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旅行記
10、新幹線の中で
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最寄駅から電車を二本ほど乗り継ぐこと一時間と少し。
護たちは大宮駅から東海道新幹線に乗り、京都へと向かっていた。
新幹線内では、社内のワゴン販売でお菓子や駅弁を買ったり、騒がしくない程度に会話をしながら新幹線での旅を楽しんでいた。
「むむむむ……」
「ふふふふ……」
現在、女子四人は座席を向かい合わせにしてババ抜きに興じていた。
本来の運のよさなのか、それとも感情を読むことが得意だからなのか、三人の中で一番最初に抜けたのは佳代だったため、今は月美と明美の対決になっていた。
どうやら現在ババを握っているのは月美の方らしく、どこか裏があるのではないかと疑いたくなるような笑みを浮かべながら、明美に自分の手札を出していた。
一方、明美はどこにババがあるのかわからず、眉をひそめながら慎重に選んでいた。
月美が浮かべている妖艶な笑みにひるんでいる、ということもあるのだろうが。
「これだっ!!……って、あぁぁぁぁぁ……」
「うふふ、残念でした」
どうやら、ババを引いてしまったらしい。
明美の悲痛な叫びと、まるでいたずらに成功したことを楽しむかのような、月美の意地の悪い笑みが聞こえてきた。
だが、ここで勝負を捨てるような明美ではない。
むしろ、ここからどう逆転することに注力している印象すら受ける表情をしていた。
もっとも、ババ抜きは運も関わっているが、相手の表情からいかに情報を得てババを避けるか、という技術も必要となる。
そして、相手をどのように引っ掛け、ババを引き抜かせるか、という誘導も同じことだ。
その点では、明美よりも月美のほうが一枚も二枚も上手らしく、月美にどうにかババを引かせようと奮闘するが、うまい具合に回避されているらしく、引かれるたびに一喜一憂している姿が飛び込んできていた。
「楽しんでるみたいだな、月美は」
「だなぁ……てか、なんで俺らはオセロなんだ?」
「二人しかいないんだから、これしかないだろ?なんだったら、囲碁でもいいが?」
「オセロでいいです、囲碁のルールわかりません」
そんな光景を横目にしながら男子二人は、護が黒、清が白となり、オセロに興じていた。
ちなみに、神社という空間で育ったがためか、それとも普段神社に来るのが祖父の友人であるためか、参拝客が囲碁を打っている光景を目にすることが多く、自然とルールを学んでいたので護も碁を打つことはできる。
もっとも、腕前は素人の域を抜けることはないことは、言うまでもないことだが。
「……とか言ってるうちに、ほれ、ごちそうさん」
「……ん?って、ぬあぁぁぁぁっ??!!」
「油断大敵、雨あられ」
少しよそ見をしている間に、清の陣地は瞬く間にひっくり返され、半分近くが黒になってしまっていた。
ちなみに言うが、不正は行っていない。
話しながらもじっくりと盤面を見て、どこに置けば効率よくひっくり返すことができるかを考えていた結果だ。
「ぐっ……ぐぬぬぬ……」
「ほれほれ、頑張れ頑張れ」
集合時間に遅れたことへの意趣返しなのか、それとも日常的に遊ばれていることへのうっぷん晴らしなのか。
いずれにしても、護はこれ以上、清に逆転の目を与えないように注力しているようだ。
ぐぬぬぬ、と呻きながら、清はどうにかここから逆転できる手を考えていた。
だが、どう置いても逆転できるような気がしなかった。
「……参りました……」
「ごちそうさん、と」
結局、負けを認めた。
少しでもうっぷんを晴らすことができたからか、護はご機嫌な表情を浮かべながら、清にそう返した。
清が負けを認めたと同時に、女子のババ抜きも決着がついたらしい。隣の座席に目をやると、満足そうに胸を張る月美と魂のような何かを口から出している明美、そして苦笑を浮かべながら明美を慰めている佳代の姿が視界に入り込んできた。
その光景を見た護と清は、その背中にうすら寒いものを感じた。
「……月美の奴、手加減しなかったな?」
「てか怖いな、あの笑顔……風森を怒らせるようなことしないように気を付けよう……」
「それが一番だ」
月美を怒らせたらどうなるかをよく知っている護が、清が呟いた決意にそう返すと、車内アナウンスが響いてきた。
どうやら、間もなく京都駅に到着するようだ。
五人はいそいそとトランプやお菓子類、飲み物を片付け、手荷物を取り、乗車口へと向かった。
乗車口近くのスーツケース置き場から自分たちのスーツケースを取り出すと、新幹線は停車し、プシュー、という空気音が聞こえてきた。
『京都、京都です』
駅のアナウンスとともに、護たちは新幹線を降りた。
その瞬間、むわっ、と東京と同等かそれ以上の湿気が五人に襲いかかってきた。
「うへぁ……」
「暑……」
「暑いってより、湿気がすごいんだよ……」
「盆地だからな。こもるんだろ」
「護、もしかして平気だったりしてるの?」
「してない。暑い」
