140 / 276
呪怨劇
42、体育祭、本番~3.出場しない競技中の語らい~
しおりを挟む
男女の騎馬戦が終了し、次の種目が棒倒しとなったが、護はこの種目には参加していなかったため、テントで待機していた。
種目が男子の種目であったが任意参加であったため、テントには護を含めた参加しない少数の男子生徒のほかは女子しかいない。
そのため、当然、月美も残っているわけで。
「護。騎馬戦、お疲れ様」
「月美も、お疲れ様」
必然的に、護と月美がセットになる。
表立っていちゃつくことのない二人であるため、手をつないだり、ボディタッチをしたりということはしないのだが、なぜか周囲には桃色の空気が流れていた。
「む? 甘い匂いがするな」
「マスター、コーヒー。いや、エスプレッソをくれ。とびっきり濃いやつを」
「あぁ、もう! なんでこう胸やけしそうになるのよ!!」
「……けど正直、少しうらやましい」
護と月美を遠巻きにしている生徒たちから、そんな声が聞こえてきていた。
が、そんなものはまったく気にする様子もなく、護と月美は他愛ない会話を続けている。
その二人の間に割って入るように、二人の女子が声をかけてきた。
「やっほ~月美~。あと土御門」
「こんにちは、風森さん、土御門くん」
「明美、吉田さん。お疲れ」
「よっす。て俺はついでかよ! 桜沢」
月美の親友である明美と、ここ最近になって縁が出来た佳代の二人が声をかけながら月美の近くに腰かける。
――女子だけで話したいこともあるだろうし、少し外すか
護がその場を立ち去ろうとすると、その気配を察したのか、明美が突然、護に頼みごとをしてきた。
「あ、ねぇねぇ。どっか行くならジュース買ってきて?自販機のでいいから」
「俺は使い走りか?」
「だってあたしこれから月美と佳代にあれこれ聞きたいんだもん」
何の悪気もなく、明美がそう返してきた。
こうなってはもう人の話を聞かないらしい。
そのことを月美から聞いていた護は、ため息をつく。
「あとで金払えよ?」
「もちのろん。あ、あたしいちごオレでお願いね」
「あ、わたし緑茶」
「あ、あの、えっと……いいの?」
「二人分も三人分も大して変わらんさ……請求するものはするけど、月美以外」
恋人は特別扱いであることに、明美は納得いかないと言いたそうな表情を浮かべる。
だがここで護に文句を言えば、ただでさえ気の弱い佳代が注文できなくなってしまうことは予想できた。
だからこそ、口には出さずに顔だけで文句を言っているのだが。
「なら、アップルティー」
「ん、了解」
佳代の注文を聞くなり、護はそそくさと立ち去ってしまった。
文句を言うこともできず、明美が不完全燃焼で頬を膨らませていると、月美が笑みを浮かべながらなだめる。
「まぁまぁ、明美。抑えて抑えて」
「納得いかない!! なんで恋人の親友にはおごらないのよ!!」
「恋人の親友は自分の親友じゃなくて他人だからじゃない?」
「むが~~~~~っ!!」
なぜか納得できてしまう理論に、明美は意味のわからない悲鳴を上げ、頭を抱える。
その様子を佳代は呆然と眺めていることに気付いた月美は、苦笑しながら謝罪した。
「ごめんね、吉田さん。騒がしいよね?」
「え? あ、あぁ……元気があっていいと思うけど?」
「……なにその微妙なフォロー」
佳代からのフォローに、明美はうなだれながらそう返した。
もっとも、悪い気はしていないらしい。
まぁ、いいんだけどさ、と気楽な声で呟きながら笑みを浮かべ、顔を上げていた。
「そういえばさ、聞いてなかったことあったんだけど、聞いていい?」
「え?」
「……まぁ、答えられることなら」
明美の問いかけに、佳代はどこか困惑気味に、月美は何を聞いてくるのかあらかた予想できているのか、すました表情で返した。
二人の承諾を得て、明美はニマニマと笑みを浮かべながら問いかけてきた。
「二人が友達になったきっかけ、教えて? あと、なんで土御門は吉田さんに優しいのかも」
「え?!」
