見習い陰陽師の高校生活

風間義介

文字の大きさ
上 下
181 / 276
騒動劇

13、準備は大忙し~角が取れ始めた護~

しおりを挟む
 こだわりの強いクラスメイトの影響で、提供する菓子類にも手作りしたものを出そうという流れが生まれていたが、後出しで生徒会からの許可が下りることはまずないということから、手作り和菓子を提供する案はとん挫した。
 当然出てくる不満を、クラスメイト達は内装と衣装にこだわることで発散することにしたらしい。
 看板やテーブルクロス、メニュー板の制作に集中する様子からそれがうかがい知れた。

「……なんというか、よくここまで夢中になれるよな」
「ふふふ。護、それブーメランだからね?」
「なんだかんだ、土御門くんも頑張ってるし」

 半眼になりながら、まるで親の敵と相対しているかのような集中力を見せているクラスメイト達の様子を眺めながらつぶやいたその言葉に、月美と佳代は苦笑しながら返してきた。
 月美と佳代は現在、テーブルクロスに使う布に飾り用の刺繡を施している最中だった。
 もともと興味があったのか、それとも挑戦してみたくなったのか。
 いずれにしても二人とも楽しそうに取り組んでいた。

「なぁ、土御門。お前、習字得意ってほんとか?」
「あ?得意ってほどじゃねぇぞ?筆使わないことはないけど」
「だったら頼む!看板書いてくれ!!俺ら習字なんてやったことないからさぁ」

 一方の護はというと、字がうまいから、という理由で看板の文字書きを頼まれていた。
 陰陽師としての仕事に使う都合上、呪符や霊符を自作することが多い護にとって、看板に文字を書くことなど手慣れたことだった。
 普段からその手のことは秘密にしていたのだが、どこから漏れたのか、今朝になって突然、得意だからやってくれとクラスメイト達から頼まれてしまったのだ。

 普段ならば即座に断るところだが、自分たちが置かれている状況でそんなことをしてしまえば、準備に余計な時間がかかることになる。
 下手をすれば、月美に分担される仕事の量が増える可能性もあり、それはそのまま月美にかかる負担が大きくなることを意味している。
 それは避けなければならない、という理由を見つけて、護はその頼みを引き受けることにした。

「……ったく、いったいどこで知ったんだ……つか誰が教えやがった……」

 引き受けはしたが、なぜ自分が筆を使うことがあることを知っていたのか疑問を覚えつつ、どこからその情報が漏れ出てきたのかわからず、周囲に聞こえない程度の声で文句を言いだしてしまった。
 ぶつぶつと文句を言いながらも、与えられた仕事はしっかりやるという性分からか、その手が止まる回数は少なかった。

 だが、すぐ近くで作業していた月美と佳代はそのつぶやきが聞こえていたらしく、同調するように首をかしげていた。
 確かに、護は秘密主義であるし交友関係も狭いため、護の口から洩れるということはまず考えられない。
 かといって佳代もいつものメンバー以外のメンツの前では緊張のあまり何も話せなくなってしまうし、月美は護と同じ立場であり、自分たちが術者であることを隠している。
 二人から洩れた、ということも考えられない。
 となると必然的に容疑者は二名に絞られるのだが、護にはすでに犯人に目星がついていた。

 少なくとも容疑者の一人である明美は、護が神社の生まれであることは知っているが、どのようなことをしているのか、あるいは手伝っているのかを知らないはずだ。
 一方、もう一人の容疑者は、力こそないものの護と、土御門家と同じく千年以上前から存在する陰陽術を操る一族の末裔だ。
 力を使うことこそできなくとも、知識はあっておかしくない。

――野郎……次やったらただじゃすまねぇ

 犯人に目星がついていた、というよりもほぼ清で間違いないとあたりを付けている護は、苛立ちを抑えながら、心中でそうつぶやき、再び作業に集中し始めた。
 本当は今すぐに清の胸ぐらをつかんで色々と問い詰めたいところではあるのだろうが、今は与えられた仕事を全うすることを選んだようだ。
 その様子を少し離れたところから見ていた月美は、優し気な笑みを浮かべていた。

「どしたの?」
「あ、うん……護、ようやく打ち解け始めたのかなって思って」

 手が止まっていた月美の様子が気になったのか、首をかしげて問いかける佳代に、月美はそう返した。
 返ってきたその言葉に、言われてみればそうかもしれない、と佳代も思った。
 中学生の頃は学校が違っていたし、一年の頃はクラスが違っていたので接点が少なく、佳代は二、三か月しか護のことを見ていない。
 そのため、噂でしか護の人となりを知ることができなかったのだが、耳にする情報はどれも、護がクラスメイトはおろか、教師たちからも距離を取っているということがわかるものばかりだった。
 あまりに情報が少なすぎたため、不良なのではないかとか、実はその筋の人々とつながりがあったり、組の若大将であったりするのだろうか、と奇妙な妄想を繰り広げていたこともある。

 体育祭で助けられた一件で、土御門護という人間の背負っている過去を月美から聞いたことで、それらの妄想は妄想にすぎず、むしろ人との距離をどう取ればいいのかわからない、不器用な性格であることを知ると、護と一緒にいることに不安を感じるようなことはなくなり、むしろなぜか親近感のようなものが湧いてきていた。

