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呪怨劇
40、体育祭、本番~1.開催宣言と最初の競技~
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一連の騒動のあと、護はよさこいの、月美は佳代を伴って舞踊の練習へと戻った。
練習が大詰めであるため、全員が集中していたためか、あるいは準備のために委員会に呼び出されたと思ったのか。
いずれにしても、中座していた理由を聞かれることもなく、護たちはすんなりと練習を再開した。
その後、佳代が不良グループに呼び出されることはなくなり、かといって、月美や護に何かしらの被害があったということもなく、数日が過ぎていき、ついに――。
『宣誓! 我々、選手一同は! 日頃の練習の成果を、十二分に発揮し! 正々堂々、戦うことを誓います!!』
「始まっちまった……」
「始まっちゃったね」
「めんどくせぇ……」
「気持ちはわかるけど、思っても言わないの」
クラスごとに割り当てられたテントへ戻る中、思わず本音をポロリした護に、月美が苦笑を浮かべながらツッコミをいれる。
もっとも、月美も気持ちはわからなくもなかった。
「こんな気温だもんねぇ~」
「昔はもう少しましだったのに、なんでこの時期にやるんだよ」
「もう少し涼しくなってからだったもんねぇ。まぁ、日焼けはしたけどね?」
「晴れる日が多いからな、なぜか」
「でも、暑い時期にやるっていうのは納得いかないなぁ、わたしも」
文句を言うな、と忠告した側とは思えない発言ではあるが、ここ最近になって、体育祭や運動会の開催時期が全国的に初夏から梅雨の時期にずれ込んでいた。
学校行事を行うことができない、という理由からというのはわからなくもない。
それをさしひいても、梅雨時という、天気が不安定になりやすいうえに湿気と熱気のコンボが堪える時期に行わなくてもいいではないか。
本音のところでは、月美もそう思っているようだ。
思っているのだが、上の決定には逆らうことが出来ないし、波風を立てたくはない。
あまり大っぴらに声を上げることはしていないし、顔にも出さないよう、努力しているのだ。
もっとも、それは護も同じことで。
「まぁ、もう始まったし、じたばたしても仕方ないからやるけども」
「あははは……」
やる以外に道がないことはわかりきっていることなので、観念することにした。
もっとも、観念したとはいえ、『やりたくない』という気持ちに変わりはないらしく、心底、嫌そうな表情を浮かべていたのだが。
そんな様子の恋人に、月美は再び苦笑を浮かべるのだった。
開会式のあと、各クラスに割り振られたテントで簡単にホームルームが行われ、応援団による応援合戦が行われるのだが。
「暇だなぁ」
「暇だねぇ」
「やることないなぁ……」
「まぁ、けど三十分もしないで終わるから、それまでの我慢だよ」
月美のその言葉通り、三十分とかからずに応援合戦が終了すると、次の種目である全クラス対抗の背中渡りレースの準備が始まった。
――背中渡りレース……走者が伴走者二人に支えられながら、ほかのクラスメイトの背中の上を走るレースか。乗っかられるのは正直、あまり面白くはないな……
レースの特性上、レースの走者はクラス内でも一番身長が低い、あるいは一番身軽な生徒が選出されることになる。
コースになる生徒たちの負担を考慮してのことではあるが、他人が背中に乗るということを、護は面白く感じていないようだ。
閑話休題。
護たちのクラスで、走者に選抜された三人が所定の位置につくと、護を含め、残ったクラスメイトたちはいっせいに背中が上を向くように身をかがめ、道を作った。
――パァンッ!
スタートを告げる銃声が響くと同時に、走者はいっせいにクラスメイトの背中を駆け始めた。
クラスで一番小柄な生徒が選抜されたため、さほど重みを感じることはないが、それでもやはり、人ひとり分の重さはそれなりに負担があるようで。
「うっ……」
「うぐっ?!」
時折、小さなうめき声が聞こえてきてくる。
レースであるため、走者たちはそんなことは気にしていられないし、踏み場になっている生徒たちも文句は言っていられない。
何より、バランスを崩してけがをしかねないため、思いっきり踏み抜かれて背中を痛めるようなことがないだけましだ。
――それはわかってるけど、重いものは重いし、痛いものは痛いんだよな……
うめき声をあげそうになりながら、さっさと解放させてくれないだろうか、と護が心中で思っていたその時。
「ぐふっ?!」
「うぉっ?!」
再び走者の重みが背中のしかかってきたのか、再びうめき声が響いてきた。
どうやら、フラッグを取った帰りのようだ。
――やれやれ、やっとか……
そう思いながら、護はさきほど自分の上を通って行った走者の背中を見た。
復路を落ちないように、わきを支える二人に支えられながらではあるがバランスを保ちつつ、少しでも早くゴールしようと、必死に足を動かしている。
コース役になっているクラスメイトたちに少しでもいい結果を持ち帰りたいという気持ちが出ているのだろう。
そのことに関しては、護も感心しているが、本心では。
――まぁ、うちのクラスが何位だろうがはっきり言って、どうでもいいんだけどな。俺は
その行動を裏切るような感想を抱いていた。
