見習い陰陽師の高校生活

風間義介

文字の大きさ
上 下
153 / 276
旅行記

9、出発当日に遅刻してくるものは必ずいる

しおりを挟む
 出発時当日の早朝。護と月美は最寄り駅にいた。

「少し、早かったかな?」
「今日の午後にはついてたいって言ってたから、これくらいがちょうどいい時間じゃないか?」

 東京から京都までは新幹線で二時間ほど。
 だが、新幹線が発着するほどの大きな駅に行くまで一時間近く必要となるし、一番早い新幹線の時間に合わせるとなると、それなりに早く出なければならない。
 ホステルのチェックインの時間も考えると、今の時間くらいがちょうどいいのだ。

「やっぱ少し早かったか?」
「かもしれない?」

 現在時刻は朝の六時四十分。
 朝練でもない限り、ほとんどの学生は寝ているであろう時間だ。
 早朝に水垢離をすることが習慣になっている二人は、とっくに目を覚ましている時間だが、一般的な高校生である待ち人三人にとっては、早すぎる時間だ。
 その辺りの感覚が、どうやら二人ともずれているらしい。

「てか、今何時だっけ?」
「えっと……六時四十分ちょっとすぎ」
「集合時間って、七時だったか?」
「……だね」

 自分たちの行動が少しばかり早かったことに気付いた護は、遠い目をしながらそうつぶやいた。

「これだったらもうちょっと修行に充てられたか」
「だねぇ……けどいいんじゃない?遅れるよりは」
「まぁ、そらな」

 そっとため息をつきながら返してくる護の姿に、月美はくすくすと微笑みを浮かべていた。
 なんだかんだ言って、実のところ、護も楽しみにしていたのだ。
 だが、小学生時代の経験と、清に対するひねくれから、素直になれていない部分のほうが強いらしい。
 そんな一面が可愛らしく感じたらしい。
 もっとも、そのことを口に出すことはないが。

「って、もういるし!!」
「早いね、二人とも」

 そうこうしているうちに、明美と佳代の二人がスーツケースを引っ張りながら声をかけてきた。
 その声に気付いた月美はスーツケースを護に任せて、二人のほうへと駆けて行った。
 その背中を見送りながら、護は携帯電話の画面で時計を確認した。
 現在時刻、六時五十分。
 画面にはそう表記されていた。

――あと五分で来なかったら、あいつは置いていくか

 あいつ、とは言わずもがな、今この場に来ていない、旅行発案者言いだしっぺの清のことだ。
 本来なら、一番最初に来ていなければいけないはずの人間がこの場にいない。
 まだ集合時間にはなっていないので遅刻とは言えないが、それでもやはり一番最初に集合場所にいてしかるべきではないだろうか。
 そんなことを考えていると、月美が明美と佳代を引き連れてやってきた。

「おはよう、土御門」
「おはよ、土御門くん」
「おはようさん」

 二人のあいさつに、護はいつものようにぶっきらぼうに返した。
 だが、その態度はいつものことなので、二人は特に何も思うことはなかった。

「で、あのバカはまだ来てないの?」
「あぁ、まだ来てない」
「……言いだしっぺなのに?」
「言いだしっぺなのに」
「……時間になったら、置いてこうか?」

 明美の質問に、護が呆れた様子で答えると、同じことを考えていたのか、悪気もなくそんなことを口にした。
 どうやら、明美も護と同じように、言いだしっぺなのにこの場に清がいないことに苛立ちを覚えていたようだ。

「なんかもう、あと何分であいつが来るか掛けが成立しそうな気がしてきた」
「なら賭ける?」
「いや、俺の予想が正しければ、もうそろそろ……」

 突然の明美の提案に、護は携帯の画面を見た。
 現在時刻、六時五十三分。
 もう間もなく、出発予定時刻五分前まで迫ってきていたが、こういうギリギリの時間になると決まって。

