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旅行記
3、夏休みでも修行は休まず~朝の時間~
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終業式の翌日、早朝。
土御門神社の社務所裏にある人工の滝に打たれている二つの影があった。
白い単衣をまとった護と月美だ。
二人は目を閉じて、何かを小さく呟いていた。
「「――――、――――、――――、――――」」
水垢離をする際に唱えている神呪を唱え終えると、二人はほぼ同時に滝から離れ、大きく深呼吸した。
脳震盪の危険があるため、頭頂部ではなく肩のあたりに落ちてくる水が当たるよう、位置を調整していたとはいえ、水の量がそれなりにあるため、少しばかり酸欠状態になっていたようだ。
加えて、ずっと立ちっぱなしだったということもあり、池の底があまり汚れていないことをいいことに、二人は池の底に腰を下ろし、座り込んだ。
「ふぅ……ちょっと前まですぐ池から出たいって思うほどだったけど、しばらく涼んでいたいな、こりゃ……」
「だねぇ……あぁ、水が冷たくて気持ちいい……」
朝からうだるような暑さに見舞われることが多い、七月下旬。
春先は早く水から出たいと思うほど冷えるときもあったのだが、今はその逆だ。
むしろ、しばらく浸かっていたいとすら思っている。思っているのだが、時間は有限だ。そしてなにより、雪美が作ってくれた朝ごはんを食べることができなくなる、というのは、二人にとって大きな痛手だ。
それだけは何としても避けなければならない。
「月美、そろそろ出るぞ」
「え~……けど、仕方ないかぁ」
もう少し涼んでいたかった月美だが、護の一言と時間が時間であることをわかっているので、文句を言いながらも池から出た。
護もそれに続いて、池から出ようとしたが、護はすぐに滝の方へ体を向けてしまった。
「護?」
「あ~……先に行ってくれ」
「え?どうし……」
上がってこないことに疑問を感じ、問いかけてくる月美に、護は体を滝のほうへ向けたまま答えた。
よくよく見れば護の姿勢が、若干、前かがみになっていることに気づいた。
なぜ、前かがみになっているのか疑問に思った月美は、自分の体を見下ろしてみた。
一応、水着を着ているとはいえ、二人がまとっているのは白い単衣一枚だ。
いままで滝に打たれていたのだから、当然、濡れている。
そして、白い布というのは、乾いていても透けて見えることがあるのだが、濡れているとなおのことだ。
当然、水着の色がはっきりと見えるし、水気を帯びたせいで肌に張り付き、体、特に胸の形がはっきりとしたわかるわけで。
「……護のえっち……」
「不可抗力……って、おいその罵りは理不尽だぞ……」
生理反応とはいえ、半眼で冷たく言い放たれて、さすがに護もへこんでしまっていた。
もっとも、口では罵倒していたが、月美もそれが生理反応であるということはわかっているし、なにより、自分の体に護がそうなってくれたということについては、正直なところ、少しばかり嬉しく思っていた。
------------
その後、軽くシャワーで汗と池の水を流した二人は、雪美が作ってくれた朝食を平らげ、一度、部屋に戻り、夏休み中の課題を持って、近所の図書館へ向かった。
部屋にエアコンがないわけではないのだが、普段、この時間帯は自宅にはいないため、課題ではない、別のことに集中してしまいそうな気がしているためだ。
具体的には修行とか修行とか修行とかに。
それでも別に構わないとは思うのだが、修行にかまけて学校の課題を全く手をつけていなかった、というのでは話にならない。
それ以前に、翼だけでなく、雪美からも何を言われるのかわかったものではない。
そのため、修行やその他の誘惑が少ない図書館で課題をしよう、ということになったのだ。
むろん、図書館にも漫画や小説、さらには護の興味を引きそうな民俗学の専攻研究論文や、月美が興味を引きそうなファッション雑誌がないわけではないため、完全に誘惑を断ち切る、ということはできない。
だが、それでも家にいるよりは数倍、課題への集中を途切れさせるものが少ない、という点において、図書館ほどいい場所はほかにない。
そんなわけで、二人は図書館に向かったのだが、なぜかそこには、見知った顔が三つほどあった。
その中の一つに、護は思わず顔をしかめてしまった。
「げっ……なんでお前がここにいるんだよ……」
「え~?いいじゃんよぉ、ここ涼しいし」
護が顔をしかめた理由である清が、机に突っ伏しながらそう答えた。
一応、その体の下には課題として渡されたテキストやシャーペン、消しゴムがちらついていることから、彼の目的も、護たちと同じということはすぐに察しがついた。
しかし、すぐ近くで同じようにテキストを開いている明美と佳代の二人とは違い、完全に緩み切った顔をしていた。
むろん、そんな様子の清に、文句を言わない明美ではない。
「こいつのことは気にしないでいいわよ。単に涼みに来てるだけの馬鹿だから」
「ちょっ?!桜沢、それはひど……」
「課題やろうって誘ってきたのに、誘ってきた本人がぐーたらしてるんだから、それくらい言われても仕方ないんじゃない?」
反論してきた清に対して、じとっとした視線を向けながら、佳代が追撃してきた。
普段はおとなしく、さりげなくフォローを入れてくれる佳代からの追撃に、清の心は大きなダメージを受けたらしく、がはっ、と血を吐きそうな声を出して胸を押さえた。
そんな売れない芸人のコントのような一連の流れに、護と月美はため息をつきながら、三人のすぐ近くにある机に、自分たちの荷物をおいて、課題に取り掛かり始めた。
