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呪怨劇
36、対決~4.激化する争い~
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道満の放った蛇を孔雀明王呪で退けた護は、さらなる追撃を加えた。
「木気招来、急々如律令!」
呪符を一枚取り出し、地面に叩きつけながら呪文を唱えると、大量の木の根が道満にむかって伸びていく。
だが、道満は呪文を唱えることなく、自身のまとう瘴気で腐らせ、回避していくが、そんなことは意に介さず、護は独鈷を取り出して天に掲げる。
「大威徳明王よ、我が怨敵を調伏し給え!オン、シュチリ、キャラハロ、ウンケン、ソワカ!!」
「大威徳明王の怨敵調伏法か!じゃが!!」
護は大威徳明王の真言を唱えながら独鈷を振り下ろした瞬間、独鈷から大威徳明王呪の言霊を受けた霊力が、ビームサーベルのように伸び、道満にむかっていく。
だが、道満はそれを回避することなく、自分が破壊した木気で召喚された根のかけらを拾い上げ、その側面を手でなで、護に向かって投げつける。
「なにっ?!」
「不動明王の身代わり札……即席ではあったが、どうにか防いでくれたか!」
護が振り下ろした霊力の刃は、たしかに、道満を捉えていたが、まるで道満の前に頑丈な壁があるかのように、刃は動きを止めた。
「ちぃっ!」
護はいまいましげに舌打ちをして、独鈷を道満に向かって投げつける。
独鈷は真っ直ぐに、矢のような速さで道満にむかっていくが、即席の身代わり札にまだ力が残っていたらしく、独鈷は不可視の壁に阻まれ、地面に突き刺さった。
だが、その一撃で身代わり札の効力も切れたらしく、それまで宙に浮いていた木札は、地面に落ちると同時にボロボロになって砕け散る。
「ほっほ、仕切り直しじゃのぉ? オン、マリシエイ……」
道満が摩利支天の隠形法を唱えようとした瞬間、道満の頭上に数珠が飛ぶ。
怪訝な顔をして飛んできた数珠を見た瞬間、護の気迫とともに数珠は砕け、破片が道満に降り注いだ。
――ふむ? いったい、何を仕掛けてくる??
道満は摩利支天の真言を唱えるのも忘れ、護の次の手を読もうとした瞬間だった。
「オン、ビシビシ、カラカラ、シバリ、ソワカ!」
不動明王の金縛り術の真言が響き、破片同士が霊力でつながり、巨大な霊力の籠ができあがった。
金縛りで直接、道満を縛るのではなく、周囲の空間ごと封じ込めることで動きを縛ることにどのような意味があるのか。
少しでもこの術を破る糸口を探ろうと、周囲を見回した道満は目を見開く。
いつの間にか、霊力で編まれた籠を取り囲むように、それぞれ異なる体毛を持つ五匹の子狐が佇んでいた。
「こやつら、使鬼か……この配置はまさか!」
「東海の神、名は阿明、西海の神、名は祝良、南海の神、名は巨乗、北海の神、名は禺強、四海の大神、百鬼を退け凶災を蕩う!急々如律令!!」
護の使鬼である五色狐と彼らが佇む配置の意味に気づいた道満だったが、遅かった。
百鬼夜行退散の神言を唱えたその瞬間、五色狐の足元から光が伸び、互いをつなげていく。
光が真円の中に五芒星が描かれた法陣を描くと、清浄な気の奔流が縛られた空間の中に広がった。
だが、そこで終わりではない。
「奇一奇一、たちまち雲霞を結ぶ、宇内八方、ごほうちょうなん、たちまちきゅうせんを貫き、玄都に達し、太乙真君に感ず、奇一奇一たちまち感通!!急々如律令!!!」
さらにダメ出しとばかりに、護はありったけの呪符を取り出し、法陣の中へと投げ入れる。
