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騒動劇
32、文化祭は終わったけれど……
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文化祭が終了し、後夜祭も終わった翌日。
いつものように朝の滝行を終わらせた護は、翼に呼び出され、書斎にいた。
「来たな」
「あぁ……さて、昨日、光さんから電話があったようだな」
「学校に直接……」
「……局長には、私を通すように話していたのだが、それどころではなかったようだ」
護は確かに高い霊力と、遊ぶつもりで相手をされていたからということもあるが、見習いの身でありながら、かの芦屋道満を退けたほどの実力を有している。
調査局も当初は、土御門の後継者候補としか見ていなかった。
だが、調査局の職員でもかなりの実力を持っている職員でなければ渡り合うことも難しい悪霊を、たった一人で退けたのだ。
頼りにしたくなるのもうなずける。
だが、だからといって護の都合を考えず、連絡を取らせるつもりはないし、護も、自分から連絡を取るつもりはない。
そのことは翼から光の父親であり、上司でもある局長に伝えてあった。
伝えてあったのだが、それを忘れるほど、切羽詰まってしまっているようだ。
「一応、事態はわかっていると思うが」
「予想はついてますけど、何があったんですか?」
「あぁ」
護の問いかけに、翼は腕を組み、光から寄せられた以来の説明を始めた。
曰く、月華学園の文化祭で目的の呪物を確保したのはいいが、いざ修祓を行おうという段階になって逃げだした。
調査局本部の外へは出ていないはずだが、いかんせん、手が足りない。
そこで、調査局の一般職員よりも実力があり、時間もある護に白羽の矢を立てたのだ。
「まぁ、手伝うことは問題ないけれど……それ、俺も行かなきゃダメ?」
「普通なら行く必要はないな。この数日、文化祭の準備でろくに修行できていないだろ?取り戻す必要があるからな」
「だよねぇ」
まったく行っていなかった、というわけではないが、翼の言う通り、この数日、護と月美は文化祭の準備と普段の勉強に追われ、修行に割く時間が普段よりも減っていた。
そのため、今日を含め、学校が休みの日は、しばらくの間、修行に明け暮れるつもりでいたし、翼もそうさせるつもりだった。
「だが、実戦経験以上に成果のある修行もないという」
「……それ、要するに手伝ってこいってこと?」
「そう言っている。あぁ、だが月美ちゃんは誘うなよ?彼女が自分から関わりたいというのなら話は別だが、これは仕事も兼ねているしな」
「話すだけ、話しておくよ。いつぞやみたく、こっそりついてこられたほうが心臓に悪いし」
いつぞや、というのは、夏休み前の大型連休のとき、土御門神社の周辺に住んでいる小妖怪たちから、彼らの平穏を脅かしている人間でも妖怪でもない『何か』を退治してほしいと頼まれたときのことだ。
その事件が、護と光を引き合わせ、最終的に調査局との繋がりを作るきっかけとなったのだ。
「それがいいだろう。あちらとしても、人手が多いにこしたことはないだろうからな」
いったい、どれだけ苦戦を強いられているのか。
翼のその一言に、護は思わず頬を引きつらせた。
その様子を見ていた翼は、ため息をついた。
「言いたいことはわかる。が、相手は妖の類や先日のような怨霊ではないにしても、すでに概念が定着しつつある、新しい『怪異』だ。一筋縄ではいかないのだろう」
「いや、それってどうなの?調査局って、日本の術者のエリート集団じゃなかったの??」
「そのはずなんだがな」
「なのに在野の術者に救援を求めるって……」
「お役所でも民間企業に『業務委託』をするだろう?それと同じだと思えばいい」
翼の言葉に補足するなら、確かに、調査局の職員は、国家公務員試験に合格した、陰陽師をはじめとする実績のある術者たちだ。
だが、その実力はピンからキリまである。
調査局長や光、満のように、高い実力と実績を持っている術者もいれば、術者として必要な素養はあっても、実績も何もない者もいる。
さらには内閣府の職員採用試験に合格し、調査局に配属された術者でも何でもない一般人もいるため、戦力になる人員が非常に限られているのだ。
そのため、調査局に所属していない、在野の術者に協力を要請することもある。
実のところ、翼と雪美の収入源の三分の一ほどは調査局から寄せられてくる業務委託の報酬であり、翼が護に任せる仕事も、調査局から頼まれた依頼がほとんどを占めている。
「まぁ、今さらですし」
「なら、さっさと話をしてこい。早く片付けば、晩飯までの間は出かけてていいから」
「……ねぇ、それってやっぱりこの仕事、それだけ労力使うってことだよね?」
「さぁ?単に人手が足りないだしな?頭数がそろえばすぐに解決するかもしれないぞ?」
「……ちなみに、父さんはこういう怪異になりかねないというか、すでになってる人形を相手取ったことは?」
「あるにはあるが、どれもここまでのものではなかったし、修祓すればおしまいだったからな。参考にはならんぞ?」
翼からの返答に、護は陰鬱なため息をついた。
今まで、凶暴な妖と命がけ、とまではいかなくとも、それなりに危険な戦いを強いられる内容の仕事をしてきたことはある。
だが、今回のような逃げ回るものを捕まえる、というものは初体験であるため、参考までに聞こうとしたようだ。
もっとも、期待していた答えは返ってこなかったが。
「ほれ、そろそろ行け。時間がもったいないだろうが」
「あ、うん。それじゃ、行ってきます」
翼に促され、護はそそくさと書斎を後にした。