「あぁ、やっぱり……わたしは構わないけど、吉田さんは?」
「わ、わたしも大丈夫……」
予想通り、と言いたそうに脱力しながら、月美は佳代に問いかけた。
佳代も別に聞かれて困ることではないため、二つ返事でうなずくと、さっそく明美が食いついてくる。
次々と出てくる明美の質問に佳代はしどろもどろになりながら、時折、月美がフォローしてもらいながら、明美の質問に一つ一つ丁寧に返していった。
だが、途中で明美がとんでもない爆弾を投げつけてきた。
「で、ぶっちゃけ、土御門に恋してる?」
「え……えぇぇぇぇぇぇぇぇっ??!!」
「ほぉほぉ、その反応はまさかのまさかですなぁ~……もしかして、月美から横取りしようなん……」
にやにやと、いやらしい笑みを浮かべながら明美はさらに問い詰めようとした瞬間、ざわり、と背筋に冷たいものを感じ取った。
それは佳代も同じらしく、まるで蛇に睨まれた蛙のように固まっていた。
元々、気の弱い佳代はともかく、ともすると自分も固まってしまうのではないかと思うほどの威圧感を覚えた明美は、その発生源がどこにあるのか、なんとなくわかっていた。
「……あ、あの……月美?」
「……………」
「も、もしも~し……」
「……………何かしら?」
「や、やめよう? 一回落ち着こう??」
「わたしはいたって冷静よ? えぇ、冷静ですとも……少なくとも、いますぐあなたたちをどうこうしようと思っていない程度には」
「いや、どうこうって何するのよ?! 逆に怖いよ!!」
原因が自分であることは重々承知しているが、さすがに何をされるのかわからないことから、強い恐怖心を覚え、そんなツッコミを入れる。
そのツッコミに対して、月美は口を三日月の形にして。
「うふふふ……うふふふふふふ……」
不気味な笑みを浮かべていた。
「や、やばい……」
「な、何か月美……いつになく怖い」
今の月美から感じ取れる恐怖に、二人が一秒でも早く解放されたいと願った瞬間。
「何やってんだよ、月美?」
「ぴゃっ?! ま、護?!」
「まったく、何やってんだよ……ほれ、緑茶」
頼んでいたものを渡された月美は、変な悲鳴を上げてしまったからか。
それとも柄にもなく嫉妬心をむき出しにしているところを見られたことを恥ずかしく思っているのか。
顔を真っ赤にして俯きながら、差し出された緑茶を受け取った。
種目が男子の種目であったが任意参加であったため、テントには護を含めた参加しない少数の男子生徒のほかは女子しかいない。
そのため、当然、月美も残っているわけで。
「護。騎馬戦、お疲れ様」
「月美も、お疲れ様」
必然的に、護と月美がセットになる。
表立っていちゃつくことのない二人であるため、手をつないだり、ボディタッチをしたりということはしないのだが、なぜか周囲には桃色の空気が流れていた。
「む? 甘い匂いがするな」
「マスター、コーヒー。いや、エスプレッソをくれ。とびっきり濃いやつを」
「あぁ、もう! なんでこう胸やけしそうになるのよ!!」
「……けど正直、少しうらやましい」
護と月美を遠巻きにしている生徒たちから、そんな声が聞こえてきていた。
が、そんなものはまったく気にする様子もなく、護と月美は他愛ない会話を続けている。
その二人の間に割って入るように、二人の女子が声をかけてきた。
「やっほ~月美~。あと土御門」
「こんにちは、風森さん、土御門くん」
「明美、吉田さん。お疲れ」
「よっす。て俺はついでかよ! 桜沢」
月美の親友である明美と、ここ最近になって縁が出来た佳代の二人が声をかけながら月美の近くに腰かける。
――女子だけで話したいこともあるだろうし、少し外すか
護がその場を立ち去ろうとすると、その気配を察したのか、明美が突然、護に頼みごとをしてきた。
「あ、ねぇねぇ。どっか行くならジュース買ってきて?自販機のでいいから」
「俺は使い走りか?」
「だってあたしこれから月美と佳代にあれこれ聞きたいんだもん」
何の悪気もなく、明美がそう返してきた。