「悪い!遅くなった!!」
「遅い。もっと早く来い馬鹿」
「おはよう、寝坊助」

 待ち人はやってくる、というのが相場だ。
 今回の場合は噂をすれば影、ということもあるのだろうが。
 それはひとまず、置いておく。
 ようやくやってきた清に、護は呆れと侮蔑を込めた瞳を向け、明美は軽蔑するかのような視線を向けていた。
 自業自得とはいえ、二人のその攻撃に、少なからず、ショックを受けているようでうなだれてしまった。
 そんな様子を見かねた月美と佳代は、苦笑を浮かべながら、普通に挨拶をしていた。

「おはよう、勘解由小路くん」
「お、おはよう」
「うぅ……二人の優しさが身にしみるぜ……このままもう少し俺のこと慰めて……」
「え?そうなったのは自業自得でしょ?」
「このまま慰めてもらおうなんて、ちょっと虫が良すぎるんじゃないかな?」
「はい、おっしゃる通りです……」

 だが、あくまでこれ以上責めてもかわいそうだから、という仏心からだったらしく、一番最後に来たことを怒っていないわけではなかったようだ。
 月美からの冷ややかな視線と、佳代からの辛辣な言葉に、清はこれ以上調子に乗るのは危険と判断し、ひとまず身を引くことにした。

「……それはそうと時間はいいの?」
「「「「……あ」」」」
「……はぁ……」

 そんなにぎやかな中で唯一、輪の中から外れてしまっていた佳代が時間のことを口に出すと、全員が全員、すっかり忘れていた、という表情を浮かべた。
 ちなみに時刻は六時五十七分。
 そろそろ駅に入っていないと重い荷物を抱えて走る羽目になる。
 一行は急ぎ、駅のホームへと向かっていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

超空想~異世界召喚されたのでハッピーエンドを目指します~

有楽 森
ファンタジー
人生最良の日になるはずだった俺は、運命の無慈悲な采配により異世界へと落ちてしまった。  地球に戻りたいのに戻れない。狼モドキな人間と地球人が助けてくれたけど勇者なんて呼ばれて……てか他にも勇者候補がいるなら俺いらないじゃん。  やっとデートまでこぎつけたのに、三年間の努力が水の泡。それにこんな化け物が出てくるとか聞いてないし。  あれ?でも……俺、ここを知ってる?え?へ?どうして俺の記憶通りになったんだ?未来予知?まさかそんなはずはない。でもじゃあ何で俺はこれから起きる事を知ってるんだ?  努力の優等生である中学3年の主人公が何故か異世界に行ってしまい、何故か勇者と呼ばれてしまう。何故か言葉を理解できるし、何故かこれから良くないことが起こるって知っている。  事件に巻き込まれながらも地球に返る為、異世界でできた友人たちの為に、頑張って怪物に立ち向かう。これは中学男子学生が愛のために頑張る恋愛冒険ファンタジーです。 第一章【冬に咲く花】は完結してます。 他のサイトに掲載しているのを、少し書き直して転載してます。若干GL・BL要素がありますが、GL・BLではありません。前半は恋愛色薄めで、ヒロインがヒロインらしくなるのは後半からです。主人公の覚醒?はゆっくり目で、徐々にといった具合です。 *印の箇所は、やや表現がきわどくなっています。ご注意ください。