なお、この後、月美に手伝ってもらうことができるかどうか聞きに行ったのだが、二つ返事で手伝うことを了承し、調査局本部へ二人で向かったことは言うまでもない。
いつものように朝の滝行を終わらせた護は、翼に呼び出され、書斎にいた。
「来たな」
「あぁ……さて、昨日、光さんから電話があったようだな」
「学校に直接……」
「……局長には、私を通すように話していたのだが、それどころではなかったようだ」
護は確かに高い霊力と、遊ぶつもりで相手をされていたからということもあるが、見習いの身でありながら、かの芦屋道満を退けたほどの実力を有している。
調査局も当初は、土御門の後継者候補としか見ていなかった。
だが、調査局の職員でもかなりの実力を持っている職員でなければ渡り合うことも難しい悪霊を、たった一人で退けたのだ。
頼りにしたくなるのもうなずける。
だが、だからといって護の都合を考えず、連絡を取らせるつもりはないし、護も、自分から連絡を取るつもりはない。
そのことは翼から光の父親であり、上司でもある局長に伝えてあった。
伝えてあったのだが、それを忘れるほど、切羽詰まってしまっているようだ。
「一応、事態はわかっていると思うが」
「予想はついてますけど、何があったんですか?」
「あぁ」
護の問いかけに、翼は腕を組み、光から寄せられた以来の説明を始めた。
曰く、月華学園の文化祭で目的の呪物を確保したのはいいが、いざ修祓を行おうという段階になって逃げだした。
調査局本部の外へは出ていないはずだが、いかんせん、手が足りない。
そこで、調査局の一般職員よりも実力があり、時間もある護に白羽の矢を立てたのだ。
「まぁ、手伝うことは問題ないけれど……それ、俺も行かなきゃダメ?」
「普通なら行く必要はないな。この数日、文化祭の準備でろくに修行できていないだろ?取り戻す必要があるからな」
「だよねぇ」
まったく行っていなかった、というわけではないが、翼の言う通り、この数日、護と月美は文化祭の準備と普段の勉強に追われ、修行に割く時間が普段よりも減っていた。
そのため、今日を含め、学校が休みの日は、しばらくの間、修行に明け暮れるつもりでいたし、翼もそうさせるつもりだった。
「だが、実戦経験以上に成果のある修行もないという」
「……それ、要するに手伝ってこいってこと?」
「そう言っている。あぁ、だが月美ちゃんは誘うなよ?彼女が自分から関わりたいというのなら話は別だが、これは仕事も兼ねているしな」
「話すだけ、話しておくよ。いつぞやみたく、こっそりついてこられたほうが心臓に悪いし」
いつぞや、というのは、夏休み前の大型連休のとき、土御門神社の周辺に住んでいる小妖怪たちから、彼らの平穏を脅かしている人間でも妖怪でもない『何か』を退治してほしいと頼まれたときのことだ。
その事件が、護と光を引き合わせ、最終的に調査局との繋がりを作るきっかけとなったのだ。
「それがいいだろう。あちらとしても、人手が多いにこしたことはないだろうからな」
いったい、どれだけ苦戦を強いられているのか。
翼のその一言に、護は思わず頬を引きつらせた。
その様子を見ていた翼は、ため息をついた。
「言いたいことはわかる。が、相手は妖の類や先日のような怨霊ではないにしても、すでに概念が定着しつつある、新しい『怪異』だ。一筋縄ではいかないのだろう」
「いや、それってどうなの?調査局って、日本の術者のエリート集団じゃなかったの??」
「そのはずなんだがな」
「なのに在野の術者に救援を求めるって……」
「お役所でも民間企業に『業務委託』をするだろう?それと同じだと思えばいい」
翼の言葉に補足するなら、確かに、調査局の職員は、国家公務員試験に合格した、陰陽師をはじめとする実績のある術者たちだ。
だが、その実力はピンからキリまである。
調査局長や光、満のように、高い実力と実績を持っている術者もいれば、術者として必要な素養はあっても、実績も何もない者もいる。
さらには内閣府の職員採用試験に合格し、調査局に配属された術者でも何でもない一般人もいるため、戦力になる人員が非常に限られているのだ。
そのため、調査局に所属していない、在野の術者に協力を要請することもある。
実のところ、翼と雪美の収入源の三分の一ほどは調査局から寄せられてくる業務委託の報酬であり、翼が護に任せる仕事も、調査局から頼まれた依頼がほとんどを占めている。
「まぁ、今さらですし」
「なら、さっさと話をしてこい。早く片付けば、晩飯までの間は出かけてていいから」
「……ねぇ、それってやっぱりこの仕事、それだけ労力使うってことだよね?」
「さぁ?単に人手が足りないだしな?頭数がそろえばすぐに解決するかもしれないぞ?」
「……ちなみに、父さんはこういう怪異になりかねないというか、すでになってる人形を相手取ったことは?」
「あるにはあるが、どれもここまでのものではなかったし、修祓すればおしまいだったからな。参考にはならんぞ?」
翼からの返答に、護は陰鬱なため息をついた。
今まで、凶暴な妖と命がけ、とまではいかなくとも、それなりに危険な戦いを強いられる内容の仕事をしてきたことはある。
だが、今回のような逃げ回るものを捕まえる、というものは初体験であるため、参考までに聞こうとしたようだ。
もっとも、期待していた答えは返ってこなかったが。
「ほれ、そろそろ行け。時間がもったいないだろうが」
「あ、うん。それじゃ、行ってきます」
翼に促され、護はそそくさと書斎を後にした。
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