天御中柱神と同一の存在であり、天地の根源を司るという神仙、太乙真君と交感し、邪気や瘴気を一掃するという呪文を唱えた。
その瞬間、呪符から光が放たれ、法陣の中で満ちている清浄な気をさらに高めていく。
「百鬼夜行退散と五行の循環、さらに太乙真人との交感だと?!」
「やっと驚いてくれたな、爺!!」
頬に汗を伝わせながら、護は自分の霊力をありったけ込めて、術の行使を持続させる。
道満もそう簡単には浄化されまいと、瘴気をまとい必死に抵抗する中だったが、護に称賛の言葉を送ってきた。
「やりおるな! 不動金縛りでわしの周辺も金縛りにし、さらには使鬼で五行相生と相克の陣を作り、最後に百鬼夜行退散と太乙真人交感で極限まで気を清浄化させるとは! さすがのわしも、これでは避けることはできん」
「嘘つけ、何を仕掛けるのか楽しみにしてたせいで対応が遅れただけだろ。でなきゃ不動金縛りの返しを忘れるはずがない」
「かわいくないのぉ、年上の称賛は素直に受け取っておくものだろうに」
「そら悪かったな」
術を維持しながら、瘴気をまといながら、二人はそんな言葉のやり取りをしていた。
だが、互いに気を抜くようなことはない。
一瞬でも気を緩めれば、護が敷いた布陣は一瞬で崩壊し、道満の反撃を許すことになる。
一方の道満は、護の術によって容赦なく浄化されてしまう。
完全に消滅するということはないだろうが、かなりの力をそがれ、ほとんどの術を使うことができなくなってしまうことだろう。
むろん、また力を蓄えれば元通りになるが、そうなるまで少なく見積もっても十年近くはかかる。
――それだけ長い間、悪戯ができないというのは退屈極まりない。それになにより、ここで根負けしては、芦屋道満の名が泣くというものよ!!
伝承に語り継がれているものの一人としての意地のほうが強かった。
だが、互いに負けてやるつもりは毛頭ない霊力のぶつかり合いは、唐突に終わりを告げる。
「木気招来、急々如律令!」
呪符を一枚取り出し、地面に叩きつけながら呪文を唱えると、大量の木の根が道満にむかって伸びていく。
だが、道満は呪文を唱えることなく、自身のまとう瘴気で腐らせ、回避していくが、そんなことは意に介さず、護は独鈷を取り出して天に掲げる。
「大威徳明王よ、我が怨敵を調伏し給え!オン、シュチリ、キャラハロ、ウンケン、ソワカ!!」
「大威徳明王の怨敵調伏法か!じゃが!!」
護は大威徳明王の真言を唱えながら独鈷を振り下ろした瞬間、独鈷から大威徳明王呪の言霊を受けた霊力が、ビームサーベルのように伸び、道満にむかっていく。
だが、道満はそれを回避することなく、自分が破壊した木気で召喚された根のかけらを拾い上げ、その側面を手でなで、護に向かって投げつける。
「なにっ?!」
「不動明王の身代わり札……即席ではあったが、どうにか防いでくれたか!」
護が振り下ろした霊力の刃は、たしかに、道満を捉えていたが、まるで道満の前に頑丈な壁があるかのように、刃は動きを止めた。
「ちぃっ!」
護はいまいましげに舌打ちをして、独鈷を道満に向かって投げつける。
独鈷は真っ直ぐに、矢のような速さで道満にむかっていくが、即席の身代わり札にまだ力が残っていたらしく、独鈷は不可視の壁に阻まれ、地面に突き刺さった。
だが、その一撃で身代わり札の効力も切れたらしく、それまで宙に浮いていた木札は、地面に落ちると同時にボロボロになって砕け散る。
「ほっほ、仕切り直しじゃのぉ? オン、マリシエイ……」
道満が摩利支天の隠形法を唱えようとした瞬間、道満の頭上に数珠が飛ぶ。
怪訝な顔をして飛んできた数珠を見た瞬間、護の気迫とともに数珠は砕け、破片が道満に降り注いだ。
――ふむ? いったい、何を仕掛けてくる??