異世界二度目のおっさん、どう考えても高校生勇者より強い

八神 凪
ファンタジー
   旧題:久しぶりに異世界召喚に巻き込まれたおっさんの俺は、どう考えても一緒に召喚された勇者候補よりも強い  【第二回ファンタジーカップ大賞 編集部賞受賞! 書籍化します!】  高柳 陸はどこにでもいるサラリーマン。    満員電車に揺られて上司にどやされ、取引先には愛想笑い。  彼女も居ないごく普通の男である。  そんな彼が定時で帰宅しているある日、どこかの飲み屋で一杯飲むかと考えていた。  繁華街へ繰り出す陸。  まだ時間が早いので学生が賑わっているなと懐かしさに目を細めている時、それは起きた。  陸の前を歩いていた男女の高校生の足元に紫色の魔法陣が出現した。  まずい、と思ったが少し足が入っていた陸は魔法陣に吸い込まれるように引きずられていく。  魔法陣の中心で困惑する男女の高校生と陸。そして眼鏡をかけた女子高生が中心へ近づいた瞬間、目の前が真っ白に包まれる。  次に目が覚めた時、男女の高校生と眼鏡の女子高生、そして陸の目の前には中世のお姫様のような恰好をした女性が両手を組んで声を上げる。  「異世界の勇者様、どうかこの国を助けてください」と。  困惑する高校生に自分はこの国の姫でここが剣と魔法の世界であること、魔王と呼ばれる存在が世界を闇に包もうとしていて隣国がそれに乗じて我が国に攻めてこようとしていると説明をする。    元の世界に戻る方法は魔王を倒すしかないといい、高校生二人は渋々了承。  なにがなんだか分からない眼鏡の女子高生と陸を見た姫はにこやかに口を開く。  『あなた達はなんですか? 自分が召喚したのは二人だけなのに』  そう言い放つと城から追い出そうとする姫。    そこで男女の高校生は残った女生徒は幼馴染だと言い、自分と一緒に行こうと提案。  残された陸は慣れた感じで城を出て行くことに決めた。  「さて、久しぶりの異世界だが……前と違う世界みたいだな」  陸はしがないただのサラリーマン。  しかしその実態は過去に異世界へ旅立ったことのある経歴を持つ男だった。  今度も魔王がいるのかとため息を吐きながら、陸は以前手に入れた力を駆使し異世界へと足を踏み出す――

女神の代わりに異世界漫遊  ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~

大福にゃここ
ファンタジー
目の前に、女神を名乗る女性が立っていた。 麗しい彼女の願いは「自分の代わりに世界を見て欲しい」それだけ。 使命も何もなく、ただ、その世界で楽しく生きていくだけでいいらしい。 厳しい異世界で生き抜く為のスキルも色々と貰い、食いしん坊だけど優しくて可愛い従魔も一緒! 忙しくて自由のない女神の代わりに、異世界を楽しんでこよう♪ 13話目くらいから話が動きますので、気長にお付き合いください! 最初はとっつきにくいかもしれませんが、どうか続きを読んでみてくださいね^^ ※お気に入り登録や感想がとても励みになっています。 ありがとうございます!  (なかなかお返事書けなくてごめんなさい) ※小説家になろう様にも投稿しています

和風ホラーとか異世界のSランクの冒険者なら余裕だと思った?

かにくくり
ファンタジー
 異世界からもたらされた呪いによって滅びた鈍異村の住民である小山内詩郎、北野愛、櫛引由美子の三人は死後幽霊となって自分達の村が滅びた理由を調べていた。  幽霊には寿命が無く、生者とは時間の感覚も違う。  真相が判明した頃には既に75年の歳月が流れていた。  鈍異村に呪いを持ち込んだ元凶である異世界の魔法使いエンフラーグは既に亡くなっていたが、詩郎達はエンフラーグが設立し、その子孫がギルドマスターを務めている冒険者ギルド【英雄の血脈】の存在を知る。  エンフラーグ本人じゃないなら復讐するには及ばないと思いつつも、長年怨み続けてきた気持ちに切りを付ける意味で彼らに接触してみた結果、彼らは全く悪びれる様子もなく逆に犠牲になった村人達を笑い物にする始末。  そっちがその気ならもう情けをかける必要はない。  異世界の連中に日本の怨霊の恐ろしさを思い知らせてやる。  詩郎達は怨霊の力で彼らを鈍異村に閉じ込め一人ずつ復讐を行っていく。  その中には密かに転生をしてギルドに潜り込んでいたエンフラーグ本人の姿もあった。  その過程で徐々に明らかになる異世界人の非道な行為の数々に、怨霊側につく者達も現れて復讐劇は更にエスカレートしていく。  これは和風ホラーを怨霊側の視点で描いてみた物語です。  小説家になろうにも投稿しています。

