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騒動劇
41、人形探しのヒントはそのいわれにあり?
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二手に分かれて、人形を探し始めて三十分近い時間が経過した。
だが、その甲斐なく成果を得ることができずにいた。
すでに二回ほど保通に定時連絡をしていたのだが、何の成果も得られていないことに、疲れたような声色で返してきていることに、護たちは申し訳なく思っていた。
現在、四人は情報交換と休憩を兼ねて、ビル内に入っている食堂で休憩をしていた。
「しかし、どうする?このままでは本当に埒が明かないぞ」
「君の使鬼からは何か連絡は??」
「まったくない……まだ局内にいるということだろう」
光は一縷の望みをかけて、護に問いかけたが、護からの返答はその望みを叶えるものではなかった。
実のところ、護も使鬼たちからの報告に期待していたのだが、成果を得られていないことに少しばかりショックを受けていた。
だが、それは局内から出ていないということでもある。
捜索範囲をこれ以上、広げる必要がないという意味では、非常にありがたいことでもある。
「だが、どうする?気の澱みからしても、明日あたりが限度だぞ?」
「いっそのこと、罠を仕掛けるか?」
「わざと気を入れ替えて、飛び出そうとするところを、ということか?」
「そんなにうまくいくかな?」
「そもそも、衆人環視の中で動き回るもんじゃないだろ」
動くための仕組みが備わっていない人形が目の前で動く。
そんな怪現象は、術者でもなかなか見ることがない。
窓を見張っていたとしても、近づく気配すら見せない可能性もある。いや、むしろ、見張りが視線を外した瞬間、外に出る可能性が高い。
かといって、このままやみくもに探し続けていてもらちが明かない。
四人が対策を考えていると、護は不意に光と満に問いかけた。
「……なぁ、そもそも、あの人形、どんないわれがあるんだ?」
「いわれ、か?そんなことを聞いてどうしようと?」
一体、何を意図してそんなことを問いかけているのか、二人にはわからなかった。
その意図を確かめるために光が問いで返すと、護の口からその答えが返ってきた。
「あぁ。害獣や害虫を駆除するときってのは、その動物の生態を利用するだろ?」
「……なるほど。人形のいわれを知ることで、その行動や求めているものを推理しよう、ということか」
「そうゆこと」
護の考えに、光も満もうなだれてしまった。
確かに、自分たちは人形が隠れた場所をしらみつぶしに探すことしかしていない。
だが、よくよく考えてみれば、あれもまた、意志を持っている存在だ。
逃げ隠れする理由が、封印や修祓を恐れているから、というだけにしては、必死過ぎるように思える。
自分が消されてしまうことが恐ろしいから、という以外に、何かしらの理由があるのではないか、と護は踏んでいるのだ。
「追いかけることばかりに固執してしまっていたな……」
「いや、気づいていた職員もいるだろうが、言い出せなかったのだろうさ……この雰囲気だ、致し方ないだろ」
満のその呟きに、すでに立ち直っていた光がため息をつきながらそう返した。
光はまっすぐに護と月美を見ながら、あの人形についての説明を始めた。
「あの人形は、もともとは市販されていたものではなく、オーダーメイドによって作られたものらしい」
「オーダーメイド?人形にもそんなのあるんだ……」
「メーカーによっては作ってくれるところもあるらしい。それに、あの人形は数十年前に海外で作られたものだ。そういうことがあってもおかしくはないだろう?」
「まぁ、確かに。ちょっと見ただけだったが、あれはかなり作りこまれているように感じたな」
人形だけに限らず、茶碗や皿などの焼き物、工芸品などの正確な価値というものは、素人目ではなかなかはかることができないものだ。
この場にいる若い術者たちも、さほど目利きというわけではないので、あの人形がどれほどの価値があるのかは、はっきり言ってわからない。
だが、いま追いかけている人形は、素人目にもその美しさや職人の技、こだわりのようなものを感じさせるほどのものがあった。
それは、人形の制作者がそれだけ魂を込めてあの人形を作ったという何よりの証拠でもあった。
「だが、人形の最初の持ち主はその人形を気に入らなかったらしく、あまり丁寧に扱わなかったようだ」
「そうなのか?」
「あぁ。細かくてよくはわからないが、いくつか修繕を施した跡があったからな」
「なんで最初の持ち主だってわかるの?」
「修繕の跡がかなり古かったから、というのもあるが、修繕された場所が、経年劣化以外の要因で破損したとしか考えられないから、だそうだ」
「で、その最初の持ち主ってのはどうなったんだ?」
護はこれ以上話が脱線しないように、わかり切っていることではあるが、気になっていることを聞いてみた。
その問いかけに、光の口から出てきた答えは、この場にいる全員にはすでに予想がついていた。
「当然、不審死を遂げている。事故、ということになってはいるがな」
「やはり、か」
「けど、それって何年前のことなの?最初の持ち主がすでに亡くなっているなら、親や家族が形見として持っていてもおかしくないと思うんだけど」
今度は月美の口からそんな疑問が飛び出してきた。
人間が鬼籍に入れば、生前、その人が所持していたものは形見として遺族に手渡されることになる。
遺言など、特別なことがない限り、遺品整理の段階で形見分けを行い、遺族の誰かが引き取ることが通常だ。
当然、その人形も形見分けで誰かの手に渡ったのだろう。
だが、最初の持ち主の事故がどれくらい昔のことなのか、それによっては人形が持っている脅威の度合いが変わってくる。
東京に身を置く以前は、出雲の地で巫女としての修行を行っていた月美だからこそ、気づいたことなのだろう。
