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騒動劇
9、衣装製作は大忙しだが、やっている人は満足そうである
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男女ともに衣装が決まり、クラス会議は解散となったが、製作部を名乗り出た数名のクラスメイトたちはさっそくどれだけの予算が必要になるか、できる限り抑えた場合どのようなデザインになるか、予算を抑えたとしても絶対に力を入れるべきポイントはどこかなどの製作会議が始まっていた。
コスプレが趣味だから、ということもあるのだろうが、根本的には何かを作ることが好きだからなのだろうか、話し合っている全員の目が輝いていた。
彼らのその熱量は翌日になっても続いており、休み時間や放課後になると必ず集まり、額をくっつけながら熱く議論を交わしている姿を、護たちは何度も見かけていた。
そして、衣装が決定した会議から数日。
ついにデザイン画が完成し、試作を行うという段階に入ったらしく、数人の男女の採寸が行われた。
その中には、護と月美も選ばれていた。
拒否権を認めない、と暗に告げているほどの勢いに押し負け、護と月美はおとなしく彼らの要請を受けることにした。
だが、やはり納得がいかないらしく。
「……月美はわかるが、なぜ俺に声がかけられた?」
「逆に聞くがなぜおまえは声をかけられないと思った?」
文句、というほどのものではないのだが、そんな素直な疑問を護はつぶやいていた。
が、そのつぶやきが聞こえていたらしい。
護の採寸を担当していたクラスメイトが首をかしげながら問い返してきた。
「嫌われてるし、なんとなく?」
「いや、なんとなくかよ!まぁ、確かに土御門は勘解由小路と違って声かけにくい雰囲気あるけどさ!別に嫌っちゃねぇよ!!」
自分から声をかけることはないが、問いかけられれば返す、という癖が身についているため、護はその問いに答えていた。
実際、小学校高学年時と中学生のころは、見鬼の才覚を隠しながらそれとなく霊的なトラブルにクラスメイトが巻き込まれないよう対処してきたが、それが裏目に出て別のトラブルに発展し、結局、護に近づくことは危険、という集団意識が生まれてしまっていた。
その集団意識に影響され、同級生たちは護に近づくことはなく、何気ない世間話をするようなことも、遊びに誘うようなこともなかった。
もっとも、声をかけられなかった当の本人は、そのおかげで学校の勉強に集中でき、陰陽師としての修行に打ち込む時間を多く作ることができたので、まったく問題はなかった。
だが、高校生にもなれば噂や印象だけでなく、自分が実際に見たものや経験したもので判断することもできるようになってくる。
どうやら、彼も噂だけでなく自分の目で見て考えて、護に声をかけても大丈夫と判断したようだ。
もっとも、護は採寸を行っているクラスメイトの顔を、中学で見かけたことがないため、護にまつわる噂や同年代の間にある暗黙のルールを知らないため、というところも大きいようだが。
「……そっか、お前と俺、別の中学だったから知らんのか」
「お?なんだなんだ?お前の恥ずかしい噂か何かか?」
「……知らんのならば、別にいい」
そっけなく返されながらも、もともとおしゃべり好きなのか、ニヤニヤとした笑顔を向けながらクラスメイトはなおも問いかけてきていた。
向けられているその顔を見ると、目の下にうっすらとくまができていた。
デザインを考えることに時間を削っていたために、あまり眠れていないようだ。
もっとも、寝不足気味であることを感じさせないほど、このクラスメイトは活力にあふれていた。
「……寝不足なのは明らかなのによく元気でいられんな」
「ふっ、オタクが好きなことにかける熱意と情熱をなめるな……二徹、三徹程度じゃこの情熱の炎は燃え尽きんぞ!!」
「……いや、寝ろよ。てか寝ろよ!ミシン使うんだろ?!操作ミスったらあぶねぇじゃねぇか!!」
「まだその作業に入ってないから大丈夫!そして俺はミシンが使えないからもっと大丈夫!!」
柄にもなく声を荒げてツッコミを入れてしまっていたが、クラスメイトは胸を張り、どや顔で返してきた。
どうやらこのクラスメイトはミシンを扱うことができないらしい。
しかもそれを自慢しているかのように返しているあたり、おそらく自宅にもミシンは置いていないのだろう。
ひとまず冷静さを取り戻した護は、いつもの口調に戻り、改めて問いかけた。
「……てことはデザインの中心はお前か」
「まぁ、そうなるな。てか、土御門もすっげぇツッコミするのな」
「……忘れろ」
からからと笑いながらからかってくるクラスメイトに、護は苦い顔で絞り出したような声で返した。
実際のところ、先ほどのように月美以外の前で感情を荒げたことはめったにない。
最近になってようやく、清や明美、佳代の前でも感情を表すことが出来るようになったくらいだ。
その様子に、悪い悪い、とクラスメイトは笑いながら謝罪した。
その後も、あれこれと質問してくるクラスメイトに、淡々とした態度で返しながら、護は採寸が終わるまで待っているのだった。
