見習い陰陽師の高校生活

風間義介

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騒動劇

33、調査局の状況

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 翼の口から、調査局から応援要請がされていることを知った護は、月美と一緒に、調査局の本部へと向かった。
 だが、直接、本部に向かうことはなかった。
 二人がまず向かったのは、霞が関駅の近くにある喫茶店だった。

「直接、内閣府に行くんじゃないんだ?」
「調査局に行くのは初めてだからな。あの女に教えてもらうことになってるんだ」
「……あの女?」

 あの女、という言葉に、月美の眉はかすかに動いた。
 自分や佳代、明美以外に交流のある女性が誰かいるのか。
 それを思うと、無性に腹立たしくなってきたが、自分もあったことがある一人の術者のことを思い出した。

「……もしかして、賀茂さん?」
「そ」
「……名前で呼ばないの?」
「そこまで親しい間柄じゃないしな」

 基本的に、護は他人を名前で呼ぶことはしない。
 目の前にその人物がいれば名字で呼ぶことはあるが、名前で呼ぶことはまずない。
 それだけならまだしも、よほどのことがない限り、護は身内やそれに近いと認識している人間を名字で呼ぶことすらない。
 どうやら、光も目の前にいない限り名字ですら呼ぶことのない『赤の他人』として扱っているようだ。

「一応、直接、依頼をされたんだよね?」
「まぁな。けど、それとこれは別」

 月美の問いかけに、護は注文したアイスコーヒーを口に含みながら返した。
 直接依頼をされたことは確かにそうなのだが、あまり親しくないというのも事実だ。
 頻繁に顔を合わせているわけではないし、そもそも最初に顔を合わせた時、いきなり、術比べを仕掛けてきたのだから、そもそもあまりいい印象を持っていないことも要因の一つなのだろう。

「ふ~ん?」
「というか、会っていきなり喧嘩吹っ掛けてくるような奴だぞ?名字でも呼びたくないわ」

 疑いの眼を向けてくる月美に、護はうんざりしたような表情でため息をついた。
 その様子がおかしかったのか、月美は思わず、くすくすと笑ってしまっていた。
 護は護で、月美の笑顔に文句を言う気力がなくなったのか、それともからかわれたことにへそを曲げてしまったのか、むすっとした顔でアイスコーヒーを飲んでいた。
 そんな若いカップルに声をかける、一人のスーツ姿の女性がいた。

「あぁ、ここにいたのか。すまない、遅くなってしまった」
「……やっと来たか。ずいぶんとかかったな?」

 そう言いながら、護は月美の隣に椅子を動かし、女性は二人と向かい合っている椅子に腰を掛けた。
 女性はやってきたウェイターにアイスコーヒーを注文し、護の言葉に苦笑を返した。

「言ってくれるな。これでもやっとこさ時間を見つけてきたんだ」
「……そこまでか」
「あぁ、そこまでだ」
「え、えっと……ごめん、何がどうなってるのか、そこから教えてください」

 二人のやり取りに割って入るように、月美がおずおずと手をあげながらそう頼んできた。
 そこまで深く関わることもないだろうと考えていたため、月美には調査局から情報提供を頼まれていたことをまったく話していなかった。
 そのため、月美は調査局からどのような内容の仕事を頼まれたのか、まったく知らない状態でこの場に臨んでいるのだ。
 そのことをすっかり忘れていた護は、数秒の沈黙の後。

「……ごめん、言うの忘れてた」
「おいおい……協力してくれるって人にそれはないだろう」
「あのな、俺は今回手伝う必要ないと感じていたんだよ、本当は」
「……それは……いや、正直、申し訳ない」

 ジトっとした護からの視線に、文句を言ってきた光はしゅんとなってしまった。
 確かに、情報提供は頼んだ。だが、当初、光は仕事の協力まではしていなかった。
 むろん、文化祭の準備で忙しいだろう、という気遣いもあったのだが、捕獲した呪物が調査局の職員ほぼ全員でかからなければならないほど強敵だとは予想もしなかった、ということもある。
 もっとも、修祓や封印が難しいというよりも、そのすばしっこさと逃げ足の早さでてんてこ舞いさせられているという印象は否めないのだが。

「いや、俺の方もこれほど逃げ足の早い奴だとは思わなかったし、そこはお互い様だろう」
「正直、あそこまですばしっこいとは思わなかった……というか、人形なのか、本当にあれは……」
「もはや妖と化しているな」
「あのぉ……説明を……」
「あ、あぁ、すまない」

 話が脱線しかけたところで、月美が光に声をかけると、光は我に返った。
 こほん、と咳ばらいを一つして、光は護と月美の二人に、再度、今現在の調査局の状況を説明しはじめた。

「ある筋から、『呪いの人形』が学校のフリーマーケットで販売されるという噂を耳にしてね。その人形を回収するため、先日まであっちこっちを移動していたんだ」
「で、昨日までの文化祭でその人形を発見して、調査局の本部に持ち帰ったんですね?」
「あぁ。一昨日、君たちの学校で行われていた文化祭で発見して、回収した」

 もっとも、回収するときに、ひと悶着あったのだが、光はそのことを思い出したくないのか、それとも説明する必要がないと判断したのか、伏せていた。
 護もその場に居合わせていたし、どのような状況だったか知っているのだが、その意図をくみ取ってか、特に何も言及はしなかった。

「無事に回収し、修祓や封印を施すだけという状況になったのだが、昨日、少し厄介なことになってしまってな」

 光はそう説明しながら、いつの間にか運ばれてきたコーヒーを口に含んだ。
 コーヒーが想像以上に苦かったのか、それとも、昨日の出来事がよほど答えたのか、その表情はどこか苦々しく歪んでいた。
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