっている状況。
そんなものを見てしまったとき、人形があの家族を傷つけないという保証はない。
今度こそ、試すのではなく、『傷つける』という意思であの家族を傷つけようとするだろう。
そんな事態は、避けなければならない。
月美たちはまっすぐに人形が向かったであろう家族の家へと向かった。
その結果、数名の女性職員が月美の体に触れ、霊力の追跡を行うことになった。
さすがに、年頃の女子に対する配慮はされていたようだ。
本来なら、護も追跡メンバーとして動員されてもおかしくはないのだが、女性職員のみで追跡にあたるよう指示を出してしまっていたため、護の同行は許されなかった。
そのため、調査局内で待機しているのだが。
――いかん、暇だ
ここ最近が忙しかったせいか、何かしていないと反対に落ち着かない。
かといって、暇をつぶすためのものがないうえに、曲りなりにも今は仕事の最中だ。
勝手に抜け出して暇をつぶすことはできないし、そもそもしたくはない。
かといって、保管されている資料にどのようなものがあり、どの資料なら閲覧しても構わないのか、触れてはいけない資料が何なのかわからない以上、下手に触れることもできず。
どう時間をつぶしたものか、悶々とするはめになった。
瞑想して時間をつぶす、ということも考えはしたのだが。
――まず気持ちが落ち着かないしなぁ
なぜか、瞑想に入る前段階に気持ちが切り替わらなかった。
場所や環境が違うために緊張している、ということもあるのだろうが、何より、月美がうまくやれるかが心配で動揺してしまっていることが大きい。
――いや、保護者かよ俺は!!月美は実戦が不足しているだけで、実力は十分あるんだ。心配する要素がどこにある?!
どちらかといえば、保護者というよりも恋人としての心配である。
いずれにしても、何もしてやれない自分に苛立ちを覚えていることに変わりはなく、月美が戻ってくるまで、護は時間を持て余すことになるのであった。
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一方、光と満とともに建物の外へ出た月美は、自分の霊力をまとった人形を追いかけていた。
「こっち」
「わかった」
数メートル移動しては立ち止まり、自分の霊力の位置を確かめ、再び歩き出す。
そんなことを続けていると、三人はオフィス街から離れていった。
「それにしても、どんどんオフィス街から離れていくな」
「こっちのほうって、住宅街なんですか?」
「あぁ……ん?」
月美の問いかけに頷いた光は何かに気づいたらしく、周囲を見回し始めた。
そして、胸ポケットから一枚の写真を取り出し。
「やはりな」
「やはり、とは?」
「このあたりには人形を最後に買い取ったあの家族がいるんだ」
その言葉に、月美は再び人形がまとった霊力を探した。
霊力の気配を強く感じる方向を確かめ。
「光さん、地図を」
「え?」
「スマホの地図、見せてください。早く!!」
「わ、わかった」
月美の鬼気迫る様子に、光は少しばかり気圧されながらスマホを差し出した。
差し出されたスマホをひったくるように受け取り、自分たちの現在位置を確認し、画面をいじりだした。
すると。
「ちょっとまずいことになりそうだわ」
「どういうことだ?」
「これ見て」
月美の言葉に満が首をかしげると、月美は光からひったくったスマホを差し出した。
「私たちの現在位置。霊力を感じた場所がここ」
「この場所はたしか」
「なるほど、たしかにまずいな」
光は月美が何を言いたいのか、理解できたようだ。
月美が指し示した、霊力の向かった方向は、つい最近、自分たちが探している人形を買い取った家族の家がある住所だった。
「あの家族の元に向かったか。それならそれで対処もしやすい」
「だといいんですけど……」
「確か、代わりの人形を渡していたはずだが」
「……嫉妬して、その家族にひどいことしないかしら?」
アメリカ発祥のネズミがモデルとなっている人気キャラクターで有名な企業が、数年前に発表したおもちゃを主人公にした映画のワンシーンを思い出しながら、月美は首を傾げた。
あの映画は持ち主が新しく購入した人形に対して、持ち主のお気に入りのおもちゃが嫉妬心を抱き、人形を家から追い出そうとして自身も巻き込まれて家から出てしまい、持ち主の家に戻る過程で友情が芽生えるというストーリーだった。
だが、今回の対象はおもちゃではなく人間だ。
どのような反応を見せるのかは未知数で、最悪のケースも考えられる。
「それは、はっきり言ってわからない」
「けど、常に最悪を想定しておくべきよね」
今までも、あの人形は持ち主を危険な目に合わせ、実際に死亡事故の現場にも居合わせていた。
満の予測では、それは人形が持ち主に対して『試し行動』を仕掛けているから、ということだが、試し行動は相手を試すものであり、自分のために行うものだ。
意図して傷つけるものではない。
だが、今回は違う。
人形を回収する際、あの家族にはそっくりな人形を代替品として渡している。
本来自分が収まるはずだった場所に、自分ではない者が収まっている状況。
そんなものを見てしまったとき、人形があの家族を傷つけないという保証はない。
今度こそ、試すのではなく、『傷つける』という意思であの家族を傷つけようとするだろう。
そんな事態は、避けなければならない。
月美たちはまっすぐに人形が向かったであろう家族の家へと向かった。
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