そんな感想を抱いていたからか、走者の必死の走りもむなしく、ほかのクラスに抜かれてしまう。
どうにか食らいついて三位にゴールインすることができたが、体育祭の最初の種目として幸先がいいのか悪いのか、あまりよくわからない結果となった。
練習が大詰めであるため、全員が集中していたためか、あるいは準備のために委員会に呼び出されたと思ったのか。
いずれにしても、中座していた理由を聞かれることもなく、護たちはすんなりと練習を再開した。
その後、佳代が不良グループに呼び出されることはなくなり、かといって、月美や護に何かしらの被害があったということもなく、数日が過ぎていき、ついに――。
『宣誓! 我々、選手一同は! 日頃の練習の成果を、十二分に発揮し! 正々堂々、戦うことを誓います!!』
「始まっちまった……」
「始まっちゃったね」
「めんどくせぇ……」
「気持ちはわかるけど、思っても言わないの」
クラスごとに割り当てられたテントへ戻る中、思わず本音をポロリした護に、月美が苦笑を浮かべながらツッコミをいれる。
もっとも、月美も気持ちはわからなくもなかった。
「こんな気温だもんねぇ~」
「昔はもう少しましだったのに、なんでこの時期にやるんだよ」
「もう少し涼しくなってからだったもんねぇ。まぁ、日焼けはしたけどね?」
「晴れる日が多いからな、なぜか」
「でも、暑い時期にやるっていうのは納得いかないなぁ、わたしも」
文句を言うな、と忠告した側とは思えない発言ではあるが、ここ最近になって、体育祭や運動会の開催時期が全国的に初夏から梅雨の時期にずれ込んでいた。
学校行事を行うことができない、という理由からというのはわからなくもない。
それをさしひいても、梅雨時という、天気が不安定になりやすいうえに湿気と熱気のコンボが堪える時期に行わなくてもいいではないか。
本音のところでは、月美もそう思っているようだ。
思っているのだが、上の決定には逆らうことが出来ないし、波風を立てたくはない。
あまり大っぴらに声を上げることはしていないし、顔にも出さないよう、努力しているのだ。
もっとも、それは護も同じことで。
「まぁ、もう始まったし、じたばたしても仕方ないからやるけども」
「あははは……」
やる以外に道がないことはわかりきっていることなので、観念することにした。
もっとも、観念したとはいえ、『やりたくない』という気持ちに変わりはないらしく、心底、嫌そうな表情を浮かべていたのだが。
そんな様子の恋人に、月美は再び苦笑を浮かべるのだった。
開会式のあと、各クラスに割り振られたテントで簡単にホームルームが行われ、応援団による応援合戦が行われるのだが。
「暇だなぁ」
「暇だねぇ」
「やることないなぁ……」
「まぁ、けど三十分もしないで終わるから、それまでの我慢だよ」
月美のその言葉通り、三十分とかからずに応援合戦が終了すると、次の種目である全クラス対抗の背中渡りレースの準備が始まった。
――背中渡りレース……走者が伴走者二人に支えられながら、ほかのクラスメイトの背中の上を走るレースか。乗っかられるのは正直、あまり面白くはないな……
レースの特性上、レースの走者はクラス内でも一番身長が低い、あるいは一番身軽な生徒が選出されることになる。
コースになる生徒たちの負担を考慮してのことではあるが、他人が背中に乗るということを、護は面白く感じていないようだ。
閑話休題。
護たちのクラスで、走者に選抜された三人が所定の位置につくと、護を含め、残ったクラスメイトたちはいっせいに背中が上を向くように身をかがめ、道を作った。
――パァンッ!
スタートを告げる銃声が響くと同時に、走者はいっせいにクラスメイトの背中を駆け始めた。
クラスで一番小柄な生徒が選抜されたため、さほど重みを感じることはないが、それでもやはり、人ひとり分の重さはそれなりに負担があるようで。
「うっ……」
「うぐっ?!」
時折、小さなうめき声が聞こえてきてくる。
レースであるため、走者たちはそんなことは気にしていられないし、踏み場になっている生徒たちも文句は言っていられない。
何より、バランスを崩してけがをしかねないため、思いっきり踏み抜かれて背中を痛めるようなことがないだけましだ。
――それはわかってるけど、重いものは重いし、痛いものは痛いんだよな……
うめき声をあげそうになりながら、さっさと解放させてくれないだろうか、と護が心中で思っていたその時。
「ぐふっ?!」
「うぉっ?!」
再び走者の重みが背中のしかかってきたのか、再びうめき声が響いてきた。
どうやら、フラッグを取った帰りのようだ。
――やれやれ、やっとか……
そう思いながら、護はさきほど自分の上を通って行った走者の背中を見た。
復路を落ちないように、わきを支える二人に支えられながらではあるがバランスを保ちつつ、少しでも早くゴールしようと、必死に足を動かしている。
コース役になっているクラスメイトたちに少しでもいい結果を持ち帰りたいという気持ちが出ているのだろう。
そのことに関しては、護も感心しているが、本心では。
――まぁ、うちのクラスが何位だろうがはっきり言って、どうでもいいんだけどな。俺は
その行動を裏切るような感想を抱いていた。
そんな感想を抱いていたからか、走者の必死の走りもむなしく、ほかのクラスに抜かれてしまう。
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