見習い陰陽師の高校生活

風間義介

文字の大きさ
上 下
159 / 276
旅行記

15、寸劇~3、終幕~

しおりを挟む
「危ないところを、助かりました」

 浪人たちが逃げていき、その姿が見えなくなると、女侍は刀を鞘に納め、土方と沖田と名乗った二人の隊士に頭を下げた。
 二人はいつの間に刀を鞘に納めたのか、二人は女侍に微笑みかけながら、大したことはしていない、と返した。

「なに、これも我々の仕事だ」
「そうですよ。私たちは仕事をしただけですので」

 あくまで、自分たちの仕事だから助けた、ということのようだ。
 だが、助けられたこともまた事実。ここで恩を返さなければ、恥というもの。
 そう思い、せめて屋敷で食事を、と誘おうとしたが。

「土方さん、そろそろ戻りましょうか」
「だな……ったくたまに市中に出るとこれだ。呪われてんのか、俺は」
「はははは……」

 と、仕事が残っているため、これ以上はいられない、と暗に告げられてしまった。
 そのまま立ち去ろうとする二人だったが、ならばせめて、と女侍は声を上げた。

「わ、わたしは父に代わり右京の外れにある道場で剣術指南を行っております!もし、お力になれることがありましたらお尋ねください!!」
「それならば、そうならないよう努めますが、本当にもしもの時は頼りにさせていただきます」

 土方は女侍の言葉にそう返して、沖田とともに立ち去って行った。
 沖田もまた、さわやかな笑みを浮かべ、手を振り、子供のようにはねながら土方の後ろを追いかけていった。
 女侍は、二人の、特に土方のその背中をじっと見つめていた。
 その瞳と顔は、女侍が持つ本来の凛々しさとは程遠い、年頃の生娘のような表情であったことを知っているものは、この場には誰もいなかった。

------------

「はい、カット!お疲れ様でした!!」
「すごい迫力だったよ!特に新撰組のお二人と女侍の君!!」
「もういっそ、テレビに出てみない?!」

 寸劇が終了し、スタッフから飛び出てきたのはそんな称賛の言葉だった。
 劇の緊張感から解放されたためか、護たちは長い溜息をついたが、その顔はやりきったという達成感に満ちていた。

「しっかし、さっきの峰打ち、見事に清の腹に入ってたな」
「まったくだ……飯が出てこなかっただけ偉いと思うぜ、俺」
「ははは……」
「あははは……ごめん、なんでか思いっきりいかないとって思っちゃって」

 日頃の恨みがあったのか、それとも単純に殺陣の技術がないからなのか、月美は苦笑を浮かべながら、清に謝罪していた。
 もっとも、劇とはいえ、学園きっての美少女に殴られるという、ある意味でご褒美をいただいた清は大して気にした様子はなく、別に構わない、と返していた。
 一方で映画村のスタッフの人たちは。

「これはまさかの逸材?」
「どうする?上に報告してみる?」

 と、五人をスカウトできないか考えているらしく、そんな言葉がちらほらと聞こえてきた。
 だが、そもそもがよそ者である上に、芸能界にはまったく興味がない五人は、丁重にお断りし、さっさと着替えてしまおうと更衣室へとむかっていった。

------------

 着替えを済ませて更衣室を出ると、先ほどの撮影スタッフの一人が封筒のようなものを持って近づいてきた。
 まさか、スカウトのために無理やり履歴書のようなものを書かせるつもりか、と警戒し身構えたが、それに気づいたスタッフは申し訳なさそうな顔をしながら。

「さっきの寸劇の時に写真を撮らさせてもらったから、それをお渡ししようと思いまして。あ、料金は大丈夫です。撮影代も含めての料金でしたので」

 と説明して、封筒を手渡してきた。
 パンフレットをよくよく見れば、確かに、寸劇の最中は撮影を行い、記念写真とさせていただく、という注意書きがされていた。
 そこまで確認し、納得した護たちは封筒を受け取り、中身を見てみた。
 中身は確かに寸劇の最中の写真で、刀を抜いた護と明美の姿や茶店でくつろぐ月美の姿などが写されていた。

「おぉ……さすがプロ!きれいに撮れてる!!」
「どれどれ……おぉ、ほんとだ!あ、佳代みっけ!」
「って、なんで俺こんな情けないとこを??!!」

 三人が受け取った写真を見ながら和気藹々と感想を口にしてる横で、スタッフが護と月美に三人とは別に一枚ずつ、同じ写真を手渡してきた。

「あれ?この写真って、寸劇の奴じゃないですよね?」
「ほんとだ……始まる前のだよね?」
「えぇ、ほんとうはいけないんですが、お二人があまりにもお似合いだったのでついシャッターを押してしまいまして」

 少しばかり申し訳なさそうに、スタッフは謝罪してきたが、二人ともそれはまったく気にしていなかった。
 むしろ、いい旅の思い出が出来た、とすら思っていた。

------------------------

 撮影村を出た護たちは、チェックインの時間が迫っているため、宿泊先にしていたユースホステルへとむかった。
 京都駅からバスに乗り、金閣で有名な鹿苑寺の前のバス停で降りて、京都市内にある大学のキャンパス付近まで歩いていくと、目的地であるホステルの案内板が見えてきた。
 案内板が指し示す方へ足を進めると、まるで長屋のような外観をしている建物が目に入った。
 長屋と言ってもその壁は手入れが行き届いており、古めかしさを一切感じなかった。
 それだけでなく、すぐ近くにはテニスコートがあり、建物の奥には何本もの木々が見えることから、昆虫採集やテニスなどのアウトドアも楽しめそうな雰囲気があった。

「お、テニスコートもあるんだな」
「やる暇があればいいけどな……俺はやらんぞ」
「あははは……」
「まぁ、とりあえず、チェックイン済ませちゃおっか」
「さんせー」

 基本的に武道以外の体育、特に球技が大の苦手な護がいかにも嫌そうな顔でそう言い放つと、月美は苦笑を浮かべ、清は残念そうな顔をした。
 そんな三人を放っておいて、明美と佳代はさっさとチェックインを行うために受付へとむかっていった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

慟哭の螺旋(「悪役令嬢の慟哭」加筆修正版)

浜柔
ファンタジー
前世で遊んだ乙女ゲームと瓜二つの世界に転生していたエカテリーナ・ハイデルフトが前世の記憶を取り戻した時にはもう遅かった。 運命のまま彼女は命を落とす。 だが、それが終わりではない。彼女は怨霊と化した。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...