土御門神社の社務所裏にある人工の滝に打たれている二つの影があった。
白い単衣をまとった護と月美だ。
二人は目を閉じて、何かを小さく呟いていた。
「「――――、――――、――――、――――」」
水垢離をする際に唱えている神呪を唱え終えると、二人はほぼ同時に滝から離れ、大きく深呼吸した。
脳震盪の危険があるため、頭頂部ではなく肩のあたりに落ちてくる水が当たるよう、位置を調整していたとはいえ、水の量がそれなりにあるため、少しばかり酸欠状態になっていたようだ。
加えて、ずっと立ちっぱなしだったということもあり、池の底があまり汚れていないことをいいことに、二人は池の底に腰を下ろし、座り込んだ。
「ふぅ……ちょっと前まですぐ池から出たいって思うほどだったけど、しばらく涼んでいたいな、こりゃ……」
「だねぇ……あぁ、水が冷たくて気持ちいい……」
朝からうだるような暑さに見舞われることが多い、七月下旬。
春先は早く水から出たいと思うほど冷えるときもあったのだが、今はその逆だ。
むしろ、しばらく浸かっていたいとすら思っている。思っているのだが、時間は有限だ。そしてなにより、雪美が作ってくれた朝ごはんを食べることができなくなる、というのは、二人にとって大きな痛手だ。
それだけは何としても避けなければならない。
「月美、そろそろ出るぞ」
「え~……けど、仕方ないかぁ」
もう少し涼んでいたかった月美だが、護の一言と時間が時間であることをわかっているので、文句を言いながらも池から出た。
護もそれに続いて、池から出ようとしたが、護はすぐに滝の方へ体を向けてしまった。
「護?」
「あ~……先に行ってくれ」
「え?どうし……」
上がってこないことに疑問を感じ、問いかけてくる月美に、護は体を滝のほうへ向けたまま答えた。
よくよく見れば護の姿勢が、若干、前かがみになっていることに気づいた。
なぜ、前かがみになっているのか疑問に思った月美は、自分の体を見下ろしてみた。
一応、水着を着ているとはいえ、二人がまとっているのは白い単衣一枚だ。
いままで滝に打たれていたのだから、当然、濡れている。
そして、白い布というのは、乾いていても透けて見えることがあるのだが、濡れているとなおのことだ。
当然、水着の色がはっきりと見えるし、水気を帯びたせいで肌に張り付き、体、特に胸の形がはっきりとしたわかるわけで。
「……護のえっち……」
「不可抗力……って、おいその罵りは理不尽だぞ……」
生理反応とはいえ、半眼で冷たく言い放たれて、さすがに護もへこんでしまっていた。
もっとも、口では罵倒していたが、月美もそれが生理反応であるということはわかっているし、なにより、自分の体に護がそうなってくれたということについては、正直なところ、少しばかり嬉しく思っていた。
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その後、軽くシャワーで汗と池の水を流した二人は、雪美が作ってくれた朝食を平らげ、一度、部屋に戻り、夏休み中の課題を持って、近所の図書館へ向かった。
部屋にエアコンがないわけではないのだが、普段、この時間帯は自宅にはいないため、課題ではない、別のことに集中してしまいそうな気がしているためだ。
具体的には修行とか修行とか修行とかに。
それでも別に構わないとは思うのだが、修行にかまけて学校の課題を全く手をつけていなかった、というのでは話にならない。
それ以前に、翼だけでなく、雪美からも何を言われるのかわかったものではない。
そのため、修行やその他の誘惑が少ない図書館で課題をしよう、ということになったのだ。
むろん、図書館にも漫画や小説、さらには護の興味を引きそうな民俗学の専攻研究論文や、月美が興味を引きそうなファッション雑誌がないわけではないため、完全に誘惑を断ち切る、ということはできない。
だが、それでも家にいるよりは数倍、課題への集中を途切れさせるものが少ない、という点において、図書館ほどいい場所はほかにない。
そんなわけで、二人は図書館に向かったのだが、なぜかそこには、見知った顔が三つほどあった。
その中の一つに、護は思わず顔をしかめてしまった。
「げっ……なんでお前がここにいるんだよ……」
「え~?いいじゃんよぉ、ここ涼しいし」
護が顔をしかめた理由である清が、机に突っ伏しながらそう答えた。
一応、その体の下には課題として渡されたテキストやシャーペン、消しゴムがちらついていることから、彼の目的も、護たちと同じということはすぐに察しがついた。
しかし、すぐ近くで同じようにテキストを開いている明美と佳代の二人とは違い、完全に緩み切った顔をしていた。
むろん、そんな様子の清に、文句を言わない明美ではない。
「こいつのことは気にしないでいいわよ。単に涼みに来てるだけの馬鹿だから」
「ちょっ?!桜沢、それはひど……」
「課題やろうって誘ってきたのに、誘ってきた本人がぐーたらしてるんだから、それくらい言われても仕方ないんじゃない?」
反論してきた清に対して、じとっとした視線を向けながら、佳代が追撃してきた。
普段はおとなしく、さりげなくフォローを入れてくれる佳代からの追撃に、清の心は大きなダメージを受けたらしく、がはっ、と血を吐きそうな声を出して胸を押さえた。
そんな売れない芸人のコントのような一連の流れに、護と月美はため息をつきながら、三人のすぐ近くにある机に、自分たちの荷物をおいて、課題に取り掛かり始めた。
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