道満は摩利支天の真言を唱えるのも忘れ、護の次の手を読もうとした瞬間だった。
「オン、ビシビシ、カラカラ、シバリ、ソワカ!」
不動明王の金縛り術の真言が響き、破片同士が霊力でつながり、巨大な霊力の籠ができあがった。
金縛りで直接、道満を縛るのではなく、周囲の空間ごと封じ込めることで動きを縛ることにどのような意味があるのか。
少しでもこの術を破る糸口を探ろうと、周囲を見回した道満は目を見開く。
いつの間にか、霊力で編まれた籠を取り囲むように、それぞれ異なる体毛を持つ五匹の子狐が佇んでいた。
「こやつら、使鬼か……この配置はまさか!」
「東海の神、名は阿明、西海の神、名は祝良、南海の神、名は巨乗、北海の神、名は禺強、四海の大神、百鬼を退け凶災を蕩う!急々如律令!!」
護の使鬼である五色狐と彼らが佇む配置の意味に気づいた道満だったが、遅かった。
百鬼夜行退散の神言を唱えたその瞬間、五色狐の足元から光が伸び、互いをつなげていく。
光が真円の中に五芒星が描かれた法陣を描くと、清浄な気の奔流が縛られた空間の中に広がった。
だが、そこで終わりではない。
「奇一奇一、たちまち雲霞を結ぶ、宇内八方、ごほうちょうなん、たちまちきゅうせんを貫き、玄都に達し、太乙真君に感ず、奇一奇一たちまち感通!!急々如律令!!!」
さらにダメ出しとばかりに、護はありったけの呪符を取り出し、法陣の中へと投げ入れる。
天御中柱神と同一の存在であり、天地の根源を司るという神仙、太乙真君と交感し、邪気や瘴気を一掃するという呪文を唱えた。
その瞬間、呪符から光が放たれ、法陣の中で満ちている清浄な気をさらに高めていく。
「百鬼夜行退散と五行の循環、さらに太乙真人との交感だと?!」
「やっと驚いてくれたな、爺!!」
頬に汗を伝わせながら、護は自分の霊力をありったけ込めて、術の行使を持続させる。
道満もそう簡単には浄化されまいと、瘴気をまとい必死に抵抗する中だったが、護に称賛の言葉を送ってきた。
「やりおるな! 不動金縛りでわしの周辺も金縛りにし、さらには使鬼で五行相生と相克の陣を作り、最後に百鬼夜行退散と太乙真人交感で極限まで気を清浄化させるとは! さすがのわしも、これでは避けることはできん」
「嘘つけ、何を仕掛けるのか楽しみにしてたせいで対応が遅れただけだろ。でなきゃ不動金縛りの返しを忘れるはずがない」
「かわいくないのぉ、年上の称賛は素直に受け取っておくものだろうに」
「そら悪かったな」
術を維持しながら、瘴気をまといながら、二人はそんな言葉のやり取りをしていた。
だが、互いに気を抜くようなことはない。
一瞬でも気を緩めれば、護が敷いた布陣は一瞬で崩壊し、道満の反撃を許すことになる。
一方の道満は、護の術によって容赦なく浄化されてしまう。
完全に消滅するということはないだろうが、かなりの力をそがれ、ほとんどの術を使うことができなくなってしまうことだろう。
むろん、また力を蓄えれば元通りになるが、そうなるまで少なく見積もっても十年近くはかかる。
――それだけ長い間、悪戯ができないというのは退屈極まりない。それになにより、ここで根負けしては、芦屋道満の名が泣くというものよ!!
伝承に語り継がれているものの一人としての意地のほうが強かった。
だが、互いに負けてやるつもりは毛頭ない霊力のぶつかり合いは、唐突に終わりを告げる。
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