「それにしても、月美はほんとによく土御門くんのことを見てるよね?」
「へ?……ま、まぁ、うん……幼馴染でお付き合いもしてる、し?」
「ほんとにそれだけかなぁ?」
「ほ、ほんとにそれだけだよ……と、というか、佳代!わたしたちもはやく仕上げちゃおうよ!!」

 にやにやとした笑みを浮かべながら、佳代は唐突に月美にそう語りかけると、月美は頬を朱色に染めてそれ以上は何も聞かれないように、刺繡に集中し始めた。
 もっとも、血が出るほど深くはなかったが、二、三回ほど針を指に刺してしまったのだが。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

駆け落ち男女の気ままな異世界スローライフ

壬黎ハルキ
ファンタジー
それは、少年が高校を卒業した直後のことだった。 幼なじみでお嬢様な少女から、夕暮れの公園のど真ん中で叫ばれた。 「知らない御曹司と結婚するなんて絶対イヤ! このまま世界の果てまで逃げたいわ!」 泣きじゃくる彼女に、彼は言った。 「俺、これから異世界に移住するんだけど、良かったら一緒に来る?」 「行くわ! ついでに私の全部をアンタにあげる! 一生大事にしなさいよね!」 そんな感じで駆け落ちした二人が、異世界でのんびりと暮らしていく物語。 ※2019年10月、完結しました。 ※小説家になろう、カクヨムにも公開しています。

慟哭の螺旋(「悪役令嬢の慟哭」加筆修正版)

浜柔
ファンタジー
前世で遊んだ乙女ゲームと瓜二つの世界に転生していたエカテリーナ・ハイデルフトが前世の記憶を取り戻した時にはもう遅かった。 運命のまま彼女は命を落とす。 だが、それが終わりではない。彼女は怨霊と化した。

覚悟ガンギマリ系主人公がハーレムフラグをへし折りつつ、クールな褐色女戦士をデレさせて異世界を救うパワー系ダークファンタジー/ヴァンズブラッド

鋏池穏美
ファンタジー
【絶望の中目覚めた『無詠唱特殊魔術』で崩壊世界を駆け抜ける──敵意や痛みを力に変える、身体強化系最強主人公の無双劇】 魔素が溢れ、暗がりで魔獣蠢く崩壊世界ミズガルズ── この狂った世界で産み落とされたノヒンは、山賊一家に育てられ、荒んだ幼少期を過ごしていた。 初めて仕事を任されたその日、魔獣の力をその身に宿した少女『ヨーコ』と出会い、恋に落ちる。 束の間の平穏と幸せな日々。だがそれも長くは続かず── その後ヨーコと離別し、騎士へとなったノヒンは運命の相手『ジェシカ』に出会う。かつて愛したヨーコとジェシカの間で揺れるノヒンの心。さらにジェシカは因縁の相手、ラグナスによって奪われ── 発動する数千年前の英雄の力 「無詠唱特殊魔術」 それは敵意や痛みで身体強化し、自己再生力を限界突破させる力。 明かされる神話── NACMO(ナクモ)と呼ばれる魔素── 失われし東方の国── ヨルムンガンドの魔除け── 神話時代の宿因が、否応無くノヒンを死地へと駆り立てる。 【第11回ネット小説大賞一次選考通過】 ※小説家になろうとカクヨムでも公開しております。

花ひらく妃たち

蒼真まこ
ファンタジー
たった一夜の出来事が、春蘭の人生を大きく変えてしまった──。 亮国の後宮で宮女として働く春蘭は、故郷に将来を誓った恋人がいた。しかし春蘭はある日、皇帝陛下に見初められてしまう。皇帝の命令には何人も逆らうことはできない。泣く泣く皇帝の妃のひとりになった春蘭であったが、数々の苦難が彼女を待ちうけていた。 「私たち女はね、置かれた場所で咲くしかないの。咲きほこるか、枯れ落ちるは貴女次第よ。朽ちていくのをただ待つだけの人生でいいの?」  皇后の忠告に、春蘭の才能が開花していく。 様々な思惑が絡み合う、きらびやかな後宮で花として生きた女の人生を短編で描く中華後宮物語。 一万字以下の短編です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】竜人が番と出会ったのに、誰も幸せにならなかった

凛蓮月
恋愛
【感想をお寄せ頂きありがとうございました(*^^*)】  竜人のスオウと、酒場の看板娘のリーゼは仲睦まじい恋人同士だった。  竜人には一生かけて出会えるか分からないとされる番がいるが、二人は番では無かった。  だがそんな事関係無いくらいに誰から見ても愛し合う二人だったのだ。 ──ある日、スオウに番が現れるまでは。 全8話。 ※他サイトで同時公開しています。 ※カクヨム版より若干加筆修正し、ラストを変更しています。

僕と精霊〜The last magic〜

一般人
ファンタジー
 ジャン・バーン(17)と相棒の精霊カーバンクルのパンプ。2人の最後の戦いが今始まろうとしている。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

処理中です...