そして、その問いかけに、光は眉間にしわを寄せて答えを返した。
だが、その甲斐なく成果を得ることができずにいた。
すでに二回ほど保通に定時連絡をしていたのだが、何の成果も得られていないことに、疲れたような声色で返してきていることに、護たちは申し訳なく思っていた。
現在、四人は情報交換と休憩を兼ねて、ビル内に入っている食堂で休憩をしていた。
「しかし、どうする?このままでは本当に埒が明かないぞ」
「君の使鬼からは何か連絡は??」
「まったくない……まだ局内にいるということだろう」
光は一縷の望みをかけて、護に問いかけたが、護からの返答はその望みを叶えるものではなかった。
実のところ、護も使鬼たちからの報告に期待していたのだが、成果を得られていないことに少しばかりショックを受けていた。
だが、それは局内から出ていないということでもある。
捜索範囲をこれ以上、広げる必要がないという意味では、非常にありがたいことでもある。
「だが、どうする?気の澱みからしても、明日あたりが限度だぞ?」
「いっそのこと、罠を仕掛けるか?」
「わざと気を入れ替えて、飛び出そうとするところを、ということか?」
「そんなにうまくいくかな?」
「そもそも、衆人環視の中で動き回るもんじゃないだろ」
動くための仕組みが備わっていない人形が目の前で動く。
そんな怪現象は、術者でもなかなか見ることがない。
窓を見張っていたとしても、近づく気配すら見せない可能性もある。いや、むしろ、見張りが視線を外した瞬間、外に出る可能性が高い。
かといって、このままやみくもに探し続けていてもらちが明かない。
四人が対策を考えていると、護は不意に光と満に問いかけた。
「……なぁ、そもそも、あの人形、どんないわれがあるんだ?」
「いわれ、か?そんなことを聞いてどうしようと?」
一体、何を意図してそんなことを問いかけているのか、二人にはわからなかった。
その意図を確かめるために光が問いで返すと、護の口からその答えが返ってきた。
「あぁ。害獣や害虫を駆除するときってのは、その動物の生態を利用するだろ?」
「……なるほど。人形のいわれを知ることで、その行動や求めているものを推理しよう、ということか」
「そうゆこと」
護の考えに、光も満もうなだれてしまった。
確かに、自分たちは人形が隠れた場所をしらみつぶしに探すことしかしていない。
だが、よくよく考えてみれば、あれもまた、意志を持っている存在だ。
逃げ隠れする理由が、封印や修祓を恐れているから、というだけにしては、必死過ぎるように思える。
自分が消されてしまうことが恐ろしいから、という以外に、何かしらの理由があるのではないか、と護は踏んでいるのだ。
「追いかけることばかりに固執してしまっていたな……」
「いや、気づいていた職員もいるだろうが、言い出せなかったのだろうさ……この雰囲気だ、致し方ないだろ」
満のその呟きに、すでに立ち直っていた光がため息をつきながらそう返した。
光はまっすぐに護と月美を見ながら、あの人形についての説明を始めた。
「あの人形は、もともとは市販されていたものではなく、オーダーメイドによって作られたものらしい」
「オーダーメイド?人形にもそんなのあるんだ……」
「メーカーによっては作ってくれるところもあるらしい。それに、あの人形は数十年前に海外で作られたものだ。そういうことがあってもおかしくはないだろう?」
「まぁ、確かに。ちょっと見ただけだったが、あれはかなり作りこまれているように感じたな」
人形だけに限らず、茶碗や皿などの焼き物、工芸品などの正確な価値というものは、素人目ではなかなかはかることができないものだ。
この場にいる若い術者たちも、さほど目利きというわけではないので、あの人形がどれほどの価値があるのかは、はっきり言ってわからない。
だが、いま追いかけている人形は、素人目にもその美しさや職人の技、こだわりのようなものを感じさせるほどのものがあった。
それは、人形の制作者がそれだけ魂を込めてあの人形を作ったという何よりの証拠でもあった。
「だが、人形の最初の持ち主はその人形を気に入らなかったらしく、あまり丁寧に扱わなかったようだ」
「そうなのか?」
「あぁ。細かくてよくはわからないが、いくつか修繕を施した跡があったからな」
「なんで最初の持ち主だってわかるの?」
「修繕の跡がかなり古かったから、というのもあるが、修繕された場所が、経年劣化以外の要因で破損したとしか考えられないから、だそうだ」
「で、その最初の持ち主ってのはどうなったんだ?」
護はこれ以上話が脱線しないように、わかり切っていることではあるが、気になっていることを聞いてみた。
その問いかけに、光の口から出てきた答えは、この場にいる全員にはすでに予想がついていた。
「当然、不審死を遂げている。事故、ということになってはいるがな」
「やはり、か」
「けど、それって何年前のことなの?最初の持ち主がすでに亡くなっているなら、親や家族が形見として持っていてもおかしくないと思うんだけど」
今度は月美の口からそんな疑問が飛び出してきた。
人間が鬼籍に入れば、生前、その人が所持していたものは形見として遺族に手渡されることになる。
遺言など、特別なことがない限り、遺品整理の段階で形見分けを行い、遺族の誰かが引き取ることが通常だ。
当然、その人形も形見分けで誰かの手に渡ったのだろう。
だが、最初の持ち主の事故がどれくらい昔のことなのか、それによっては人形が持っている脅威の度合いが変わってくる。
東京に身を置く以前は、出雲の地で巫女としての修行を行っていた月美だからこそ、気づいたことなのだろう。
そして、その問いかけに、光は眉間にしわを寄せて答えを返した。
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