初めて夏の京都に降り立った護たちは、口々にそんな感想を言いあいながら、改札口へと向かって歩いた。
護たちは大宮駅から東海道新幹線に乗り、京都へと向かっていた。
新幹線内では、社内のワゴン販売でお菓子や駅弁を買ったり、騒がしくない程度に会話をしながら新幹線での旅を楽しんでいた。
「むむむむ……」
「ふふふふ……」
現在、女子四人は座席を向かい合わせにしてババ抜きに興じていた。
本来の運のよさなのか、それとも感情を読むことが得意だからなのか、三人の中で一番最初に抜けたのは佳代だったため、今は月美と明美の対決になっていた。
どうやら現在ババを握っているのは月美の方らしく、どこか裏があるのではないかと疑いたくなるような笑みを浮かべながら、明美に自分の手札を出していた。
一方、明美はどこにババがあるのかわからず、眉をひそめながら慎重に選んでいた。
月美が浮かべている妖艶な笑みにひるんでいる、ということもあるのだろうが。
「これだっ!!……って、あぁぁぁぁぁ……」
「うふふ、残念でした」
どうやら、ババを引いてしまったらしい。
明美の悲痛な叫びと、まるでいたずらに成功したことを楽しむかのような、月美の意地の悪い笑みが聞こえてきた。
だが、ここで勝負を捨てるような明美ではない。
むしろ、ここからどう逆転することに注力している印象すら受ける表情をしていた。
もっとも、ババ抜きは運も関わっているが、相手の表情からいかに情報を得てババを避けるか、という技術も必要となる。
そして、相手をどのように引っ掛け、ババを引き抜かせるか、という誘導も同じことだ。
その点では、明美よりも月美のほうが一枚も二枚も上手らしく、月美にどうにかババを引かせようと奮闘するが、うまい具合に回避されているらしく、引かれるたびに一喜一憂している姿が飛び込んできていた。
「楽しんでるみたいだな、月美は」
「だなぁ……てか、なんで俺らはオセロなんだ?」
「二人しかいないんだから、これしかないだろ?なんだったら、囲碁でもいいが?」
「オセロでいいです、囲碁のルールわかりません」
そんな光景を横目にしながら男子二人は、護が黒、清が白となり、オセロに興じていた。
ちなみに、神社という空間で育ったがためか、それとも普段神社に来るのが祖父の友人であるためか、参拝客が囲碁を打っている光景を目にすることが多く、自然とルールを学んでいたので護も碁を打つことはできる。
もっとも、腕前は素人の域を抜けることはないことは、言うまでもないことだが。
「……とか言ってるうちに、ほれ、ごちそうさん」
「……ん?って、ぬあぁぁぁぁっ??!!」
「油断大敵、雨あられ」
少しよそ見をしている間に、清の陣地は瞬く間にひっくり返され、半分近くが黒になってしまっていた。
ちなみに言うが、不正は行っていない。
話しながらもじっくりと盤面を見て、どこに置けば効率よくひっくり返すことができるかを考えていた結果だ。
「ぐっ……ぐぬぬぬ……」
「ほれほれ、頑張れ頑張れ」
集合時間に遅れたことへの意趣返しなのか、それとも日常的に遊ばれていることへのうっぷん晴らしなのか。
いずれにしても、護はこれ以上、清に逆転の目を与えないように注力しているようだ。
ぐぬぬぬ、と呻きながら、清はどうにかここから逆転できる手を考えていた。
だが、どう置いても逆転できるような気がしなかった。
「……参りました……」
「ごちそうさん、と」
結局、負けを認めた。
少しでもうっぷんを晴らすことができたからか、護はご機嫌な表情を浮かべながら、清にそう返した。
清が負けを認めたと同時に、女子のババ抜きも決着がついたらしい。隣の座席に目をやると、満足そうに胸を張る月美と魂のような何かを口から出している明美、そして苦笑を浮かべながら明美を慰めている佳代の姿が視界に入り込んできた。
その光景を見た護と清は、その背中にうすら寒いものを感じた。
「……月美の奴、手加減しなかったな?」
「てか怖いな、あの笑顔……風森を怒らせるようなことしないように気を付けよう……」
「それが一番だ」
月美を怒らせたらどうなるかをよく知っている護が、清が呟いた決意にそう返すと、車内アナウンスが響いてきた。
どうやら、間もなく京都駅に到着するようだ。
五人はいそいそとトランプやお菓子類、飲み物を片付け、手荷物を取り、乗車口へと向かった。
乗車口近くのスーツケース置き場から自分たちのスーツケースを取り出すと、新幹線は停車し、プシュー、という空気音が聞こえてきた。
『京都、京都です』
駅のアナウンスとともに、護たちは新幹線を降りた。
その瞬間、むわっ、と東京と同等かそれ以上の湿気が五人に襲いかかってきた。
「うへぁ……」
「暑……」
「暑いってより、湿気がすごいんだよ……」
「盆地だからな。こもるんだろ」
「護、もしかして平気だったりしてるの?」
「してない。暑い」
初めて夏の京都に降り立った護たちは、口々にそんな感想を言いあいながら、改札口へと向かって歩いた。
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