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騒動劇
5、一風変わった出し物の噂
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翌朝、がっちりと月美に抱きつかれたまま何度も寝返りを打たれたせいで潰されたり、締められたりしてげんなりしていた白桜に文句を言われながら、朝のお勤めを終えた護と月美は朝食を摂っていた。
心なしか、月美の機嫌がよさそうなのは、朝のお勤めぎりぎりまで、白桜のもふもふな毛皮を堪能したからなのだろう。
もっとも、白桜は狐精であるため、厳密には『生きている』といっていいのかは不明なのだが。
「そういえば、月美ちゃん。そろそろ文化祭よね?何やるの?」
「クラスは『使用人喫茶』をやろうってことになりましたよ?」
「使用人?ってことは、メイドとか執事さんとか?」
「はい……ただ、わたしも護も、普通の喫茶店のほうがよかったなぁ、なんて……」
雪美の問いかけにそう返し、月美は苦笑を浮かべた。
その隣で焼き魚を食べていた護も、陰鬱なため息をついた。
「あら?面白そうじゃない、ちょっと変わった喫茶店なんて」
「って、思うだろうけど、要はコスプレ喫茶だよ?俺はごめんだ」
「わたしも、できれば……」
「まぁ、そう思うのは今の内よ。意外と終わっちゃえば『楽しかった』って思えるものよ?」
三倍近い時間を先に生きているからこその言葉なのだろう。
だが、それは『過ぎ去ってしまえば』という話であり、現在進行形で事態に直面しつつある二人にとっては頭痛の種でしかなかった。
もっとも、そのこともわかっているようで、いかにも楽しそうな笑みを浮かべながら。
「ま、そうやって頭抱えてられるのも今の内よ?あなたたちはまだ若いんだから、思いっきり楽しんじゃえばいいの!コスプレなんて、いつもやってるようなものじゃない」
「……いや、狩衣をコスプレ扱いされても」
「あの、巫女服はわたしにとって仕事着なんですだけど」
雪美の言葉に、護も月美もどう反応したらいいのかわからなかった。
現役の頃は仮にも一人の術者として活動していた母親が、仕事着はコスプレと同じという認識をしていれば、誰でもそう思うだろう。
確かに、昨今では宅配業者や制服自衛官の姿でイベントに参加する者も少なくないため、『仕事着はコスプレではない』と否定できないところはあるのは事実だ。
だが、だからといって自分の仕事で使う衣装とコスプレが同じものだと認識されれば、複雑な気持ちにもなる。
悪気がないことは知っているが、諫めようかどうしようか迷っていると、雪美が唐突に話題を変えてきた。
「ほら、さっさと遅刻するんじゃない?」
そういわれて二人は同時に時計を見た。
視線の先にあった時計が示している時刻は、もうそろそろ出発しないと間に合わないぎりぎりの時間を示そうとしていた。
二人は慌てて、残っていた料理を平らげ、支度をして玄関から飛び出していった。
そんな二人に雪美は、温かくも呆れたような笑みを向けて見送っていた。
--------------
どうにか遅刻せずに学校に到着した二人は、明美や佳代、清と時間をつぶしていた。
そんな中で、清がふと思い出したかのように口を開いた。
「そういや、知ってるか?一年の文化祭の出し物」
「知らん、興味ない」
「知らないけど?」
「……あ~、もしかして『あれ』?」
「そそ、『あれ』」
突如、清が切り出してきた話題に、月美と佳代は首を傾げ、護は興味なさそうに返し、明美は一人だけ知っているような雰囲気で返していた。
ついていけていない二人と、興味がない一人はまったく知らないため、必然的についていけてなかった二人から、『あれ』と呼ぶものについて質問が出てきた。
「『あれ』って何?」
「もしかして、何か珍しいことでもやるの?」
「それがよ、チャリティフリーマーケットやるんだとさ」
「フリマ?学校の文化祭でフリマって、珍しいね」
大学の学園祭ならば、ボランティアサークルが引き取られることのなかった遺失物を販売し、そこで得たお金をNPO法人や福祉関係の施設などに寄付することはあるだろうが、高校で、しかも一つのクラスでそれと同じことを行うことは、確かに珍しいものだろう。
もっとも、だからこそこうして耳ざとい清や明美の耳に入ってきたのだろうが。
「クラスの全員で、使わなくなった古着とかおもちゃを集めて、売りさばくんだって。商品が足りなくなることも考慮して、学校全体で中古品を募って、学校からって形でどこかの施設に寄付するらしいよ?」
「学校全体って、それもうクラスの出し物って領域、超えてるだろ」
「なんか、もう学校をあげての出し物になってるような……」
明美の言葉に苦笑を浮かべながらつぶやいた月美の言葉を聞いて、全員が同意するように相槌を打つと、護はまさかと思いつつ、学校側が考えているのではないかと思っていることを口に出した。
「……まさかと思うが、これ見よがしにローカル新聞とかで取材を依頼して、学校の名前を売ろう、なんて考えてねぇだろうな……?」
「まさか、そんなこと……ないよね?」
「……さぁ?」
護の言葉に、全員が首を傾げた。
全国のニュースを記事にし、全国に配達されている全国紙ならばともかく、特定の地域にしか配達されないローカル新聞ならば、フリーマーケットの売り上げを寄付したことを取材してもらい、紙面に乗せてもらうこともできるだろう。
当然、学校の名前も載ることになるため、広告ではない形で宣伝をしようとしているのではないかと邪推してしまったようだ。
もっとも、学校側の意図など、生徒でしかない護たちが知るはずもなく、「そんなことはないはず」という結論でひとまず落ち着くこととなった。
