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騒動劇
12、準備は大忙し~こだわりたいものを妥協することは難しい~
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光から不穏な情報を受け取った翌日。
文化祭開催まで残り三週間ということもあり、放課後は全員、準備に追われていた。
とはいえ、実際に店で提供する飲食品は和菓子屋やパティスリーで購入したものになり、紅茶や緑茶、ほうじ茶なども、比較的安価で手に入るティーバックのものを使う予定だ。
そのため、生徒たちが実際に手掛けるものはコーヒーとハーブティー、インテリアやメニュー、看板などであった。
とはいえ、コーヒーにしてもハーブティーにしても、かなりこだわりが強い生徒がいるようで。
「コーヒーはインスタントじゃなくて豆をひいたものを使うに限るだろ!!」
「出来合いのハーブティーだ?ふざけんな!!ちゃんとブレンドしたものでないと俺は許さん!!」
「いや、別にお前の許可は必要ないと思うが……というか、インスタントの方が安くないか?事前に引いてある豆を使うならいいけどよ」
と、護が思わず冷静に突っ込む始末だった。
提供するものにこだわるということは、それなりに極めているということであり、妥協はしたくないということなのだろう。
だが、これから行われるのは学園祭。
一年に一度しか開かれない上に、ここ最近は痛ましい事件が多く、世界でもテロなどの事件に巻き込まれる危険性を少しでも減らすため、関係者以外の立ち入りは禁じられている。
妥協したくないからと言って、本気になったところで、せいぜい「学園祭に喫茶店並みのコーヒーを出す腕前の生徒がいる」という話題を地方紙や全国紙の地方欄に提供することができるかどうか、という程度で有名人になれるわけでも、芸能界にスカウトされるわけでもない。
むしろ、学校の経営側から体のいい広告塔として扱われるか、下手をすればその学校の有名人ということであらぬ嫉妬を買うだけで、利益と呼べる利益がほとんどない。
変に話題を集めかねないことをするよりも、普通のものを出して無難なところを狙うべきではないか、というのが護の意見だった。
だが、承認欲求が旺盛な昨今の若者にとって、そんなことはどうでもいい、というよりも頭にないらしい。
今現在、自分という存在を認めさせることに一生懸命なのだ。
「関係ない!!」
「今本気にならずにいつ本気になる?!」
『いまでしょ!!』
二人の本気の度合いに影響されたのか、護と月美、佳代の三人を除いたクラスメイト全員が、今もテレビ番組にコメンテーターとして引っ張りだことなっている講師の名言を一斉に口にした。
そして、まるで示し合わせていたかのように、自分たちがこだわれるものを提供する、という流れが生まれていた。
「……まぁ、生徒会からも売り上げが黒字だった催しには特別に手当を出すって話だし……」
「何か本気で取り組んだものがあったほうが、いいんじゃない?」
「なら、軽食類もそうすべきだろ。てか、家庭科の成績いいやつらが数量限定で作ればさほど手間かからなくね?」
「保管には限度があるけどね。まぁ、百や二百作るわけじゃなし、余ったらみんなでわけて食べればいいしね」
和菓子は生ものであり、できる限り、出来上がったその日のうちに食べてしまうことが好ましい。
仮に売れ残ったのであればその日のうちに生徒たちで食べてしまえばいい、という提案は、甘いものが大好きな女子高生たちにとって、魅力的なものだった。
「生徒会に衛生関係の許可証を申請する必要はあるけど、それは委員長の仕事だろ?」
「まぁそうだけど……というか、喫茶店って時点で申請はしなきゃいけないから、そこは問題ないわ」
クラスメイトの一人からの質問に、委員長はあっさりと答えた。
もっとも、自分たちで作って提供することと、すでにできあがっているものを提供するとでは注意すべきことに違いがある可能性があるため、少し待ってほしいと付け加え、手作りの何かを出す、という方向で固まりつつあった話の流れに水を差した。
水を差されたことに文句が出てきそうになったが、委員長の発言が間違ってはいないため、実際には何も文句は出てこなかった。
当然といえば当然のことながら、催し物で行われる飲食関連の出し物で何よりも怖いことは食中毒による被害者を出してしまうことだ。
普通の祭りに屋台出店した店舗が食中毒を出してしまったら、店の信用は一気にガタ落ちになり、ともすれば営業停止となってしまうかもしれない。
たかが学校の学園祭ではあるが、下手をすれば推薦入試などでひどい打撃を受けたり、あらぬそしりを受けることもあるかもしれない。
そんなことはごめん被りたいと思うのが人情というものだろう。
だが、ここになって護がさらに追い打ちをかけるような一言を口にした。
「というかそもそも、生徒会の許可が出てからじゃ時間的に間に合わないんじゃないか?」
生徒会も生徒会で、文化祭のパンフレット制作や見回りのスケジュール、各催しの進行状況の確認などで慌ただしく動いている。
今から許可申請をしに行ったとしても、試作に入ることができるかどうかすら怪しい。
「……あと三週間。ぎりぎりどころか足りないしね」
「試作とかもしないとだし」
「保管場所とか、レイアウトも考え直さないとじゃないか?」
「……なら、コーヒーと紅茶で満足して、あとはコスチュームに注力するしかないな」