親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました

空地大乃
ファンタジー
ダンジョンが当たり前になった世界。風間は平凡な会社員として日々を暮らしていたが、ある日見に覚えのないミスを犯し会社をクビになってしまう。その上親友だった男も彼女を奪われ婚約破棄までされてしまった。世の中が嫌になった風間は自暴自棄になり山に向かうがそこで誰からも見捨てられた放置ダンジョンを見つけてしまう。どことなく親近感を覚えた風間はダンジョンで暮らしてみることにするが、そこにはとても可愛らしいモンスターが隠れ住んでいた。ひょんなことでモンスターに懐かれた風間は様々なモンスターと暮らしダンジョン内でのスローライフを満喫していくことになるのだった。

田舎貴族の学園無双~普通にしてるだけなのに、次々と慕われることに~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
田舎貴族であるユウマ-バルムンクは、十五歳を迎え王都にある貴族学校に通うことになった。 最強の師匠達に鍛えられ、田舎から出てきた彼は知らない。 自分の力が、王都にいる同世代の中で抜きん出ていることを。 そして、その価値観がずれているということも。 これは自分にとって普通の行動をしているのに、いつの間にかモテモテになったり、次々と降りかかる問題を平和?的に解決していく少年の学園無双物語である。 ※ 極端なざまぁや寝取られはなしてす。 基本ほのぼのやラブコメ、時に戦闘などをします。

不登校が久しぶりに登校したらクラス転移に巻き込まれました。

ちょす氏
ファンタジー
あ~めんどくせぇ〜⋯⋯⋯⋯。 不登校生徒である神門創一17歳。高校生である彼だが、ずっと学校へ行くことは決してなかった。 しかし今日、彼は鞄を肩に引っ掛けて今──長い廊下の一つの扉である教室の扉の前に立っている。 「はぁ⋯⋯ん?」 溜息を吐きながら扉を開けたその先は、何やら黄金色に輝いていた。 「どういう事なんだ?」 すると気付けば真っ白な謎の空間へと移動していた。 「神門創一さん──私は神様のアルテミスと申します」 'え?神様?マジで?' 「本来呼ばれるはずでは無かったですが、貴方は教室の半分近く体を入れていて巻き込まれてしまいました」 ⋯⋯え? つまり──てことは俺、そんなくだらない事で死んだのか?流石にキツくないか? 「そんな貴方に──私の星であるレイアースに転移させますね!」 ⋯⋯まじかよ。 これは巻き込まれてしまった高校17歳の男がのんびり(嘘)と過ごす話です。 語彙力や文章力が足りていない人が書いている作品の為優しい目で読んでいただけると有り難いです。 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚

咲良喜玖
ファンタジー
アーリア戦記から抜粋。 帝国歴515年。サナリア歴3年。 新国家サナリア王国は、超大国ガルナズン帝国の使者からの宣告により、国家存亡の危機に陥る。 アーリア大陸を二分している超大国との戦いは、全滅覚悟の死の戦争である。 だからこそ、サナリア王アハトは、帝国に従属することを決めるのだが。 当然それだけで交渉が終わるわけがなく、従属した証を示せとの命令が下された。 命令の中身。 それは、二人の王子の内のどちらかを選べとの事だった。 出来たばかりの国を守るために、サナリア王が判断した人物。 それが第一王子である【フュン・メイダルフィア】だった。 フュンは弟に比べて能力が低く、武芸や勉学が出来ない。 彼の良さをあげるとしたら、ただ人に優しいだけ。 そんな人物では、国を背負うことが出来ないだろうと、彼は帝国の人質となってしまったのだ。 しかし、この人質がきっかけとなり、長らく続いているアーリア大陸の戦乱の歴史が変わっていく。 西のイーナミア王国。東のガルナズン帝国。 アーリア大陸の歴史を支える二つの巨大国家を揺るがす英雄が誕生することになるのだ。 偉大なる人質。フュンの物語が今始まる。 他サイトにも書いています。 こちらでは、出来るだけシンプルにしていますので、章分けも簡易にして、解説をしているあとがきもありません。 小説だけを読める形にしています。

処理中です...