なお、この時のやり取りを横目で見ていた、同じように採寸に協力していた男子たちは、護に対する認識が変わり、あまりしつこくない程度に話しかけてくるようになったのだが、それはまた別の話。
コスプレが趣味だから、ということもあるのだろうが、根本的には何かを作ることが好きだからなのだろうか、話し合っている全員の目が輝いていた。
彼らのその熱量は翌日になっても続いており、休み時間や放課後になると必ず集まり、額をくっつけながら熱く議論を交わしている姿を、護たちは何度も見かけていた。
そして、衣装が決定した会議から数日。
ついにデザイン画が完成し、試作を行うという段階に入ったらしく、数人の男女の採寸が行われた。
その中には、護と月美も選ばれていた。
拒否権を認めない、と暗に告げているほどの勢いに押し負け、護と月美はおとなしく彼らの要請を受けることにした。
だが、やはり納得がいかないらしく。
「……月美はわかるが、なぜ俺に声がかけられた?」
「逆に聞くがなぜおまえは声をかけられないと思った?」
文句、というほどのものではないのだが、そんな素直な疑問を護はつぶやいていた。
が、そのつぶやきが聞こえていたらしい。
護の採寸を担当していたクラスメイトが首をかしげながら問い返してきた。
「嫌われてるし、なんとなく?」
「いや、なんとなくかよ!まぁ、確かに土御門は勘解由小路と違って声かけにくい雰囲気あるけどさ!別に嫌っちゃねぇよ!!」
自分から声をかけることはないが、問いかけられれば返す、という癖が身についているため、護はその問いに答えていた。
実際、小学校高学年時と中学生のころは、見鬼の才覚を隠しながらそれとなく霊的なトラブルにクラスメイトが巻き込まれないよう対処してきたが、それが裏目に出て別のトラブルに発展し、結局、護に近づくことは危険、という集団意識が生まれてしまっていた。
その集団意識に影響され、同級生たちは護に近づくことはなく、何気ない世間話をするようなことも、遊びに誘うようなこともなかった。
もっとも、声をかけられなかった当の本人は、そのおかげで学校の勉強に集中でき、陰陽師としての修行に打ち込む時間を多く作ることができたので、まったく問題はなかった。
だが、高校生にもなれば噂や印象だけでなく、自分が実際に見たものや経験したもので判断することもできるようになってくる。
どうやら、彼も噂だけでなく自分の目で見て考えて、護に声をかけても大丈夫と判断したようだ。
もっとも、護は採寸を行っているクラスメイトの顔を、中学で見かけたことがないため、護にまつわる噂や同年代の間にある暗黙のルールを知らないため、というところも大きいようだが。
「……そっか、お前と俺、別の中学だったから知らんのか」
「お?なんだなんだ?お前の恥ずかしい噂か何かか?」
「……知らんのならば、別にいい」
そっけなく返されながらも、もともとおしゃべり好きなのか、ニヤニヤとした笑顔を向けながらクラスメイトはなおも問いかけてきていた。
向けられているその顔を見ると、目の下にうっすらとくまができていた。
デザインを考えることに時間を削っていたために、あまり眠れていないようだ。
もっとも、寝不足気味であることを感じさせないほど、このクラスメイトは活力にあふれていた。
「……寝不足なのは明らかなのによく元気でいられんな」
「ふっ、オタクが好きなことにかける熱意と情熱をなめるな……二徹、三徹程度じゃこの情熱の炎は燃え尽きんぞ!!」
「……いや、寝ろよ。てか寝ろよ!ミシン使うんだろ?!操作ミスったらあぶねぇじゃねぇか!!」
「まだその作業に入ってないから大丈夫!そして俺はミシンが使えないからもっと大丈夫!!」
柄にもなく声を荒げてツッコミを入れてしまっていたが、クラスメイトは胸を張り、どや顔で返してきた。
どうやらこのクラスメイトはミシンを扱うことができないらしい。
しかもそれを自慢しているかのように返しているあたり、おそらく自宅にもミシンは置いていないのだろう。
ひとまず冷静さを取り戻した護は、いつもの口調に戻り、改めて問いかけた。
「……てことはデザインの中心はお前か」
「まぁ、そうなるな。てか、土御門もすっげぇツッコミするのな」
「……忘れろ」
からからと笑いながらからかってくるクラスメイトに、護は苦い顔で絞り出したような声で返した。
実際のところ、先ほどのように月美以外の前で感情を荒げたことはめったにない。
最近になってようやく、清や明美、佳代の前でも感情を表すことが出来るようになったくらいだ。
その様子に、悪い悪い、とクラスメイトは笑いながら謝罪した。
その後も、あれこれと質問してくるクラスメイトに、淡々とした態度で返しながら、護は採寸が終わるまで待っているのだった。
なお、この時のやり取りを横目で見ていた、同じように採寸に協力していた男子たちは、護に対する認識が変わり、あまりしつこくない程度に話しかけてくるようになったのだが、それはまた別の話。
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