が、この学校を挙げての「一風変わった出し物」が、国民に公表されていない内閣府直属の公的機関を巻き込んだ騒動を巻き起こすことになるとは、この時は誰も予期することなどできなかった。
心なしか、月美の機嫌がよさそうなのは、朝のお勤めぎりぎりまで、白桜のもふもふな毛皮を堪能したからなのだろう。
もっとも、白桜は狐精であるため、厳密には『生きている』といっていいのかは不明なのだが。
「そういえば、月美ちゃん。そろそろ文化祭よね?何やるの?」
「クラスは『使用人喫茶』をやろうってことになりましたよ?」
「使用人?ってことは、メイドとか執事さんとか?」
「はい……ただ、わたしも護も、普通の喫茶店のほうがよかったなぁ、なんて……」
雪美の問いかけにそう返し、月美は苦笑を浮かべた。
その隣で焼き魚を食べていた護も、陰鬱なため息をついた。
「あら?面白そうじゃない、ちょっと変わった喫茶店なんて」
「って、思うだろうけど、要はコスプレ喫茶だよ?俺はごめんだ」
「わたしも、できれば……」
「まぁ、そう思うのは今の内よ。意外と終わっちゃえば『楽しかった』って思えるものよ?」
三倍近い時間を先に生きているからこその言葉なのだろう。
だが、それは『過ぎ去ってしまえば』という話であり、現在進行形で事態に直面しつつある二人にとっては頭痛の種でしかなかった。
もっとも、そのこともわかっているようで、いかにも楽しそうな笑みを浮かべながら。
「ま、そうやって頭抱えてられるのも今の内よ?あなたたちはまだ若いんだから、思いっきり楽しんじゃえばいいの!コスプレなんて、いつもやってるようなものじゃない」
「……いや、狩衣をコスプレ扱いされても」
「あの、巫女服はわたしにとって仕事着なんですだけど」
雪美の言葉に、護も月美もどう反応したらいいのかわからなかった。
現役の頃は仮にも一人の術者として活動していた母親が、仕事着はコスプレと同じという認識をしていれば、誰でもそう思うだろう。
確かに、昨今では宅配業者や制服自衛官の姿でイベントに参加する者も少なくないため、『仕事着はコスプレではない』と否定できないところはあるのは事実だ。
だが、だからといって自分の仕事で使う衣装とコスプレが同じものだと認識されれば、複雑な気持ちにもなる。
悪気がないことは知っているが、諫めようかどうしようか迷っていると、雪美が唐突に話題を変えてきた。
「ほら、さっさと遅刻するんじゃない?」
そういわれて二人は同時に時計を見た。
視線の先にあった時計が示している時刻は、もうそろそろ出発しないと間に合わないぎりぎりの時間を示そうとしていた。
二人は慌てて、残っていた料理を平らげ、支度をして玄関から飛び出していった。
そんな二人に雪美は、温かくも呆れたような笑みを向けて見送っていた。
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どうにか遅刻せずに学校に到着した二人は、明美や佳代、清と時間をつぶしていた。
そんな中で、清がふと思い出したかのように口を開いた。
「そういや、知ってるか?一年の文化祭の出し物」
「知らん、興味ない」
「知らないけど?」
「……あ~、もしかして『あれ』?」
「そそ、『あれ』」
突如、清が切り出してきた話題に、月美と佳代は首を傾げ、護は興味なさそうに返し、明美は一人だけ知っているような雰囲気で返していた。
ついていけていない二人と、興味がない一人はまったく知らないため、必然的についていけてなかった二人から、『あれ』と呼ぶものについて質問が出てきた。
「『あれ』って何?」
「もしかして、何か珍しいことでもやるの?」
「それがよ、チャリティフリーマーケットやるんだとさ」
「フリマ?学校の文化祭でフリマって、珍しいね」
大学の学園祭ならば、ボランティアサークルが引き取られることのなかった遺失物を販売し、そこで得たお金をNPO法人や福祉関係の施設などに寄付することはあるだろうが、高校で、しかも一つのクラスでそれと同じことを行うことは、確かに珍しいものだろう。
もっとも、だからこそこうして耳ざとい清や明美の耳に入ってきたのだろうが。
「クラスの全員で、使わなくなった古着とかおもちゃを集めて、売りさばくんだって。商品が足りなくなることも考慮して、学校全体で中古品を募って、学校からって形でどこかの施設に寄付するらしいよ?」
「学校全体って、それもうクラスの出し物って領域、超えてるだろ」
「なんか、もう学校をあげての出し物になってるような……」
明美の言葉に苦笑を浮かべながらつぶやいた月美の言葉を聞いて、全員が同意するように相槌を打つと、護はまさかと思いつつ、学校側が考えているのではないかと思っていることを口に出した。
「……まさかと思うが、これ見よがしにローカル新聞とかで取材を依頼して、学校の名前を売ろう、なんて考えてねぇだろうな……?」
「まさか、そんなこと……ないよね?」
「……さぁ?」
護の言葉に、全員が首を傾げた。
全国のニュースを記事にし、全国に配達されている全国紙ならばともかく、特定の地域にしか配達されないローカル新聞ならば、フリーマーケットの売り上げを寄付したことを取材してもらい、紙面に乗せてもらうこともできるだろう。
当然、学校の名前も載ることになるため、広告ではない形で宣伝をしようとしているのではないかと邪推してしまったようだ。
もっとも、学校側の意図など、生徒でしかない護たちが知るはずもなく、「そんなことはないはず」という結論でひとまず落ち着くこととなった。
が、この学校を挙げての「一風変わった出し物」が、国民に公表されていない内閣府直属の公的機関を巻き込んだ騒動を巻き起こすことになるとは、この時は誰も予期することなどできなかった。
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