こうなってはもう人の話を聞かないらしい。
そのことを月美から聞いていた護は、ため息をつく。
「あとで金払えよ?」
「もちのろん。あ、あたしいちごオレでお願いね」
「あ、わたし緑茶」
「あ、あの、えっと……いいの?」
「二人分も三人分も大して変わらんさ……請求するものはするけど、月美以外」
恋人は特別扱いであることに、明美は納得いかないと言いたそうな表情を浮かべる。
だがここで護に文句を言えば、ただでさえ気の弱い佳代が注文できなくなってしまうことは予想できた。
だからこそ、口には出さずに顔だけで文句を言っているのだが。
「なら、アップルティー」
「ん、了解」
佳代の注文を聞くなり、護はそそくさと立ち去ってしまった。
文句を言うこともできず、明美が不完全燃焼で頬を膨らませていると、月美が笑みを浮かべながらなだめる。
「まぁまぁ、明美。抑えて抑えて」
「納得いかない!! なんで恋人の親友にはおごらないのよ!!」
「恋人の親友は自分の親友じゃなくて他人だからじゃない?」
「むが~~~~~っ!!」
なぜか納得できてしまう理論に、明美は意味のわからない悲鳴を上げ、頭を抱える。
その様子を佳代は呆然と眺めていることに気付いた月美は、苦笑しながら謝罪した。
「ごめんね、吉田さん。騒がしいよね?」
「え? あ、あぁ……元気があっていいと思うけど?」
「……なにその微妙なフォロー」
佳代からのフォローに、明美はうなだれながらそう返した。
もっとも、悪い気はしていないらしい。
まぁ、いいんだけどさ、と気楽な声で呟きながら笑みを浮かべ、顔を上げていた。
「そういえばさ、聞いてなかったことあったんだけど、聞いていい?」
「え?」
「……まぁ、答えられることなら」
明美の問いかけに、佳代はどこか困惑気味に、月美は何を聞いてくるのかあらかた予想できているのか、すました表情で返した。
二人の承諾を得て、明美はニマニマと笑みを浮かべながら問いかけてきた。
「二人が友達になったきっかけ、教えて? あと、なんで土御門は吉田さんに優しいのかも」
「え?!」
「あぁ、やっぱり……わたしは構わないけど、吉田さんは?」
「わ、わたしも大丈夫……」
予想通り、と言いたそうに脱力しながら、月美は佳代に問いかけた。
佳代も別に聞かれて困ることではないため、二つ返事でうなずくと、さっそく明美が食いついてくる。
次々と出てくる明美の質問に佳代はしどろもどろになりながら、時折、月美がフォローしてもらいながら、明美の質問に一つ一つ丁寧に返していった。
だが、途中で明美がとんでもない爆弾を投げつけてきた。
「で、ぶっちゃけ、土御門に恋してる?」
「え……えぇぇぇぇぇぇぇぇっ??!!」
「ほぉほぉ、その反応はまさかのまさかですなぁ~……もしかして、月美から横取りしようなん……」
にやにやと、いやらしい笑みを浮かべながら明美はさらに問い詰めようとした瞬間、ざわり、と背筋に冷たいものを感じ取った。
それは佳代も同じらしく、まるで蛇に睨まれた蛙のように固まっていた。
元々、気の弱い佳代はともかく、ともすると自分も固まってしまうのではないかと思うほどの威圧感を覚えた明美は、その発生源がどこにあるのか、なんとなくわかっていた。
「……あ、あの……月美?」
「……………」
「も、もしも~し……」
「……………何かしら?」
「や、やめよう? 一回落ち着こう??」
「わたしはいたって冷静よ? えぇ、冷静ですとも……少なくとも、いますぐあなたたちをどうこうしようと思っていない程度には」
「いや、どうこうって何するのよ?! 逆に怖いよ!!」
原因が自分であることは重々承知しているが、さすがに何をされるのかわからないことから、強い恐怖心を覚え、そんなツッコミを入れる。
そのツッコミに対して、月美は口を三日月の形にして。
「うふふふ……うふふふふふふ……」
不気味な笑みを浮かべていた。
「や、やばい……」
「な、何か月美……いつになく怖い」