月美と佳代、そして数名の冷静になっていたクラスメイトの援護射撃もあり、結局、軽食を数量限定で提供するという案はなくなり、コーヒーと紅茶のみ、インスタントのものやティーバックとは別に用意することが決定した。
文化祭開催まで残り三週間ということもあり、放課後は全員、準備に追われていた。
とはいえ、実際に店で提供する飲食品は和菓子屋やパティスリーで購入したものになり、紅茶や緑茶、ほうじ茶なども、比較的安価で手に入るティーバックのものを使う予定だ。
そのため、生徒たちが実際に手掛けるものはコーヒーとハーブティー、インテリアやメニュー、看板などであった。
とはいえ、コーヒーにしてもハーブティーにしても、かなりこだわりが強い生徒がいるようで。
「コーヒーはインスタントじゃなくて豆をひいたものを使うに限るだろ!!」
「出来合いのハーブティーだ?ふざけんな!!ちゃんとブレンドしたものでないと俺は許さん!!」
「いや、別にお前の許可は必要ないと思うが……というか、インスタントの方が安くないか?事前に引いてある豆を使うならいいけどよ」
と、護が思わず冷静に突っ込む始末だった。
提供するものにこだわるということは、それなりに極めているということであり、妥協はしたくないということなのだろう。
だが、これから行われるのは学園祭。
一年に一度しか開かれない上に、ここ最近は痛ましい事件が多く、世界でもテロなどの事件に巻き込まれる危険性を少しでも減らすため、関係者以外の立ち入りは禁じられている。
妥協したくないからと言って、本気になったところで、せいぜい「学園祭に喫茶店並みのコーヒーを出す腕前の生徒がいる」という話題を地方紙や全国紙の地方欄に提供することができるかどうか、という程度で有名人になれるわけでも、芸能界にスカウトされるわけでもない。
むしろ、学校の経営側から体のいい広告塔として扱われるか、下手をすればその学校の有名人ということであらぬ嫉妬を買うだけで、利益と呼べる利益がほとんどない。
変に話題を集めかねないことをするよりも、普通のものを出して無難なところを狙うべきではないか、というのが護の意見だった。
だが、承認欲求が旺盛な昨今の若者にとって、そんなことはどうでもいい、というよりも頭にないらしい。
今現在、自分という存在を認めさせることに一生懸命なのだ。
「関係ない!!」
「今本気にならずにいつ本気になる?!」
『いまでしょ!!』
二人の本気の度合いに影響されたのか、護と月美、佳代の三人を除いたクラスメイト全員が、今もテレビ番組にコメンテーターとして引っ張りだことなっている講師の名言を一斉に口にした。
そして、まるで示し合わせていたかのように、自分たちがこだわれるものを提供する、という流れが生まれていた。
「……まぁ、生徒会からも売り上げが黒字だった催しには特別に手当を出すって話だし……」
「何か本気で取り組んだものがあったほうが、いいんじゃない?」
「なら、軽食類もそうすべきだろ。てか、家庭科の成績いいやつらが数量限定で作ればさほど手間かからなくね?」
「保管には限度があるけどね。まぁ、百や二百作るわけじゃなし、余ったらみんなでわけて食べればいいしね」
和菓子は生ものであり、できる限り、出来上がったその日のうちに食べてしまうことが好ましい。
仮に売れ残ったのであればその日のうちに生徒たちで食べてしまえばいい、という提案は、甘いものが大好きな女子高生たちにとって、魅力的なものだった。
「生徒会に衛生関係の許可証を申請する必要はあるけど、それは委員長の仕事だろ?」
「まぁそうだけど……というか、喫茶店って時点で申請はしなきゃいけないから、そこは問題ないわ」
クラスメイトの一人からの質問に、委員長はあっさりと答えた。
もっとも、自分たちで作って提供することと、すでにできあがっているものを提供するとでは注意すべきことに違いがある可能性があるため、少し待ってほしいと付け加え、手作りの何かを出す、という方向で固まりつつあった話の流れに水を差した。
水を差されたことに文句が出てきそうになったが、委員長の発言が間違ってはいないため、実際には何も文句は出てこなかった。
当然といえば当然のことながら、催し物で行われる飲食関連の出し物で何よりも怖いことは食中毒による被害者を出してしまうことだ。
普通の祭りに屋台出店した店舗が食中毒を出してしまったら、店の信用は一気にガタ落ちになり、ともすれば営業停止となってしまうかもしれない。
たかが学校の学園祭ではあるが、下手をすれば推薦入試などでひどい打撃を受けたり、あらぬそしりを受けることもあるかもしれない。
そんなことはごめん被りたいと思うのが人情というものだろう。
だが、ここになって護がさらに追い打ちをかけるような一言を口にした。
「というかそもそも、生徒会の許可が出てからじゃ時間的に間に合わないんじゃないか?」
生徒会も生徒会で、文化祭のパンフレット制作や見回りのスケジュール、各催しの進行状況の確認などで慌ただしく動いている。
今から許可申請をしに行ったとしても、試作に入ることができるかどうかすら怪しい。
「……あと三週間。ぎりぎりどころか足りないしね」
「試作とかもしないとだし」
「保管場所とか、レイアウトも考え直さないとじゃないか?」
「……なら、コーヒーと紅茶で満足して、あとはコスチュームに注力するしかないな」
月美と佳代、そして数名の冷静になっていたクラスメイトの援護射撃もあり、結局、軽食を数量限定で提供するという案はなくなり、コーヒーと紅茶のみ、インスタントのものやティーバックとは別に用意することが決定した。
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