今の月美から感じ取れる恐怖に、二人が一秒でも早く解放されたいと願った瞬間。
「何やってんだよ、月美?」
「ぴゃっ?! ま、護?!」
「まったく、何やってんだよ……ほれ、緑茶」
頼んでいたものを渡された月美は、変な悲鳴を上げてしまったからか。
それとも柄にもなく嫉妬心をむき出しにしているところを見られたことを恥ずかしく思っているのか。
顔を真っ赤にして俯きながら、差し出された緑茶を受け取った。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
駆け落ち男女の気ままな異世界スローライフ
壬黎ハルキ
ファンタジー
それは、少年が高校を卒業した直後のことだった。
幼なじみでお嬢様な少女から、夕暮れの公園のど真ん中で叫ばれた。
「知らない御曹司と結婚するなんて絶対イヤ! このまま世界の果てまで逃げたいわ!」
泣きじゃくる彼女に、彼は言った。
「俺、これから異世界に移住するんだけど、良かったら一緒に来る?」
「行くわ! ついでに私の全部をアンタにあげる! 一生大事にしなさいよね!」
そんな感じで駆け落ちした二人が、異世界でのんびりと暮らしていく物語。
※2019年10月、完結しました。
※小説家になろう、カクヨムにも公開しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
慟哭の螺旋(「悪役令嬢の慟哭」加筆修正版)
浜柔
ファンタジー
前世で遊んだ乙女ゲームと瓜二つの世界に転生していたエカテリーナ・ハイデルフトが前世の記憶を取り戻した時にはもう遅かった。
運命のまま彼女は命を落とす。
だが、それが終わりではない。彼女は怨霊と化した。
花ひらく妃たち
蒼真まこ
ファンタジー
たった一夜の出来事が、春蘭の人生を大きく変えてしまった──。
亮国の後宮で宮女として働く春蘭は、故郷に将来を誓った恋人がいた。しかし春蘭はある日、皇帝陛下に見初められてしまう。皇帝の命令には何人も逆らうことはできない。泣く泣く皇帝の妃のひとりになった春蘭であったが、数々の苦難が彼女を待ちうけていた。 「私たち女はね、置かれた場所で咲くしかないの。咲きほこるか、枯れ落ちるは貴女次第よ。朽ちていくのをただ待つだけの人生でいいの?」
皇后の忠告に、春蘭の才能が開花していく。 様々な思惑が絡み合う、きらびやかな後宮で花として生きた女の人生を短編で描く中華後宮物語。
一万字以下の短編です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】竜人が番と出会ったのに、誰も幸せにならなかった
凛蓮月
恋愛
【感想をお寄せ頂きありがとうございました(*^^*)】
竜人のスオウと、酒場の看板娘のリーゼは仲睦まじい恋人同士だった。
竜人には一生かけて出会えるか分からないとされる番がいるが、二人は番では無かった。
だがそんな事関係無いくらいに誰から見ても愛し合う二人だったのだ。
──ある日、スオウに番が現れるまでは。
全8話。
※他サイトで同時公開しています。
※カクヨム版より若干加筆修正し、ラストを変更しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
だいたい全部、聖女のせい。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」
異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。
いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。
すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。
これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる